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第二章 魔塔の魔法使い

使い魔

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 国王陛下の元へ殿下と一緒に向かったまでは良かったが、当然ながら、すぐに会うことはできなかった。
 
 国王にお目通りしようと思えば、謁見の申請をして許可を得なければならない。それは、王妃や王太子も変わらないのだ。普通は違うのかもしれないが、現在の国王陛下はそのように決めているらしい。
 
 なので今日のところは謁見の申請だけでもと思ったのだが、殿下は笑顔で首を横に振った。
 
「陛下も恐らく僕に会いたいとはおっしゃらないと思う。僕が戻ったという事実だけお伝えしてくれ」
 
 陛下付きの文官にそう告げて、彼は身を翻した。私の背を軽く押してさっさとその場を去ろうとする潔さと言ったら、こうなることを望んでいたとしか思えなかった。
 
 
「ねぇリーシャ、離宮へ行こうよ」
 
「え? 離宮って、あの離宮ですか?」
 
 国王の居住エリアから離れてずいぶんと歩き、どこまで行くのだろうと思っていたら、昔暮らしていた離宮へ行きたいらしい。久しぶりに会えたので、思い出話でもしたいのだろうか。
 
「うん。七年も放置していたからずいぶん荒れているだろうけど、今の僕なら簡単に手入れできると思うし」
 
「あ……」
 
 私はなんだか恥ずかしくなって、彼から視線を逸らした。二人で過ごした離宮が荒れていくのが嫌で、たまに掃除しに行っていたなんて言えない。
 けれど、このまま一緒に行けば、私が離宮を手入れしていたことはすぐにバレてしまうだろう。
 
 何と説明しようかと迷っていると、聞き覚えのない、高くて可愛らしい声がすぐ隣から聞こえてきた。
 
『ねぇご主人さま、いつになったらワタシたちを紹介してくれるのかしら!?』
 
『あっ、ダメですよ、カロン! ご主人さまの言うとおり、大人しく待っていないと!』
 
「……え?」
 
 まるで子供のような声が、隣から聞こえたような気がする。目を瞬かせながら殿下を見上げていると、彼は仕方なさそうに眉を下げた。
 
「もう。ちゃんと紹介するから待っててって言ったのに」
 
 そう言いながら、殿下がおもむろに両手をポケットに入れた。そして出した時には、両手にそれぞれ小動物が握られていた。彼は私に見せるように、手のひらを上に向ける。
 
 手のひらに乗っていたのは、二匹の小さなリスだった。
 いや、リスにしては耳が異様に長い。
 
「……もしかして、魔法生物ですか?」
 
「うん、ミミナガリスだよ。僕の使い魔なんだ。こっちの雌がカロンで、こっちの雄がコロン。それぞれ別の特技があるし、賢いから結構役に立つんだ。良かったら、仲良くしてあげて」
 
『ハーイ、ワタシがカロンよ! ヨロシクね~』
 
『ボク、コロンです。ご主人さまからお話は聞いています。よろしくお願いします!』
 
 活発そうなカロンがブンブンと小さな手を振りながら挨拶をする。コロンは礼儀正しく、ペコリと礼をした。二匹の長い耳が、ぴるぴると忙しそうに動いているし、体と同じ大きさほどのしっぽはユラユラと揺れている。
 
 私は、そんな可愛すぎる小さな使い魔たちを、目を輝かせながらじっと見つめた。
 
 魔法生物を実際に見るのは初めてだった。
 魔法使いたちが魔力を報酬に魔法で契約を交わし、従えることがあるという魔法生物だが、普通の動物のようにそこらじゅうにいるというわけではない。彼らは魔素という空気中の魔力が濃い場所にしか棲んでおらず、普通に暮らしていれば出会うことなどない存在なのだ。
 
 ……そんな魔法生物を、こんなに近くで見られるなんて!
 
 魔法生物は色々な種類がいると聞くけれど、まさか殿下がこんなに可愛い使い魔を選ぶなんて思わなかった。
 
 渡す魔力量は使い魔の大きさに比例するらしく、巨大な魔法生物と契約すると、未熟な魔法使いは魔力枯渇によって命の危険もあると聞いたことがある。

 でも、殿下は幼い頃から膨大な魔力を持っていたし、今となっては魔塔の魔法使いたちも認める一流の魔法使いだ。わざわざ魔力量を鑑みて小さな使い魔を選ぶ必要はなかったはずだ。
 
 それなのに、この小さなミミナガリスたちを使い魔としたのは意外だった。
 
 ……でも、これほど愛らしいのだから、契約したくなっても無理はないわよね!
 
「ノラード様、とっても可愛い使い魔たちですね!」
 
 感動を込めて彼を見上げれば、殿下は満足そうな笑みを浮かべた。
 
「うん。リーシャが気に入ってくれるかなと思って契約したから、そう言ってもらえて良かった」
 
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