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第二章 魔塔の魔法使い

誤解

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 王太子が、ドアを睨みつけた。
 
「誰だ。休憩中は一人にしてくれと言っておいただろう」
 
「王太子殿下、アイリーゼ・フォルベルク嬢がお見えなのですが……」
 
 従者の言葉に、私たちはギクリとして顔を見合わせた。
 なんというタイミングだろうか。
 
 一人にしてくれと言われていても、婚約者が来たのなら、従者としては追い返すわけにもいかないだろう。従者を責めることはできない。
 
 しかし、今部屋へ招き入れるのはとてもまずい。関係を疑っている相手と二人きりでいるところを目撃してしまえば、彼女の疑いが確信へ変わってしまうかもしれない。
 
「い、いや、今は……」
 
「失礼いたしますわ」
 
 主人の了承も得ず、無情にも扉は開かれた。
 
 現れたのは、背筋をピシリと伸ばした、美しい女性だった。年は十八になったばかりではあるが、その凛とした佇まいからか、ずいぶんと大人びて見える。
 
 サラリと背に流れる輝かんばかりの銀髪と、涼やかな青い目。それは、今は凍てつかんばかりに冷ややかに細められていた。
 
 部屋の中央で冷や汗を垂らしながら固まっているメイドの私と青ざめた婚約者の顔を交互に見ると、彼女、アイリーゼ・フォルベルクは一度キュッと唇を引き結んだ後、淡々とした口調で話し始めた。
 
「どうしても確認したいことがあり、ご迷惑と知りつつも来てしまったのですが、やはりお邪魔だったようですね。確認はもう済みましたので、わたくしはこれで失礼いたしますわ。どうぞごゆっくり。わたくしたちの婚約解消については、後ほど連絡させていただきます」
 
「リ、リーゼ! 違うんだ、待ってくれ!!」
 
 あわや婚約破棄かと思われる事態となってしまった。

 さすがに、私のせいで王太子の婚約が駄目になることは避けたい。焦った私は、精一杯アイリーゼ様へ事情の説明に努めた。
 
 殿下はあなた様をとても愛しておられます。わたくしのことなど都合の良いメイドとしか思っておられないことでしょう。わたくしも誓って分不相応な考えなど持っておりません。滅相もない。誤解です。あり得ないことです。あなた様との惚気ばかりを聞かされて、少々困っていたほどなのです。
 
 そんな私の言葉の数々と、王太子の必死の弁明もあり、なんとか王太子はアイリーゼ様から婚約解消の撤回をもぎ取ることができた。
 
 王太子が焦りと羞恥で涙目になっていたが、それは私が関知すべきところではないので、放っておくことにする。
 
 これを機に、心の内を洗いざらい話して、仲を深めればいいと思う。
 
 私は、いくら三倍の給料をもらっていても割に合わないほどの面倒事に巻き込まれているような気がして、こっそりとため息を吐いたのだった。
 

 
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