48 / 116
本編
許してくれるのか?
しおりを挟むよろよろと暗い夜道を歩いてると、前から猛スピードで向かって来るチャリが目に入った。
チャラ男号か……
「貴哉!」
俺を見付けて急ブレーキをかけて止まった。
相当焦って来たのか、いつもバッチリ決まってる髪型がぐしゃぐしゃになってた。
チャリから降りて俺に近付いて来て顔を覗き込んで来た。
俺は空の顔が見れなかった。
「こっち見てくれ!貴哉!」
「…………」
「っくそ!」
「あ、やめろ!」
俺が黙ってると、今度は抱き締められた。
空の匂いがして、また涙が込み上げて来た。
俺は本当に馬鹿だ。この匂い、忘れてた……
「空っ俺……」
「チッ……好きになった奴って桐原さんか?」
「え、何で?」
「貴哉から桐原さんの匂いがするからだよ!今日会ってたのって桐原さんなのか?」
嘘だろ!自分じゃ分からなかったけど、もしかしてあの香水みたいな匂いか?
俺にまで匂いが移ってたのか……
「茜がいたのは間違いねぇよ。でもそこに伊織もいた」
「何で黙ってたんだ?」
「空が怒ると思って」
「そりゃ怒るけどっ……はぁ、場所変えよう。落ち着いて話そう」
道端で時間も遅いから人はいないけど、近所の人達には迷惑になるだろう。
空に手を引かれて近くの遊歩道の途中にあるベンチに座らされた。
「よりによって桐原さんかよ……」
「空、ごめんな」
「ごめんじゃねぇよ!……いや、俺が悪いんだ」
「は?何でだよ?」
「少し前までの貴哉ならどんなに言い寄られても必ず俺の所に戻って来てくれてたのに、俺が不甲斐ないから貴哉は桐原さんを好きになっちゃったんだ」
「いや、空は悪くねぇだろ?」
「俺が悪いんだ!だから貴哉は悪くねぇ!」
「そ、そうかよっ」
「なぁ、俺の事は?もう好きじゃねぇの?」
意外な事に自分を責める空。てっきり怒られるか泣かれるかどちらかだと思ってたから少し拍子抜けした。
俺はここからは素直に答えることにした。
「好きだ。空の事も。伊織の事も。だけど、伊織の事は終わりにして来た」
「て事は俺を選んでくれたって事か!?」
「ああ」
パァッと笑顔になる空。意外過ぎて調子狂うな。でも泣かれるよりはいい。
本題はここからだけどな。
「嬉しい!俺、今は貴哉が桐原さんの事好きでも絶対忘れさせるからな!」
「……空、まだ話があるんだ」
「何だよ?他にもいるって言うのか?」
「ううん。そうじゃない。実は伊織とさ、俺……」
セックスしたんだ。
これはとても言いにくくて言葉を詰まらせてると、空は俺の手をギュッと握って来た。
「貴哉。俺は何があっても貴哉を離さねぇから」
「……空」
そこにいたのは俺が知ってる空じゃなかった。
いつもメソメソしてるようなワガママ言う男じゃなくて、とても自信に満ち溢れた笑顔の男がいた。
空は俺の知らない所で強くなってたのか……
俺はますます自分が悔しくてポロポロ涙を流して空にしがみついた。
泣き虫はどっちだよってな。
空はギュッと優しく抱き締めてくれて、泣き止むまで背中をさすってくれた。
「……なぁ空ぁ」
「ん?どうした?」
「俺と伊織にあった事、聞きてぇか?」
「そりゃ聞きてぇよ。もう覚悟は出来てる」
「んじゃ言うぞ」
「おう!」
「あ、何があっても離さねぇんだよな?」
「そ、そうだよ!貴哉は俺のだ!」
「…………」
「貴哉?」
「……したんだ。伊織と」
「え?前半聞こえなかった」
「セックス、したんだよ」
「はは、キスぐらい挨拶みたいなもんだろ?前の俺だったら……ってセックス!?今セックスって言ったのか!?」
やっぱり空は俺と伊織がキスでもしたとか軽く考えてたんだ。セックスって聞いて驚いてる。
俺をバッと離して顔を見られた。泣き止んだけど、驚く空を見たらまた涙が出そうになった。
「待て待て待てっ覚悟はしてたけど、まさかそんな大事な事を……ええー!やだ!やだよ貴哉!本当なのかよ!?」
「本当だよ。俺の事離すのか?」
「は、なさ、ねぇよっ!でもっそれは嫌だっ」
「ごめん。空、俺したんだ。伊織と最後にしようって決めたらそういう雰囲気になって……」
「ううーん……最後って事はもうしねぇって事だよな?」
「そのつもりだ」
「…………」
「…………」
しばらく無言が続いた。
空は一生懸命何かを考えてるみたいで、難しい顔をしていた。
きっとやっぱりダメってなるんだろうな。
