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見つかってしまいました

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 ……と思っていたのに、どうしてこうなっているのでしょうか。

 私はついさっき、フェリスに余っている二階の部屋を使ってと言われ、昨夜は寝ていないことを思い出して昼間だけどベッドにもぐり込んだところだったはずだ。もちろんピュアラを召喚したまま。

 それなのに、目を覚ますと見覚えがありすぎる師匠の屋敷の私の部屋のベッドの中で、メリルに預けていたはずの荷物も元の位置に戻っていて、すぐそばには師匠が椅子に座って、うなだれるようにして落ち込んでいるという謎すぎる状態。

 え、なにこれ? 見つかるにしても早すぎない? いつの間にかピュアラも強制送還されてるみたいだし、師匠そんなこともできたんですか? というか、どうして弟子に家出されたくらいでそんなに落ち込んでいるんですか?

 どうやら私は師匠の実力をまだまだ甘く見ていたようだ。その過保護っぷりも。

 でもこの状況、少し驚いたけれど納得はしてしまっている。師匠がちょっとおかしくてわけがわからないくらいすごいことは、嫌というほど知っているから。

 ……あの後何があったのかわからないけれど、後でフェリスに謝りに行かないとね。

「ええと、おはようございます、師匠」
「………………おはよう」

 師匠の声はとても暗い。相当落ち込んでいるようだ。落ち込みたいのは私の方だよ……。

 でも、話を聞いてくれたフェリスのおかげで、この屋敷を出た時より私は冷静になれていた。こうなったら、師匠に出て行くことを納得してもらうしかない。

「……師匠、手紙にも書きましたが、私が好意を伝えることで師匠にそこまで迷惑をかけていたとは思わず、今まで申し訳ありませんでした。ですが、私の気持ちは変えられないのです。どうか、出て行くことを許して頂けませんか。師匠から見ればまだまだかもしれませんが、私も賢者です。ここを出ても、もう一人で生きていけますから」
「…………」

 師匠は一瞬びくりと肩を震わせたけれど、何も言おうとしない。正確には、何か言おうと口を開いては、また閉じるのを繰り返している。

 ……何がそんなに言いづらいんだろう?
 師匠の気持ちはもう分かっているんだから、そうか、わかったって言ってくれればそれでいいのに。

「……師匠」
「俺は」

 私が促すと、師匠がようやく口を開いた。

「俺は……お前に話していなかったことがある」
「……?」

 そんなの、たくさんあることは元々知っている。
 そもそも師匠はあまり自分のことを話してくれないし、話したくないならそれでいいと思っている。
 私は、私と出会って、私を拾ってくれて、私に全てを与えてくれた、私から見た師匠の全てを好きになったのだ。

「別に話したくないことまで聞こうとは思いませんよ。どうしてそんなことを気にしているのかわかりませんけど、言わなくてもいいですよ。私のことはもういいですから」

 私がベッドから出ようと足を下ろすと、師匠が思い詰めた表情でバッと顔を上げた。

「お前は……十歳以前の記憶がないだろう」

 ……どうやら師匠が言いたいのは、私が忘れている十歳以前のことらしい。

「はい。でもそんな昔のこと、私は気にしたこともありませんよ?」
「……それが、お前の親のことでもか?」

 親?

「全く気にしてないですよ。自分を捨てた親のことなんて、気にしても仕方ないじゃないですか」
「だが……昔のお前は、そうじゃなかった。親に認められようと、必死で努力していた」

 えええ。何が言いたいんだろう、師匠は。

「昔の話じゃないですか。子供が親に認められようと頑張ることは当たり前でしょう? 今は会いたいとも思いませんよ。私に親はいません。育ててくれたのは、師匠です」
「……」

 これだけ気にしてないと言っても、師匠はまだ難しい顔をしている。何がそんなに問題なの?

「お前の親は……ある国の、国王夫妻だ」
「……へ?」

 あまりに予想外な事実に思わず固まる。

 ええと、つまり私は、どこぞの国の王女だったということ?
 ……すごいよフェリス、私、本当にお姫様だったみたい。

「俺はたまたま用があってその国に訪れていた時にお前に出会った。お前は魔術が使えないと兄弟たちに蔑まれ、悩みながらも、一生懸命努力していた」
「……」
「それなのに、奴らは刺客を差し向けて、お前を殺そうとしたんだ。魔術を使えない王族など国の恥だと」

 ……な、なんて親なんだ。兄弟たちも。今まで気にしてなかった人たちだけど、嫌悪感すら湧いてきたよ。

「俺は刺客たちを始末して、お前を攫ったんだ。そして俺の弟子にした。お前は殺されかけたショックでそれまでの記憶を失ったんだ」

 ……ええと、確かに少しばかり衝撃的だったけれど、それが何だと言うのだろう。殺そうとまでした娘のことなんて、攫っても誰も困らないし、むしろ師匠は私を助けてくれただけですよね?

「師匠、私を助けてくれてありがとうございました。師匠は何も悪くないのですから、そんな顔をしないでください」

 さっきから師匠はずっと辛そうだ。そんな師匠を見ていると、私も辛い。

 そっと手を握ろうとして、思い止まる。
 師匠はたとえ慰めるためだとしても、あまり私に触れて欲しくなんてないはずだ。

「俺は……お前が王女として生きる道を奪ったんだ」
「……はい?」

 師匠が搾り出すようにして言った言葉に、思わず気の抜けた声を返してしまった。だって、王女として生きる道なんて、殺されかけた時点で閉ざされていたも同然のはずだ。

「あの、師匠?」
「お前はすぐに召喚師の才能に目覚めた。初めて上位精霊と契約した時には、その優秀さは公に明らかとなった。その力があれば、お前の両親たちはお前を王族として認めたはずだ。それなのに、俺はこのことをお前にも誰にも話さず、お前を国へ返さなかった。俺の、お前を離したくないっていう、身勝手な思いで、お前の本来いるべき場所を奪ったんだ」

 私は今度こそ動けなくなった。師匠が言った“離したくない”という言葉に、私が期待する意味も込められているような気がして。

「最初は奴らへの怒りと頑張ってたお前への尊敬と同情から引き取っただけだったのに、お前は無邪気にひたすら俺を慕ってくるし、だんだん女らしく綺麗になってくしで、ただの弟子だと思い込むのも難しくなってきた。お前が王女として得られるはずだったものを全て奪った俺が、お前の未来も全て奪うなんて許されると思うか?」

 どくんと心臓が跳ねた。
 師匠は私のこと、女の子として見てくれていた? 罪悪感から、撥ね付けていただけで?

「師匠、私は、王女としての人生なんていりません。欲しいのはあなたと生きる人生なのです」
「……それだって、お前は十歳の頃からずっと俺を好きだと言ってるんだぞ。それは親を失った時に拾ったのが俺だったから、俺を親や兄のように思ってるんじゃないのか? 俺はお前より十五も年上だぞ」

 んなー!?

 あ、あれだけ好意を言葉で態度で示していたのに、ちゃんと伝わっていなかったとかありますか!?

「そんなんじゃないです! いや、確かに始めはそうだったかもしれないですけど……」

 拾われたばかりの時はそうだったかもしれない。けれど私が恋心を自覚したのは十二歳のあの時だ。あの時から、私ははっきりと師匠を男性として好きなのだ。

 私が必死で反論しようとすると、いきなり視界がぐるんと半転した。

 ……へ?

 ぼすんと背中がクッションに押し付けられる。
 とっさに何が起きたのかわからなかったけれど、どうやらいつの間にか距離を詰めていた師匠が私の肩を軽く押して、ベッドに押し倒したようだった。
 師匠の思い詰めたような、それでも美しさは損なわれない綺麗な顔がものすごく近くにある。

「お前の言う“好き”は、こういうことをされても平気な“好き”か?」
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