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本編

お前ら最高の後輩だぁ!

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 桃山が集団の一人の胸ぐらを掴み、自分に引き寄せて今にも殴りかかろうとしていた。
 さすがにここでそれはまずいだろ!
 俺は桃山を止めようと振り上げててる腕を必死で押さえていた。向こうの男達も数人が桃山から掴まれてる男を助け出そうと近付いて来ていた。


「桃山やめろって!」

「うるせぇな。お前は黙ってろ」

「桃山!あの時は本当に悪かった!だからもう許してくれ!」


 向こうの一人が桃山に謝ってた。過去にこいつらが桃山に何かしたのか。
 でもこんな目立つとこで喧嘩なんてしたら親どころか学校にもバレるだろ!
 謝ってる奴を見た桃山は胸ぐらを掴んでた奴を地面に投げ付けてそいつに近付いた。


「何だお前いたのか。なら戸叶もいんの?おう、二人共こっちこいや。また出歩けるようになったみてぇだからもう一回出歩けねぇようにしてやる」

「ひぃ!と、戸叶とはもう別れたよ!あいつはもう違う奴と付き合ってる!」

「ならお前だけでいいよ。こっち来い」


 桃山と話してた男は浴衣を掴まれて引き摺られるように連れて行かれようとしていた。
 もちろん俺も付いて行って止めるが、全く俺の言う事を聞こうとしねぇんだ。
 話の内容も訳分かんねぇしよぉ。一体どうしたらいいんだ!


「あー!やっぱり桃さんだぁ!」

「この声は!」


 声がした方を見ると空と茜がこの状況を見て驚きながらも近寄って来た。
 良かった!三人なら桃山を止められるかもしれねぇ!


「貴哉、大丈夫か?お前ら全然来ねぇし、何があったんだ?」

「俺も良く分かんねぇんだよ!いきなり桃山があいつら見てキレ始めたんだ。昔の知り合いらしいけど……」

「湊!何してるんだ!」


 あ!目を離した隙に桃山は既にその男の事を殴り倒していて、跨り更に殴ろうとしていた。
 茜が気付いて駆け寄るけど、周りで見ていた他の人達の悲鳴が上がった。中には警察だの救急車だのそう言うワードが聞こえて来た。
 マジでヤバい事になって来たぞ!


「こんな事して許されると思っているのか!?湊!こっちを見ろ!」

「……あ、かね?」


 茜の声にやっと桃山の動きが止まった。そして茜が桃山を倒れてる男の上から下ろして、男の様子を見ていた。


「大丈夫か!?俺の連れがすまなかった!」

「そんな奴に謝るんじゃねぇよ茜!」

「湊は黙ってろ!どんな理由があろうと暴力はダメだ!」

「も、桃山の連れ?な、なぁ頼む!もう桃山の前に現れたりしねぇから許してくれるよう言ってくれ!」

「ああ、俺から良く言っておく。すまないが、今回の事は痴話喧嘩と言う事にしておいてくれないか?それと、これ治療代に使ってくれ」

「分かったよ!い、いらない!」


 茜は男にお金を渡そうとしたが、男は受け取らず、そのまま立ち上がってどこかへ走って行ってしまった。
 俺はボーッとしていたが、空に腕を引かれた。


「俺達も離れよう。警察が来たら面倒だ」

「でも、桃山がっ」

「茜さーん!桃さん連れて来てくれますー?逃げますよー」

「あ、ああ!」


 空がそう言うと、茜は立ち尽くす桃山の手を握って引っ張って連れて来た。桃山は力無く大人しくしていた。

 駅の方だと警察に見つかる可能性が高いらしいので、逆の方へ逃げて来たけど、もう祭りどころじゃねぇな。
 四人でしばらく歩いて人気の少ない住宅街っぽい所まで来た。そして小さな公園を見つけて桃山をベンチに座らせて、俺達三人は囲うように立っていた。


