15 / 18
一章
嬉しい悩み
しおりを挟む壱矢side
いつものテラス席にいつもの健康Aランチ。
いつもと違うのは同じテーブルに美月が居る事。
昨日から俺と美月は恋人同士になった。
「へー、壱矢っていつもここで食べてるんだぁ。それ野菜ばっかだけど美味しいの?」
「そうだ。食後は紅茶を飲みながら読書って決まっている。このランチが一番栄養バランスが良いんだ。美月は食べないのか?時間なくなるぞ」
「俺ってあんま食べないんだよね。いつもは陽平達が買っといてくれるんだけど、今日は屋上行かないから無しかな」
「何だと?それは見過ごせないな。待ってろ、今調達して来てやる」
「どこ行くの?」
「同じAランチを買ってくるんだ」
俺は朝昼晩三食きっちり食べている。だから食べないと言う行為が理解できなかった。
とにかく美月に何か食べさせなくてはと俺は再び発券機に並んだ。
すると後をついて来た美月に腕を引かれた。
「壱矢、俺そこの自販でジュース買って飲むからいいよ」
「だがキチンと食べないと栄養偏るぞ」
「野菜ジュース買ってくる~」
呑気に言って歩いて行ってしまった。せめて焼きおにぎりを買っておこう。
焼きおにぎりを手に入れてテラス席に戻ると、本当に野菜ジュースを飲みながら美月が待っていた。
俺に気付いて嬉しそうに笑うその顔を見て何だか胸がくすぐったくなった。
な、なんだこの感情は……
「あー、遅いと思ったらやっぱり何か買ってるー」
「せめて米は食べろ。それだからそんなに痩せているんだ」
「壱矢はデブの方が好き?」
「いや、それはそれで栄養バランスがなってないだろう。筋肉も脂質も必要だが、何事もバランスが大切だ」
「んー、良く分かんないからこのままでいいや~」
俺が渡した焼きおにぎりを頬張りながら笑う。
子供みたいに足をバタバタさせて中庭をキョロキョロして見ている美月。
こいつ、こんなに可愛かったか?
いや、顔は整っている。と言うか美人だと思う。
少々痩せ過ぎているが、スタイルも悪く無い。
だが美月の事を可愛いなんて思うなんてやっぱり俺はどうかしてしまったのか。
「おーい壱矢~?食べねーの?読書すんだろー」
「あ、ああ」
美月といると調子が狂うのは元々だがここまで俺を狂わせているのに怒りが湧かないのが不思議だ。
元々俺が美月の事を好きと認めて付き合おうと決めた理由は、未知の世界だったからだ。
何事も出来ないと言う事が許せない俺は今まで機会の無かった恋愛もマスターしようと心に決めた。
そうして相手に選んだのが黒田美月だ。
普通に考えたら選ばない相手ではあるが、美月は頭が良い。運動神経も悪く無い。むしろやる気が無いだけで良い方だと思っている。
俺は優秀な人間にしか興味がないのだが美月は見事にクリアしているのだ。
最も生活態度は下のままだがな。
「あのさー、デートしたいんだけど、壱矢っていつ暇?」
「デートだと?」
来た!恋人ならして当たり前ランキング上位に食い込むデート!
恋愛をマスターする為に俺はちゃんと予習はした。勿論実践など出来ないから本やネットで調べた限りだが。
だから少しは頭に入っている。
デート。レベルで言ったら初級程度。
こんなの俺にかかれば容易い事だ。
「放課後は塾なんだろ?土日は?」
「安心しろ。塾はしばらく休む事にした。なんなら今日の放課後デートするか?」
「えー!いいのー!?てか塾休んで大丈夫なの?」
「問題ない。そもそも塾や自主勉強は暇つぶし程度だ。他にやる事が出来たら全力でそちらに取り掛かることにしているんだ。今はテニスと美月だな」
「え、俺?」
「何だ、不満か?」
「ううん!意外だったから……ありがとう♡壱矢♡」
よし!成功だ!これも勉強したんだ!
