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後ろを、振り向きたし暇人。
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「今日はオナガくんにカレンダー付時計塔のカレンダーを確認してもらった時から、2024年9月8日で、そこから数えて2回目の朝だから、2024年9月10日だなー。」1体の石像が、静かにつぶやく。しかし、その声は、動物には、聞こえるが人間には、聞こえない。つい先ほど、日の出を迎えたばかりなので、まだ仄暗い。人口の多い中核都市の中央公園だが、夕方5時30分から朝6時まで、園内に併設された美術館とレストラン、プール、テニスコート、カフェテラスの影響で施錠されている。片手を枕にした格好で寝そべる石像は、ただ自分のみ公園にいることに、孤独を感じ、孤独に酔いしれていた。
「朝焼けにただ1人の我、それもよし。ただ、寝そべり姿よりも立たずんでたらな~。いや、寝そべり姿もオリジナリティーが、あるからやはり我、格好いいかもしれん。」この、ナルシスト全開の悦に入っている石像こそこの物語の主人公、寝そべりし暇人である。
「おはよう!暇人ちゃん!」声を掛けられて、暇人も答える
「ああ、おはよう、ムグリさん。」
暇人の手前の遊歩道には、ジムグリというヘビのムグリさんがいた。暇人にとっては、この公園ではじめて親しくなった友達である。頭に旗が、ついた帽子を被っている。暇人の顔を見て少しムッとしながら、「なんだよ~、がっかりしてるみたいだなー。」すかさず、暇人が答える。
「そんなことはないさ、嬉しいぞ。」 確かに、暇人は公園に自分一人という雰囲気をこわされがっかりしていた。 「まあ、それならいいけども。」ムグリさんは、続けて、「どうせ、暇人ちゃんのことだから、公園に一人の我、格好いいとか、思ってたんでしょ。」
図星をつかれ、ドギマギしながら謝る暇人。「すまん、ムグリさん。」ムグリさんは、呆れ顔で答える。
「まあ、いいよ。いつものことだし。」ふと、何かに気がつき、ムグリさんは、空を見上げ、声を上げる。 「あー、飛行船だー!カッコイイ!」
「何!?どんな、飛行船だ?我からは、見えない!教えてほしい!」確かに、飛行船が暇人の後側の空を、右から左に飛んでいた。ムグリさんは、説明し始めた。
「うんとねー、まず、ボディーは、上が青で下が黄色かな。後、動物のマークが描いてあるね、なんの動物かわかんない。スピードは、ボクちゃんの全速力かな~。あっ、あっ、ビル群に隠れちゃったー。」 ムグリさんから一部始終を聞くと、暇人は、がっかりしながら礼を言い始めた。 「そうかあ、こちら側の空に来て欲しかった。説明、ありがとうムグリさん。」ムグリさんはシッポで、後頭部をかきながら、罰が悪そうに答えた「ううん、説明下手くそでごめんよ~。ボクちゃんだけ楽しんじゃって悪いね。」急にムグリさんは、気まずそうな顔になり、
「あ、あのさ~、暇人ちゃん頼みがあるんだけどさ、夕べも暑くて、寝苦しいかったから、台座下借りていい?」暇人は、気を取り直して、答えた。
「うむ。よかろう。ムグリさん、お休みなさい。」暇人の台座は、ムグリさんによると、暇人の背中側、わずかにムグリさんのみ、はいれるスペースがあり、下の地面と合わせて洞窟のようになっていて昼でも涼しく猛暑の中で寝るのにもってこいらしい。確かにもう、9月だというのに昼も夜も暑い日が続き、暇人のその台座下での二度寝が、ムグリさんの7月から続くルーティンになっていた。 ムグリさんは、嬉しそうに、身体を大きくくねらせ、暇人の背中側にまわり込みながら、
「暇人ちゃん、ありがとう、ヤッホ~い!二度寝、二度寝、おやすみなさい。」 まもなく、クピるる~、クピるる~という音が、聞こえ始めた。
暇人は、静かに呟いた「寝落ち早、今日のいびきは、クピるるでアタリだな。」ムグリさんのいびきは、3種類あり、一番かわいいいびきが、クピるる~だった。
