完璧君と怠け者君

pino

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一章

嬉しい悩み

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 壱矢side

 いつものテラス席にいつもの健康Aランチ。
 いつもと違うのは同じテーブルに美月が居る事。
 昨日から俺と美月は恋人同士になった。


「へー、壱矢っていつもここで食べてるんだぁ。それ野菜ばっかだけど美味しいの?」

「そうだ。食後は紅茶を飲みながら読書って決まっている。このランチが一番栄養バランスが良いんだ。美月は食べないのか?時間なくなるぞ」

「俺ってあんま食べないんだよね。いつもは陽平達が買っといてくれるんだけど、今日は屋上行かないから無しかな」

「何だと?それは見過ごせないな。待ってろ、今調達して来てやる」

「どこ行くの?」

「同じAランチを買ってくるんだ」


 俺は朝昼晩三食きっちり食べている。だから食べないと言う行為が理解できなかった。
 とにかく美月に何か食べさせなくてはと俺は再び発券機に並んだ。
 
 すると後をついて来た美月に腕を引かれた。


「壱矢、俺そこの自販でジュース買って飲むからいいよ」

「だがキチンと食べないと栄養偏るぞ」

「野菜ジュース買ってくる~」


 呑気に言って歩いて行ってしまった。せめて焼きおにぎりを買っておこう。

 焼きおにぎりを手に入れてテラス席に戻ると、本当に野菜ジュースを飲みながら美月が待っていた。
 俺に気付いて嬉しそうに笑うその顔を見て何だか胸がくすぐったくなった。
 
 な、なんだこの感情は……


「あー、遅いと思ったらやっぱり何か買ってるー」

「せめて米は食べろ。それだからそんなに痩せているんだ」

「壱矢はデブの方が好き?」

「いや、それはそれで栄養バランスがなってないだろう。筋肉も脂質も必要だが、何事もバランスが大切だ」

「んー、良く分かんないからこのままでいいや~」


 俺が渡した焼きおにぎりを頬張りながら笑う。
 子供みたいに足をバタバタさせて中庭をキョロキョロして見ている美月。
 こいつ、こんなに可愛かったか?
 
 いや、顔は整っている。と言うか美人だと思う。
 少々痩せ過ぎているが、スタイルも悪く無い。
 だが美月の事を可愛いなんて思うなんてやっぱり俺はどうかしてしまったのか。


「おーい壱矢~?食べねーの?読書すんだろー」

「あ、ああ」


 美月といると調子が狂うのは元々だがここまで俺を狂わせているのに怒りが湧かないのが不思議だ。
 
 元々俺が美月の事を好きと認めて付き合おうと決めた理由は、未知の世界だったからだ。
 
 何事も出来ないと言う事が許せない俺は今まで機会の無かった恋愛もマスターしようと心に決めた。
 そうして相手に選んだのが黒田美月だ。
 普通に考えたら選ばない相手ではあるが、美月は頭が良い。運動神経も悪く無い。むしろやる気が無いだけで良い方だと思っている。
 俺は優秀な人間にしか興味がないのだが美月は見事にクリアしているのだ。

 最も生活態度は下のままだがな。


「あのさー、デートしたいんだけど、壱矢っていつ暇?」

「デートだと?」


 来た!恋人ならして当たり前ランキング上位に食い込むデート!
 恋愛をマスターする為に俺はちゃんと予習はした。勿論実践など出来ないから本やネットで調べた限りだが。

 だから少しは頭に入っている。
 デート。レベルで言ったら初級程度。
 こんなの俺にかかれば容易い事だ。


「放課後は塾なんだろ?土日は?」

「安心しろ。塾はしばらく休む事にした。なんなら今日の放課後デートするか?」

「えー!いいのー!?てか塾休んで大丈夫なの?」

「問題ない。そもそも塾や自主勉強は暇つぶし程度だ。他にやる事が出来たら全力でそちらに取り掛かることにしているんだ。今はテニスと美月だな」

「え、俺?」

「何だ、不満か?」

「ううん!意外だったから……ありがとう♡壱矢♡」


 よし!成功だ!これも勉強したんだ!
 恋人と上手く行く秘訣は優しさと思いやりが大切だとネットに腐るほど書いてあった。
 だから俺は美月の考えを先読みしてこうしたら喜ぶのではないかと色々考えていたんだ。


「へへ♡壱矢だぁいすき♡」

「!!!!」


 だ、ダメだ!声も出ない程に可愛い過ぎるぞ美月!もしかして俺は病気になってしまったのか?
 くそう、胸のドキドキよ収まれ!


「大丈夫か?壱矢」

「大丈夫だ。頼むからそれ以上笑わないでくれないか?」

「どうして?何で笑っちゃいけないの?」

「俺が酷い事になるからだ」

「はぁ?また分かんない事言ってるよ。じゃあ泣けばいいのー?」

「それもダメだ。男が無駄に泣くものじゃない」

「じゃあ無表情?」

「あ、それは美月らしいな」


 元々美月は喜怒哀楽が無かった。教室に居ても何を考えているのか分からないようなボーッとした表情をしていたな。

 でも、美月らしいが、やはり表情があった方がいいのでは?人間らしいし、どちらが本当の美月なのかは分からないが、どちらも俺の知る美月なのだからな。


「壱矢がそれがいいって言うならするけど」

「いや、今のままで構わない。俺が間違っていた。悪かった」

「変なのー」


 本当に俺はおかしくなってしまったようだ。
 美月の事でこんなに悩まされるなんてな。
 前も悩んではいたが、ハゲそうになるぐらいの苦悩だった。それが今は、そうだな楽しい悩みだ。

 誰かと食事をしてこんなにも話したのは初めてに近いだろう。こういうのも悪くないな。

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