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2章 球技大会
あ、秋山がキューピッドだったのか……
しおりを挟む俺と伊織は食堂を出た後、二人で過ごせる場所に移動していた。図書室の横の部屋がちょうど良いからそこに向かってたんだけど、途中で演劇部の裏方リーダーの犬飼に会った。俺と伊織はスルーしようと何も無かったかのように通り過ぎようとしていた。
「ってちょっと待てよ!せめて挨拶だけでも交わそうぜ!?」
「あ?何だよ、何か用があるのか?」
「いや、特にねぇけど……」
俺が聞くと気まずそうに自分の頭を撫でていた。ほらな。俺達はまた歩き出そうとすると、犬飼はまだ何か言って来た。
「あ、今日から全部員で合同練習だな!頑張ろうな!」
「そうだな」
特に歩くのをやめずに一言だけ返すと、隣にいた伊織はクスクス笑ってた。
そして犬飼はまだ何か言おうと声を掛け続けて来た。さすがにムカついたから言い返してやろうと振り向く。
「あのさ!」
「テメェ良い加減にしろよ!空気読め!俺達は今から二人きりで過ごすんだよ!休み時間無くなるだろうが!」
「あはは♪貴哉がキレた~♡」
俺が怒鳴ると、犬飼は少し驚いた顔をした後に申し訳なさそうに俯いた。
「わ、悪かったよ……その、おめでと。二人共正式に付き合う事になったんだろ?吉乃から聞いたよ」
「ふんっ」
「まぁまぁ貴哉、こうして祝福してくれてんだからさぁ。ありがとよ犬飼」
「それでさ、桐原にお願いがあるんだけど……秋山にも聞いてもらいてぇんだ。少し時間……もらえ、ねぇよな?」
「俺にお願い?」
犬飼が伊織にお願いだぁ?別にもうバーベキューん時の事は何とも思ってねぇけど、また何かろくでもねぇ事考えてるんじゃないかと疑っちまうぜ。
「ああ。茜ちゃんの事なんだけど」
犬飼の口から茜の名前が出て、俺と伊織は一瞬固まった。確かに二人は同じ演劇部だから接点はある。最近は二人で良く話してる姿も見るけど、いきなりどうしたんだ?
「茜がどうしたんだ?」
「実は俺、茜ちゃんの事が……好き……なんだけどよ」
犬飼は話し始めたと思ったら、多分肝心な部分で小声になったから、聞き取れなくて俺は近付いて聞き直した。
「は?何て言ったんだ?」
「だからっ……好きなんだよ!茜ちゃんの事が!」
「あらあら、これはまぁ」
今度は大きな声で言った。何言ってんだこいつ?そんなの俺達にじゃなくて茜に言えよ。
伊織は伊織で楽しんでるみたいだった。
「で、何でそれを俺達に言うんだ?」
「秋山は他の奴と付き合ってたんだろ?それを桐原が奪った。俺も茜ちゃんを奪いたいんだ!だから先輩の桐原にコツを聞きたいんだ!」
「奪うって、え、お前二之宮の事マジなの?」
「お前桃山に殺されるぞ」
犬飼の言う事が本気だって分かったらしく、今度は伊織は驚いていた。確かに犬飼が茜を好きってのは意外だけどさ、問題は茜の彼氏だよ。こんなの伊織にコツとか聞いても無駄だろ。
「ああ、桃山とは何度かやり合ったよ……あいつマジ強ぇよ。今だに全敗だ」
「うわっもう桃山とバトってんのかよっ!お前良く生きてるな!ちょっと見直したわ!」
「うーん、それなら頭で勝負すれば良くね?犬飼って頭良かったよな?それなら桃山に勝てるだろ。二之宮が手に入るかは別だけどな」
「頭使ってもあいつ変なとこで鋭い事言ってくるんだって!馬鹿なのか何なのか分かんねぇんだよ!」
「でもさー、桃山もだけど、茜も桃山の事すげぇ好きなんだぜ?犬飼、諦めた方がいいぞ」
「貴哉言うなぁ~。まぁでも貴哉の言う通り、余程のことが無い限りあの二人は別れねぇよなぁ。つーか犬飼は普通にかっこいいんだから諦めて次行けって」
「そんな簡単に諦められる訳ないだろ!」
「…………」
「…………」
「俺は茜ちゃんの事、本気なんだよ。惚れた理由は笑顔だけど、一緒にいて一生懸命で真面目なところとかにも惹かれてった。好きな奴を諦められない気持ち、桐原なら分かってくれるだろ?」
「んー、まぁな」
伊織は俺を見て困ったように笑った。
いくら心境が似てようが、俺達と茜達は違う。だからどうすれば奪えるかなんて正確な答えは出せねぇだろ。
「あ」
「どうした秋山?」
「茜ってさ、人に好かれるの慣れてねぇんだよ。これマジな話なんだけど、桃山が茜に告白した時俺その場にいたんだけどな?それまでは茜は桃山の事これっぽっちも好きじゃなかったし、そう言う対象で見て無かったんだよ。むしろ桃山はヤバい奴だから気を付けろって教えてくれたのは茜なんだ」
「そうなのか?」
「でもさ、桃山に告られてからガラッと変わってよ。理由は自分の事を好きになってくれたからなんだって。そん時どうしたらいいのか迷ってるみてぇだったから俺は桃山ととりあえず付き合ってみて決めれば良いじゃんって言ったんだ。嫌だったら別れろってな。そしたらあいつら付き合って、今ではあんな感じなんだ」
「マジかよ!あの二人をくっ付けたのって貴哉だったのかよ!」
「ん?そう言われてみればそうかもな。そもそも茜が桃山に用があって近付いたのって俺の役作りの為だったし?」
「あ、秋山がキューピッドだったのか……」
「悪ぃな犬飼!でも考えてみろって!犬飼も茜に好きって言えば好きになってもらえるかも知れねぇだろ?茜はあの正確だから真面目に考えるよ。そんで桃山より良い男だったら犬飼を選ぶんじゃね?」
「貴哉、そういう事には頭が回るんだな。面白ぇなぁ」
「あのさぁ、茜ちゃんにはもう告ってんだよね。俺」
「「マジ!?」」
俺は伊織と同時に驚いた。
茜の奴、告られてんのに黙ってやがったな!親友だと思ってたのに!
「そん時は桃山と付き合ってるし、オーケーは貰えなかったけど、俺が桃山を越えるから見ててって言ったら、分かったって言ったんだ。だから頑張ってんだけど、全然進展しねぇからもうどうしようかと思ってて」
「二之宮のやつ、そんな曖昧な事言うとか、貴哉と変わんねぇじゃん」
「おい!それ俺も思ったけど、お前が言うな!」
「なぁ頼むよ!二人も協力してくれないか!?」
きっと犬飼は藁にもすがる思いなんだろう。
俺達に向かって両手を合わせてお願いしてくる姿を見たら茜の事を本気なのが伝わって来た。
そんなこんなで俺と伊織の昼休みは突然の犬飼の恋愛相談で終わりを告げた。
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