もうすぐ、午前も終わりという頃、一羽の鳥が、暇人の肩にとまり挨拶をした。「おはようございます。ダンナ!」彼が、オナガ鳥のオナガくん、暇人の、頭をもっている肩とは、逆の肩(なぜか、そこだけ凝るらしい。)を肩たたきする代わりに止まって休めるという交換条件で、悪天候と用事以外は、ほぼ毎日暇人のところに来る友達。
「おはよう、オナガくん、でも、もう、こんにちはかな。」指摘されて、オナガくんは、罰が悪そうな顔で、説明した。「エヘヘ、実は、嫁さんと近くのコスモス畑に行ってまして。ちょうど見頃だって言うもんで。」オナガくんには、東京都八王子市生まれで、大人になってからここ、彩角県中宮市に来て同じムレで知り合い、同じ移住してきた仲間で一番、話しが合うということで、結婚した奥さんがいる。オナガくんは、彩角県毎武市出身である。
「うむ、仲がよろしくて結構。早速肩たたきをたのむ。」暇人に、頼まれオナガくんは、喜びいさんで、「ヘーイ。」と返事をすると長い尾で肩をたたき始めた。
一方その頃、台座下で寝ていたムグリさんが、起き出してきて慎重に辺りを警戒しながら、とくに、暇人手前の遊歩道に、人間が来たら身を潜めながら、移動していた、人間に出会うとろくな事がなかった、命を狙われそうになったこともある、ムグリさんなりの処世術だった。
約15分後、肩たたきを終えると、暇人は、小さくて、健気な友達に声をかけた、「ありがとう、オナガくん。」「ヘーイ。」ちょうど、ひょろひょろして、ちゃっかりした友達も、暇人の頭の上に登ってきた。
「ハー、よく寝た。ありがとう暇人ちゃん、オナガくん、こんちは~。」オナガくんも、挨拶した。
「ムグリさん、こんにちは、また、台座下で寝てたんですね。いいなあ、おいらも入りたいけど、頭がつかえちゃってな~。」ひとしきり和気あいあいとしたところで、暇人が、切り出した。
「オナガくん、ムグリさん、満をじして頼みがある!」オナガくんも、ムグリさんもびっくりしたあと、長年の付き合いで、この場合ろくな事になっていないことを思い出してほぼ、同時にめんどくさい表情を作った。暇人は、二人の顔にうろたえつつ食い下がる「おい、まだ内容を行ってないぞ!」「じゃあ、ダンナ、頼みってなんですか?」オナガくんに促され、暇人は、答える。
「うむ、我、『もうひとつの両手』で、1分だけ我の真後ろを見ようと思うので二人に協力してほしい。」
「はーっ、やっぱり。×2」オナガくんと、ムグリさんが、ハモった瞬間だった。暇人は、ふたりの呆れ顔をみながら、慌てて口を挟む、
「しばし議論の前にタイム、我唯一の特技『もうひとつの両手』について、この小説版からの読者の皆さんに我の口から説明したい!」と、次の瞬間にスポーンと、ムグリさんの山の絵が書いてある変な帽子だけがとんだ。
「あっ、ごめん、ごめん。あまりにがっかりなアイデアとその次のナイスアイデアの落差でびっくりして帽子飛んじゃった。ボクちゃんは、『もうひとつの両手』の説明は、暇人ちゃんが、したほうが、いいと思うけど、オナガくんは?」オナガくんも頷きながら、「そうですね、ダンナ、お願いします。でも、なるべく簡単に、お願いします。」オナガくんの許しをえて、暇人は、説明し始めた。
「我の特技『もうひとつの両手』は、凄い集中して両手がほしいと念じると我の頭上にもうひとつ両手ができてものを掴んだり、掴んだものを使うことが、できる。えっ、じゃあ、オナガくんに肩たたきをお願いしないで、自分で、その両手でたたけばいいじゃないかだって?この両手の弱点は、出しただけでもとんでもなく疲れてしまってな、動かすともの凄い疲労がヤバくてな、あんまり使いたくないのだ。以上。」
「ダンナ、お疲れ様です。」「暇人ちゃん、あんがと~。」そして、オナガくんは、暇人を、親が子どもを叱りつけるように睨みつけながら、
「で、ダンナ、本題の後ろを振り向きたいですが、出来れば止めていただきたいんですけど。」早くも、オナガくんから却下の申し出に暇人は、一瞬たじろいだが、暇人も負けじと食い下がる。
