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1章 写真ばら撒き事件

※ これってスズメ?

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 ※紘夢side

 俺が一人で演劇部部室で二人の帰りを待ってると、バタバタと黒いマスクをしたデカい男が入って来た。

 桃山湊だ。


「茜~♡帰ろうぜ~♡」

「茜ちゃんなら出掛けてるよー」

「ん?……あ!紘夢か!」


 俺が言うと、一瞬俺を見て固まって思い出したように目を大きくして言った。
 そしてそのまま中に入って来て、俺の隣の空いてる席に座った。


「いやー、黒髪のお前とかまだ慣れねぇから誰かと思ったぜ」

「俺もまだ慣れないけど、結構気に入ってるんだ♪」

「そうだ!綺麗な鳥の写メ送ろうと思ったんだけど、連絡先知らなかったから送れなかったんだよ。教えてくれよ」

「あ、写メ撮れたんだ?いいよ。交換しようか」


 俺と桃はスマホを出して連絡先を交換する。

 と、ここで貴ちゃんから着信が入ってるのに気付く。授業中に鳴ったら謝罪の意味が無くなると思って音消してたの忘れてた。

 そしてすぐに桃から綺麗な鳥という写メが送られて来た。そこに写された鳥を見て俺の思考は止まった。待って、これって俺の記憶違いじゃなければ……


「これってスズメ?」

「良く分かったな♪綺麗な鳥はどっか飛んでっちゃってよ。スズメも綺麗だからいっかなって」

「茜ちゃん何か言ってた?」

「ありがとうって言ってた♡」

「そう。なら良かったじゃん」


 こいつらってやっぱりズレてるよな。
 特に桃がだけど、茜ちゃんもやっぱり変わってるのか。

 嬉しそうに笑ってる桃は俺と同じく変わり者扱いされてる筈だ。
 自由奔放で、俺とは違ったやり方で暴れてるっぽいけど、何でこいつはこんなに幸せそうなんだろう?

 好きな人と仲良くて、貴ちゃんとも仲良くて、そんな桃が羨ましいと思った。


「茜がさ、元気無かったんだよ。だから元気出してもらいたくて頑張ったんだ♪俺って良い彼氏~♡」

「そうだね。桃は素敵な彼氏だね。俺もなれるかな桃みたいに」

「そりゃ無理だろうな!俺ってスペシャリストだから俺を超えられるのなんていーくんぐらいじゃね?」

「いーくんか。そう言えば桃はいーくんを追いかけてたよね。もういいの?」

「今は茜一筋だからな。いーくんの事は好きだけど、それは友達として♪」

「……その、一筋だけど振り向いてもらえない時はどうしたらいいの?」

「あ?んなの振り向いてもらえるまで追っかけるに決まってんだろ!紘夢好きな奴いんの?誰?」

「秘密」

「んだそりゃ?質問ばっかして来て自分の事は黙りかい。ま、いいけどよ~。なぁ茜いつ戻るんだ?」

「今部員達に多数決を取りに行ってるんだよ。きっと笑顔で戻ってくるんじゃないかな」

「そりゃまた面倒くさそうな事してんな。あいつ真面目だからな~」


 自分の鞄から雑誌を取り出してペラペラ捲って見始める桃。ファッション系の雑誌だった。
 

「なぁ桃は俺の事怒ってないのか?」

「何で紘夢に怒るんだ?俺に何かしたの?」

「茜ちゃんが元気ないのって俺が元凶だからだよ」

「嘘!?そうなの!?茜に何したんだよ」


 ここで桃に睨まれた。
 切れ長の鋭い目はマスクのせいで余計に怖く見えた。
 俺は態度を変えずに今までやって来た事を全部話すと、桃は黙って聞いていて、最後には頬杖をついて「ふーん」と言った。


「それ、どこで俺や茜に何かしたんだ?お前は誘導しただけなんだろ?その倉持って奴以外に無理強いした訳でもねぇんだし、俺と茜は関係ねぇじゃん」

「でも、俺が貴ちゃんを誘導したから茜ちゃんとも関わるようになって、桃まで巻き込んだじゃないか」

「正直俺と茜が無事ならどうでもいいんだよ。むしろそれ聞いたら紘夢に感謝しなきゃいけねぇじゃん。紘夢のお陰で俺と茜がこうして付き合えてる訳だし。だって貴哉がボラ部入って演劇部に仮入部したのってお前の誘導なんだろ?ん?そういう事だよな?」

「そうだけど……」


 桃って、もしかして凄く頭良いのか?それかただの馬鹿か。

 一見馬鹿そうだけど、話してる感じが俺と似てるんだ。
 この会話を他の誰かが聞いたら馬鹿だなぐらいにしか思わないだろうけど、桃はキチンと内容を理解して自分の考えで話している。
 そして間違っていない。

 同世代で今まで会話をしてこいつ頭良いかもと思ったのは葵くん以来だ。
 桃と話すのは嫌じゃない。


「んじゃ礼言うわ。俺と茜を引き合わせてくれてありがとな紘夢」

「…………」


 俺なんかに「ありがとう」なんて、卯月もだけど、何でそんな事が言えるんだ?
 俺にも理解出来ない事があるなんて……

 そして「ありがとう」を言われるとこの心がくすぐったくて暖かくてなる感情は、一体なんなんだ?


「桃、お願いがあるんだ」

「ん?言ってみ」

「俺と友達になってくれないか?」

「ギャハハ!何だそれ!笑えるんだけど!」


 俺がお願いすると、盛大に笑われた。
 俺だって笑えるよ。
 俺が誰かにこんなセリフを言うなんて。

 貴ちゃんにしか言った事ないよ。

 何かね、桃と話してると貴ちゃんに会いたくなるよ。
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