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本編
ちょうどいい今このチワワにっ
しおりを挟む月曜日。クソ暑い中朝から学校へ行き部活に参加する。また寝る前にゲームやっちまったぜ。寝不足で少し頭痛がするし。
茜も同じくやってたんだけど、何故か平気そうで、今日は張り切って芝居の稽古を付けてくれてる。
「秋山、もっとしっかり声を出せ。本番ではマイクはあるけど、声を張るのは演劇の基本だぞ」
「ちょっと休憩~。ジュース買ってくる」
「分かった。10分後に再開するからな」
やれやれと言った顔をされたが構わずに部室から出ていく。その内俺達も食堂の方の練習に参加するようになるらしいが、いつになる事やら。
食堂の近くの自販機でジュースを買おうと思ったが、先客がいた。それも伊織だった。それと、隣には小柄の華奢な男もいた。あまり見ない奴だったけど、伊織の腕に纏わりついて見てるだけでも暑そうに引っ付いてる感じからして伊織のファンだってのは分かった。
でも、伊織がファン如きにそんなの許すか?少し疑問に思って見てたら、伊織が俺に気付いた。
「貴哉、おはよう」
「……はよ」
それぞれ活動場所に直行したから今日顔を合わすのは初めてだった。いつもと変わらない伊織に、隣では俺を見てニヤリと笑ってる小柄な男がいた。やな感じだなぁ。
「おはよう秋山くん」
「はよっす」
「貴哉、何飲む?」
伊織はいつものように俺にジュースを買ってくれようとしていた。すると俺よりも先に小柄な男が反応していた。
「えー!俺にはそんなの言ってくれなかったじゃんっ」
「お前はタメだろ。貴哉は後輩だからいいの」
「秋山くんいいなぁ。いーくんのただの後輩で」
何故か「ただの後輩」という言葉を強調して、勝ち誇った顔をされた。苛つく奴だな。こいつぜってー伊織の事好きだろ。
「んな事どーでもいいからさっさとどけよ。一個上のおっさん」
「なっ!おっさん!?」
「間違ってねぇだろ。俺のが年下だ」
「あはは、貴哉は本当面白いなぁ。行こう七海」
伊織は笑って小柄な男を連れていなくなろうとするけど、小柄な男は怒りが収まらないといった様子で俺に近付いて来た。
「あんたさぁ!ろくに演技も出来ない癖に生意気なんだよ!お前なんかいーくんのおまけなんだからな!」
「その通り過ぎて何も言い返せねぇわ。つか寝不足で頭痛いんだわ俺。その甲高い声でキャンキャン喋るのやめてくれ」
「貴哉、体調良くないのか?大丈夫か?」
「へーき。てか早く戻らねぇと茜に怒られるからどいて」
「ああ」
「二之宮ね。あんたの世話係とかいい気味~。あいつも生意気なんだよ。みんな言ってるよ?二之宮いなくなれって」
茜の事を悪く言われて、ぐっと堪えていた感情が爆発した。頭痛いし、相手にしないつもりだったがこうなったら話は別だ。
「てめぇ大人しく聞いてりゃ何様だコラ。茜の何を知って言ってんだ?あ?」
「こわーい!いーくん助けて~」
「七海が悪いだろ。貴哉、悪かったよ。七海には俺から言っておくから……」
「伊織!てめぇも甘過ぎんだ!茜を悪く言いやがったんだぞこいつ!許せねぇ!」
「これだから不良はやだよ。ねぇ、この事顧問に言ってクビにしてもらお?」
「七海……」
「自分から仕掛けてきたんだろうが!人任せにするぐらいなら突っかかってくんな!」
たまにいるんだよなこういう自分愛されてます。周りが助けてくれます。って言うお姫様気取りの奴。
俺の大嫌いなタイプだ。
てか伊織も何で何も言わねーんだよ!いつもなら俺の肩持ってくれんじゃん!
怒りが収まらずに、更に言ってやろうとした時、茜の声がして俺は止まった。
「秋山!遅いと思ったら何をやってるんだ!」
「茜!ちょうどいい今このチワワにっ」
「二之宮~、お前いつ辞めんの?いい加減目障りなんだけど」
「っ……」
「てめぇ!まだそんな事言いやがってんのか!」
「秋山、相手にしなくていい。戻ろう。桐原、そっちは任せたぞ」
「おう」
俺とチワワは互いに睨み合ったまま、それぞれの保護者に引きずられるようにその場を離れる事になった。
怒りが収まらないので、茜に引きずられながら抗議する事にした。
「茜!あいつムカつく!」
「小平七海。演劇部のエースだ。俺が副部長になったから気に食わないんだろ」
「はぁ!?あんなのがエースとか演劇部も終わりだな!」
「小平の実力は確かだ。主役のヒロイン役は小平だぞ」
「ヒロインって、姫か?って事は伊織の相手役って事か。だからってあいつが黙って聞いてたのもムカつく!」
「落ち着けって。俺の事を何か言われても気にするな。もうあれが普通なんだからな」
「けどよぉ!」
茜は落ち着いた様子でそう言った。どこか寂しげにも見えたけど、茜に逆らっても意味ねぇし、とりあえず大人しく部室に戻る事にした。
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