9 / 178
1章 写真ばら撒き事件
だけど俺はお前の努力を知ってるからな
しおりを挟むホームルームに出る為に教室に入ると、みんながヒソヒソ話しながら俺を見て来た。
中には演劇部で見た奴らも見ていて、俺は何をするでもなくシカトして席に着いた。
「写真はとりあえず俺のロッカーに入れておくよー?ってか入るかな?」
「あ、分けて俺のロッカーも使おう」
直登と数馬が協力して写真をしまっていると、担任が入って来た。
そして俺を見て溜息をついた。その後何か言われるかと思ったけど、そのままホームルームは始まった。
やっぱり担任達も知ってるのか。別にどうって事ねぇけど、何も言われないのはそれはそれで嫌だな。担任に対してこんな風に感じたのは初めてだった。
そして担任の話が始まり、教室は静かになった。
俺はこれからの事を考えていた。
どうやって犯人を探そうか。呼び掛けて出て来る訳じゃねぇし、一人一人に聞いて回る訳にもいかねぇ。怪しいのは茜も言ってた演劇部の誰かか……
はぁ、何かを考えるのって本当に面倒くさいのな。でもこのままにはしておけねぇし。どうしたらいいものか……
「……以上だ。今日はここまで。明日から普通に授業が始まるから準備忘れるなよー。それと、今から名前を呼ぶ者は残りなさい」
やっと担任の話が終わったか。俺は茜達を待つからこのまま座っていた。
「秋山、早川、中西、広瀬。この四人は残れ。他の者は気を付けて帰れよー」
残される理由はメンバーで分かった。今呼ばれた奴らは始業式に参加しなかったメンバーだ。
それぞれ机に座ったまま他の生徒が帰るのを待っていた。
そして教室内は俺達四人と担任だけになった。
誰も話さない中、直登が先陣を切って話始めた。
「先生ー?俺達なんで残されたんですかー?」
「はぁ、お前らも残された理由は分かってるだろ。どうして始業式に出なかった?広瀬は仕方ないが、一言欲しかったぞ」
俺達の担任は若くも無く年寄りでもない、中年のおっさんだ。いつも俺を呼び出しては職員室で叱るおっさん。今日も同じ事だろうと思ってたけど、なんかいつもより勢いが無い気がするな。
今回は俺の他に三人もいるからか?
「そんなのゴミ拾いしてたからに決まってるじゃないですか。ほら見て下さいよロッカーに入りきらないぐらいのゴミ。むしろ感謝して欲しいぐらいですよ」
「お、俺も……ゴミ拾い……して、ました……」
「ふむ。早川は?」
「俺は友達を探してました。見付けて無事だったから安心しました」
「……秋山、お前は?」
「俺は……」
ここで教室が静まり返った。
なんて言えばいい?三人みたいに正直に言う?
いつもは適当に答えてやり過ごすけど、今回ばかりは言葉が出て来なかった。
「先生ー!ちょっといいですかー?」
「待て。秋山答えろ」
中西が助けてくれようとしたけど、どうやら担任には通じなかったみたいだった。
担任もいつもとは違って怒鳴ったりせず、落ち着いて話を聞いてくれようとしていた。
「写真をばら撒いた奴を捕まえようと屋上行ってた。三人は俺が巻き込んだんだ」
「貴哉!そんな言い方しないでよ!」
「それぞれの理由は分かった。でも始業式をサボった事に変わりはないからな。四人共、反省文を明日までに書いて来なさい。次からどうしても出られない理由がある場合は俺に連絡するように。分かったか?」
「はーい」
「はい……」
「りょーかい」
「…………」
俺以外が返事をすると、担任は俺を見て続けた。
「よし、秋山以外は帰っていいぞ」
「…………」
「貴哉、俺と数馬は先に帰るね。夜連絡するから」
「貴哉、頑張って」
「サンキュ……」
「…………」
俺の後ろと隣に座る直登と数馬はそう言って教室から出て行った。そして、一人離れた席、廊下側の列の後ろに座る空は俺を見てニコッと笑ってから出て行った。
残された俺は担任と二人きりになった。いつもなら「なんで俺だけ残るんだよー」とか「俺も帰る!」とかふざけるけど、今日はそんな気にはなれなかった。それは担任も同じみたいで、俺の近くまで歩いて来て、前の席の椅子に座った。
「秋山、さすがに今回は反省しているみたいだな」
「……いろんな意味でな」
写真の件については反省なんかしてない。むしろ俺は悪くないと思ってるしな。反省してるってのは空に対してだ。またこんな形で傷付けるような事をして、俺は本当に反省していた。
そんな俺を見て担任はフッと笑って頭を撫でて来た。
へ?頭を撫でた!?