「我、かなり『もうひとつの両手』を使いこなせてきて、もはや、達人の域だ。」呆れ顔で、オナガくんがツッコミを入れる。
「達人の域は、ダンナしか使えないから、わからないでしょう。あと、先程、ダンナ自身も出すだけで凄く疲れるって言ったじゃないですか。おおかた台座ごと両手で持ち上げて、ゆっくり一回転したいんでしょうけど、ノンストップ休みなしでやらないとダンナが落ちて壊れたらどうするんですか?」オナガくんに作戦内容を、ほぼ当てられてしまった。しかし、暇人もやっぱり食い下がる。 「確かに台座ごと両手で、我の間を挟んで生えてる2本の植木くん達よりも、高く持ち上げて、ゆっくり、一回転しょう。と思う。大丈夫だ、午前の4時間を使ってイメージトレーニングをしたから、バッチリだ。」と最後は、ドヤ顔を決める暇人なのであった。『なにせ、ダンナはそこから1ミリも動けないからからな~、イメージトレーニングで成功のイメージしか描けないんだよな~、石像だから朝ご飯も、お昼ご飯も、食べなくていいから、本当に、4時間それについやせて、悦にはいってたんだろうな~。』オナガくんは、心の中で、呟いた後、ムグリさんのほうを見る、ちょうどムグリさんも、オナガくんのほうを見て、目が合い二人でどうしょうというふうに、しばらく黙りこんだ後、オナガくんが、切り出した、「よし、ダンナ、今回は、いいですよ。後ろ振り向き作戦。ムグリさんも協力してもらえますか?」「所帯持ちのオナガくんが、いいなら、まあ、ボクちゃんは独身で、とくに予定もないから協力するよ!」オナガくん、ムグリさんの同意を得て暇人は、照れくさそうに、礼を言う。「オナガくん、ムグリさん、感謝。」「でも、ダンナ、危なくなったらストップって言いますから、そしたら止めて下さいね。」「そうだよ、暇人ちゃん、ちゃんと聞いてね。」「うむ。約束する。ストップって言ったら止める。」
こうして、暇人の後ろ振り向き作戦が始まった。そして、一度散開して午後4時30分ふたたび集合することとした。
午後4時15分、ムグリさんとオナガくんは、芸術散策エリアのかなり木が密集して人目につかないルートを一緒に歩いていた。時より、遊歩道方に目をやり、人がいないか確認していく。不意にムグリさんが、切り出す「ごめん、オナガくん。暇人ちゃんが、後ろを振り向きたいっていったの、ボクちゃんのせいかも。」オナガくんが、尋ねる。「どうしてですか?」ムグリさんが、朝の出来事を説明する。「朝ね~、暇人ちゃんとボクちゃんで話してたらね~、暇人ちゃんの後ろをちょうど、飛行船が通ってさ、暇人ちゃんが、見えるところまで来ないで、行っちゃったんだよ。黙っててあげれば、よかったな~って。」オナガくんは、頷きながら、「そうだったんですね。」「まあ、でもダンナのことだから、どこかで振り向きたいって言ったかもしれないから、大丈夫ですよ。ダンナの振り向き作戦に、ムグリさんもいてくれてよかったです。オイラもいて、ムグリさんもいれば、ダンナも無茶しないでしょう?」「オナガくん………、ありがとう。えへへ。よし、暇人ちゃんのもとへ急ごう!」「ヘーイ!」
午後4時30分、暇人の前に、オナガくん、ムグリさんが集まった。
「ダンナ、来ましたよ!」
「暇人ちゃんに頼まれてた、このエリア内に、人がいないことも、オナガくんと確認してきたよ。暇人ちゃんの言う通り美術館に特別展がないから、確かに人がいなかった。」暇人が、うなづく、「うむ、我が浮いているところを見て騒ぎになられたら困るからな。2人ともありがとう。」
「よし、早速、始めよう。」ボワッ
暇人が、そう言いかけたと同時に、目の前に、人間の両手が、現れたこれが暇人の特技『もう一つの両手』だ。「ムグリさん、オナガくん、見ててくれ、ふわふわ~、ぐるーーん、ズシンで決めるからな。」暇人は得意げだ。
「最後のズシンは、暇人ちゃん、自分が重いことの自覚があるんだね。」ムグリさんが、オナガくんに小声で話しかけると、オナガくんも、「そうですね。成功する気、満々だから大丈夫かな~。」心配そうにいった。
暇人は、両手を大きくしたあと、自分を支えている台座の両端を掴み持ちあげようとし始める。しかし、台座はぴくりとも、動かない。
「ぐぬぬ。」暇人は、力を込めるが寝そべっているので、気の毒にもあまりがんばっているように見えない。
「暇人ちゃん、ファイト!」
「ダンナー、ファイト!」
「ぐぬぬ、ぐぬぬ、ぐぬぬ。」
「ぐぬぬ、ぐぬぬ、ぐぬぬ。」
「ぐぬ、はー、ぐぬ、はー。」
15分後、暇人が青ざめ始めた、オナガくんは、暇人の体調を見て、切り出した。
「ダンナ、もうやめましょう。もし、浮いたとしても、もう、体力的に危険です。」
「うー、うむぅ。」暇人は、両手を台座から離してから、両手を消した。暇人の後ろ振り向き作戦は、失敗に終わった。
翌日オナガくんは、暇人のもとに向かいながら、憂鬱になっていた。結局、暇人の体力も限界だったので、挨拶もそこそこに、各々帰ろうという、提案をしたが、暇人のショックな顔が忘れられない。オナガくんは、多分、振り向き作戦は、失敗すると思っていた、というのも暇人が、もう一つの両手を使って普段やっていることが、一人じゃんけんと、道に落ちた、本や雑誌や、新聞(状態がきれいなもの)を拾うくらいだったからなかなか厳しいだろう予想していた。でも、もしかしたら成功するかもしれないと思ったのも事実である。うまくいけば、数少ない楽しみが増えて良いと思った。でも、まさか浮くことすらできなかったとは、思わなかった。あんなに落ち込んでしまうくらいなら反対すればよかったかも暇人を心から慕っているオナガくんにも昨日の結果は、きつかった。だが、そうこうしているうちに、暇人のもとへたどり着く。
オナガくんが、声をかけようとして、いると、すでにムグリさんがいて、暇人と話していた。
「はい、はい、暇人ちゃん元気出して!はーい、暇人ちゃんの頭の上、王冠!」「暇人ちゃん、王様だー!王様気分どう?」暇人の頭の上で、ムグリさんは、確かに王冠になっていた。器用である。陽気なムグリさんの励ましも虚しく、暇人は、泣いていた。涙はでないが、音だけはしく、しく、と聞こえる。
「うむ、ムグリさんありがとう、しくしく、でも、ぜんぜんできなかったことが、つらい、しくしく、台座を掴んで手応えすらなかった。特技と自慢したことが、ぜんぜんできなくてつらかった、しくしく。」そう言って、暇人は、さらに泣き出した。
オナガくんは、なんと励まして、いいかわからず、暇人の足側の植木に止まっていた。ふと、暇人側の空を見上げると、とたんにうれしくなり、声をあげた。
「ダンナー、ムグリさん、飛行船ですよ!」
「えっ、あっ本当だ、昨日と同じ飛行船だ。」ムグリさんが、気がつく。「確かに、青と黄色のラインだな。」「暇人ちゃん、あの動物なんて言うの?」ムグリさんが、暇人に質問する。
「うむ、あれは、ドラゴンだな、実際には、存在しない。人が、想像した架空の生き物だ。」暇人が、答える。
「さすが、ダンナー、もの知りですね。後ろを振り向けないなんてなんてことないですよ。」オナガくんは、ウィンクして、暇人の肩にのる。
「そうだね~、暇人ちゃんのもう一つの特技もの知りのほうが、もっと特技だね。」
「オナガくん、ありがとう。」暇人は、そうだ、自分の特技は、もの知りでもあるなと気を取り直した。
御三方の上空を、ゆっくり飛行船が去っていった。
「朝焼けにただ1人の我、それもよし。ただ、寝そべり姿よりも立たずんでたらな~。いや、寝そべり姿もオリジナリティーが、あるからやはり我、格好いいかもしれん。」この、ナルシスト全開の悦に入っている石像こそこの物語の主人公、寝そべりし暇人である。
「おはよう!暇人ちゃん!」声を掛けられて、暇人も答える
「ああ、おはよう、ムグリさん。」
暇人の手前の遊歩道には、ジムグリというヘビのムグリさんがいた。暇人にとっては、この公園ではじめて親しくなった友達である。頭に旗が、ついた帽子を被っている。暇人の顔を見て少しムッとしながら、「なんだよ~、がっかりしてるみたいだなー。」すかさず、暇人が答える。