恋人と上手く行く秘訣は優しさと思いやりが大切だとネットに腐るほど書いてあった。
だから俺は美月の考えを先読みしてこうしたら喜ぶのではないかと色々考えていたんだ。
「へへ♡壱矢だぁいすき♡」
「!!!!」
だ、ダメだ!声も出ない程に可愛い過ぎるぞ美月!もしかして俺は病気になってしまったのか?
くそう、胸のドキドキよ収まれ!
「大丈夫か?壱矢」
「大丈夫だ。頼むからそれ以上笑わないでくれないか?」
「どうして?何で笑っちゃいけないの?」
「俺が酷い事になるからだ」
「はぁ?また分かんない事言ってるよ。じゃあ泣けばいいのー?」
「それもダメだ。男が無駄に泣くものじゃない」
「じゃあ無表情?」
「あ、それは美月らしいな」
元々美月は喜怒哀楽が無かった。教室に居ても何を考えているのか分からないようなボーッとした表情をしていたな。
でも、美月らしいが、やはり表情があった方がいいのでは?人間らしいし、どちらが本当の美月なのかは分からないが、どちらも俺の知る美月なのだからな。
「壱矢がそれがいいって言うならするけど」
「いや、今のままで構わない。俺が間違っていた。悪かった」
「変なのー」
本当に俺はおかしくなってしまったようだ。
美月の事でこんなに悩まされるなんてな。
前も悩んではいたが、ハゲそうになるぐらいの苦悩だった。それが今は、そうだな楽しい悩みだ。
誰かと食事をしてこんなにも話したのは初めてに近いだろう。こういうのも悪くないな。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
【完結】どいつもこいつもかかって来やがれ
pino
BL
恋愛経験0の秋山貴哉は、口悪し頭悪しのヤンキーだ。でも幸いにも顔は良く、天然な性格がウケて無自覚に人を魅了していた。そんな普通の男子校に通う貴哉は朝起きるのが苦手でいつも寝坊をして遅刻をしていた。
夏休みを目の前にしたある日、担任から「今学期、あと1日でも遅刻、欠席したら出席日数不足で強制退学だ」と宣告される。
それはまずいと貴哉は周りの協力を得ながら何とか退学を免れようと奮闘するが、友達だと思っていた相手に好きだと告白されて……?
その他にも面倒な事が貴哉を待っている!
ドタバタ青春ラブコメディ。
チャラ男×ヤンキーorヤンキー×チャラ男
表紙は主人公の秋山貴哉です。
BLです。
貴哉視点でのお話です。
※印は貴哉以外の視点になります。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
どいつもこいつもかかって来やがれ 5thのその後
pino
BL
どいつもこいつもかかって来やがれ5th seasonのその後の話です。
秋山貴哉は口悪し頭悪しのヤンキーだ。無事文化祭をやり遂げたけど、実はまだやり残した事があった。
二年でフェミニンな男、小平七海との約束を果たす為に遊ぶ約束をするが、やはりここでも貴哉は遅刻をする事に。寝坊しながらも約束通りに七海と会うが、途中で貴哉の親友で真面目な性格の二之宮茜と、貴哉の元彼であり元チャラ男の早川空も合流する事になって異色のメンバーが揃う。
他にも貴哉の彼氏?桐原伊織の話や元チャラ男の早川空の話もあります。
5thの新キャラ、石原類、浅野双葉も登場!
BLです。
今回の表紙は褐色肌キャラの浅野双葉くんです。
こちらは5th seasonのその後となっております。
前作の続きとなっておりますので、より楽しみたい方は、完結している『どいつもこいつもかかって来やがれ』から『どいつもこいつもかかって来やがれ5th season』までを先にお読み下さい。
貴哉視点の話です。
※印がついている話は貴哉以外の視点での話になってます。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる