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君には綺麗なままでいて欲しい【薗田詩音編】

2.親友からの励まし

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 次の日のランチタイムに、梓が昨日話していた風間裕一と言う男子を連れて来た。
 食堂のテラス席。ここは僕のお気に入りの席で、陽が良く当たり、自分がより綺麗になる気がするからだ。


「こいつが風間裕一だ。二人は俺の腐れ縁で、仏頂面が神凪葵。モデル野郎が薗田詩音な!」

「うわぁ、二人共凄いかっこいい!梓の友達にこんな素敵な人がいるなんて思わなかったよぉ!」

「てめぇ失礼だろコラ」


 目の前で仲良く過ごしている二人を見て僕は絶句した。あの梓が僕達以外とこんなに楽しそうに笑い合っているなんて、とてもじゃないけど信じられなかった。


「随分な紹介の仕方をするんだな。まぁ梓に友人が出来たのなら良かったよ。梓は難しい奴だが頼んだぞ」

「うん!梓って面白いよね♪俺、絶対仲良くなりたいって頑張って構ったんだぁ♪」

「はいはい。構ってくれてありがとよ~」


 風間裕一はとても明るくて性格も良さそうな男子だった。見た目こそ普通だ。これと言って特徴のない、どこにでもいそうな普通の男子高校生。強いて言うなら笑顔か。その太陽のような笑顔は見ているこちらまで心地の良くなるものだった。

 俺はその太陽を見て固まっていたらしく、葵くんの言葉で我に帰ることができた。

 
「詩音?どうしたさっきから黙って」

「え、いや~!とても笑顔が素敵だなと思ってね。梓が夜だとしたら裕一くんは太陽だね」

「んだそれ?それを言うなら俺は月だろーが」

「梓は月と言うより夜なイメージなのさ」

「それ分かる~!梓って真っ黒なイメージだよね!かっこいいよね~♪」

「真っ黒なイメージって喜べねぇよ」


 遠慮無しに失礼な事を言ったり、褒めたりと自由奔放に発言する裕一くんを見て微笑む梓。
 ああ、そうかきっと梓は裕一くんを……

 僕は今まで感じた事のない胸の痛みに襲われて、この場にいる事が出来なくなってしまった。


「申し訳ないけど、僕は担任に呼ばれているので先に失礼するよ。三人共素敵なランチタイムを♪」

「ん。行ってらー」

「詩音くんまたね~♪」

「………」


 変に思われないように自然に席を立つ。
 この胸の痛みは何なのか。心臓が鋭い物で突かれているかのような痛み。
 
 それにしても梓のあんな顔、僕達以外にも見せるなんてね。
 裕一くん。僕とは違うタイプの人間だった。明るくて、棘のある事を言ってるけど、愛嬌のある笑顔で相手を嫌な気持ちにさせないんだ。きっと素直な性格なのだろう。悪気など全く無い正直者。

 僕とは違う……僕は何事も綺麗に表現するのが癖で、いつも気取ったような口調、立ち振る舞いをしてしまう。

 梓はそんな僕なんかより、素直で純粋な裕一くんに惚れたんだね。

 
「待て詩音」

「……葵くん。どうして?」


 自分の教室へ向かっている途中で、二人とランチしてる筈の葵くんに呼び止められた。まさか僕を追いかけて来たのか?


「担任の所へ行くんじゃないのか?」

「え……ああ、そうだったね!僕とした事が方向を間違えていたようだ」

「まったく。梓と風間を見ていられなかったんだろ?お前は分かりやすいよな昔から」


 ため息をついてやれやれと首を横に振る葵くんは、まるで俺の心を見透かしているかのようなセリフを言った。
 まさか、葵くんは僕が梓に想いを寄せている事を知っていたのか?


「はは、さすが葵くんだね。いつから気付いていたのか聞いてもいいかい?」

「結構前からだ。ずっとこいつ梓の事好きだなーって思ってた。中学上がった頃には絶対そうだと思ってた」

「僕とした事が、隠しきれていなかったようだね」

「いや、周りは気付いてないんじゃないか?梓も知らないと思うが」

「なら何故葵くんは気付いたのかな?」


 僕はいつも通りを心掛けてニッコリ笑って葵くんに聞いてみた。葵くんは凛とした無表情のまま堂々と答えた。


「それは二人だからだ。誰よりも二人の事は分かっている。だから、二人が上手くいかないのも分かっていた」

「え……」

「そもそも詩音、お前は梓に気持ちを伝えようと考えていないだろう?それに相手はあの梓だ。梓は詩音の事をそういう対象としては見れない」

「どうしてそう思うの?」


 葵くんはいつも通り淡々と続けた。いつも自信に満ち溢れた葵くんの言葉は、あながち間違えていない。
 それは今までがそうだったからだ。葵くんは出来ない事は口にしない。そして、口にした事は必ず実行してやり遂げる人間なんだ。
 僕はそんな葵くんの事を尊敬しているし、かっこいいと思っている。
 だけど、今の僕には葵くんの言葉はとても重く感じたんだ。


「これは詩音に限った事じゃない。仮の話だが、私が梓の事を好きだと言っても顔色を変えずノーと言うだろうな。梓は何事にも興味がない訳じゃない。ただ面倒くさがりなだけだ。長い時間、親しい友人として過ごして来た私達の事を急に恋愛対象として見る可能性はかなり低い。これはあくまでも私の推測だがな。それと、私は梓の事をそういう目では見ていないと強く言っておこう」

「そっか。そうだよね。葵くんが言うなら間違いないね」

「まぁそう気を落とすな。全く可能性が無いと言う訳ではない。そこが人間の面白い所だな。嫌な事や歯痒い事があっても時が経てばいつかは忘れる。そして新しい出来事に遭遇し、そこでまた新しい感情が芽生える。人生何があるかなんて分からないさ」

「それ、励ましてくれてるって事かな?葵くんはいつも難しく言うからな~」

「詩音も似た様なものだろう。気取った言い方ばかりしているではないか」

「これが僕なんですー。でもやっぱり葵くんの言う事は間違えてないよ。僕は梓にこの気持ちを伝える気は無かった。もし伝えたとして拒否られたら、今の僕達の関係が崩れてしまうからね。とても綺麗で大好きなんだ。それを壊すような事はしたくない」

「詩音らしいな。恐らくこれから梓と裕一の二人を嫌と言うほど見る事になるぞ。それに対して詩音がどうなるのか見ものだな」

「どうにもならないさ。僕は梓には幸せになってもらいたい。僕の手で出来たら一番いいのだけれど、あの笑顔を見たら……ね?」

「ああ、あの梓の笑った顔には私も驚いた。どうにもならないのが一番だけど、もし詩音が壊れるようならそうなる前に私が何とかしてやる。私にとって二人は特別だからな」

「頼もしいな~葵くんは」


 葵くんらしい言葉に、僕の胸の痛みはいつの間にか収まっていた。
 どうやら既に何とかしてくれたみたいだね。
 さすが有言実行の葵くんだ。

 僕の梓に対するこの想いはしばらくは消えないだろう。
 そりゃそうさ、小さい頃からずっと憧れていた僕の想い人なんだから。
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