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第二章 魔塔の魔法使い
甘すぎるのですが!
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……まずい。非常にまずいわ。
昔の殿下なら、たとえこんなふうに抱きしめられても、「可愛いな」としか思わなかっただろう。
でも、今の殿下は昔とあまりにも違いすぎる。
私よりも頭ひとつ高い背とか、厚い胸板とか、力強い腕とか。
そんなことを、どうしてこれほど意識してしまうのかと自分を叱り飛ばしたい。
そう思うのに、もう少しこうしていたいなんて、馬鹿みたいなことを考えてしまう。
……いやいやいや、何を考えているの、私! 殿下が昔と変わらない好意を向けてくれているのなら、それはお世話係としてに決まっているじゃない!
それなのに、胸をときめかせているなんて、主人に対する裏切りだ。断じて許されることではない。
毅然とした態度でいなければと、心の中で自分に喝を入れる。
「ノラード様、いつまでこうしているおつもりですか?」
「んー、もうちょっと」
そう言って、少しの隙間ができるのも嫌だというように抱きすくめられる。おまけに、軽く頬ずりまでされてしまっている。
……って、頬ずり!?
「ででででっ、殿下!? 一体何をっ」
「もう、また呼び方が戻ってる。離れている間に、呼び方を忘れちゃったの? 今度二人でいる時に名前以外で呼んだら、お仕置きだからね」
……はい? お仕置きとは!?
ぴしりと固まる私を、殿下が面白そうな目で見つめる。もしかして、からかわれているのだろうか。
「で、殿下……?」
「はい。お仕置きね」
ニコリと笑って、殿下が顔を寄せてきた。そして、おもむろに口を開けると。
ーーガブリ。
「きゃあ!?」
私はバッと自分の耳を手で押さえた。
……み、みっ、今、耳を噛みましたか、殿下!?
「ふふふっ、リーシャ、顔が真っ赤」
心底嬉しそうに、楽しそうに笑う殿下を、呆然と見つめる。なんということをするのか。一体どこで、いつの間にこんなことを覚えてきたのかと、疑問と不満と恥ずかしさがぐるぐると頭の中で目まぐるしく駆け巡る。
「で、のっ、ノラード様!」
「あはは!」
「どうして笑っているのですか! もう、もう、ノラード様! お仕置きとはいえ、こんなことをしては……」
耳を押さえる自分の手がぷるぷると震えているのがわかる。
駄目だ。頭がまともに働かなくて、ろくな反論ができない。
だって、七年も離れていたのだ。ずっと名前で呼んでいた頃とは違う。私はもうずっと、彼のことを名前で呼んでなどいなかったのだ。
先ほどまでは二人きりかどうかで意識的に呼び方を使い分けていたけれど、これほど頭が混乱していては、それも難しくなるのは仕方ないではないか。
「はぁ、嬉しいな。リーシャがいる。リーシャに触れる。それに、こんなに可愛いリーシャが見られるなんて。成長して本当に良かったなぁ」
そう言って、殿下は再び私を腕の中へ閉じ込めた。
一体どういうつもりなのだろう。
何がそんなに楽しいのかと疑問に思わずにいられないほど、殿下はご機嫌な様子で笑っている。
というか、殿下はこんな方だっただろうか。七年前は、すごくいい子で、明るく笑う、無邪気な少年だったはずなのに。
私は、殿下の変貌ぶりに当惑するしかなかった。
……殿下、いくらなんでも、変わりすぎです!!
昔の殿下なら、たとえこんなふうに抱きしめられても、「可愛いな」としか思わなかっただろう。
でも、今の殿下は昔とあまりにも違いすぎる。
私よりも頭ひとつ高い背とか、厚い胸板とか、力強い腕とか。
そんなことを、どうしてこれほど意識してしまうのかと自分を叱り飛ばしたい。
そう思うのに、もう少しこうしていたいなんて、馬鹿みたいなことを考えてしまう。
……いやいやいや、何を考えているの、私! 殿下が昔と変わらない好意を向けてくれているのなら、それはお世話係としてに決まっているじゃない!
それなのに、胸をときめかせているなんて、主人に対する裏切りだ。断じて許されることではない。
毅然とした態度でいなければと、心の中で自分に喝を入れる。
「ノラード様、いつまでこうしているおつもりですか?」
「んー、もうちょっと」
そう言って、少しの隙間ができるのも嫌だというように抱きすくめられる。おまけに、軽く頬ずりまでされてしまっている。
……って、頬ずり!?
「ででででっ、殿下!? 一体何をっ」
「もう、また呼び方が戻ってる。離れている間に、呼び方を忘れちゃったの? 今度二人でいる時に名前以外で呼んだら、お仕置きだからね」
……はい? お仕置きとは!?
ぴしりと固まる私を、殿下が面白そうな目で見つめる。もしかして、からかわれているのだろうか。
「で、殿下……?」
「はい。お仕置きね」
ニコリと笑って、殿下が顔を寄せてきた。そして、おもむろに口を開けると。
ーーガブリ。
「きゃあ!?」
私はバッと自分の耳を手で押さえた。
……み、みっ、今、耳を噛みましたか、殿下!?
「ふふふっ、リーシャ、顔が真っ赤」
心底嬉しそうに、楽しそうに笑う殿下を、呆然と見つめる。なんということをするのか。一体どこで、いつの間にこんなことを覚えてきたのかと、疑問と不満と恥ずかしさがぐるぐると頭の中で目まぐるしく駆け巡る。
「で、のっ、ノラード様!」
「あはは!」
「どうして笑っているのですか! もう、もう、ノラード様! お仕置きとはいえ、こんなことをしては……」
耳を押さえる自分の手がぷるぷると震えているのがわかる。
駄目だ。頭がまともに働かなくて、ろくな反論ができない。
だって、七年も離れていたのだ。ずっと名前で呼んでいた頃とは違う。私はもうずっと、彼のことを名前で呼んでなどいなかったのだ。
先ほどまでは二人きりかどうかで意識的に呼び方を使い分けていたけれど、これほど頭が混乱していては、それも難しくなるのは仕方ないではないか。
「はぁ、嬉しいな。リーシャがいる。リーシャに触れる。それに、こんなに可愛いリーシャが見られるなんて。成長して本当に良かったなぁ」
そう言って、殿下は再び私を腕の中へ閉じ込めた。
一体どういうつもりなのだろう。
何がそんなに楽しいのかと疑問に思わずにいられないほど、殿下はご機嫌な様子で笑っている。
というか、殿下はこんな方だっただろうか。七年前は、すごくいい子で、明るく笑う、無邪気な少年だったはずなのに。
私は、殿下の変貌ぶりに当惑するしかなかった。
……殿下、いくらなんでも、変わりすぎです!!
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