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1章 写真ばら撒き事件
桃山と喧嘩しろって言ったんだよ
しおりを挟む「おい、直登!何で桃山とそんな仲良くなってんだ?」
「貴哉、俺は中西と仲良くなんかなってねぇよ」
「だって桃山さん俺のタイプなんだもん♡」
「ちょっと待て。お前数馬はどうした!?」
「数馬くんの事は好きだよ。でもまだ付き合ってないし。俺が誰と仲良くしても問題ないでしょ?」
俺は慌てて数馬を探す。てっきり直登と一緒だと思ってたから気にして無かったけど、あいつの事だからどっかで一人でいるんじゃねぇのか?
広い部屋を見渡すけど、数馬の姿は見つからなかった。
「空、俺数馬探して来る」
「えー、俺も行くよ」
「俺広瀬に電話してみるわ」
空と伊織は俺に付いて来る事に。伊織は電話をかけながら後を付いて来た。
まったく直登の奴、勝手なんだから。数馬も前よりは人前に慣れただろうけど、知らない奴もいるってのに一人でいられる訳ねぇだろ。
廊下に出てしばらく歩く。
せっかくみんなが集まって楽しんでるってのに、直登は本当に勝手な奴だな。
「なぁ電話出たか?」
「いや、鳴ってるけど応答無し」
「あ、貴哉、アレ」
「ん?」
空が何かを見付けて俺のTシャツの裾を引っ張る。
その方向を見ると、そこには廊下に置いてある椅子に座る数馬が一人でいた。
うつむいて元気無さそうな感じに見えた。
「数馬ー!どうしたー?」
「あ、貴哉……」
俺が声を掛けると、パァッと笑顔を向けた。そして気まずそうに困った顔をして答えた。
「ちょっと疲れちゃって休んでた」
「そっか。部屋にいねぇから心配したぞ」
「心配かけてごめん……」
「直登となんかあったのか?」
「…………」
ここで数馬はまた下を向いて黙った。
空が空いていた隣の椅子に座って数馬の背中をポンとした。
「数馬、中西となんかあったなら俺や貴哉から言ってやるよ。あいつ自分勝手なとこあるからあんま気にすんなよ」
「……俺が悪いんだ」
「数馬が?」
「俺が、直登と付き合わないから……」
確かに二人の関係は曖昧な物だった。
いつも一緒にいてお互い好きなのは知ってるけど、たまに、付き合ってると錯覚する程だ。だけど、本人達に聞けばまだ付き合ってないらしい。
そう、少し前の俺達三人みたいな感じ。
「数馬は中西を好きなんだろ?どうして付き合わないんだ?」
「好きだよ……でも怖いんだよ。嫌われるんじゃないかって……思っちゃって……」
「あー、それ分かるわー」
伊織が横目で俺を見ながら言った。
伊織から過去の話は聞いたから数馬の怖いと言う気持ちが分かると言うのは納得できた。
「人を好きになるのって怖ぇよな。でもさ、怖いばっかりじゃないんだぜ?広瀬はまだ知らないだろうけど、嬉しい事とか楽しい事の方が多いんだ。だからさ、広瀬も少しだけ勇気出してみたら?」
「…………」
「伊織……」
伊織は数馬にそう言ってから俺を見て微笑んだ。
伊織も人を好きになるのが怖いって言ってたもんな。好きになったら失う事が……
「数馬!伊織の言う通りだぜ!俺も数馬にはもっといろんな楽しい事を知って欲しいと思ってる!もし嫌な思いしたなら俺に言え。俺がその嫌な奴とかぶん殴ってやっからよ」
「……うん。貴哉ありがとう。桐原さんも、空も……ありがとう。俺、直登と話してみる」
数馬は顔を上げてそう言った。
直登はギャップがある奴が好きだったな。そんじゃちっと数馬には頑張ってもらうかな?
俺は面白い事を思い付いたから、数馬に近付いて内緒話するみたいに耳打ちしてやった。
すると数馬はすぐに慌て出して、首を横に振った。
「なぁ数馬~?お前ちょっとさ……」
「え?……えー!む、無理だよぉ!」
「少しだけでいいって!ヤバかったら俺が何とかすっから!」
「でも、そんな事したら俺、殺されちゃうよぉ」
俺と数馬のやり取りを見ていた二人は何の事か分からなくて、不思議そうに見ていた。
「貴哉、数馬に何て言ったんだ?」
「んー、桃山と喧嘩しろって言ったんだよ」
「はぁ!?何で!?」
「ほら、さっき直登が桃山の事タイプとか言ってたじゃん。俺の直登に手ぇ出すんじゃねぇ!って数馬が桃山を殴ったらカッコ良くね?直登も数馬がそんな事するとは思わねぇから、ギャップ凄くて喜ぶんじゃねぇかなって」
「はは、面白ぇなそれ。広瀬やってみ?桃山が暴れたら俺が止めてやるから安心しろよ」
「や、やだっ!人を殴るなんて出来ないよっ」
「殴らなくてもいいんじゃない?こう肩をトンってやるだけでもさ」
空が軽く数馬の肩を押して見せた。
それでも数馬は首を縦に振らない。
やっぱり数馬にはそんな事無理か~。
面白ぇと思ったんだけどなー。
「あ、こういうのは?相手を桃山にするんじゃなくて……」
今度は伊織が何か閃いたらしく、俺達にコソコソ話して来た。
おー、それも悪くねぇな!
「数馬、出来るか?」
「も、桃山さんよりは……大丈夫、かも?」
「よっし!決まりだな!その勢いで告れ!」
「ちょ、さすがにみんなもいるし数馬にそこまでは出来ないだろ」
「それならみんながいないとこでやればいいじゃん」
「中西を上手く連れ出せればいいけどー」
「それなら俺が連れ出すよ。貴哉と広瀬は先に行って待ってればいい」
よーし!これは俺の演技力もかかってんな!
演劇部で鬼コーチから受けた特訓の成果見せてやるぜ!
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