俺が空の立場だったらムカつくし、どっちも殴ってやらなきゃ気が済まない。
いっその事、空に殴られてぇな。そしたら俺も目が覚めるかもしれねぇな。
「貴哉!」
「!」
いきなり空がこちらを見て俺の名前を呼んだ。その表情はいつもの空のように見えた。泣いたり、怒ったりしてない空。笑顔に近い、少し困ったような顔。
「結局、桐原さんに負けた俺が悪いんだ。てか今までいろんな女の子と遊んで来ちゃったツケが回って来たのかもな!女の子達には悪いけど、結構酷い事してたと思うんだ俺。今回その辛さ身をもって知ったよ」
「空、お前……」
「貴哉にもチャラ男チャラ男って言われてたもんな。反省してる。だからさ、貴哉ももう迷ったりしないでよ。俺、もっと良い男になるからさ!他の男なんか目に入らないぐらい!」
「え、許してくれるのか?」
「当たり前だろ!俺はそんなけ貴哉の事愛してんだ!うわー、本気で愛してるって言うのってすげぇ恥ずかしいのな」
「お前ってやつは……」
俺が誰かに気に入られるだけでメソメソ、ブーブー言ってた空が、とても大人になったように感じた。そんな空に俺は本気で驚いて、ときめいていた。やっぱ俺、空が好きだ。
「空めちゃくちゃかっこいいぞ♡惚れ直した♡」
「マジ?やったぁ♪もっと惚れて惚れてー♡」
笑い合う俺達はいつもの関係に戻った。
きっと空は怒りたいし泣きたいのを我慢して俺の事を考えてああ言ってくれたんじゃないかと思う。
だってあの空だぞ?じゃなきゃ何か変な物食ったぐらいしか思い付かない。
俺はまた空と笑い合える仲になれた事が嬉しくて、自然と俺から手を繋いでいた。
10
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
男だけど女性Vtuberを演じていたら現実で、メス堕ちしてしまったお話
ボッチなお地蔵さん
BL
中村るいは、今勢いがあるVTuber事務所が2期生を募集しているというツイートを見てすぐに応募をする。無事、合格して気分が上がっている最中に送られてきた自分が使うアバターのイラストを見ると女性のアバターだった。自分は男なのに…
結局、その女性アバターでVTuberを始めるのだが、女性VTuberを演じていたら現実でも影響が出始めて…!?
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
転生したらBLゲーの負け犬ライバルでしたが現代社会に疲れ果てた陰キャオタクの俺はこの際男相手でもいいからとにかくチヤホヤされたいっ!
スイセイ
BL
夜勤バイト明けに倒れ込んだベッドの上で、スマホ片手に過労死した俺こと煤ヶ谷鍮太郎は、気がつけばきらびやかな七人の騎士サマたちが居並ぶ広間で立ちすくんでいた。
どうやらここは、死ぬ直前にコラボ報酬目当てでダウンロードしたBL恋愛ソーシャルゲーム『宝石の騎士と七つの耀燈(ランプ)』の世界のようだ。俺の立ち位置はどうやら主人公に対する悪役ライバル、しかも不人気ゆえ途中でフェードアウトするキャラらしい。
だが、俺は知ってしまった。最初のチュートリアルバトルにて、イケメンに守られチヤホヤされて、優しい言葉をかけてもらえる喜びを。
こんなやさしい世界を目の前にして、前世みたいに隅っこで丸まってるだけのダンゴムシとして生きてくなんてできっこない。過去の陰縁焼き捨てて、コンプラ無視のキラキラ王子を傍らに、同じく転生者の廃課金主人公とバチバチしつつ、俺は俺だけが全力でチヤホヤされる世界を目指す!
※頭の悪いギャグ・ソシャゲあるあると・メタネタ多めです。
※逆ハー要素もありますがカップリングは固定です。
※R18は最後にあります。
※愛され→嫌われ→愛されの要素がちょっとだけ入ります。
※表紙の背景は祭屋暦様よりお借りしております。
https://www.pixiv.net/artworks/54224680
2人の男に狙われてます
おもち
BL
仕事に熱中し過ぎて妻から別れを告げられた高校教師、姫神政宗に2人の魔の手が迫るーー!
▫️沢山のお気に入りありがとうございます♡
▫️過激な表現やモロ語にご注意ください。
教師という職業が好きなので、主人公にはとんでもないことになって頂きますよろしくお願い致します(`-ω-´)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる