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第一章 離宮の住人
初日、終了
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そしてその後は、少し食材とスープの下ごしらえをしてから、玄関から厨房、そして第二王子の寝室までの導線を中心に清掃へとりかかる。
埃っぽすぎるので、まず口元を布で覆った。目についた窓という窓を全開にして換気し、上から埃を落としたら、水拭きをしていく。掃除は慣れたものだが、一人では作業量に限界があるので、離宮が小さくて助かったかもしれない。
「ふぅ、これでやっと一息つけるようになったわ!」
まだまだ掃除する場所は残っているものの、埃っぽさがなくなって、かなり空気が良くなった。
ずいぶん日が高くなってきており、そろそろお昼時だ。
私は、第二王子がいると思われる部屋の前に置いたワゴンを確認してみた。
……きゃあ、よかった! なくなっているわ!
お皿やワゴンはドアの前にそのまま置かれていたが、クローシュをあけてみれば、中は空になっていた。
顔は見せてくれなかったが、きちんと食べてくれたらしい。お前のことは信用できないから他の人を呼べと言われても難しいので、本当によかった。
……これなら、きっと昼食も食べてくれるわよね?
何だか、気分は懐かない仔猫への餌やりである。
そんな若干失礼なことを考えながら厨房へ向かうと、私は仕込んでおいたミネストローネと具だくさんのパスタを作り、カットフルーツと共に再び第二王子の部屋の前へ置いた。
……完全に我が家で食べているような庶民的料理だけれど、朝食も食べてくれていたし、大丈夫よね?
若干不安になりながらも、私は軽くノックをすると、再び殿下に声をかけた。
「殿下、リーシャです。昼食をお持ちいたしました。こちらに置かせていただきますので、よろしければどうぞお召し上がりくださいませ」
少し待ってみるも、王子が出てくる気配はない。
やはり自分はいないほうが良さそうだと、少し残念に思いながら私はその場を離れた。
そして、私は再び猛然と掃除にとりかかった。ちなみに自分の昼食は、王子の分を作っている間に適当につまんで済ませた。この埃だらけの離宮を一人で綺麗にしようと思えば、いくら時間があっても足りないのだ。
夕方になる頃には、何とか厨房全体と王子の部屋までの導線はあらかた掃除を終えることができた。汚れた厨房で料理をするのは出来る限り避けたいので、今日中に終わって良かった。
少しドキドキしながら、再び王子の部屋の前を確認すると、またしてもワゴンの上のお皿は空になっていた。
……やったわ! ふふっ、何だか楽しくなってきたかも。
食べてもらえた嬉しさを胸に、夕食作りにとりかかった。今日は掃除に重きを置いて活動してしまったので、短時間で作れるチキンソテーにしてみた。お母様直伝の特製ハーブ塩で味付けしたので、手抜きにはとても見えない仕上がりである。
付け合せの野菜を添えて、パンと昼の残りのミネストローネもつける。
それらを持って、再び王子の部屋へ向かった。
「殿下、リーシャです。夕食をお持ちいたしました」
本日三度目の呼びかけであるが、やはり王子が出てくる気配はない。
……無理に入るわけにもいかないし、少し寂しいけれど、仕方ないわよね。
「殿下、夕食はまたこちらに置かせていただきますね。わたくし、本日はこれで失礼いたします。また明日参りますので、よろしくお願いいたします」
そう言い残し、後ろ髪を引かれながらも、私は離宮を後にした。
そうして、王子のお世話係としての記念すべき初日は、相手の顔を見ることもできないまま終わったのだった。
埃っぽすぎるので、まず口元を布で覆った。目についた窓という窓を全開にして換気し、上から埃を落としたら、水拭きをしていく。掃除は慣れたものだが、一人では作業量に限界があるので、離宮が小さくて助かったかもしれない。
「ふぅ、これでやっと一息つけるようになったわ!」
まだまだ掃除する場所は残っているものの、埃っぽさがなくなって、かなり空気が良くなった。
ずいぶん日が高くなってきており、そろそろお昼時だ。
私は、第二王子がいると思われる部屋の前に置いたワゴンを確認してみた。
……きゃあ、よかった! なくなっているわ!
お皿やワゴンはドアの前にそのまま置かれていたが、クローシュをあけてみれば、中は空になっていた。
顔は見せてくれなかったが、きちんと食べてくれたらしい。お前のことは信用できないから他の人を呼べと言われても難しいので、本当によかった。
……これなら、きっと昼食も食べてくれるわよね?
何だか、気分は懐かない仔猫への餌やりである。
そんな若干失礼なことを考えながら厨房へ向かうと、私は仕込んでおいたミネストローネと具だくさんのパスタを作り、カットフルーツと共に再び第二王子の部屋の前へ置いた。
……完全に我が家で食べているような庶民的料理だけれど、朝食も食べてくれていたし、大丈夫よね?
若干不安になりながらも、私は軽くノックをすると、再び殿下に声をかけた。
「殿下、リーシャです。昼食をお持ちいたしました。こちらに置かせていただきますので、よろしければどうぞお召し上がりくださいませ」
少し待ってみるも、王子が出てくる気配はない。
やはり自分はいないほうが良さそうだと、少し残念に思いながら私はその場を離れた。
そして、私は再び猛然と掃除にとりかかった。ちなみに自分の昼食は、王子の分を作っている間に適当につまんで済ませた。この埃だらけの離宮を一人で綺麗にしようと思えば、いくら時間があっても足りないのだ。
夕方になる頃には、何とか厨房全体と王子の部屋までの導線はあらかた掃除を終えることができた。汚れた厨房で料理をするのは出来る限り避けたいので、今日中に終わって良かった。
少しドキドキしながら、再び王子の部屋の前を確認すると、またしてもワゴンの上のお皿は空になっていた。
……やったわ! ふふっ、何だか楽しくなってきたかも。
食べてもらえた嬉しさを胸に、夕食作りにとりかかった。今日は掃除に重きを置いて活動してしまったので、短時間で作れるチキンソテーにしてみた。お母様直伝の特製ハーブ塩で味付けしたので、手抜きにはとても見えない仕上がりである。
付け合せの野菜を添えて、パンと昼の残りのミネストローネもつける。
それらを持って、再び王子の部屋へ向かった。
「殿下、リーシャです。夕食をお持ちいたしました」
本日三度目の呼びかけであるが、やはり王子が出てくる気配はない。
……無理に入るわけにもいかないし、少し寂しいけれど、仕方ないわよね。
「殿下、夕食はまたこちらに置かせていただきますね。わたくし、本日はこれで失礼いたします。また明日参りますので、よろしくお願いいたします」
そう言い残し、後ろ髪を引かれながらも、私は離宮を後にした。
そうして、王子のお世話係としての記念すべき初日は、相手の顔を見ることもできないまま終わったのだった。
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