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本編

許してくれるのか?

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 よろよろと暗い夜道を歩いてると、前から猛スピードで向かって来るチャリが目に入った。
 チャラ男号か……


「貴哉!」


 俺を見付けて急ブレーキをかけて止まった。
 相当焦って来たのか、いつもバッチリ決まってる髪型がぐしゃぐしゃになってた。
 チャリから降りて俺に近付いて来て顔を覗き込んで来た。
 俺は空の顔が見れなかった。


「こっち見てくれ!貴哉!」

「…………」

「っくそ!」

「あ、やめろ!」


 俺が黙ってると、今度は抱き締められた。
 空の匂いがして、また涙が込み上げて来た。
 俺は本当に馬鹿だ。この匂い、忘れてた……


「空っ俺……」

「チッ……好きになった奴って桐原さんか?」

「え、何で?」

「貴哉から桐原さんの匂いがするからだよ!今日会ってたのって桐原さんなのか?」


 嘘だろ!自分じゃ分からなかったけど、もしかしてあの香水みたいな匂いか?
 俺にまで匂いが移ってたのか……


「茜がいたのは間違いねぇよ。でもそこに伊織もいた」

「何で黙ってたんだ?」

「空が怒ると思って」

「そりゃ怒るけどっ……はぁ、場所変えよう。落ち着いて話そう」


 道端で時間も遅いから人はいないけど、近所の人達には迷惑になるだろう。
 空に手を引かれて近くの遊歩道の途中にあるベンチに座らされた。


「よりによって桐原さんかよ……」

「空、ごめんな」

「ごめんじゃねぇよ!……いや、俺が悪いんだ」

「は?何でだよ?」

「少し前までの貴哉ならどんなに言い寄られても必ず俺の所に戻って来てくれてたのに、俺が不甲斐ないから貴哉は桐原さんを好きになっちゃったんだ」

「いや、空は悪くねぇだろ?」

「俺が悪いんだ!だから貴哉は悪くねぇ!」

「そ、そうかよっ」

「なぁ、俺の事は?もう好きじゃねぇの?」


 意外な事に自分を責める空。てっきり怒られるか泣かれるかどちらかだと思ってたから少し拍子抜けした。
 俺はここからは素直に答えることにした。


「好きだ。空の事も。伊織の事も。だけど、伊織の事は終わりにして来た」

「て事は俺を選んでくれたって事か!?」

「ああ」


 パァッと笑顔になる空。意外過ぎて調子狂うな。でも泣かれるよりはいい。
 本題はここからだけどな。


「嬉しい!俺、今は貴哉が桐原さんの事好きでも絶対忘れさせるからな!」

「……空、まだ話があるんだ」

「何だよ?他にもいるって言うのか?」

「ううん。そうじゃない。実は伊織とさ、俺……」


 セックスしたんだ。
 これはとても言いにくくて言葉を詰まらせてると、空は俺の手をギュッと握って来た。


「貴哉。俺は何があっても貴哉を離さねぇから」

「……空」


 そこにいたのは俺が知ってる空じゃなかった。
 いつもメソメソしてるようなワガママ言う男じゃなくて、とても自信に満ち溢れた笑顔の男がいた。
 空は俺の知らない所で強くなってたのか……

 俺はますます自分が悔しくてポロポロ涙を流して空にしがみついた。
 泣き虫はどっちだよってな。

 空はギュッと優しく抱き締めてくれて、泣き止むまで背中をさすってくれた。


「……なぁ空ぁ」

「ん?どうした?」

「俺と伊織にあった事、聞きてぇか?」

「そりゃ聞きてぇよ。もう覚悟は出来てる」

「んじゃ言うぞ」

「おう!」

「あ、何があっても離さねぇんだよな?」

「そ、そうだよ!貴哉は俺のだ!」

「…………」

「貴哉?」

「……したんだ。伊織と」

「え?前半聞こえなかった」

「セックス、したんだよ」

「はは、キスぐらい挨拶みたいなもんだろ?前の俺だったら……ってセックス!?今セックスって言ったのか!?」


 やっぱり空は俺と伊織がキスでもしたとか軽く考えてたんだ。セックスって聞いて驚いてる。
 俺をバッと離して顔を見られた。泣き止んだけど、驚く空を見たらまた涙が出そうになった。


「待て待て待てっ覚悟はしてたけど、まさかそんな大事な事を……ええー!やだ!やだよ貴哉!本当なのかよ!?」

「本当だよ。俺の事離すのか?」

「は、なさ、ねぇよっ!でもっそれは嫌だっ」

「ごめん。空、俺したんだ。伊織と最後にしようって決めたらそういう雰囲気になって……」

「ううーん……最後って事はもうしねぇって事だよな?」

「そのつもりだ」

「…………」

「…………」


 しばらく無言が続いた。
 空は一生懸命何かを考えてるみたいで、難しい顔をしていた。
 きっとやっぱりダメってなるんだろうな。
 俺が空の立場だったらムカつくし、どっちも殴ってやらなきゃ気が済まない。
 いっその事、空に殴られてぇな。そしたら俺も目が覚めるかもしれねぇな。


「貴哉!」

「!」


 いきなり空がこちらを見て俺の名前を呼んだ。その表情はいつもの空のように見えた。泣いたり、怒ったりしてない空。笑顔に近い、少し困ったような顔。


「結局、桐原さんに負けた俺が悪いんだ。てか今までいろんな女の子と遊んで来ちゃったツケが回って来たのかもな!女の子達には悪いけど、結構酷い事してたと思うんだ俺。今回その辛さ身をもって知ったよ」

「空、お前……」

「貴哉にもチャラ男チャラ男って言われてたもんな。反省してる。だからさ、貴哉ももう迷ったりしないでよ。俺、もっと良い男になるからさ!他の男なんか目に入らないぐらい!」

「え、許してくれるのか?」

「当たり前だろ!俺はそんなけ貴哉の事愛してんだ!うわー、本気で愛してるって言うのってすげぇ恥ずかしいのな」

「お前ってやつは……」


 俺が誰かに気に入られるだけでメソメソ、ブーブー言ってた空が、とても大人になったように感じた。そんな空に俺は本気で驚いて、ときめいていた。やっぱ俺、空が好きだ。


「空めちゃくちゃかっこいいぞ♡惚れ直した♡」

「マジ?やったぁ♪もっと惚れて惚れてー♡」


 笑い合う俺達はいつもの関係に戻った。
 きっと空は怒りたいし泣きたいのを我慢して俺の事を考えてああ言ってくれたんじゃないかと思う。
 だってあの空だぞ?じゃなきゃ何か変な物食ったぐらいしか思い付かない。

 俺はまた空と笑い合える仲になれた事が嬉しくて、自然と俺から手を繋いでいた。
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