上 下
162 / 178
2章 球技大会

あ、秋山がキューピッドだったのか……

しおりを挟む

 俺と伊織は食堂を出た後、二人で過ごせる場所に移動していた。図書室の横の部屋がちょうど良いからそこに向かってたんだけど、途中で演劇部の裏方リーダーの犬飼に会った。俺と伊織はスルーしようと何も無かったかのように通り過ぎようとしていた。


「ってちょっと待てよ!せめて挨拶だけでも交わそうぜ!?」

「あ?何だよ、何か用があるのか?」

「いや、特にねぇけど……」


 俺が聞くと気まずそうに自分の頭を撫でていた。ほらな。俺達はまた歩き出そうとすると、犬飼はまだ何か言って来た。


「あ、今日から全部員で合同練習だな!頑張ろうな!」

「そうだな」


 特に歩くのをやめずに一言だけ返すと、隣にいた伊織はクスクス笑ってた。
 そして犬飼はまだ何か言おうと声を掛け続けて来た。さすがにムカついたから言い返してやろうと振り向く。


「あのさ!」

「テメェ良い加減にしろよ!空気読め!俺達は今から二人きりで過ごすんだよ!休み時間無くなるだろうが!」

「あはは♪貴哉がキレた~♡」


 俺が怒鳴ると、犬飼は少し驚いた顔をした後に申し訳なさそうに俯いた。


「わ、悪かったよ……その、おめでと。二人共正式に付き合う事になったんだろ?吉乃から聞いたよ」

「ふんっ」

「まぁまぁ貴哉、こうして祝福してくれてんだからさぁ。ありがとよ犬飼」

「それでさ、桐原にお願いがあるんだけど……秋山にも聞いてもらいてぇんだ。少し時間……もらえ、ねぇよな?」

「俺にお願い?」


 犬飼が伊織にお願いだぁ?別にもうバーベキューん時の事は何とも思ってねぇけど、また何かろくでもねぇ事考えてるんじゃないかと疑っちまうぜ。


「ああ。茜ちゃんの事なんだけど」


 犬飼の口から茜の名前が出て、俺と伊織は一瞬固まった。確かに二人は同じ演劇部だから接点はある。最近は二人で良く話してる姿も見るけど、いきなりどうしたんだ?


「茜がどうしたんだ?」

「実は俺、茜ちゃんの事が……好き……なんだけどよ」


 犬飼は話し始めたと思ったら、多分肝心な部分で小声になったから、聞き取れなくて俺は近付いて聞き直した。


「は?何て言ったんだ?」

「だからっ……好きなんだよ!茜ちゃんの事が!」

「あらあら、これはまぁ」


 今度は大きな声で言った。何言ってんだこいつ?そんなの俺達にじゃなくて茜に言えよ。
 伊織は伊織で楽しんでるみたいだった。


「で、何でそれを俺達に言うんだ?」

「秋山は他の奴と付き合ってたんだろ?それを桐原が奪った。俺も茜ちゃんを奪いたいんだ!だから先輩の桐原にコツを聞きたいんだ!」

「奪うって、え、お前二之宮の事マジなの?」

「お前桃山に殺されるぞ」


 犬飼の言う事が本気だって分かったらしく、今度は伊織は驚いていた。確かに犬飼が茜を好きってのは意外だけどさ、問題は茜の彼氏だよ。こんなの伊織にコツとか聞いても無駄だろ。


「ああ、桃山とは何度かやり合ったよ……あいつマジ強ぇよ。今だに全敗だ」

「うわっもう桃山とバトってんのかよっ!お前良く生きてるな!ちょっと見直したわ!」

「うーん、それなら頭で勝負すれば良くね?犬飼って頭良かったよな?それなら桃山に勝てるだろ。二之宮が手に入るかは別だけどな」

「頭使ってもあいつ変なとこで鋭い事言ってくるんだって!馬鹿なのか何なのか分かんねぇんだよ!」

「でもさー、桃山もだけど、茜も桃山の事すげぇ好きなんだぜ?犬飼、諦めた方がいいぞ」

「貴哉言うなぁ~。まぁでも貴哉の言う通り、余程のことが無い限りあの二人は別れねぇよなぁ。つーか犬飼は普通にかっこいいんだから諦めて次行けって」

「そんな簡単に諦められる訳ないだろ!」

「…………」

「…………」

「俺は茜ちゃんの事、本気なんだよ。惚れた理由は笑顔だけど、一緒にいて一生懸命で真面目なところとかにも惹かれてった。好きな奴を諦められない気持ち、桐原なら分かってくれるだろ?」