「何とか逃げ切れた感じ?」

「周り人凄かったし、ヤバかったな」


 俺と空が話してる中、茜は項垂れてる桃山をじっと見ていた。


「…………」

「おい湊」

「…………」

「返事をしろ!」

「はい」

「何であんな事したんだ?」

「アイツがムカつくから」

「だからって手を出したらダメだろ!向こうも許してくれって言ってたじゃないか」

「茜はアイツの事知らねーだろ。何で庇うんだよ」

「なら話してみろ。全部だ」


 茜は桃山の隣に座って手を握っていた。
 茜の正義感強い所ってこういう時助かるよなー。さっきのも茜が対処してくれたから良かったけど、相手に訴えられてたら目撃者も大勢いたし、桃山アウトだったぞ。


「はぁ、アイツらは中学が一緒だったの!そん時俺に付き合ってた奴がいて、そいつとさっき殴った奴が浮気しやがったんだ。だから二人共、二度と外歩けないように病院送りにしてやったんだよ。なのにさっき楽しそうに笑ってたからまた送ってやろうとしたんだよ」


 え、ちょっと待てよ?それって桃山が茜に言ってたやつじゃね?俺以外と浮気したら外歩けない顔にしてやるって。あれ、冗談じゃなかったのかよ!


「湊は本当に馬鹿だな!」

「何でだよ!俺悪くねぇよ!向こうが先に嫌な事して来たんだ!」

「そんな事ぐらいで人生棒に振るような事するな!大体浮気をするような奴と付き合ったお前が悪いんだろ。見る目ないって事だな!」

「ひでぇよ茜ぇ」


 確かに茜は少し厳しい事を言うなぁと思ったよ。でも間違ってもねぇよな。浮気は良くねぇけど、あんな人前で殴ったりしたらとんでもない事になってただろう。学校にバレたら何かしらの処分は受けるだろうし。
 茜に叱られてズズッと鼻を啜る桃山。ん?鼻を啜る?まさか泣いてんのか!?


「茜は俺の味方でいてくれると思ってたのに、裏切るのかよっ」

「人聞きの悪い事を言うな。味方だからこそ間違いを正そうとしてるんだろ。誰でも人間なら間違いは起こす。それは俺もだ。だけど、前を向かなきゃ進めないだろ。だから湊もさっきの奴らの事なんか忘れろ。それに今の恋人は俺だろ?いつまでも過去の恋愛に拘ってるなんて浮気と似たような物だと思うけど?」

「……確かに」

「湊、約束しろ。もう他人を殴らないって」

「分かった。約束する」


 茜先生の言葉に素直に従う桃山。
 そして茜をギュッと抱きしめて茜の浴衣で涙と鼻水を拭いていた。
 そんな二人を見て俺と空はホッとしてお互い顔を見合わせて笑った。


「茜さんすげーなぁ。ちょーかっこよかった!」

「だろー?茜ってちょっと頑固だけど、かっけーんだ」

「お前達にもすまなかったな。せっかくの祭りが台無しになってしまって」

「俺は平気ですよ♪茜さんとかき氷食べれたしー」

「はぁ?かき氷って何だ!ずりーぞ!」

「ほら貴哉も食べる?もう溶けちゃったけど」

「飲む!」


 何だよ、二人は二人で楽しんでたのかよ!
 俺は桃山を止めるの大変だったってのによ。
 既にピンクの液体になったかき氷の容器を貰ってスプーン代わりのストローで全部飲み干してやった。


「貴哉に早川……」

「ん?」


 茜にしがみついたままの桃山がボソッと俺達に話しかけてきた。


「湊、ちゃんと顔見せて話せよ」


 茜が桃山の頭を撫でて俺達に体を向けさせた。
 そのまま桃山はスッとマスクを外してペコリと頭を下げて来た。


「……今日は悪かった。もうあんな事したりしないようにする。本当にごめんなさい」

「ちょ、桃山がちゃんと謝った!」

「てか桃さん、めっちゃイケメンじゃね?」

「おい二人共、湊の謝罪をちゃんと聞いてあげてくれ」

「ああ、許してやるよ桃山!その代わりまた違う祭り連れてってくれよな!」

「俺も、全然気にしてないですよー♪かっこいい二人見れたんで楽しかったです」

「お前ら最高の後輩だぁ!」

「湊、俺達にも付いて来てくれる人達が出来たんだ。だから一緒に胸張れる先輩になろう!」

「うん!」


 その後俺達はしばらくそこで話をしてから乗って来た隣の駅まで歩いて帰った。
 一時はどうなるかと思ったが、何だかんだ楽しく終われたから良かった。
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