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第一章 離宮の住人
魔力暴走
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「母上、一旦離れよう!」
「で、でも」
「マ、マリッサ……」
父は動揺し、魔力暴走を起こす娘を見つめることしかできない様子だ。
魔力暴走は、高い魔力を持つ者が感情の昂りなどが原因で魔力を制御できなくなって起こる現象だ。
それは周囲の空気を圧迫し、近くにいる人に恐怖感を与え、ひどければ呼吸困難に陥り、最悪の場合は死に至ることもある。
ルディオは母の手を取って、慌ただしくダイニングから出て行った。
父はその場から動けなかったようで、次第に「うぐっ」と苦しそうにうめき声をあげて胸を押さえた。
父も心配だが、魔力暴走は本人にも負担がかかる。私は急いで、苦しむマリッサへ駆け寄った。
「マリッサ、マリッサ! 大丈夫よ、落ち着いて」
「う……っ、お、お姉様……っうわあぁぁぁん」
どうしようもなく昂ぶった感情を鎮めるには、泣くことも必要だ。私はただマリッサをギュッと抱きしめて、ポンポンとあやすように背中を撫でてあげた。
ギュッと私の服を掴んだマリッサの手に力が籠る。
しばらくそうしていると、次第に魔力暴走も治まってきた。
やがてマリッサが荒い呼吸を整えるように深呼吸をしたと思うと、ポロポロと涙をこぼし始めた。
「……ご、ごめんなさい。魔力暴走なんて、しばらく起こしてなかったのに……情けないわ」
もっと幼い頃は、ちょっとしたことで癇癪を起こしては同時に魔力を暴走させていたマリッサだが、ここ数年はきちんとコントロールできるようになってきていた。
それなのに、今回のことがよほどショックだったということだろう。
「うぅ……すまない、マリッサ」
父もそれがわかっているので、しおしおと生気が干からびたようになりながらマリッサに謝っている。
「リーシャも、すまないな。お前がいてくれて助かったよ……」
「いいのよ。なぜだかよくわからないけれど、私は平気なんだもの」
父の言葉に、私は首を振った。初めてマリッサが魔力暴走を起こした時から、なだめるのはいつも私の役目だった。
なぜなら、私にはなぜか彼女の魔力暴走による圧迫感や呼吸困難などの症状が、全く起こらなかったからだ。
きっと私は魔力がないから、魔力によって起こる症状の感覚も鈍いのだろうと思う。
「……マリッサ、もう大丈夫?」
心配そうに、ルディオが母を連れて戻ってきた。
母は体がそれほど強くないので、ルディオの行動は褒めてあげなければならない。
「もう大丈夫よ、ルディオ。よくお母様を守れたわね」
「な、なんだよ。これくらい普通だって」
照れくさそうに、自分の頭を撫でる私の手を避けると、ルディオはサッと身を翻した。
「みんな、本当にごめんな……」
「さっきも言ったけれど、もう起こってしまったことは仕方ないわ。これからのことを考えましょう」
うなだれる父の肩に、母がそっと手を添えた。
その時、ドンドンと激しくドアを叩く音が聞こえた。
「な、何?」
「ま、まさか……いや、そんな……」
戸惑う私たちの中で、父だけはこの状況に何か心当たりがあるようで、サッと顔を青くさせた。
これ以上、一体何があるというのだろうか。
「で、でも」
「マ、マリッサ……」
父は動揺し、魔力暴走を起こす娘を見つめることしかできない様子だ。
魔力暴走は、高い魔力を持つ者が感情の昂りなどが原因で魔力を制御できなくなって起こる現象だ。
それは周囲の空気を圧迫し、近くにいる人に恐怖感を与え、ひどければ呼吸困難に陥り、最悪の場合は死に至ることもある。
ルディオは母の手を取って、慌ただしくダイニングから出て行った。
父はその場から動けなかったようで、次第に「うぐっ」と苦しそうにうめき声をあげて胸を押さえた。
父も心配だが、魔力暴走は本人にも負担がかかる。私は急いで、苦しむマリッサへ駆け寄った。
「マリッサ、マリッサ! 大丈夫よ、落ち着いて」
「う……っ、お、お姉様……っうわあぁぁぁん」
どうしようもなく昂ぶった感情を鎮めるには、泣くことも必要だ。私はただマリッサをギュッと抱きしめて、ポンポンとあやすように背中を撫でてあげた。
ギュッと私の服を掴んだマリッサの手に力が籠る。
しばらくそうしていると、次第に魔力暴走も治まってきた。
やがてマリッサが荒い呼吸を整えるように深呼吸をしたと思うと、ポロポロと涙をこぼし始めた。
「……ご、ごめんなさい。魔力暴走なんて、しばらく起こしてなかったのに……情けないわ」
もっと幼い頃は、ちょっとしたことで癇癪を起こしては同時に魔力を暴走させていたマリッサだが、ここ数年はきちんとコントロールできるようになってきていた。
それなのに、今回のことがよほどショックだったということだろう。
「うぅ……すまない、マリッサ」
父もそれがわかっているので、しおしおと生気が干からびたようになりながらマリッサに謝っている。
「リーシャも、すまないな。お前がいてくれて助かったよ……」
「いいのよ。なぜだかよくわからないけれど、私は平気なんだもの」
父の言葉に、私は首を振った。初めてマリッサが魔力暴走を起こした時から、なだめるのはいつも私の役目だった。
なぜなら、私にはなぜか彼女の魔力暴走による圧迫感や呼吸困難などの症状が、全く起こらなかったからだ。
きっと私は魔力がないから、魔力によって起こる症状の感覚も鈍いのだろうと思う。
「……マリッサ、もう大丈夫?」
心配そうに、ルディオが母を連れて戻ってきた。
母は体がそれほど強くないので、ルディオの行動は褒めてあげなければならない。
「もう大丈夫よ、ルディオ。よくお母様を守れたわね」
「な、なんだよ。これくらい普通だって」
照れくさそうに、自分の頭を撫でる私の手を避けると、ルディオはサッと身を翻した。
「みんな、本当にごめんな……」
「さっきも言ったけれど、もう起こってしまったことは仕方ないわ。これからのことを考えましょう」
うなだれる父の肩に、母がそっと手を添えた。
その時、ドンドンと激しくドアを叩く音が聞こえた。
「な、何?」
「ま、まさか……いや、そんな……」
戸惑う私たちの中で、父だけはこの状況に何か心当たりがあるようで、サッと顔を青くさせた。
これ以上、一体何があるというのだろうか。
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