「んー、まぁな」


 伊織は俺を見て困ったように笑った。
 いくら心境が似てようが、俺達と茜達は違う。だからどうすれば奪えるかなんて正確な答えは出せねぇだろ。


「あ」

「どうした秋山?」

「茜ってさ、人に好かれるの慣れてねぇんだよ。これマジな話なんだけど、桃山が茜に告白した時俺その場にいたんだけどな?それまでは茜は桃山の事これっぽっちも好きじゃなかったし、そう言う対象で見て無かったんだよ。むしろ桃山はヤバい奴だから気を付けろって教えてくれたのは茜なんだ」

「そうなのか?」

「でもさ、桃山に告られてからガラッと変わってよ。理由は自分の事を好きになってくれたからなんだって。そん時どうしたらいいのか迷ってるみてぇだったから俺は桃山ととりあえず付き合ってみて決めれば良いじゃんって言ったんだ。嫌だったら別れろってな。そしたらあいつら付き合って、今ではあんな感じなんだ」

「マジかよ!あの二人をくっ付けたのって貴哉だったのかよ!」

「ん?そう言われてみればそうかもな。そもそも茜が桃山に用があって近付いたのって俺の役作りの為だったし?」

「あ、秋山がキューピッドだったのか……」

「悪ぃな犬飼!でも考えてみろって!犬飼も茜に好きって言えば好きになってもらえるかも知れねぇだろ?茜はあの正確だから真面目に考えるよ。そんで桃山より良い男だったら犬飼を選ぶんじゃね?」

「貴哉、そういう事には頭が回るんだな。面白ぇなぁ」

「あのさぁ、茜ちゃんにはもう告ってんだよね。俺」

「「マジ!?」」


 俺は伊織と同時に驚いた。
 茜の奴、告られてんのに黙ってやがったな!親友だと思ってたのに!


「そん時は桃山と付き合ってるし、オーケーは貰えなかったけど、俺が桃山を越えるから見ててって言ったら、分かったって言ったんだ。だから頑張ってんだけど、全然進展しねぇからもうどうしようかと思ってて」

「二之宮のやつ、そんな曖昧な事言うとか、貴哉と変わんねぇじゃん」

「おい!それ俺も思ったけど、お前が言うな!」

「なぁ頼むよ!二人も協力してくれないか!?」


 きっと犬飼は藁にもすがる思いなんだろう。
 俺達に向かって両手を合わせてお願いしてくる姿を見たら茜の事を本気なのが伝わって来た。

 そんなこんなで俺と伊織の昼休みは突然の犬飼の恋愛相談で終わりを告げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

モブ男子ですが、生徒会長の一軍イケメンに捕まったもんで

天災
BL
 モブ男子なのに…

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

【R18】息子とすることになりました♡

みんくす
BL
【完結】イケメン息子×ガタイのいい父親が、オナニーをきっかけにセックスして恋人同士になる話。 近親相姦(息子×父)・ハート喘ぎ・濁点喘ぎあり。 章ごとに話を区切っている、短編シリーズとなっています。 最初から読んでいただけると、分かりやすいかと思います。 攻め:優人(ゆうと) 19歳 父親より小柄なものの、整った顔立ちをしているイケメンで周囲からの人気も高い。 だが父である和志に対して恋心と劣情を抱いているため、そんな周囲のことには興味がない。 受け:和志(かずし) 43歳 学生時代から筋トレが趣味で、ガタイがよく体毛も濃い。 元妻とは15年ほど前に離婚し、それ以来息子の優人と2人暮らし。 pixivにも投稿しています。

目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件

水野七緒
BL
一見チャラそうだけど、根はマジメな男子高校生・星井夏樹。 そんな彼が、ある日、現代とよく似た「別の世界(パラレルワールド)」の夏樹と入れ替わることに。 この世界の夏樹は、浮気性な上に「妹の彼氏」とお付き合いしているようで…? ※終わり方が2種類あります。9話目から分岐します。※続編「目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件」連載中です(2022.8.14)

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

彼女ができたら義理の兄にめちゃくちゃにされた

おみなしづき
BL
小学生の時に母が再婚して義理の兄ができた。 それが嬉しくて、幼い頃はよく兄の側にいようとした。 俺の自慢の兄だった。 高二の夏、初めて彼女ができた俺に兄は言った。 「ねぇ、ハル。なんで彼女なんて作ったの?」 俺は兄にめちゃくちゃにされた。 ※最初からエロです。R18シーンは*表示しておきます。 ※R18シーンの境界がわからず*が無くともR18があるかもしれません。ほぼR18だと思って頂ければ幸いです。 ※いきなり拘束、無理矢理あります。苦手な方はご注意を。 ※こんなタイトルですが、愛はあります。 ※追記……涼の兄の話をスピンオフとして投稿しました。二人のその後も出てきます。よろしければ、そちらも見てみて下さい。 ※作者の無駄話……無くていいかなと思い削除しました。お礼等はあとがきでさせて頂きます。

処理中です...