「そんなことはないさ、嬉しいぞ。」 確かに、暇人は公園に自分一人という雰囲気をこわされがっかりしていた。 「まあ、それならいいけども。」ムグリさんは、続けて、「どうせ、暇人ちゃんのことだから、公園に一人の我、格好いいとか、思ってたんでしょ。」
図星をつかれ、ドギマギしながら謝る暇人。「すまん、ムグリさん。」ムグリさんは、呆れ顔で答える。
「まあ、いいよ。いつものことだし。」ふと、何かに気がつき、ムグリさんは、空を見上げ、声を上げる。 「あー、飛行船だー!カッコイイ!」
「何!?どんな、飛行船だ?我からは、見えない!教えてほしい!」確かに、飛行船が暇人の後側の空を、右から左に飛んでいた。ムグリさんは、説明し始めた。
「うんとねー、まず、ボディーは、上が青で下が黄色かな。後、動物のマークが描いてあるね、なんの動物かわかんない。スピードは、ボクちゃんの全速力かな~。あっ、あっ、ビル群に隠れちゃったー。」 ムグリさんから一部始終を聞くと、暇人は、がっかりしながら礼を言い始めた。 「そうかあ、こちら側の空に来て欲しかった。説明、ありがとうムグリさん。」ムグリさんはシッポで、後頭部をかきながら、罰が悪そうに答えた「ううん、説明下手くそでごめんよ~。ボクちゃんだけ楽しんじゃって悪いね。」急にムグリさんは、気まずそうな顔になり、
「あ、あのさ~、暇人ちゃん頼みがあるんだけどさ、夕べも暑くて、寝苦しいかったから、台座下借りていい?」暇人は、気を取り直して、答えた。
「うむ。よかろう。ムグリさん、お休みなさい。」暇人の台座は、ムグリさんによると、暇人の背中側、わずかにムグリさんのみ、はいれるスペースがあり、下の地面と合わせて洞窟のようになっていて昼でも涼しく猛暑の中で寝るのにもってこいらしい。確かにもう、9月だというのに昼も夜も暑い日が続き、暇人のその台座下での二度寝が、ムグリさんの7月から続くルーティンになっていた。 ムグリさんは、嬉しそうに、身体を大きくくねらせ、暇人の背中側にまわり込みながら、
「暇人ちゃん、ありがとう、ヤッホ~い!二度寝、二度寝、おやすみなさい。」 まもなく、クピるる~、クピるる~という音が、聞こえ始めた。
暇人は、静かに呟いた「寝落ち早、今日のいびきは、クピるるでアタリだな。」ムグリさんのいびきは、3種類あり、一番かわいいいびきが、クピるる~だった。
もうすぐ、午前も終わりという頃、一羽の鳥が、暇人の肩にとまり挨拶をした。「おはようございます。ダンナ!」彼が、オナガ鳥のオナガくん、暇人の、頭をもっている肩とは、逆の肩(なぜか、そこだけ凝るらしい。)を肩たたきする代わりに止まって休めるという交換条件で、悪天候と用事以外は、ほぼ毎日暇人のところに来る友達。
「おはよう、オナガくん、でも、もう、こんにちはかな。」指摘されて、オナガくんは、罰が悪そうな顔で、説明した。「エヘヘ、実は、嫁さんと近くのコスモス畑に行ってまして。ちょうど見頃だって言うもんで。」オナガくんには、東京都八王子市生まれで、大人になってからここ、彩角県中宮市に来て同じムレで知り合い、同じ移住してきた仲間で一番、話しが合うということで、結婚した奥さんがいる。オナガくんは、彩角県毎武市出身である。
「うむ、仲がよろしくて結構。早速肩たたきをたのむ。」暇人に、頼まれオナガくんは、喜びいさんで、「ヘーイ。」と返事をすると長い尾で肩をたたき始めた。
一方その頃、台座下で寝ていたムグリさんが、起き出してきて慎重に辺りを警戒しながら、とくに、暇人手前の遊歩道に、人間が来たら身を潜めながら、移動していた、人間に出会うとろくな事がなかった、命を狙われそうになったこともある、ムグリさんなりの処世術だった。
約15分後、肩たたきを終えると、暇人は、小さくて、健気な友達に声をかけた、「ありがとう、オナガくん。」「ヘーイ。」ちょうど、ひょろひょろして、ちゃっかりした友達も、暇人の頭の上に登ってきた。
「ハー、よく寝た。ありがとう暇人ちゃん、オナガくん、こんちは~。」オナガくんも、挨拶した。
「ムグリさん、こんにちは、また、台座下で寝てたんですね。いいなあ、おいらも入りたいけど、頭がつかえちゃってな~。」ひとしきり和気あいあいとしたところで、暇人が、切り出した。
「オナガくん、ムグリさん、満をじして頼みがある!」オナガくんも、ムグリさんもびっくりしたあと、長年の付き合いで、この場合ろくな事になっていないことを思い出してほぼ、同時にめんどくさい表情を作った。暇人は、二人の顔にうろたえつつ食い下がる「おい、まだ内容を行ってないぞ!」「じゃあ、ダンナ、頼みってなんですか?」オナガくんに促され、暇人は、答える。
「うむ、我、『もうひとつの両手』で、1分だけ我の真後ろを見ようと思うので二人に協力してほしい。」
「はーっ、やっぱり。×2」オナガくんと、ムグリさんが、ハモった瞬間だった。暇人は、ふたりの呆れ顔をみながら、慌てて口を挟む、
「しばし議論の前にタイム、我唯一の特技『もうひとつの両手』について、この小説版からの読者の皆さんに我の口から説明したい!」と、次の瞬間にスポーンと、ムグリさんの山の絵が書いてある変な帽子だけがとんだ。
「あっ、ごめん、ごめん。あまりにがっかりなアイデアとその次のナイスアイデアの落差でびっくりして帽子飛んじゃった。ボクちゃんは、『もうひとつの両手』の説明は、暇人ちゃんが、したほうが、いいと思うけど、オナガくんは?」オナガくんも頷きながら、「そうですね、ダンナ、お願いします。でも、なるべく簡単に、お願いします。」オナガくんの許しをえて、暇人は、説明し始めた。
「我の特技『もうひとつの両手』は、凄い集中して両手がほしいと念じると我の頭上にもうひとつ両手ができてものを掴んだり、掴んだものを使うことが、できる。えっ、じゃあ、オナガくんに肩たたきをお願いしないで、自分で、その両手でたたけばいいじゃないかだって?この両手の弱点は、出しただけでもとんでもなく疲れてしまってな、動かすともの凄い疲労がヤバくてな、あんまり使いたくないのだ。以上。」
「ダンナ、お疲れ様です。」「暇人ちゃん、あんがと~。」そして、オナガくんは、暇人を、親が子どもを叱りつけるように睨みつけながら、
「で、ダンナ、本題の後ろを振り向きたいですが、出来れば止めていただきたいんですけど。」早くも、オナガくんから却下の申し出に暇人は、一瞬たじろいだが、暇人も負けじと食い下がる。
「我、かなり『もうひとつの両手』を使いこなせてきて、もはや、達人の域だ。」呆れ顔で、オナガくんがツッコミを入れる。
「達人の域は、ダンナしか使えないから、わからないでしょう。あと、先程、ダンナ自身も出すだけで凄く疲れるって言ったじゃないですか。おおかた台座ごと両手で持ち上げて、ゆっくり一回転したいんでしょうけど、ノンストップ休みなしでやらないとダンナが落ちて壊れたらどうするんですか?」オナガくんに作戦内容を、ほぼ当てられてしまった。しかし、暇人もやっぱり食い下がる。 「確かに台座ごと両手で、我の間を挟んで生えてる2本の植木くん達よりも、高く持ち上げて、ゆっくり、一回転しょう。と思う。大丈夫だ、午前の4時間を使ってイメージトレーニングをしたから、バッチリだ。」と最後は、ドヤ顔を決める暇人なのであった。『なにせ、ダンナはそこから1ミリも動けないからからな~、イメージトレーニングで成功のイメージしか描けないんだよな~、石像だから朝ご飯も、お昼ご飯も、食べなくていいから、本当に、4時間それについやせて、悦にはいってたんだろうな~。』オナガくんは、心の中で、呟いた後、ムグリさんのほうを見る、ちょうどムグリさんも、オナガくんのほうを見て、目が合い二人でどうしょうというふうに、しばらく黙りこんだ後、オナガくんが、切り出した、「よし、ダンナ、今回は、いいですよ。後ろ振り向き作戦。ムグリさんも協力してもらえますか?」「所帯持ちのオナガくんが、いいなら、まあ、ボクちゃんは独身で、とくに予定もないから協力するよ!」オナガくん、ムグリさんの同意を得て暇人は、照れくさそうに、礼を言う。「オナガくん、ムグリさん、感謝。」「でも、ダンナ、危なくなったらストップって言いますから、そしたら止めて下さいね。」「そうだよ、暇人ちゃん、ちゃんと聞いてね。」「うむ。約束する。ストップって言ったら止める。」
