10 / 18
広がる魔術
しおりを挟む「よかったああああっ、ルト、生きてたぁ……」
私はぐすぐす泣きながらルトにしがみついた。
ルトと同じ戦地に派遣されていた、周囲にいる兵士たちが唖然としてこちらを見ているけど全く気にしていられない。
「あ、アイリス、どうしてここに?」
ルトは驚きながらも、しゃくりあげる私の背中をぎこちない手つきで撫でてくれている。
「……シスイがね、私に加護を与えてくれたの。悪魔族とかが使うような魔術を使えるようにしてくれて、国王や大臣たちを脅して戦争を止めさせたの」
「………………」
背中を撫でてくれていたルトの手がピタリと止まった。
「ルト?」
「……なにやってんの、アイリス……」
ルトは少し青ざめたような顔で、盛大にため息を吐いた。
「だって、ルトが死んじゃうなんて絶対に嫌だったから! そしたらシスイが戦争を終わらせればルトは帰ってくるって、魔術を教えてくれたから……」
そのルトは今目の前にいて少し呆れた顔をして私を見ている。ルトが生きてて本当によかった。
「……その魔術って、もしかしてさっきすごい早さでここまで走ってきたやつ? 見間違いじゃなかったんだ……」
ルトは直前に起こった出来事を思い出すように少し遠い目をして言った。
そう、私は魔術で超高速移動をしてルトを送ったと聞いた戦地までやってきたのだ。
「すごいでしょ? 他にも色々できるよ! 水や火や雷を出したり、植物を育てたり鉱石を作ったり」
「……それが本当ならすごい力だね。でも、その力を見せつけて国王に終戦を迫ったなら、何か交換条件があったんじゃないの? 今は言われていなくても、きっとこの先アイリスはその力を利用しようとする人たちに狙われることになるよ」
私の肩を掴んで目を合わせ、ルトが心底心配そうに私を見つめる。
「大丈夫、基本的に武力行使だったから! それに、交換条件は提示したけど、その交換条件は疲弊したこの国の復興にも繋がることなんだよ」
私はシスイがくれた闇の魔石がついた腕輪から、シスイの魔力が籠った石の器と透明で小さな玉を取り出した。この魔石は魔力の籠ったものなら私の任意でしまったり取り出したりできるらしい。ものすごく便利。
……それに、初めてシスイからアクセサリーをもらっちゃったよ!
実用性重視というか、渡す必要があったからだけどね!
もらったのは確かだもん!
石の器に玉を入れると、ブワッと水が出てきて、石の器にすぐさまなみなみと満たされた。
「…………」
ルトはただ呆然とその様子を見ていた。すごく驚いているようだ。
私はさらに銀の杯を取り出した。因みにこれにも魔力は籠っているけれど、飲む容器は何でもいいらしい。
私はその杯に水を汲んだ。
「はい、ルト。これ飲んでみて」
「……なんで?」
ルトはとても怪しいものを見る目でこちらを見ている。
……失礼だなー。
「これを飲めばもしかしたらルトも魔術が使えるようになるかもしれないの。その人が持ってる魔力が解放されるんだって。魔力量は個人差があるから、これを飲んでも魔術が使えない人もいるらしいけど」
「……へえ?」
ルトが恐る恐る杯に口を付けて水を飲み干すと、カッと眩しい光がルトから溢れ出した。
「!?」
「わっ」
その光はすぐにルトの中へと収まったけれど、結構強い光だった。
「ルトにも魔力はたくさんあったみたいだね!」
「こんなに光るかもしれないならそうと言っておいてよ、アイリス!」
驚いた心を落ち着けるように胸に手を当てながら、ルトが恨めしげに私を見た。
ごめんごめん、忘れてた。
次からは飲む人にちゃんと注意をしないとね。
それから城に帰ってきた私は、ぎゃーぎゃーうるさい国王とその臣下たちにもシスイの魔力が籠った水(みんなはそれを『聖水』と呼び出した)を与えた。
国王は聖水を飲んでも全く体が光らなかった。
「余には魔力がないというのか!? 余は国王だぞ! 貴様は魔術を使える力を与えると言ったというのに、話が違う!」
「そう言われましても」
なぜ自分には魔力がないのかと国王はいつまでも喚いていたけど、私の関知するところではない。全員ではないとあらかじめ言っておいたのに一体何を言っているのか。
宰相さんはまあまあ光った。感動したように震えながら私を見て感謝してきたけれど、感謝はシスイにしてあげてください。
他にもちらほらと光った人たちはいたけれど、十人に一人というところ。
国の重役になるような人たちなら強い魂、つまり魔力を持っている可能性が高いらしく、一般人ならばもっと確率は落ちるようだ。
けれど、国民全員に聖水を飲ませればかなりの人数が魔術を使えるようになるはずだし、是非その魔力を使って土地を豊かにしてもらいたいと思う。
シスイに注意されていたので、魔力を解放させるのは十歳からというのも徹底するようお願いした。精神が未熟な内は魔力が暴走しやすいんだって。
もうひとつシスイに教えられていたのは、加護がない人間は魔術を使う時に事前に精霊へ呼びかける言葉が必要であるということ。
精霊は気まぐれで、知らない人間がいきなり精霊語でただお願いしたところで興味を持たない。だから事前に『魔力をあげるからお願いを聞いてください』という呼び掛けが必要とのこと。私が大臣たちが考えた呼び掛けの言葉を精霊語に訳してあげました。
それがこれ。
《精霊たちよ》
《力をお貸しください》
《我が魔力を対価に》
《理外の力を齎し給え》
……大臣たちの精霊信仰が強くなってて、無駄に長い言葉になってしまったけどまあいいか。
本人たちが言いたいなら丁寧に呼び掛けてあげるといいよ。魔術を使う前にいちいちこれを言うのはかなり面倒だと思うけど。
聖水はとりあえず城に置くことにした。
そのうち精霊殿というものを建てて、聖水はそこに置くことにするらしい。
聖水を国民に与えて魔力を解放し、魔術を広げていく仕事は大臣たちに丸投げです!
