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第二章 魔塔の魔法使い

仕掛けた罠

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 私が目を見開いて男の言葉を繰り返すと、また別の男がゲラゲラと笑いながら教えてくれた。
 
「そうさ! 魔塔の魔法使いっつっても、別に不死身ってわけじゃねえだろ? 俺らは奴を始末するように言われてるってわけだ」
 
 私は思わず眉をひそめた。
 誰の仕業かはわからないが、ずいぶんと過激なことを指示するものだ。

 しかし、ノラード様の命が狙われているとしても、彼にかかればここにいる六人程度など、大して問題にならないような気がする。
 
 普段から鍛えられている武装した騎士たちさえもあっさりと武装解除して無力化させられるのだから、彼がゴロツキ数人程度にやられるとは思えない。
 
 そう考えた私の反応が薄かったからなのか、細目の男が嫌味っぽい笑みを浮かべた。
 
「安堵しているところ悪いが、俺たちだって、簡単に魔塔の魔法使いを倒せるなんて思っていないさ。だけど、俺はコイツらと違って頭を使える方でね。何も正面からやり合うことはない。殺し方にも色々あるってことだよ」
 
「……どういうこと?」
 
「毒さ」
 
 そう言って、細目の男が入口のドアに目を向ける。
 
「ドアノブに猛毒を塗った針を仕掛けておいた。少しでも体内に入れば、あっという間に死んじまう劇薬さ。この小屋に入ろうとした途端、ターゲットは死ぬって寸法だ。やり方としちゃ地味だが、これが意外とみんな引っ掛かるんだぜ」
 
 ニヤニヤと笑みを浮かべ続ける男が、この上なく不気味に見えた。この男は、ノラード様と戦う気など最初からないのだ。ただ、彼を殺せればいい。
 
 そして、彼を誘き出すために、私を誘拐したのだ。
 
 いくらノラード様でも、毒が効かないわけがない。このままでは、彼の命が危ない。
 
 ……どうしよう。私を助けに来たら、ノラード様が死んでしまうかもしれない。私のせいで……!
 
『ハァ。バッカね~、あんたたち』
 
 ピョンと、カロンが私の肩に乗って呆れたような声を出した。
 
「何だ?」
「リス……?」
 
 突然現れた喋るリスに、男たちもさすがに困惑している。
 
「カ、カロン。どうして出てきたの?」
 
『大丈夫よ、リーシャ。心配ないわ。ワタシのご主人さまは、すっごいんだからね!』
 
 パチン、とカロンが可愛らしくウインクをした。
 
「何を……」
 
 ーーズバン!!
 
「えっ?」
 
 今、何か、大きなものが斬れたような音がした。
 小屋の中にいた全員が、何が起こったのかと周囲を見回す。何事もなかったかのように変化がないと思われたその時、私はかすかに床が揺れるのを感じた。
 
 ……な、何!? 何が起こっているの!?
 
「お、おい、壁が……!」
 
 ぶるぶる震えている男が、部屋の上方を指差している。男の視線を追ってそちらを見ると、まるでまっすぐ真横に、壁に大きく線が入ったように見えた。
 そして、ズズズ、とその線から上の部分がゆっくりとズレるように動いていく。
 
 ……まさか、揺れていたのは床じゃなくて、小屋全体なの!?
 
「えええ!?」
 
「おい、なんだよこれ! どうなってんだ!?」
 
 驚愕に目を見開く男たちを、私もまた呆然と見つめていたのだった。
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