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 アランに引きずられるようにギルドを後にすると、近くの路地裏へと入っていく。
 人気がなく、薄暗いこの場所に普通は寄り付かないと思うのだが。……この時間帯なら尚更。
 思いたくはないが……まさか路地裏に連れ込んで集団リンチとかじゃないよな……。い、いや……まさか生徒会長がそんなことするわけが……。
 一度悪い考えが浮かんでいくと、ぶくぶくと気泡のように増えていく。
 周囲の暗さに相まって、自然とネガティブ思考へ陥ってしまう。
 周辺に光魔法でも打ち上げてしまおうかとするが、確実に目立つためここは我慢しよう。
 しかし、一体こんな場所に何の用があるんだ。そして、何故自分も共に行かなくてはならないんだ。
 ……もし本当に集団リンチとかに遭うのならば、ここはもう黙示録を出すしかないな。自分の身を守るためだ。躊躇なんてしてられない。

「着いたぞ。入れ」

 ハッと顔を上げると、目の前にある赤茶の扉が開かれた。
 おずおず中へ入ると、赤い絨毯に煌びやかな照明に彩度が低めの赤いソファーにブラウン色の机。まるでバーのような内装だ。
 その室内には、数人の歳が近い少年たちが屯っていた。

「総長、おかえりなさいっ」

 そのうちの一人の少年がアランに気が付くと、深々と頭を下げた。それに続くかのように、他の少年たちも同じように頭を深々く下げる。
 ……なんだっ!? なんかの組織の舎弟か!?
 突然の光景に唖然としていると、アランに手を引かれ奥の部屋へと連れられて行く。
 半ば強引に部屋には押し込まれると、アランはドカッとソファーに腰を下ろした。

「座れ」
「あ、はい……」

 エリオットは素直にソファーに座る。
 何故この場所に連れてこられたかわからないが、とりあえず刺激をせずに穏便に終わらせよう。そうしたら、きっとすぐに解放してくれるはずだ。
 アランはじっとエリオットを見据えると、口を開く。

「お前、何処のクラスの者だ?」
「…………え?」
「学園の在籍しているクラスだ。お前、あの日学園内の中庭にいただろ」

 ……あ、あの時か。
 アランの言葉の意味が分かり、あの日ことを思い出し始める。散歩をしていた時、偶然出くわしてしまった時のこと。
 一応同じ学園には通っているが今の外見とは違うし……そもそもバレるのは避けるべき。

「いや、俺はあの学園には通っていないんだ」

 勘づかれていないのなら、とにかく否定をしておこう。

「……はぁ?」

 するとアランの表情が一転、まるで怒気を全身に纏わせた猛獣のような表情をする。
 エリオットは、まずいと慌てて弁解を始めた。

「あ、あの時! 俺は迷子で、間違えて入ってしまったんだ!!」
「迷子?」
「そう! のんびりと空中散歩をしていたら迷ってしまって……。まさか、あそこが学園内なんて知らなかったんだ!!」

 そう弁解をすると、アランは

「……そうか。なら、どう探してもお前の情報が学園内の何処にも無かったのは……ふむ、合点がいくな」

 と、一人納得していた。
 どうやら上手くはぐらかすことが出来たようだ。一安心、一安心。

「だが、気を付けろよ。不審者として手配されてしまえば、少なからず尋問を受けることになるからな」
「あぁ、これからは迷い込まないように気を付けるよ」

 含み笑いを見せた刹那、アランは大きくテーブルを叩いた。
 突然の奇行に、エリオットは目を丸くした。
 ……ご乱心か? それとも、疲れているのか? ……生徒会長というのは、案外大変なんだなぁ。
 哀れみを含む視線を向けた。
 ……くそっ……リルが変なことを言うからだ。
 あの時言われた、一目惚れという言葉が脳裏に蘇る。
 この俺様が誰かに一目惚れなんて、するわけないだろ。
 アランは両手で顔を覆うと長嘆息を漏らす。
 とりあえず……もう要件は終わったと言うことだろうか。
 エリオットは確認するかのように、言葉を発する。

「え……と、話は終わりですか?」
「あ? まぁ、そうだな」

  なら早いところ帰ろう。
 もうそろそろ日付も変わる頃合いだし、寮に着いたらすぐ床に就こう。
 足早に退散しようと腰を上げた時、何やら部屋の外が騒がしかった。
 あの少年たちであろう声に、何処か聞いたことのあるような女の声。
 …………ん? 女の、声……。
 嫌な汗が吹き出す。
 どうやら女性の声に敏感になってしまったようだ。どう考えてもいるはずがないというのに、どうしても気配を察知してしまう。思いのほか、かなりの影響を受けているようだ。
 ……そう、いるわけがないのだ。こんな路地裏の奥なんて、普通赴くわけがない。
 次第に声が近付くと、扉が大きく音を立て開かれる。

「アラン様っ!!」
「…………は? アリス……ティア?」
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