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出会い
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それは私が社交界デビューとなる王城のパーティーで、幼い容姿をからかわれ、落ち込んで会場を抜け出し、一人で庭園のベンチに腰掛けていた時のことだった。
◆
「君、どうしたんだ?」
泣くまいと必死で気を張っていた私は、突然声をかけられてビクッと体を強張らせた。また誰かが私をからかいに来たのかもしれないと思ったのだ。
思わずキッと睨むように声の主を見上げると、そこには驚いたような顔でこちらを見る大柄な男性がいた。
彼は有名人だったので、私はすぐに、彼が誰なのかわかった。
ゼンフィス公爵家の三男、カイン・ゼンフィス様。
近衛騎士団に所属しており、その強さから異例の若さで王太子の側近に抜擢されたという剣技の申し子、らしい。鍛え抜かれたたくましい体つきは、服の上からでもよくわかった。
私と違ってすごく背が高い彼はそれだけで目を引くが、同時に高貴なオーラというか、少し近寄りがたい雰囲気もあるので、遠巻きに騒がれていたのを覚えている。
「申し訳ございません。また誰かがわたくしに余計なお節介を焼きに来たのかと思って、失礼な態度を取ってしまいました。お許しくださいませ」
私が謝罪すると、呆気にとられていたらしい彼が、慌てたように手を振った。
「いや、いいんだ。こちらこそ、急に声をかけてすまない。今日がデビュタントだろう令嬢がこんなところに一人でいるものだから、何かあったのかと思って」
そう言って彼は、私の白いドレスに視線をやった。
今日のパーティで白を基調としたドレスを着ているのは、デビュタントを迎えた令嬢だけだ。ドレスを見れば、私がそうだとすぐにわかるだろう。
私は、ここに来るまでは似合っていると感じていた自分の衣装を、情けない気持ちで見つめた。
この白いドレスは、社交界の仲間入りを果たしたという証明でもある。けれど、同じく白いドレスを着た同い年の令嬢たちに比べて、私は一回りほど体が小さく、幼く見える。先ほど、同い年の令嬢たちからそれをからかわれてしまったのである。
「まぁ、フォルティス嬢はお小さくて、大変可愛らしいですわね。けれどデビュタントは、一年か二年、遅らせた方がよかったのではありませんか?」
「わたくしたちと同じ十四歳には、とても見えませんものね」
「まぁ、そんな言い方をしては気の毒ですわ。フォルティス嬢の成長期は、きっとまだこれからなのですから」
くすくすと笑いながら蔑みの視線を向けられて、私は初めて、自分がこの場所でどれだけ浮いていたのかを自覚した。
確かに周囲の令嬢たちはみんな私よりも背が高く、体型もかなり女性らしくなっている。私は自分のささやかな胸元に手をやると、恥ずかしさに顔が熱くなるのを感じた。
私は世間知らずだったのだ。
他の人より小さく生まれ、病弱だった私は、体の成長も遅かった。けれど、だからこそ過保護になった家族に囲まれて、愛情をもって育ててもらったので、こんな悪意にさらされることなど今までなかった。
いつも、可愛い可愛いと言ってくれる両親や使用人たちの言葉を真に受けて、親しくない人たちから、本当は自分がどのように思われる外見であるかなんて気にもせず、のんきにデビュタントを迎えてしまった。
そんな自分の愚かさにようやく気がついて、余計に恥ずかしくなってしまい、私は思わずその場から逃げ出した。
「お気遣い、ありがとうございます。おっしゃる通り、今日はわたくしのデビュタントだったのですけれど……わたくしには、社交界はまだ早かったのかもしれません。わたくしは外見だけでなく、考えまで幼かったのだということに、先ほどようやく気づいたのですから」
そう言って苦笑すると、カイン様は少し驚いたように目を見張った。
「もしかして、誰かにそう言われたのか? 確かに君は小さいから少し幼く見えるかもしれないが、これから成長期を迎えるのは他の令嬢たちも同じだろう。それに、そんなふうに自分を客観的に見て問題点を見つめ直せるのは、立派なことだと思う」
「……っ!?」
真顔でそんなことを言われて、私は思わず言葉に詰まりながら、目を見開いて彼を見つめた。彼の雰囲気は真剣そのもので、ただ慰めるためだとか、その場限りの嘘などではなく、真実そう思っていることが伝わってくる。
家族以外の人に立派だと言ってもらえたことで、張り詰めていた気持ちが緩んでいくのを感じた。涙腺まで緩みそうになったが、グッと堪えて微笑んだ。
「ありがとうございます。あなたのおかげで、元気が出てきました」
「……それはよかった。よければ、君のパートナーがいるところまでエスコートしよう」
困っている人を放っておけない質なのか、そう言って彼は私に手を差しのべた。その手の大きさに、思わず目を奪われる。
……なんて大きな手。お父様やお兄様よりもずっと大きいわ。
少し緊張しながら、そっと彼の手を取って立ち上がる。少しゴツゴツした大きな手は、文官である父や兄と違ってとても固くて、なんだかドキドキしてしまった。
けれど、座っていた時にはあまりわからなかった彼との身長差が、並んで歩くとはっきりとわかってしまい、私は少し落ち込んだ。
……私の身長、彼のお腹くらいまでしかないわ。早く、もっと大きくなりたいな。
その後、私の姿が見えなくなって心配していた兄と合流できるまで、彼は私に付き添ってくれたのだった。
◆
「君、どうしたんだ?」
泣くまいと必死で気を張っていた私は、突然声をかけられてビクッと体を強張らせた。また誰かが私をからかいに来たのかもしれないと思ったのだ。
思わずキッと睨むように声の主を見上げると、そこには驚いたような顔でこちらを見る大柄な男性がいた。
彼は有名人だったので、私はすぐに、彼が誰なのかわかった。
ゼンフィス公爵家の三男、カイン・ゼンフィス様。
近衛騎士団に所属しており、その強さから異例の若さで王太子の側近に抜擢されたという剣技の申し子、らしい。鍛え抜かれたたくましい体つきは、服の上からでもよくわかった。
私と違ってすごく背が高い彼はそれだけで目を引くが、同時に高貴なオーラというか、少し近寄りがたい雰囲気もあるので、遠巻きに騒がれていたのを覚えている。
「申し訳ございません。また誰かがわたくしに余計なお節介を焼きに来たのかと思って、失礼な態度を取ってしまいました。お許しくださいませ」
私が謝罪すると、呆気にとられていたらしい彼が、慌てたように手を振った。
「いや、いいんだ。こちらこそ、急に声をかけてすまない。今日がデビュタントだろう令嬢がこんなところに一人でいるものだから、何かあったのかと思って」
そう言って彼は、私の白いドレスに視線をやった。
今日のパーティで白を基調としたドレスを着ているのは、デビュタントを迎えた令嬢だけだ。ドレスを見れば、私がそうだとすぐにわかるだろう。
私は、ここに来るまでは似合っていると感じていた自分の衣装を、情けない気持ちで見つめた。
この白いドレスは、社交界の仲間入りを果たしたという証明でもある。けれど、同じく白いドレスを着た同い年の令嬢たちに比べて、私は一回りほど体が小さく、幼く見える。先ほど、同い年の令嬢たちからそれをからかわれてしまったのである。
「まぁ、フォルティス嬢はお小さくて、大変可愛らしいですわね。けれどデビュタントは、一年か二年、遅らせた方がよかったのではありませんか?」
「わたくしたちと同じ十四歳には、とても見えませんものね」
「まぁ、そんな言い方をしては気の毒ですわ。フォルティス嬢の成長期は、きっとまだこれからなのですから」
くすくすと笑いながら蔑みの視線を向けられて、私は初めて、自分がこの場所でどれだけ浮いていたのかを自覚した。
確かに周囲の令嬢たちはみんな私よりも背が高く、体型もかなり女性らしくなっている。私は自分のささやかな胸元に手をやると、恥ずかしさに顔が熱くなるのを感じた。
私は世間知らずだったのだ。
他の人より小さく生まれ、病弱だった私は、体の成長も遅かった。けれど、だからこそ過保護になった家族に囲まれて、愛情をもって育ててもらったので、こんな悪意にさらされることなど今までなかった。
いつも、可愛い可愛いと言ってくれる両親や使用人たちの言葉を真に受けて、親しくない人たちから、本当は自分がどのように思われる外見であるかなんて気にもせず、のんきにデビュタントを迎えてしまった。
そんな自分の愚かさにようやく気がついて、余計に恥ずかしくなってしまい、私は思わずその場から逃げ出した。
「お気遣い、ありがとうございます。おっしゃる通り、今日はわたくしのデビュタントだったのですけれど……わたくしには、社交界はまだ早かったのかもしれません。わたくしは外見だけでなく、考えまで幼かったのだということに、先ほどようやく気づいたのですから」
そう言って苦笑すると、カイン様は少し驚いたように目を見張った。
「もしかして、誰かにそう言われたのか? 確かに君は小さいから少し幼く見えるかもしれないが、これから成長期を迎えるのは他の令嬢たちも同じだろう。それに、そんなふうに自分を客観的に見て問題点を見つめ直せるのは、立派なことだと思う」
「……っ!?」
真顔でそんなことを言われて、私は思わず言葉に詰まりながら、目を見開いて彼を見つめた。彼の雰囲気は真剣そのもので、ただ慰めるためだとか、その場限りの嘘などではなく、真実そう思っていることが伝わってくる。
家族以外の人に立派だと言ってもらえたことで、張り詰めていた気持ちが緩んでいくのを感じた。涙腺まで緩みそうになったが、グッと堪えて微笑んだ。
「ありがとうございます。あなたのおかげで、元気が出てきました」
「……それはよかった。よければ、君のパートナーがいるところまでエスコートしよう」
困っている人を放っておけない質なのか、そう言って彼は私に手を差しのべた。その手の大きさに、思わず目を奪われる。
……なんて大きな手。お父様やお兄様よりもずっと大きいわ。
少し緊張しながら、そっと彼の手を取って立ち上がる。少しゴツゴツした大きな手は、文官である父や兄と違ってとても固くて、なんだかドキドキしてしまった。
けれど、座っていた時にはあまりわからなかった彼との身長差が、並んで歩くとはっきりとわかってしまい、私は少し落ち込んだ。
……私の身長、彼のお腹くらいまでしかないわ。早く、もっと大きくなりたいな。
その後、私の姿が見えなくなって心配していた兄と合流できるまで、彼は私に付き添ってくれたのだった。
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