一瞬何をされたのか理解できなかったけど、時間が経ってやべー事をされたのに気付いて後退った。
「なっ!お前何しやがる!?」
「やっといつもの秋山になったな」
「お前本当に俺の知ってる担任か!?今日おかしくね?」
「俺は初めこそお前はすぐにリタイアすると思っていたんだ」
「え?いきなり何?」
「うちの学校には馴染めずに辞めるだろうなって。だってお前みたいな奴いないもんな」
「それ担任が言っていいのかよ!」
「俺とお前の仲だろ。まぁ聞けよ。でもお前は頑張ってるじゃないか。俺がどんなに職員室に呼び出そうが、叱ろうが、あの手この手で生き残って来ただろ。俺はしっかり見てるんだぞ?」
「や、やめろよ気持ち悪ぃ……」
「そんな風に生意気な口をきく所も秋山の短所であり長所なんだろうな。きっと今回の件でお前を叩く奴は大勢いるだろう」
「…………」
「だけど俺はお前の努力を知ってるからな。俺はお前の味方だ。何がなんでもお前を進級させてやるからな」
「え?何言ってんだよ?」
「明日の朝一でお前と二年の桐原に呼び出しが掛かる。職員室の隣の会議室にだ。必ず来い。いいな?」
担任は念を押して俺に言った。
もちろん写真の件で呼び出されるんだろう。
それよりも担任のいつもと違う雰囲気に圧倒されていた。
「よし、帰っていいぞ」
「待ってましたー!玉ちゃん相変わらず話なげーよ!早く貴哉返してー!」
担任が立ち上がりながら言うと、直後に教室の後ろのドアが開いて桃山が入って来た。もちろん茜もいた。担任と話してるのを待っててくれたのか。
「お前も相変わらずだな桃山!そうだ!久しぶりに説教してやろう!」
「いらねぇよ。俺良い子だもん♪ほら貴哉帰るぞー。じゃあな玉ちゃーん」
「先生、さようなら」
俺の担任の事を玉ちゃんと呼ぶ桃山。それとは逆にペコリと頭を下げてキッチリ挨拶をしている茜。
俺はなんだかおかしくなって自然と笑ってた。
そして俺も何も入っていない鞄を持って教室から出ると、廊下の壁にもたれながら笑顔で待っていてくれた人がもう一人いた。
「貴哉、帰ろう♪」
「……おう!」
待っていてくれたのは、短くした髪を今日もバッチリ決めてるチャラ男の空だった。
10
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~
焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。
美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。
スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。
これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語…
※DLsite様でCG集販売の予定あり
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
【R18】息子とすることになりました♡
みんくす
BL
【完結】イケメン息子×ガタイのいい父親が、オナニーをきっかけにセックスして恋人同士になる話。
近親相姦(息子×父)・ハート喘ぎ・濁点喘ぎあり。
章ごとに話を区切っている、短編シリーズとなっています。
最初から読んでいただけると、分かりやすいかと思います。
攻め:優人(ゆうと) 19歳
父親より小柄なものの、整った顔立ちをしているイケメンで周囲からの人気も高い。
だが父である和志に対して恋心と劣情を抱いているため、そんな周囲のことには興味がない。
受け:和志(かずし) 43歳
学生時代から筋トレが趣味で、ガタイがよく体毛も濃い。
元妻とは15年ほど前に離婚し、それ以来息子の優人と2人暮らし。
pixivにも投稿しています。
目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件
水野七緒
BL
一見チャラそうだけど、根はマジメな男子高校生・星井夏樹。
そんな彼が、ある日、現代とよく似た「別の世界(パラレルワールド)」の夏樹と入れ替わることに。
この世界の夏樹は、浮気性な上に「妹の彼氏」とお付き合いしているようで…?
※終わり方が2種類あります。9話目から分岐します。※続編「目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件」連載中です(2022.8.14)
彼女ができたら義理の兄にめちゃくちゃにされた
おみなしづき
BL
小学生の時に母が再婚して義理の兄ができた。
それが嬉しくて、幼い頃はよく兄の側にいようとした。
俺の自慢の兄だった。
高二の夏、初めて彼女ができた俺に兄は言った。
「ねぇ、ハル。なんで彼女なんて作ったの?」
俺は兄にめちゃくちゃにされた。
※最初からエロです。R18シーンは*表示しておきます。
※R18シーンの境界がわからず*が無くともR18があるかもしれません。ほぼR18だと思って頂ければ幸いです。
※いきなり拘束、無理矢理あります。苦手な方はご注意を。
※こんなタイトルですが、愛はあります。
※追記……涼の兄の話をスピンオフとして投稿しました。二人のその後も出てきます。よろしければ、そちらも見てみて下さい。
※作者の無駄話……無くていいかなと思い削除しました。お礼等はあとがきでさせて頂きます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる