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1章 写真ばら撒き事件

だけど俺はお前の努力を知ってるからな

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 ホームルームに出る為に教室に入ると、みんながヒソヒソ話しながら俺を見て来た。
 中には演劇部で見た奴らも見ていて、俺は何をするでもなくシカトして席に着いた。


「写真はとりあえず俺のロッカーに入れておくよー?ってか入るかな?」

「あ、分けて俺のロッカーも使おう」


 直登と数馬が協力して写真をしまっていると、担任が入って来た。
 そして俺を見て溜息をついた。その後何か言われるかと思ったけど、そのままホームルームは始まった。
 やっぱり担任達も知ってるのか。別にどうって事ねぇけど、何も言われないのはそれはそれで嫌だな。担任に対してこんな風に感じたのは初めてだった。

 そして担任の話が始まり、教室は静かになった。
 俺はこれからの事を考えていた。
 どうやって犯人を探そうか。呼び掛けて出て来る訳じゃねぇし、一人一人に聞いて回る訳にもいかねぇ。怪しいのは茜も言ってた演劇部の誰かか……
 はぁ、何かを考えるのって本当に面倒くさいのな。でもこのままにはしておけねぇし。どうしたらいいものか……


「……以上だ。今日はここまで。明日から普通に授業が始まるから準備忘れるなよー。それと、今から名前を呼ぶ者は残りなさい」


 やっと担任の話が終わったか。俺は茜達を待つからこのまま座っていた。


「秋山、早川、中西、広瀬。この四人は残れ。他の者は気を付けて帰れよー」


 残される理由はメンバーで分かった。今呼ばれた奴らは始業式に参加しなかったメンバーだ。
 それぞれ机に座ったまま他の生徒が帰るのを待っていた。
 そして教室内は俺達四人と担任だけになった。
 誰も話さない中、直登が先陣を切って話始めた。


「先生ー?俺達なんで残されたんですかー?」

「はぁ、お前らも残された理由は分かってるだろ。どうして始業式に出なかった?広瀬は仕方ないが、一言欲しかったぞ」


 俺達の担任は若くも無く年寄りでもない、中年のおっさんだ。いつも俺を呼び出しては職員室で叱るおっさん。今日も同じ事だろうと思ってたけど、なんかいつもより勢いが無い気がするな。
 今回は俺の他に三人もいるからか?


「そんなのゴミ拾いしてたからに決まってるじゃないですか。ほら見て下さいよロッカーに入りきらないぐらいのゴミ。むしろ感謝して欲しいぐらいですよ」

「お、俺も……ゴミ拾い……して、ました……」

「ふむ。早川は?」

「俺は友達を探してました。見付けて無事だったから安心しました」

「……秋山、お前は?」

「俺は……」


 ここで教室が静まり返った。
 なんて言えばいい?三人みたいに正直に言う?
 いつもは適当に答えてやり過ごすけど、今回ばかりは言葉が出て来なかった。


「先生ー!ちょっといいですかー?」

「待て。秋山答えろ」


 中西が助けてくれようとしたけど、どうやら担任には通じなかったみたいだった。
 担任もいつもとは違って怒鳴ったりせず、落ち着いて話を聞いてくれようとしていた。


「写真をばら撒いた奴を捕まえようと屋上行ってた。三人は俺が巻き込んだんだ」

「貴哉!そんな言い方しないでよ!」

「それぞれの理由は分かった。でも始業式をサボった事に変わりはないからな。四人共、反省文を明日までに書いて来なさい。次からどうしても出られない理由がある場合は俺に連絡するように。分かったか?」

「はーい」

「はい……」

「りょーかい」

「…………」


 俺以外が返事をすると、担任は俺を見て続けた。


「よし、秋山以外は帰っていいぞ」

「…………」

「貴哉、俺と数馬は先に帰るね。夜連絡するから」

「貴哉、頑張って」

「サンキュ……」

「…………」


 俺の後ろと隣に座る直登と数馬はそう言って教室から出て行った。そして、一人離れた席、廊下側の列の後ろに座る空は俺を見てニコッと笑ってから出て行った。
 残された俺は担任と二人きりになった。いつもなら「なんで俺だけ残るんだよー」とか「俺も帰る!」とかふざけるけど、今日はそんな気にはなれなかった。それは担任も同じみたいで、俺の近くまで歩いて来て、前の席の椅子に座った。


「秋山、さすがに今回は反省しているみたいだな」

「……いろんな意味でな」


 写真の件については反省なんかしてない。むしろ俺は悪くないと思ってるしな。反省してるってのは空に対してだ。またこんな形で傷付けるような事をして、俺は本当に反省していた。
 そんな俺を見て担任はフッと笑って頭を撫でて来た。
 へ?頭を撫でた!?
 一瞬何をされたのか理解できなかったけど、時間が経ってやべー事をされたのに気付いて後退った。


「なっ!お前何しやがる!?」

「やっといつもの秋山になったな」

「お前本当に俺の知ってる担任か!?今日おかしくね?」

「俺は初めこそお前はすぐにリタイアすると思っていたんだ」

「え?いきなり何?」

「うちの学校には馴染めずに辞めるだろうなって。だってお前みたいな奴いないもんな」

「それ担任が言っていいのかよ!」

「俺とお前の仲だろ。まぁ聞けよ。でもお前は頑張ってるじゃないか。俺がどんなに職員室に呼び出そうが、叱ろうが、あの手この手で生き残って来ただろ。俺はしっかり見てるんだぞ?」

「や、やめろよ気持ち悪ぃ……」

「そんな風に生意気な口をきく所も秋山の短所であり長所なんだろうな。きっと今回の件でお前を叩く奴は大勢いるだろう」

「…………」

「だけど俺はお前の努力を知ってるからな。俺はお前の味方だ。何がなんでもお前を進級させてやるからな」

「え?何言ってんだよ?」

「明日の朝一でお前と二年の桐原に呼び出しが掛かる。職員室の隣の会議室にだ。必ず来い。いいな?」


 担任は念を押して俺に言った。
 もちろん写真の件で呼び出されるんだろう。
 それよりも担任のいつもと違う雰囲気に圧倒されていた。


「よし、帰っていいぞ」

「待ってましたー!玉ちゃん相変わらず話なげーよ!早く貴哉返してー!」


 担任が立ち上がりながら言うと、直後に教室の後ろのドアが開いて桃山が入って来た。もちろん茜もいた。担任と話してるのを待っててくれたのか。


「お前も相変わらずだな桃山!そうだ!久しぶりに説教してやろう!」

「いらねぇよ。俺良い子だもん♪ほら貴哉帰るぞー。じゃあな玉ちゃーん」

「先生、さようなら」


 俺の担任の事を玉ちゃんと呼ぶ桃山。それとは逆にペコリと頭を下げてキッチリ挨拶をしている茜。
 俺はなんだかおかしくなって自然と笑ってた。

 そして俺も何も入っていない鞄を持って教室から出ると、廊下の壁にもたれながら笑顔で待っていてくれた人がもう一人いた。


「貴哉、帰ろう♪」

「……おう!」


 待っていてくれたのは、短くした髪を今日もバッチリ決めてるチャラ男の空だった。
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