こうして、暇人の後ろ振り向き作戦が始まった。そして、一度散開して午後4時30分ふたたび集合することとした。
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「暇人ちゃんに頼まれてた、このエリア内に、人がいないことも、オナガくんと確認してきたよ。暇人ちゃんの言う通り美術館に特別展がないから、確かに人がいなかった。」暇人が、うなづく、「うむ、我が浮いているところを見て騒ぎになられたら困るからな。2人ともありがとう。」
「よし、早速、始めよう。」ボワッ
暇人が、そう言いかけたと同時に、目の前に、人間の両手が、現れたこれが暇人の特技『もう一つの両手』だ。「ムグリさん、オナガくん、見ててくれ、ふわふわ~、ぐるーーん、ズシンで決めるからな。」暇人は得意げだ。
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暇人は、両手を大きくしたあと、自分を支えている台座の両端を掴み持ちあげようとし始める。しかし、台座はぴくりとも、動かない。
「ぐぬぬ。」暇人は、力を込めるが寝そべっているので、気の毒にもあまりがんばっているように見えない。
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「ぐぬぬ、ぐぬぬ、ぐぬぬ。」
「ぐぬぬ、ぐぬぬ、ぐぬぬ。」
「ぐぬ、はー、ぐぬ、はー。」
15分後、暇人が青ざめ始めた、オナガくんは、暇人の体調を見て、切り出した。
「ダンナ、もうやめましょう。もし、浮いたとしても、もう、体力的に危険です。」
「うー、うむぅ。」暇人は、両手を台座から離してから、両手を消した。暇人の後ろ振り向き作戦は、失敗に終わった。
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オナガくんが、声をかけようとして、いると、すでにムグリさんがいて、暇人と話していた。
「はい、はい、暇人ちゃん元気出して!はーい、暇人ちゃんの頭の上、王冠!」「暇人ちゃん、王様だー!王様気分どう?」暇人の頭の上で、ムグリさんは、確かに王冠になっていた。器用である。陽気なムグリさんの励ましも虚しく、暇人は、泣いていた。涙はでないが、音だけはしく、しく、と聞こえる。
「うむ、ムグリさんありがとう、しくしく、でも、ぜんぜんできなかったことが、つらい、しくしく、台座を掴んで手応えすらなかった。特技と自慢したことが、ぜんぜんできなくてつらかった、しくしく。」そう言って、暇人は、さらに泣き出した。
オナガくんは、なんと励まして、いいかわからず、暇人の足側の植木に止まっていた。ふと、暇人側の空を見上げると、とたんにうれしくなり、声をあげた。
「ダンナー、ムグリさん、飛行船ですよ!」
「えっ、あっ本当だ、昨日と同じ飛行船だ。」ムグリさんが、気がつく。「確かに、青と黄色のラインだな。」「暇人ちゃん、あの動物なんて言うの?」ムグリさんが、暇人に質問する。
「うむ、あれは、ドラゴンだな、実際には、存在しない。人が、想像した架空の生き物だ。」暇人が、答える。
「さすが、ダンナー、もの知りですね。後ろを振り向けないなんてなんてことないですよ。」オナガくんは、ウィンクして、暇人の肩にのる。
「そうだね~、暇人ちゃんのもう一つの特技もの知りのほうが、もっと特技だね。」
「オナガくん、ありがとう。」暇人は、そうだ、自分の特技は、もの知りでもあるなと気を取り直した。
御三方の上空を、ゆっくり飛行船が去っていった。
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※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
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