13 / 18
誘ってみる
しおりを挟む
ガタゴトと、馬車が進む音だけが一瞬場を支配した。
つい、私がいつもより低い不機嫌な声で尋ねてしまったせいだろう。
ヒロインとは、私やベルダ様が登場する物語の主人公であり、そして最近までベルダ様が親しくしていた女性である。本人は元々それほど親しくはなかったと言っていたけれど、噂がたつ程度には親しくしていた相手なのだ。
前世の記憶を思い出してからはもう関わることはないと言っていたのに、まさか精霊の加護がもらえるからと、再び彼女に接触するつもりだろうか。
「いや、違うよ? ゲームでは確かにヒロインと精霊祭でデートしてた時に起こったイベントだったけど、そのために彼女をデートに誘うなんてことしないから。誤解しないでね!?」
「……そうなのですか?」
「本当だって! 絶対にありえないから!」
「……」
私がつい疑いの眼差しで彼を見つめると、彼は顔を青くしてブンブンと首を横に振った。
「……わかりました。では、精霊祭には行かないのですね?」
「えっ、いやそれは……」
「行くんですか?」
「う……だって、精霊の加護をもらえる機会なんてそうそうないし、一人でも行ってみる価値はあるというか……」
「……」
確かに、精霊の加護をもらえるとわかっている機会があるのなら、それを逃す人はいないだろう。
でも、ヒロインと一緒に行くはずだった精霊祭へ、彼女と行けないなら一人で行くと言うベルダ様に、なぜか少し苛立ちを覚える。
「私と行こうとは思ってくださらないのですか?」
「……え?」
言ってから、自分は何を言っているのだろう、と恥ずかしくなってきた。私は膝の上でギュッと手のひらを握りしめる。
「そ、その物語の中では、二人で精霊祭に行った時に、加護を得られるような事件が起こったのですよね? それなら、あまり筋書きを変えない方がいいのではないかと思ったのです」
「え、待ってルナリア、ルナリアが一緒に来てくれるってこと? え? やばい、怪我の功名とはこのことか!」
私の言い訳じみた言葉はほとんど聞こえていない様子で、ベルダ様がはしゃぎ始めた。
「でも、ルナリアはいつも忙しいからこういう遊びのような行事に参加することなんてなかったのに、本当にいいの?」
精霊祭は、自然の恵みを豊かにしてくれている精霊たちへ感謝を捧げるという名目で、平民たちが企画・運営している民間行事だ。
普段はないような出店がたくさん並び、有志による演劇まで行われる、とても活気溢れるお祭りである。
貴族も参加しないわけではないが、その日はみんなお忍びの平民服で出向き、権力を振りかざすことはしない、というのが暗黙のルールとなっている。
そのため貴族の社交とは無縁の、完全なる娯楽行事なのだ。
「……私も、少し反省したのです。婚約者という立場に甘えて、ベルダ様を追い詰めてしまうほど共にいる時間をほとんど持てなかったのは、私の落ち度でした。ごめんなさい……。でも、あなたと一緒にいたくないわけではないのです。それに、今まで真面目に勉強に取り組んできたのですから、一日くらい休んでもきっと大丈夫ですわ」
「えっ、いや、ルナリアが謝ることなんてないけど……っていうか、本当に一緒に行ってくれるんだ? うわー! やった! やっぱりルナリアは最高だよ! ありがとう、楽しみすぎる!!」
ベルダ様が大きな声を出して喜ぶので、私は一瞬ビクッとしてしまったが、彼があまりに嬉しそうなので、怒るのは止めにしておいた。
全然可愛くなんてない誘い方だったのに、ベルダ様はこんなにも喜んでくれるのだと思うと、少しくらい騒がしくてもいいとさえ思った。
しかし、思わずクスリと笑みがこぼれたのをベルダ様に見られてしまい、彼がまた興奮して騒ぎ出したので、やっぱりあまり騒がしすぎるのも困ってしまうかもしれない、と思い直したのだった。
つい、私がいつもより低い不機嫌な声で尋ねてしまったせいだろう。
ヒロインとは、私やベルダ様が登場する物語の主人公であり、そして最近までベルダ様が親しくしていた女性である。本人は元々それほど親しくはなかったと言っていたけれど、噂がたつ程度には親しくしていた相手なのだ。
前世の記憶を思い出してからはもう関わることはないと言っていたのに、まさか精霊の加護がもらえるからと、再び彼女に接触するつもりだろうか。
「いや、違うよ? ゲームでは確かにヒロインと精霊祭でデートしてた時に起こったイベントだったけど、そのために彼女をデートに誘うなんてことしないから。誤解しないでね!?」
「……そうなのですか?」
「本当だって! 絶対にありえないから!」
「……」
私がつい疑いの眼差しで彼を見つめると、彼は顔を青くしてブンブンと首を横に振った。
「……わかりました。では、精霊祭には行かないのですね?」
「えっ、いやそれは……」
「行くんですか?」
「う……だって、精霊の加護をもらえる機会なんてそうそうないし、一人でも行ってみる価値はあるというか……」
「……」
確かに、精霊の加護をもらえるとわかっている機会があるのなら、それを逃す人はいないだろう。
でも、ヒロインと一緒に行くはずだった精霊祭へ、彼女と行けないなら一人で行くと言うベルダ様に、なぜか少し苛立ちを覚える。
「私と行こうとは思ってくださらないのですか?」
「……え?」
言ってから、自分は何を言っているのだろう、と恥ずかしくなってきた。私は膝の上でギュッと手のひらを握りしめる。
「そ、その物語の中では、二人で精霊祭に行った時に、加護を得られるような事件が起こったのですよね? それなら、あまり筋書きを変えない方がいいのではないかと思ったのです」
「え、待ってルナリア、ルナリアが一緒に来てくれるってこと? え? やばい、怪我の功名とはこのことか!」
私の言い訳じみた言葉はほとんど聞こえていない様子で、ベルダ様がはしゃぎ始めた。
「でも、ルナリアはいつも忙しいからこういう遊びのような行事に参加することなんてなかったのに、本当にいいの?」
精霊祭は、自然の恵みを豊かにしてくれている精霊たちへ感謝を捧げるという名目で、平民たちが企画・運営している民間行事だ。
