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おまけ 在りし日のバレンタイン③
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「もー、咲璃ちゃんのバカバカバカ~!!」
翌日、『どうだった!?』とウキウキした様子で聞きにきたこのみちゃんに事の顛末を話すと、この言葉が返ってきた。
「いや、なんでよ。話聞いてた?」
……琉生くんには私じゃない本命がいて、私から手作りチョコなんかもらっても困らせるだけだったんだから、これで正解でしょ?
「もー! 違うのよ~、もー、ああもう……」
なぜか、このみちゃんの語彙力がゼロになってしまっている。
「ああ……こんなことなら、琉生くんにチョコ作ったなんて、教えるんじゃなかった……」
このみちゃんがぼそっと何かを呟いたけれど、わたしはうまく聞き取れなかった。
その日の帰り道、琉生くんを見かけた。
……あれ?なんだか元気がないみたい。
「琉生くん」
「っ、さ、咲璃…お姉ちゃん」
琉生くんはびっくりしている。
「なんで、こんな日に限って偶然……」
なんかぶつぶつ言っているけど、よく聞こえない。
……なんだか琉生くんらしくないなあ。本命の子と、何かあったのかな?
「元気ないね? これあげるから、元気出して。昨日渡せなくてごめんね」
そう言って、私はチ○ルチョコを3つ、琉生くんに渡した。結局昨日は何も渡さずに帰ってしまったので、いつものくらいは渡そうと、用意しておいたのだ。
「…………」
琉生くんは、なぜか少し戸惑っているようだった。
……あれ? いつもなら、『ありがとう、咲璃お姉ちゃん!』って、満面の笑みで喜んでくれるのに。
「どうしたの? 琉生くん、これ好きなんだよね? 昨日そう言って……あっ!」
「……昨日?」
琉生くんは訝しげに首を傾げたあと、何かに思い至ったように目を見開いた。
「う、ううん。なんでもない。あの、それじゃ、元気出してね!」
私はこれ以上余計なことを言う前に、そそくさと退散した。盗み聞きしてたとか、バレたら恥ずかしい。
「あ、あぁ~~~~~、昨日、そういうこと……あああああ~! 僕のバカ!!」
琉生くんがそう叫んでいたことなんて、自分のことでいっぱいいっぱいになっていた私は、知る由もなかった。
◇
「えー。じゃあ、あの時の手作りチョコは、結局おじさんに渡したってこと?」
「そ、そうだよ」
「はぁ……咲璃の初めての手作りチョコ、食べたかったなぁ……。油断して、誤解させるようなところを見せた僕が悪いんだけどさ」
……いや、琉生くんは別に悪くないと思うよ。私が勝手に勘違いしただけだもん。
過去のバレンタインの出来事を、こうして琉生くんと話しているのには、理由がある。
ここ異世界でも暦は元の世界とほとんど変わらない。12月まであるし、1か月はだいたい30日だ。月の呼び方はそれぞれ違うけれど。1月が英語でJanuaryって言うみたいに。
そして今日は、2月14日だ。
この世界にバレンタインはないけれど、チョコはある。それを知っている琉生くんからバレンタインチョコのおねだりがあったので、今は過去の記憶を一生懸命掘り起こしながら、チョコ作りに奮闘中というわけである。
「まさか、このみちゃんと琉生くんが仲良しだったなんて……」
「仲良しとかではないよ。僕の気持ちを察して、咲璃とのことを応援してくれるいい人だとは思ってたけど」
二人が繋がっていて、このみちゃんが琉生くんに情報を渡していたなんて、夢にも思っていなかった。なんならあのチョコ作り自体、私達をくっつけようとしたこのみちゃんの策略だったらしい。
私が琉生くんにあげるためのチョコを作ったと聞いて、浮かれていた琉生くんの様子に誤解した私は、結局それをお父さんにあげてしまったわけだけれど。
「あの時はしばらく落ち込んだなぁ~。手作りチョコをもらえるってすっかり期待してた分、落ち方がひどかったんだよね」
「もう。だから、今作ってあげてるでしょ!? 失敗したのを食べたくなかったら、ちょっと離れてて!」
そう。
琉生くんは今、絶賛チョコ作り中のわたしの背中に張り付いて、お腹に手までまわしているのである。作りにくいったらない。
「失敗してもいい。咲璃が作ってくれたチョコなら、石みたいに固くても美味しく食べられる自信がある」
なんてことを言うのか。
私は確かに器用な方ではないけれど、さすがに石みたいなチョコなんて作らないよ。お父さんも、美味しいって言ってくれてたんだからね!
「ねぇ。ちょっと味見したいな」
そう言って、琉生くんがボウルの中で溶けたチョコに指をつけた。
「あっ、もう。琉生く……?」
そしてなぜか、それを私の口へと運んだ。
味見したいと言っておいて、どうして私に食べさせるのだろうと目を瞬くと、その一瞬のうちに彼の顔が目の前に迫り、ぺろりと唇を舐められてしまった。
「ん……っ!?」
「ふふ、甘い。もっと食べたいな……」
「んぅっ、る、琉生く、ん……っ」
そう言って琉生くんは、私の口の中のチョコがなくなっても、甘い口づけをなかなか止めようとはしなかった。
しばらく放置されたチョコは、結局分離してしまってあまり美味しくできなかったけれど、琉生くんはとても満足そうにしていたので、まぁいいかと思うことにする。
でも、これからはチョコを作る時は、絶対に琉生くんのいない時に作ろうと心に決めた、異世界で初めてのバレンタインだった。
◇◇◇◇◇
思ったより激甘になってしまった後日談でした。
お読みくださりありがとうございました!
翌日、『どうだった!?』とウキウキした様子で聞きにきたこのみちゃんに事の顛末を話すと、この言葉が返ってきた。
「いや、なんでよ。話聞いてた?」
……琉生くんには私じゃない本命がいて、私から手作りチョコなんかもらっても困らせるだけだったんだから、これで正解でしょ?
「もー! 違うのよ~、もー、ああもう……」
なぜか、このみちゃんの語彙力がゼロになってしまっている。
「ああ……こんなことなら、琉生くんにチョコ作ったなんて、教えるんじゃなかった……」
このみちゃんがぼそっと何かを呟いたけれど、わたしはうまく聞き取れなかった。
その日の帰り道、琉生くんを見かけた。
……あれ?なんだか元気がないみたい。
「琉生くん」
「っ、さ、咲璃…お姉ちゃん」
琉生くんはびっくりしている。
「なんで、こんな日に限って偶然……」
なんかぶつぶつ言っているけど、よく聞こえない。
……なんだか琉生くんらしくないなあ。本命の子と、何かあったのかな?
「元気ないね? これあげるから、元気出して。昨日渡せなくてごめんね」
そう言って、私はチ○ルチョコを3つ、琉生くんに渡した。結局昨日は何も渡さずに帰ってしまったので、いつものくらいは渡そうと、用意しておいたのだ。
「…………」
琉生くんは、なぜか少し戸惑っているようだった。
……あれ? いつもなら、『ありがとう、咲璃お姉ちゃん!』って、満面の笑みで喜んでくれるのに。
「どうしたの? 琉生くん、これ好きなんだよね? 昨日そう言って……あっ!」
「……昨日?」
琉生くんは訝しげに首を傾げたあと、何かに思い至ったように目を見開いた。
「う、ううん。なんでもない。あの、それじゃ、元気出してね!」
私はこれ以上余計なことを言う前に、そそくさと退散した。盗み聞きしてたとか、バレたら恥ずかしい。
「あ、あぁ~~~~~、昨日、そういうこと……あああああ~! 僕のバカ!!」
琉生くんがそう叫んでいたことなんて、自分のことでいっぱいいっぱいになっていた私は、知る由もなかった。
◇
「えー。じゃあ、あの時の手作りチョコは、結局おじさんに渡したってこと?」
「そ、そうだよ」
「はぁ……咲璃の初めての手作りチョコ、食べたかったなぁ……。油断して、誤解させるようなところを見せた僕が悪いんだけどさ」
……いや、琉生くんは別に悪くないと思うよ。私が勝手に勘違いしただけだもん。
過去のバレンタインの出来事を、こうして琉生くんと話しているのには、理由がある。
ここ異世界でも暦は元の世界とほとんど変わらない。12月まであるし、1か月はだいたい30日だ。月の呼び方はそれぞれ違うけれど。1月が英語でJanuaryって言うみたいに。
そして今日は、2月14日だ。
この世界にバレンタインはないけれど、チョコはある。それを知っている琉生くんからバレンタインチョコのおねだりがあったので、今は過去の記憶を一生懸命掘り起こしながら、チョコ作りに奮闘中というわけである。
「まさか、このみちゃんと琉生くんが仲良しだったなんて……」
「仲良しとかではないよ。僕の気持ちを察して、咲璃とのことを応援してくれるいい人だとは思ってたけど」
二人が繋がっていて、このみちゃんが琉生くんに情報を渡していたなんて、夢にも思っていなかった。なんならあのチョコ作り自体、私達をくっつけようとしたこのみちゃんの策略だったらしい。
私が琉生くんにあげるためのチョコを作ったと聞いて、浮かれていた琉生くんの様子に誤解した私は、結局それをお父さんにあげてしまったわけだけれど。
「あの時はしばらく落ち込んだなぁ~。手作りチョコをもらえるってすっかり期待してた分、落ち方がひどかったんだよね」
「もう。だから、今作ってあげてるでしょ!? 失敗したのを食べたくなかったら、ちょっと離れてて!」
そう。
琉生くんは今、絶賛チョコ作り中のわたしの背中に張り付いて、お腹に手までまわしているのである。作りにくいったらない。
「失敗してもいい。咲璃が作ってくれたチョコなら、石みたいに固くても美味しく食べられる自信がある」
なんてことを言うのか。
私は確かに器用な方ではないけれど、さすがに石みたいなチョコなんて作らないよ。お父さんも、美味しいって言ってくれてたんだからね!
「ねぇ。ちょっと味見したいな」
そう言って、琉生くんがボウルの中で溶けたチョコに指をつけた。
「あっ、もう。琉生く……?」
そしてなぜか、それを私の口へと運んだ。
味見したいと言っておいて、どうして私に食べさせるのだろうと目を瞬くと、その一瞬のうちに彼の顔が目の前に迫り、ぺろりと唇を舐められてしまった。
「ん……っ!?」
「ふふ、甘い。もっと食べたいな……」
「んぅっ、る、琉生く、ん……っ」
そう言って琉生くんは、私の口の中のチョコがなくなっても、甘い口づけをなかなか止めようとはしなかった。
しばらく放置されたチョコは、結局分離してしまってあまり美味しくできなかったけれど、琉生くんはとても満足そうにしていたので、まぁいいかと思うことにする。
でも、これからはチョコを作る時は、絶対に琉生くんのいない時に作ろうと心に決めた、異世界で初めてのバレンタインだった。
◇◇◇◇◇
思ったより激甘になってしまった後日談でした。
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