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2章 球技大会

※ 貴哉が選んだなら仕方ないだろ

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 ※空side

 貴哉と金曜日の夜に別れてから3日目。
 学校へ行くかどうかは正直迷ったけど、兄貴に学費を出してもらってるのもあるからちゃんと行く事にした。

 今後の貴哉との関係についてはとても悩んだんだ。何度もして来た別れ話だったけど、今回のはさすがに効いたね。

 貴哉に別れを告げられた後、俺の中で何かが弾けて消えた音がしたんだ。真っ暗で何も無い空間に落とされて、もう二度と這い上がれない程深い闇にハマった感じ。

 きっと俺は母親の事がトラウマになっているんだ。


「はぁ、気まず過ぎ」


 学校の門を潜ってそこからは自転車を押して移動する。
 
 貴哉と顔合わせるのダルいなぁ。でも同じクラスだし避けられねぇよなぁ。ぶっちゃけまだ引きずってるし?でも貴哉は桐原さん選んだし?

 まぁ普通にするのが一番だよな。

 金曜の夜から日曜の夜まで俺は久しぶりに遊び歩いたんだ。一回スマホに入ってる連絡先を全部消去したから元々溜まり場になってた所に行ってまた交流を持つ感じになった。楽しかったよ。女子がほとんどだったけど、男もいたりして、知ってる奴から知らない奴を紹介されたり、特定の奴と仲良くする訳でもなく、ただ隣にいる奴と笑って話したりして過ごしてた。
 普通に楽しかったよ?一瞬でも貴哉の事忘れられたし。でもさ、ふと一人になると思い出すんだよ。

 貴哉はあれからどうしたかな。俺が無理矢理帰したけど、絶対桐原さんと会っただろうし、もうくっ付いててもおかしくはないよな。
 笑い合う二人を見て俺は耐えられるかぁ?
 無理だろ。

 せめて泣かないようにだけはしよう。

 そんな事をぼんやり考えながら教室に入って無意識に貴哉を探してしまう。いつもの窓側の席に中西達と座っていた。向こうも俺に気付いたみたいで一瞬目があったけど、俺は廊下側の自分の席に座る。
 やべー、貴哉だぁ!見れただけで嬉しいとか、やっぱ好きだなぁ……


「ねぇ空くん、聞いたよー?」

「へ?いきなり何?」


 気付いたら真横に中西が立っていた。ニヤニヤと嫌な笑い方してやがる。どうやら貴哉に話を聞いたらしいな。


「貴哉に振られたんだって~?慰めてあげようか?」

「いや、結構です」

「スカしちゃって。どう?誰かに好きな人を取られる気持ち」

「別に。俺は中西じゃないし、貴哉が選んだなら仕方ないだろ」


 どうやら中西の言い方だと、桐原さんとくっ付いたみたいだな。そりゃそうか。ずっと貴哉は桐原さんを好きだと言ってたしな。


「なんだ~!もうちょっと傷付いてるかと思ったら普通じゃん。てか相手が悪かったよね。桐原さんじゃね」

「貴哉は桐原さんと付き合う事になったのか?」

「らしいよ~。桐原さんとくっ付いちゃもう誰も奪えないよな~」

「ふーん」

「あれ?ちょっと空くんどこに……」


 俺は立ち上がって貴哉の元へ向かった。
 今決めた。俺はこれから貴哉とどう接して行くのかを。なるべく普通を意識して、笑顔を絶やさないように。いつものように貴哉に近付く。
 俺に先に気付いた数馬に言われて貴哉がこちらを向く。あ、驚いてる。やっぱり貴哉も俺と気まずかったよな。何なら声掛けずにいた方が良かったか?
 いや、それだとクラスに居づらくなるし、こういう時こそ俺から行かないとだよな。
 きっと貴哉なら俺と話をしてくれる。

 貴哉と挨拶を交わした後、廊下に連れ出して少し話す事にした。付いて来てくれたからホッとした。廊下にあるちょっとしたスペースにお互い立って向き合う。貴哉が目の前にいる事に俺は何とも言えない気持ちになった。
 貴哉はずっと窓の外を見ていた。

 まずは現状を受け入れよう。


「まず、おめでとう」

「え?何が?」


 普通ならとぼけやがってとか思うけど、これが貴哉だ。きっとなんの事だか本当に分かっていない。貴哉らしくてそれが嬉しくて自然と笑顔になれた。


「桐原さんと付き合った事だよ」

「……おう」

「あと、貴哉が嫌じゃなければもうちっと普通に接して欲しいかな~?」  

「普通にって?」


 普通にクラスメイトとして?いや、もう少し欲をかいとくか。
 俺は前のような友達みたいな関係を提案した。
 すると貴哉は元気なく答えた。


「分かった。空が言うなら」

「良かった~♪んじゃ先に戻るわ~!」


 ヤバい。貴哉の反応があまりにも意外だったから、ちょっと心が揺らいだよ。
 貴哉なら「仕方ねぇなぁ」とか言って笑ってくれるかと思ったのに、ずっと元気なさそうにポツリポツリとしか喋らない。
 この反応には一体どっちなのか迷う。俺とはもう話もしたくなくて嫌々この場にいるのか。それともまだ俺の事を想ってくれていて、友達という提案に不服なのか。
 もし後者だとしたら俺はまた貴哉を抱き締めてしまうかもしれない。せっかく前向きに考えていたのに、それが台無しになるかもしれない。

 俺はこれ以上話すのをやめて、先に教室へ戻る事に決めた。貴哉の横を通った時に、ふと嗅いだ事のある甘くて爽やかな匂いがした。
 桐原さんの香水だ。

 それを嗅いだ瞬間、俺の中でまた何かが弾けた。


「そうだ。お互いの家に置いてある私物だけど、あまり長く置いておかない方がいいから今日の夜貴哉の物まとめて届けるよ。そっちに置いてある俺の物はその時に受け取るから、まとめておいてくれると助かるな~?なんて♪」

「……分かった。来る時連絡くれよ」

「はーい♪」


 もう全部終わりにしよう。
 ずっと部屋にある貴哉の物も返して、お互い綺麗さっぱり終わらせよう。

 しょんぼりしている貴哉を置いて俺は前を向いて教室へ戻った。



 
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