元々私はただの平民ですからね。使者として、魔力解放のやり方や役に立ちそうな呪文はいくつか教えたんだし、あとは国のやることだよね。
そのうち魔力を望む国民の間で「聖水を飲む前に精霊王に祈れば魔力を得られる確率が上がるらしい」という噂が流れ、それが定着していくのはアイリスの知らない出来事なのであった。
0
お気に入りに追加
144
あなたにおすすめの小説
冷徹女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女に呪われ国を奪われた私ですが、復讐とか面倒なのでのんびりセカンドライフを目指します~
日之影ソラ
ファンタジー
タイトル統一しました!
小説家になろうにて先行公開中
https://ncode.syosetu.com/n5925iz/
残虐非道の鬼女王。若くして女王になったアリエルは、自国を導き反映させるため、あらゆる手段を尽くした。時に非道とも言える手段を使ったことから、一部の人間からは情の通じない王として恐れられている。しかし彼女のおかげで王国は繁栄し、王国の人々に支持されていた。
だが、そんな彼女の内心は、女王になんてなりたくなかったと嘆いている。前世では一般人だった彼女は、ぐーたらと自由に生きることが夢だった。そんな夢は叶わず、人々に求められるまま女王として振る舞う。
そんなある日、目が覚めると彼女は少女になっていた。
実の姉が魔女と結託し、アリエルを陥れようとしたのだ。女王の地位を奪われたアリエルは復讐を決意……なーんてするわけもなく!
ちょうどいい機会だし、このままセカンドライフを送ろう!
彼女はむしろ喜んだ。
どん底貧乏伯爵令嬢の再起劇。愛と友情が向こうからやってきた。溺愛偽弟と推活友人と一緒にやり遂げた復讐物語
buchi
恋愛
借金だらけの貧乏伯爵家のシエナは貴族学校に入学したものの、着ていく服もなければ、家に食べ物もない状態。挙げ句の果てに婚約者には家の借金を黙っていたと婚約破棄される。困り果てたシエナへ、ある日突然救いの手が。アッシュフォード子爵の名で次々と送り届けられるドレスや生活必需品。そのうちに執事や侍女までがやって来た!アッシュフォード子爵って、誰?同時に、シエナはお忍びでやって来た隣国の王太子の通訳を勤めることに。クールイケメン溺愛偽弟とチャラ男系あざとかわいい王太子殿下の二人に挟まれたシエナはどうする? 同時に進む姉リリアスの復讐劇と、友人令嬢方の推し活混ぜ混ぜの長編です……ぜひ読んでくださいませ!
鋼の殻に閉じ込められたことで心が解放された少女
ジャン・幸田
大衆娯楽
引きこもりの少女の私を治すために見た目はロボットにされてしまったのよ! そうでもしないと人の社会に戻れないということで無理やり!
そんなことで治らないと思っていたけど、ロボットに認識されるようになって心を開いていく気がするわね、この頃は。
誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら
Rohdea
恋愛
───酔っ払って人を踏みつけたら……いつしか恋になりました!?
政略結婚で王子を婚約者に持つ侯爵令嬢のガーネット。
十八歳の誕生日、開かれていたパーティーで親友に裏切られて冤罪を着せられてしまう。
さらにその場で王子から婚約破棄をされた挙句、その親友に王子の婚約者の座も奪われることに。
(───よくも、やってくれたわね?)
親友と婚約者に復讐を誓いながらも、嵌められた苛立ちが止まらず、
パーティーで浴びるようにヤケ酒をし続けたガーネット。
そんな中、熱を冷まそうと出た庭先で、
(邪魔よっ!)
目の前に転がっていた“邪魔な何か”を思いっきり踏みつけた。
しかし、その“邪魔な何か”は、物ではなく────……
★リクエストの多かった、~踏まれて始まる恋~
『結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが』
こちらの話のヒーローの父と母の馴れ初め話です。
【短編集】ゴム服に魅せられラバーフェチになったというの?
ジャン・幸田
大衆娯楽
ゴムで出来た衣服などに関係した人間たちの短編集。ラバーフェチなどの作品集です。フェチな作品ですので18禁とさせていただきます。
【ラバーファーマは幼馴染】 工員の「僕」は毎日仕事の行き帰りに田畑が広がるところを自転車を使っていた。ある日の事、雨が降るなかを農作業する人が異様な姿をしていた。
その人の形をしたなにかは、いわゆるゴム服を着ていた。なんでラバーフェティシズムな奴が、しかも女らしかった。「僕」がそいつと接触したことで・・・トンデモないことが始まった!彼女によって僕はゴムの世界へと引き込まれてしまうのか? それにしてもなんでそんな恰好をしているんだ?
(なろうさんとカクヨムさんなど他のサイトでも掲載しています場合があります。単独の短編としてアップされています)
婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた
cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。
お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。
婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。
過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。
ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。
婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。
明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。
「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。
そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。
茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。
幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。
「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?!
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる