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2章 球技大会

※ いーくんも良く知ってる人だよ〜

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 ※詩音side

 僕は今いーくんを連れて中庭に来ている。
 あのいーくんが、とても大切にしている貴哉くんにあんな事を言うなんて、みんなもだけど僕も驚いたよ。

 僕は進学先のランクを下げた事によって時間に余裕が出来たから今でも演劇部にたまに顔を出しているんだけど、まさかそんな時に事件が起こるなんて。

 さて、どうしたものか。

 中庭は僕のお気に入りで、陽当たりのいいベンチがオススメ。ここで良く本を読むんだけど、気持ち良くて寝ちゃう事も何回かある。
 そのベンチにいーくんを座らせて話を聞く事にした。素直に話してくれればいいけれど。


「さて、落ち着いたかな?」

「……騒いだりしてすみませんでした」

「うん。理由を聞かせてくれるかい?まず、どうして貴哉くんと言い合いになったんだ?」

「それは……貴哉の演技に対して俺が口出ししたからです。少しキツめに……」

「いーくんは去年も参加してくれて、実績はあるから口出しするのは間違ってないよね。どうしてキツく言っちゃったの?」

「それは……」


 いーくんはここで口籠った。
 僕だけじゃなくても、周りから見てていーくんが貴哉くんの事が大好きで、とても大事にしてる相手だってわかるのに。
 貴哉くんがあんなに怒るまでの態度を取ったのか、まさか嫌いになった訳ではないだろう?


「言いにくいかな?」

「いえ、話します。でもあいつには言わないで下さい。お願いします」

「うん。約束する。誰にも言わないよ」

「……正直、辛いんです。あいつを自分の物に出来ない事が。あいつには付き合ってる奴がいるのに、でも好きだからそれでもいいと思ってたけど……」

「そう言う事か」

「強がって奪うなんて言ってるけど、中途半端に手を出しちゃったせいで曖昧な関係のままだし、それならいっその事あいつに嫌われれば諦めつくかなって」

「だから冷たい態度取ったんだね」

「はい」


 どうやら本当の事を話してくれたみたいだね。僕に打ち明けてくれたいーくんは悲しそうに笑っていた。
 いーくんの気持ちは僕にも分かる気がする。
 好きなのに、とても近い距離にいるのに、結ばれないもどかしい気持ち。


「実際貴哉くんを突き放してみてどうだった?スッキリしたかい?」

「……全然。どんどん怒っていく貴哉を見て泣きたくなりました。後、自分にも腹が立ちました」

「だろうね。元々いーくんは人に冷たくするのとか向いてないもの。でも、いーくんの気持ちはとても立派だと思うよ。好きな人の為に、自分の為に諦めようと思ってした事だもんね」

「詩音さん……俺、どうしたらいいんですかね?もう分からねぇや」


 ここでいーくんがニカっと笑った。
 誰がどう見ても男らしくてかっこいい桐原伊織。
 そんな男をここまで悩ませるなんてさすが貴哉くんと言いたい所だけど、貴哉くんも思わせぶりな態度を取るのは良くない事だよね。
 それで新学期早々大きな事件が起きちゃった訳だし。あれは本人達にも非があるよ。


「いーくん、実は僕も片想いをしているんだよ」

「えっ詩音さんが?」

「それも何年も前からずっと。高校に入って叶わない恋だと分かって諦めようとしているのだけれど、なかなか難しいものだよね」


 この話をするのは葵くん以外には初めてだ。
 僕はもう一人の幼馴染である渡辺梓に小さな頃から片想いをしている。でも梓が選んだのは全く違う人。それを知った僕はこの気持ちを墓場まで持って行くつもりでいる。


「同じ高校の人ですか?」

「うん。この話は内緒だよ?」

「もちろんです!あの、相手聞いてもいいですか?」

「いーくんも良く知ってる人だよ~。その人元ボランティア部だったからね。いつもやる気無さそうで、庭いじりが好きで、いざって時頼りになるいつもメガネ掛けてるお兄さん」

「それって……えー!!もしかして渡辺さん!?」


 期待通りの反応を見せてくれるいーくん。
 驚く顔を見たら面白くなって笑っちゃった。


「あはは♪意外だったかな?僕と梓と葵くんは幼馴染なんだけど、梓は昔から変わらなくてね。あの淡白な性格が好きなんだ」
 
「そうだったんですね……渡辺さんには言わないんですか?」

「言わないよ。梓にはもう大切な人はいるからね♪あ、これも内緒だよ」


 ここでいーくんはまた驚いていた。
 うん。こういうのを人に話すのも悪くないかもね。ずっと一人で抱え込んでいるのも窮屈だったのかもしれない。
 少しだけ心のモヤが晴れた気がするよ。


「その梓の大切な人は僕とはまた違った人物でね。こりゃ僕なんかじゃ相手にされないと思い知らされたよ」

「そんな、詩音さんはみんなの憧れです。伝えてもいないのに諦めるのは……」

「僕は好きな人には幸せになってもらいたいタイプなんだ。いつも笑っていて欲しい。これは同じ片想いをしている男からのアドバイスだと思って聞いてくれ。こういう愛し方もあるんだと」

「……はい」

「さて、いーくんは好きな人にはどうなって欲しいと思う?」

「俺は……俺も貴哉には笑っていて欲しいです。幸せにもなって欲しい。でも、それは他の奴とじゃなくて、俺とじゃなきゃ嫌です!俺が笑顔にして幸せにしてやりたいです!」

「いーくんらしいと思うよ。とても男らしくてカッコいい♪僕は応援するよ。貴哉くんに恋人がいるのは知ってるけど、人間なんだからいつ誰を好きになって誰を嫌いになるかなんて分からないじゃないか。飽きるまで追って、気の済むまで愛したらいいよ」

「詩音さんかっけー!あの、話聞いてくれてありがとうございました!それと、本当にすみませんでした!みんなに謝ります!先に戻りますね!」

「うん。行ってらっしゃい♪」


 いーくんはすっかりいつもの自信満々な表情に戻っていた。それでこそみんなのいーくんだ。
 
 残り僅かとなった高校生活もまだまだ楽しそうだな。
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