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2章 球技大会

お前のカリスマ性って遺伝だったのか!

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 俺は伊織んちでボーッとしていた。
 本当に何もする事なくただボーッと。

 時間は既に日付を跨いでいて、空んちを出てから伊織にタクシーで迎えに来てもらって今に至るんだけど……

 ダメだ。さっきの空が頭から離れねぇ。

 伊織がシャワーを浴びて戻って来た。
 ちなみに俺は先に風呂を使わせてもらった。
 大分疲れてたけど、不思議と眠気は無い。

 不思議と言えば伊織んちだ。前に一度来た事があるけど、驚く程綺麗でデケェ家。毎回タクシー使ったり奢ったりしてるから金持ってんのは知ってたけど、この時間になってもこの家には伊織一人だけだと言う。
 両親はいつも家にはいないらしい。仕事や他で忙しく、帰って来るのは数ヶ月に一度だって。兄貴がいるらしいけど、兄貴も大学行ってからはたまにしか帰って来ねぇとか。だから伊織はこのデケェ家でいつも一人で過ごしてるって訳だ。


「たーかや♡何考えてんの?」


 伊織に抱き付かれてフワッとシャンプーの良い匂いがした。いつもの甘い爽やかな匂いじゃないから伊織じゃないみたいだ。


「何かさー、やっぱり変なんだよ」

「変て?早川か?」

「そう。もっとこうごねるかと思ったんだけど、すげぇあっさりしてたって言うか……それにあいつどこ行ったんだよ。こんな時間に心配だよな~?」

「まぁあの早川がそんな風なのは変だよな。でも本人が言うんだから考えても仕方ねぇだろ。それに、心配してもまた変に期待させるだけだぞ?もう傷付けたくねぇんだろ」

「……おう」


 空との事はここに着くまでにタクシーの中であらかた話した。伊織は黙って俺の手を握って聞いていてくれた。
 まさか本当に別れると思わなかったらしく、驚いてたけどな。


「だったら下手に干渉しない方がいい。じゃないと俺みてぇになるぞ♡」


 そう言って俺の瞼にキスをしてくる伊織。
 んー、でも気になるんだよなぁ。


「なぁ、この目、明日には良くなると思うか?」

「無理じゃね?最後に見た時より酷くなってるし」

「はぁぁ、明日ってかもう今日か。絶対みんなに聞かれんじゃん」

「みんなって?」

「紘夢とか茜にだよ」

「何それ、何の集まりよ?」

「球技大会のテニスだよ。そういや伊織は何に出るんだ?」

「俺はバスケだけど、えー!今日みんなでテニスやんの?俺も行きてぇんだけど!」

「お前テニスじゃねぇじゃん」

「テニスは出来るぜ♪俺も一緒に行くー♡」

「はぁ、勝手にしろよ。なぁお前サングラスとか持ってねぇの?」

「あるけど、掛けてくのか?」


 伊織はデカいクローゼットの扉を開けて中に入って行った。ウォークインクローゼットってやつか!母ちゃんの部屋がそうだから名前は知っていた。
 もう一個部屋があるみてぇで羨ましいんだよなぁ。


「んー、どれが貴哉に似合うかなー?」

「何でもいいよ。目が隠せれば」

「よし!これだ♪」


 伊織はサングラスを持って来てそのまま俺に掛けた。視界が薄暗くなった。えー、明日これで過ごすのやだな。


「似合うじゃん♪顔小せぇなぁ」

「伊織だって小せぇじゃん。てかサングラスって見づらいのな!普通にメガネとかで誤魔化せねぇかな?」

「起きたらどれぐらいになってるかだよな。伊達メガネもあるから朝決めようぜ」

「お前、何でも持ってるんだな」

「買い物好きだからな♪服とか小物も良く買うぜ」

「金持ちは違うな~」

「俺が金持ちな訳じゃねぇけどな。まぁ貰ってる小遣いは周りよりは多いかもな?」

「親って何の仕事してんの?」

「んー、誰にも言わないって約束出来るか?」

「えっ何、ヤバい仕事なのか?」

「ヤバいっちゃヤバい。だから周りにはあんまバレたくねぇ。俺が教えたのなんて幼馴染の怜ちんと那智ぐらいじゃん」

「知りたい!誰にも言わないから教えて!」

「俳優とファッションデザイナー」

「……マジで!?」

「父さんは俳優やってて、桐咲ナツヤって知ってる?母さんはデザイナー。結構忙しい人で今は海外にいるよ」

「桐咲ナツヤ!母ちゃんが好きな俳優だよ!」

「凛子さんが?そりゃ嬉しいね~♪」


 桐咲ナツヤって言ったら若い頃から人気のある大物俳優じゃねぇか!スタイル抜群で超美形!だけど、気取らない性格も良いとかで人気なんだ。演技も母ちゃんが見てたドラマを見た事があるけど、実力派俳優って感じでカッコよかったのを覚えている。
 いや、言われて見れば目とか口元とか似てるような?


「伊織、お前のカリスマ性って遺伝だったのか!」

「外見は父さん、ハイセンスな頭脳は母さんの遺伝だね~♪」

「なぁ兄貴は?確か伊織と似てるんだよな」

「周りが言うにはな。でも俺の方がかっこいいけどな」

「お前って本当ナルシストだよな」

「自信があるってだけ。兄貴とは似てるのは見た目だけで中身は違う」

「伊織と違うって、めっちゃ暗いとか?」

「暗くはねぇかな。兄貴は元ヤンなんだ」


 伊織は俺を見ながら笑った。
 何で俺を見て笑うんだよ。
 でもそれは意外だな。両親が大物同士で弟もこんな風なのに、兄貴だけヤンキーだったってのか。
 一条家みてぇに一般人には分からない何かがあるのか?


「だから貴哉と気が合うかもな~。まぁ家にいたら紹介するよ」

「……伊織、ずっと一人なのか?」

「え?家でって事?そうだよ。家の事は業者頼んで掃除とか飯とかやってもらってるけど、基本的に俺が学校行ってる間だから会う事はねぇな。俺がデカくなってから土日も来なくなったし。たまに兄貴がいるぐらいだ」

「寂しくねぇの?」

「はは、もう慣れたよ。てか気楽でいい。貴哉は一人だと寂しいのかぁ?」

「やる事あれば一人でもいいけど、暇じゃん。俺んちはあのうるせぇ母ちゃんがいるから、たまに一人だと寂しいかな?」

「可愛いなぁ♡そん時は俺が一緒にいてやるよー♡」


 そう言ってサングラスを取られてキスをして来た。自然に。こいつは本当に経験無いとは思えないぐらい普通にしてくるんだよなぁ。
 
 ふと空を思い出す。
 ああ、空もいつも家に誰もいないんだよな。
 あいつもずっと一人だったんだ。
 
 あいつ、大丈夫かなぁ?

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