普段はないような出店がたくさん並び、有志による演劇まで行われる、とても活気溢れるお祭りである。
貴族も参加しないわけではないが、その日はみんなお忍びの平民服で出向き、権力を振りかざすことはしない、というのが暗黙のルールとなっている。
そのため貴族の社交とは無縁の、完全なる娯楽行事なのだ。
「……私も、少し反省したのです。婚約者という立場に甘えて、ベルダ様を追い詰めてしまうほど共にいる時間をほとんど持てなかったのは、私の落ち度でした。ごめんなさい……。でも、あなたと一緒にいたくないわけではないのです。それに、今まで真面目に勉強に取り組んできたのですから、一日くらい休んでもきっと大丈夫ですわ」
「えっ、いや、ルナリアが謝ることなんてないけど……っていうか、本当に一緒に行ってくれるんだ? うわー! やった! やっぱりルナリアは最高だよ! ありがとう、楽しみすぎる!!」
ベルダ様が大きな声を出して喜ぶので、私は一瞬ビクッとしてしまったが、彼があまりに嬉しそうなので、怒るのは止めにしておいた。
全然可愛くなんてない誘い方だったのに、ベルダ様はこんなにも喜んでくれるのだと思うと、少しくらい騒がしくてもいいとさえ思った。
しかし、思わずクスリと笑みがこぼれたのをベルダ様に見られてしまい、彼がまた興奮して騒ぎ出したので、やっぱりあまり騒がしすぎるのも困ってしまうかもしれない、と思い直したのだった。
1
お気に入りに追加
103
あなたにおすすめの小説
夜会の夜の赤い夢
豆狸
恋愛
……どうして? どうしてフリオ様はそこまで私を疎んでいるの? バスキス伯爵家の財産以外、私にはなにひとつ価値がないというの?
涙を堪えて立ち去ろうとした私の体は、だれかにぶつかって止まった。そこには、燃える炎のような赤い髪の──
攻略対象の王子様は放置されました
白生荼汰
恋愛
……前回と違う。
お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。
今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。
小説家になろうにも投稿してます。
【完結】冷酷な悪役令嬢の婚約破棄は終わらない
アイアイ
恋愛
華やかな舞踏会の喧騒が響く宮殿の大広間。その一角で、美しいドレスに身を包んだ少女が、冷ややかな笑みを浮かべていた。名はアリシア・ルミエール。彼女はこの国の公爵家の令嬢であり、社交界でも一際目立つ存在だった。
「また貴方ですか、アリシア様」
彼女の前に現れたのは、今宵の主役である王子、レオンハルト・アルベール。彼の瞳には、警戒の色が浮かんでいた。
「何かご用でしょうか?」
アリシアは優雅に頭を下げながらも、心の中で嘲笑っていた。自分が悪役令嬢としてこの場にいる理由は、まさにここから始まるのだ。
「レオンハルト王子、今夜は私とのダンスをお断りになるつもりですか?」
当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!
朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」
伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。
ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。
「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」
推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい!
特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした!
※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。
サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )
それは報われない恋のはずだった
ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう?
私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。
それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。
忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。
「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」
主人公 カミラ・フォーテール
異母妹 リリア・フォーテール
リアンの白い雪
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
その日の朝、リアンは婚約者のフィンリーと言い合いをした。
いつもの日常の、些細な出来事。
仲直りしていつもの二人に戻れるはずだった。
だがその後、二人の関係は一変してしまう。
辺境の地の砦に立ち魔物の棲む森を見張り、魔物から人を守る兵士リアン。
記憶を失くし一人でいたところをリアンに助けられたフィンリー。
二人の未来は?
※全15話
※本作は私の頭のストレッチ第二弾のため感想欄は開けておりません。
(全話投稿完了後、開ける予定です)
※1/29 完結しました。
感想欄を開けさせていただきます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、
いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきます。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる