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4話 行き過ぎた執念
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4話 行き過ぎた執念
ひろみは、絵里をフォローしたアカウントで、美容に関する投稿をすることに決めた。そう決めたものの、美容系のインフルエンサーは人気の差はあれど星の数ほど多く、絵里を出し抜く前に、大きな壁が立ちはだかり、投稿するにも躊躇していた。
また、ひろみがインフルエンサーについてリサーチするなかで、彼女達は自分を美しく魅せる工夫はもちろんのことだが、写真であれば見栄えのする加工、動画であればテレビと見間違うほどの高度な編集がなされていることもわかった。これも、ひろみが投稿できない原因の一つであった。
(写真や動画を加工するのは、専用のアプリがあるからいいとしても、綺麗に魅せる写真や映像ってなかなか難しいのよね…。)
自身のスマートフォンで写真や動画を何度か撮ってみたが、撮った瞬間は良いと思っても、後で見返すと色々と課題点が見つかる。これでは多くの投稿に埋もれてしまう、そう思うと、なかなか投稿に踏み切れず、一方で絵里の活躍を目にしたり、成川や清水がもてはやす声を聞く度に焦燥感が襲った。
(…完全に弱気になってるわね。だめ、これじゃ。絶対にあの女より注目される人間になってやるんだから。)
ひろみの絵里への対抗心は、「自分にインフルエンサーは無理かもしれない」と思わせる弱気を凌駕し、さらにリサーチを進めていった。そんなひろみの目に留まったのは、ある動画投稿者が、『映像を綺麗にみせるポイント3選』という題目で商品紹介をしている動画だった。
その動画を見てみると、これもまたテレビ局でも使われているのではないかと思われるような機材、道具が紹介されていた。
(なるほど…、みんなこういうのを使っているわけね。ちょっと値は張るけど、あいつを抜くためなら何だってやってやるわ。)
ひろみは早速通販サイトを開き、動画で紹介されていた商品や機材を買い漁った。結局会計は5万を超えるものとなったが、ひろみは躊躇なく購入ボタンを押した。これで、自分と同じジャンルで活躍する人間達に対抗できると思うと、ひろみにとって金額などは瑣末な問題だった。
時計は15時を指しており、弘明を迎えに行くための準備をし、幼稚園へ向かった。幼稚園で子どもを出迎えると今日も、絵里を中心に成川や清水が、絵里の投稿を話題に盛り上がっていたが、その盛り上がりがいずれ、自分に向けられると思うと、以前まで湧きあがっていた対抗心やイライラは顔を出すことなく、ニコニコと受け流すことができた。
「ママー」
「ん?どうしたの?」
「ううん、今日、ママにこにこしてて楽しそう!」
「そうなの、すごく良いことがあったのよ。」
「本当!?どんなこと??」
「まだ内緒。またお話ししてあげるからね。」
「えー早く知りたいよう。」
弘明は何があったのか教えろとしつこく迫ったが、弘明に説明してもわからないだろうと思い、ひろみは話さなかった。
(弘明はともかく、敏明さんへの説明は考えておかないといけないわね。色々買っちゃったし…)
敏明への言い訳をどうしようか、と考えつつ、帰宅後にはいつもの弘明のお勉強、それが終わると夕飯の準備に洗濯に、と家事をこなしていると玄関から夫の帰宅を知らせる音が聞こえてきた。
「パパー!おかえりなさい!」
「ただいま、弘明。今日も良い子にしてたかー?」
「うん!今日はママと、『かんじ』のお勉強をしたよ!」
「勉強も頑張ってて偉いな。勉強は楽しいかい?」
「楽しい!上手に書けると、ママがたくさん褒めてくれて嬉しいから!」
ひろみの負けず嫌いな性格は、そっくり弘明にも遺伝したようだと敏明はくすくすと笑った。
「まだ、岡田の『田』の字しか覚えてないけどね。」
「十分じゃないか。偉いぞー、弘明!」
「僕、たくさん練習したんだよ!みてみて!」
弘明は、仕事から帰って疲れているであろう父親の腕を引っ張って子供部屋に連れて行き、自分の練習した紙の量を見せては誇らしげな顔をしていた。
「これだけ画用紙に同じ文字ばかり書かれてると、ちょっと不気味だけどね。」
ひろみは、少し困ったような顔をして笑った。敏明も同感だというように困り顔で笑いながらも、息子が幼稚園から帰宅した後の努力を目一杯褒めた。
いつもの日課を終えると、ひろみはそろそろ、敏明に打ち明けなければならないことをどう切り出すか、リビングで沈思黙考していた。
(弘明がやることと同じで、私がやりたいって言ったことについても、あの人は基本的に否定はしないだろうけど…。機材にも費用がかかってしまったし、とにかく説得しないと…。いえ、あの女と同じかそれより注目される存在になれれば、機材の費用どころか、家計の収入とすることもできる。そこを強調すれば…)
そうこう考えているうちに、弘明をしっかり寝かしつけた敏明が、リビングに戻り、お茶を2杯分準備してもってきた。
「ほら、ひろみ。」
「ありがとう。…ねぇ、あなた。私、ちょっとやってみたいことがあるの。」
「君もわかりやすい性格だから、何かあるとは思ってたよ。」
ここ数日、敏明はひろみが何かとスマートフォンを開いては検索し、動画を見たり、写真を見たりしていた。その時は決まって、話しかけてもほぼ上の空。生返事はしてくるものの、夫の言葉は脳内に残っていないことが見るからにあきらかな様子であった。
「…まず、これを見て欲しいんだけど。」
「これは…、SNS?手作りのものを投稿してる人もいるんだね。」
「内容はともかく、ここ見て。いろんな人が反応してるでしょう。たくさんコメントがついてたりとか、コメントはなくても、評価数が多かったり。」
「ああ、なんだっけ、今流行りの…、インフルなんとか、とかいう。」
「インフルエンサー。影響力のある人、という意味で使われてるらしいわ。…私、これになりたいの。」
「インフルエンサーって、なろうと思ってなれるものなのかい?」
「このSNS、実は私のママ友の1人なんだけど、最初は旦那さんに勧められて、軽い気持ちで投稿してたそうよ。初めはそこまで注目されてなかったんだけど、この投稿から一気に注目されるようになったの。」
ひろみは、タイムラインを遡り、絵里が投稿したレジンの作品を見せた。
「これはすごいなぁ。こんなものまで手作りでできるんだね。」
「前に敏明さん、化粧品や美容液のことについて聞いてくれたでしょう?あれでピンときたの。私ももう30代折り返しだけど、この化粧品や美容液を使ってますとか、ちょっとしたコツなんかも動画で紹介すれば、注目してもらえるんじゃないかって。」
「なるほどね…。」
「もちろん、家事や弘明のことを疎かにしたりなんかしないわ。それに、もし私も注目されるようになっていったら、企業から『宣伝してほしい』っていうオファーがくるようになるの。それがちょっとした収入にもなるし、家計の足しにもできるわ。…敏明さん。」
「君の気持ちはわかったよ。さっき君が言ったように、家事や弘明のことを疎かにしない、って約束してくれるなら、君のやりたいようにやったらいいと思う。」
「本当!?ありがとう、あなた!」
敏明は、目の前で喜んでいる妻を見て、内心小さなため息をついた。
(僕にここまで熱弁するってことは、もうひろみの中で動き出してるってことだろうし…。まぁ、度が過ぎたことをしなければいいかな。)
「君の話を聞くに、美容系のことを投稿するってことだよね?」
「ええ、そうよ。私が毎日使ってるものから、年齢を重ねるごとに使ってみて良いと思ったものを紹介する動画や写真を投稿するの。」
「ってことは、弘明がSNSに出ることはないね?君自身の顔がSNS上に出てしまうことは、君自身覚悟しているところだろうけど、弘明を写して投稿する、ってことは辞めて欲しいんだ。」
「もちろん、そんなことはしないわ。約束する。」
息子の肖像権が守られることを確認できた敏明はほっと安堵し、じゃあ今日も遅いから休もう、とまだ興奮気味の妻に声をかけ、寝室に誘導していった。
「敏明さん、見てて。私、絶対誰からも注目されるインフルエンサーになってやるから。」
「うん、頑張って。…僕としては、僕と弘明さえ君を見てたら良いと思ってるんだけどなぁ。」
「それは嬉しいけど、ママ友の1人がああやって注目されてるのを見てたら、私だってって思ったのよ。」
「君の負けず嫌いで頑張り屋な性格が刺激されたんだね。あまり、無理し過ぎたらダメだよ。」
「大丈夫よ、ありがとう。…じゃあ、おやすみ。」
「おやすみ。」
ひろみは、SNSに写真や動画を投稿するために購入した機材が届くまでに、敏明を説得できたことに安堵し、敏明の言う通り、負けず嫌いな性格から生み出される対抗心がさらに強くなっていた。
(あと数日したら、機材が届く。届き次第、使い方を覚えて、できればその日のうちに一回くらいは投稿したいわね…。)
敏明と弘明がすっかり夢の中に入っていった傍で、ひろみは機材が届いてからの計画を頭の中で何通りも考え続け、いつの間にか睡魔に負けて眠っていた。
次の日、いつものように朝の家事を行い、夫を見送った後、弘明を幼稚園へ送りにいった。
「あら、おはよう、岡田さん。」
「おはよう、成川さん。…あら、清水さんと林さんは?」
「今日はまだ見てないのよ、もう少ししたら来るかと思ってたんだけど…、ああ、2人とも来た来た、おはよう!」
そこには、絵里と清水が子どもを連れて登園する姿があった。清水は少し、深刻そうな顔をしている。絵里と清水の子どもはそのまま職員に預けられ、お母さん4人だけとなった。
「どうしたの、清水さん。何かあったの?」
ひろみは清水に聞いてみると、絵里が口を開いた。
「それがね…、前に清水さんのお子さんに、レジンで作ったキーホルダーをあげたの。お子さんも気に入ってくれて、カバンに大事そうにつけてたんだけど、例のお子さんに取られて傷つけられたらしくって…。それを、朝に私の家に来て謝りに来てくれたの。」
「…本当に、ごめんなさい。林さん。せっかく作ってもらったのに…。」
「清水さんは何も悪くないじゃない!例のお子さんのせいでしょ。」
朝から興奮気味に、成川は清水の無罪を叫ぶ。ひろみもそれに呼応するように起こり始めた。例のお子さん、というのは、以前から4人の間で話題になっている、青山の子どものことだった。4人は外で雑談することが多く、名字で呼ぶのも憚られるため、「例のお子さん」と呼ぶようになった。
「そうよ、清水さんもお子さんも悪くないわ!…というか、最近の素行、ますます酷くなってるわね。やっぱり、職員の先生か、園長に言った方がいいわよ。」
「…最近は、私もそう考えてるのよね。初めは、子どもがやっちゃったことだし、喧嘩や諍いくらいあると思って言い聞かせてたんだけど…。林さんに作ってもらったキーホルダーが壊れちゃったって、泣きそうになってるうちの子見てたら…。」
「うちの弘明も、あれからぶつかられたりとかはないけど、例のお子さん見ると怖がるのよ。ねぇ、3人ともこの後、お時間あるかしら。ちょっと作戦会議しない?今はうちの子と、清水さんのお子さんが被害を受けてるけど、いずれ成川さんや林さんのお子さんにも被害が及ぶかもしれないわ。」
「…そうね。そう考えると怖くなってきたわ。」
「園長先生に言うのか、先生方に言うのかはともかく、何か対応策は用意しておいてもいいかもしれないわね。私も賛成、行きましょう。」
4人は、例のお子さんとその母親に対抗すべく、幼稚園近くにあるカフェに入り、文字通り作戦会議が始まった。青山親子から受けている被害状況、その被害に対する保護者の対応、そしてここでまとまった話を誰に陳情すべきか、というところまで、綿密に話を詰めていった。
4人で話をしてみると、青山の子どもは、ひろみや清水の子どもだけでなく、他の子どもにも加害しているという状況が見えてきた。清水はもちろんのこと、成川も段々と青山親子への怒りが増していき、会議はヒートアップしていった。
「もう、これは決まりね。先生から陳情して、とも考えてたけど、園長先生に直訴するしかないわ。」
ひろみの言葉に呼応するように、清水と成川は同調した。しかし、絵里だけはこの会議を冷静に見ていた。
「ちょっと待って。岡田さんのお子さんや、清水さんのお子さんが被害を受けたってところは事実だと思うからいいとしても、他の子どもが被害を受けたって話は、実際に見たわけではないのよね?」
「ええ…、でも、火のないところに煙は立たないでしょう。何かしでかしてることは明らかだと思う。」
「そうだとしても、お二人のお子さんが被害を受けたって話を、幼稚園側に真剣に聞いてもらうためにも、不確定な話まで織り込むべきじゃないわ。岡田さんだって、弘明くんの被害を軽く見られるような対応は取られたくないでしょう?」
ひろみは痛いところを突かれ、まぁ、確かに…、と返すしかなかった。
「だとしたら、まずは清水さんのお子さんと、岡田さんのお子さんが被害を受けたってことを、幼稚園側に知ってもらいましょう。まずはそこからよ。幼稚園の先生に現場を知ってもらった後は、岡田さんと清水さんのお子さんは、もう釘を刺されるまでもないかもしれないけど、念のため例のお子さんには近づかないように、って言い聞かせて様子を見ましょう。それが、一番だと思う。」
絵里の提案に、3人はヒートアップした頭に冷水を被ったように落ち着き、その提案にのっかることにした。
「じゃあ、そうと決まれば、今から幼稚園に電話をしてみるわ。善は急げ、よ。先生に話を今からでも聞いてもらえそうか、電話で聞いてみるわ。」
ひろみはその場で幼稚園に電話をかけ、幼稚園教諭を束ねている班長(上席の者ではないらしい)に取り次いでもらえることとなった。それを聞いた4人は、すぐに幼稚園に戻り、職員室へ足を運んだ。
「先ほどお電話いたしました、岡田ですけれども。」
「岡田様ですか、先ほどお電話で対応させていただきました者です。今、班長を呼んで参りますので、こちらでお待ちください。」
4人は、応接室のような部屋に通され、ソファに腰掛けてしばし待機していた。すると、女性のベテラン職員が失礼いたします、と丁寧な口調で部屋に入ってきた。
「お待たせいたしまして、申し訳ございません。私、あお組、みどり組、むらさき組の教員の監督をしております、佐伯と申します。」
「岡田と申します。いつも、息子がお世話になっております。」
ひろみを皮切りに、他の3人も簡単な挨拶を済ませ、早速本題に入った。
「佐伯先生は、あお組の監督もされていると仰っておられましたが、あお組にいる青山さんのことはご存知でいらっしゃいます?」
「青山様ですか…。」
佐伯は、少し顔を暗くし、口どりが重たくなった。
「そのご様子ですと、色々と話をお聞きになられてるということですか?」
「うちの弘明も、青山さんのお子さんにぶつかられて、子どももそのまま去っていったと思ったら、お母様まで何も言わずに知らんふりされていったんです。」
「う、うちの子どもも…、青山さんとこのお子さんに、キーホルダーを取られて、昨日泣いて帰ってきたんです。」
ひろみと清水の訴えに、佐伯も腹を括った様子で、重い口を開いた。
「…個人の情報に関わることですので、詳細はお話しできませんが、今岡田様や、清水様が仰ったようなお話は、実は何件か耳にしております。あお組の教員も2人体制で、特に目を光らせてはおりますが…」
「幼稚園としての対応としては、今後どうされるおつもりですの?」
「職員も青山様と話をしようと試みておりますが、お子さんを迎え入れると、こちらの呼びかけにもお答えしてもらえずにそのままお帰りになってしまいます。園長もこの件については存じ上げておりますので、これ以上お話ができないようでしたら、残念ですが、退園も視野に入れて対応させていただこうと考えております。」
「清水さんのお子さんは、もう被害を受けているんですよ?それでも退園させられないのですか!?」
「岡田さん、落ち着いて。」
絵里は、話し合いの中で再びヒートアップしていくひろみを宥めた。
「青山さんのことは、園長先生をはじめ、佐伯先生もその他の先生も、状況はご存知でいらっしゃると言うことですよね。そして、青山さんとお話をしようとしてもできない状況から、退園も視野に入れて対応を検討してくださっているんですよね。」
「はい、林様の仰る通りでございます。
佐伯は、保護者側に理解者がいると感じたのか、少しホッとした様子を見せた。絵里は、今度は3人に向かって話しかける。
「…ねぇ、カフェで話してたこと忘れた?幼稚園の先生たちは、青山さんとお子さんのことを知らないかもしれない、だから陳情しに行こうって話だったでしょう。それが、幼稚園の園長先生まで状況をご存知で、事態が好転しないなら、退園も視野に入れて対応するとまで仰ってくれてる。それなら後私たちにできることは、私たちの子どもに、青山さんとこのお子さんに気をつけるように、言い聞かせて、被害が出ないように対策しましょう。」
「もちろん、これから青山様のお子様から被害を受けたということがあれば、園に報告をいただいても差し支えありません。こちらでも、幼稚園に安心して通っていただけるよう、尽力いたしますので、どうかご理解ください。」
ひろみはすっかり立つ瀬がなくなり、不満ながらも、わかったわよ、と呟くように言った。
4人と佐伯の話は今後の対応策について、進展があった場合は報告をすること、また、4人それぞれの子どもに何かあった際には幼稚園に報告してもらいたい、という佐伯の提案を飲むことになり、その日はお開きとなった。
ひろみは、3人が幼稚園が内情を把握していて、対応を検討してくれているなら、ひとまず安心だ、と胸を撫で下ろしている様子に内心苛立っていた。
(またこの女がいい子ぶって、この話を丸めてしまったわ…。こんな日和見主義で、弘明に次何かあったら、絶対許さないんだから…)
「岡田さん!また、お迎えの時間に会いましょう!」
絵里のその一言をきっかけに、4人は解散した。
ひろみの中で絵里の存在は、ライバルを通り越して憎しみの対象となっていた。
(…今は、私よりも目立ってても許してあげる。けど、私がインフルエンサーとして有名になった日には…。)
ひろみは、絵里をフォローしたアカウントで、美容に関する投稿をすることに決めた。そう決めたものの、美容系のインフルエンサーは人気の差はあれど星の数ほど多く、絵里を出し抜く前に、大きな壁が立ちはだかり、投稿するにも躊躇していた。
また、ひろみがインフルエンサーについてリサーチするなかで、彼女達は自分を美しく魅せる工夫はもちろんのことだが、写真であれば見栄えのする加工、動画であればテレビと見間違うほどの高度な編集がなされていることもわかった。これも、ひろみが投稿できない原因の一つであった。
(写真や動画を加工するのは、専用のアプリがあるからいいとしても、綺麗に魅せる写真や映像ってなかなか難しいのよね…。)
自身のスマートフォンで写真や動画を何度か撮ってみたが、撮った瞬間は良いと思っても、後で見返すと色々と課題点が見つかる。これでは多くの投稿に埋もれてしまう、そう思うと、なかなか投稿に踏み切れず、一方で絵里の活躍を目にしたり、成川や清水がもてはやす声を聞く度に焦燥感が襲った。
(…完全に弱気になってるわね。だめ、これじゃ。絶対にあの女より注目される人間になってやるんだから。)
ひろみの絵里への対抗心は、「自分にインフルエンサーは無理かもしれない」と思わせる弱気を凌駕し、さらにリサーチを進めていった。そんなひろみの目に留まったのは、ある動画投稿者が、『映像を綺麗にみせるポイント3選』という題目で商品紹介をしている動画だった。
その動画を見てみると、これもまたテレビ局でも使われているのではないかと思われるような機材、道具が紹介されていた。
(なるほど…、みんなこういうのを使っているわけね。ちょっと値は張るけど、あいつを抜くためなら何だってやってやるわ。)
ひろみは早速通販サイトを開き、動画で紹介されていた商品や機材を買い漁った。結局会計は5万を超えるものとなったが、ひろみは躊躇なく購入ボタンを押した。これで、自分と同じジャンルで活躍する人間達に対抗できると思うと、ひろみにとって金額などは瑣末な問題だった。
時計は15時を指しており、弘明を迎えに行くための準備をし、幼稚園へ向かった。幼稚園で子どもを出迎えると今日も、絵里を中心に成川や清水が、絵里の投稿を話題に盛り上がっていたが、その盛り上がりがいずれ、自分に向けられると思うと、以前まで湧きあがっていた対抗心やイライラは顔を出すことなく、ニコニコと受け流すことができた。
「ママー」
「ん?どうしたの?」
「ううん、今日、ママにこにこしてて楽しそう!」
「そうなの、すごく良いことがあったのよ。」
「本当!?どんなこと??」
「まだ内緒。またお話ししてあげるからね。」
「えー早く知りたいよう。」
弘明は何があったのか教えろとしつこく迫ったが、弘明に説明してもわからないだろうと思い、ひろみは話さなかった。
(弘明はともかく、敏明さんへの説明は考えておかないといけないわね。色々買っちゃったし…)
敏明への言い訳をどうしようか、と考えつつ、帰宅後にはいつもの弘明のお勉強、それが終わると夕飯の準備に洗濯に、と家事をこなしていると玄関から夫の帰宅を知らせる音が聞こえてきた。
「パパー!おかえりなさい!」
「ただいま、弘明。今日も良い子にしてたかー?」
「うん!今日はママと、『かんじ』のお勉強をしたよ!」
「勉強も頑張ってて偉いな。勉強は楽しいかい?」
「楽しい!上手に書けると、ママがたくさん褒めてくれて嬉しいから!」
ひろみの負けず嫌いな性格は、そっくり弘明にも遺伝したようだと敏明はくすくすと笑った。
「まだ、岡田の『田』の字しか覚えてないけどね。」
「十分じゃないか。偉いぞー、弘明!」
「僕、たくさん練習したんだよ!みてみて!」
弘明は、仕事から帰って疲れているであろう父親の腕を引っ張って子供部屋に連れて行き、自分の練習した紙の量を見せては誇らしげな顔をしていた。
「これだけ画用紙に同じ文字ばかり書かれてると、ちょっと不気味だけどね。」
ひろみは、少し困ったような顔をして笑った。敏明も同感だというように困り顔で笑いながらも、息子が幼稚園から帰宅した後の努力を目一杯褒めた。
いつもの日課を終えると、ひろみはそろそろ、敏明に打ち明けなければならないことをどう切り出すか、リビングで沈思黙考していた。
(弘明がやることと同じで、私がやりたいって言ったことについても、あの人は基本的に否定はしないだろうけど…。機材にも費用がかかってしまったし、とにかく説得しないと…。いえ、あの女と同じかそれより注目される存在になれれば、機材の費用どころか、家計の収入とすることもできる。そこを強調すれば…)
そうこう考えているうちに、弘明をしっかり寝かしつけた敏明が、リビングに戻り、お茶を2杯分準備してもってきた。
「ほら、ひろみ。」
「ありがとう。…ねぇ、あなた。私、ちょっとやってみたいことがあるの。」
「君もわかりやすい性格だから、何かあるとは思ってたよ。」
ここ数日、敏明はひろみが何かとスマートフォンを開いては検索し、動画を見たり、写真を見たりしていた。その時は決まって、話しかけてもほぼ上の空。生返事はしてくるものの、夫の言葉は脳内に残っていないことが見るからにあきらかな様子であった。
「…まず、これを見て欲しいんだけど。」
「これは…、SNS?手作りのものを投稿してる人もいるんだね。」
「内容はともかく、ここ見て。いろんな人が反応してるでしょう。たくさんコメントがついてたりとか、コメントはなくても、評価数が多かったり。」
「ああ、なんだっけ、今流行りの…、インフルなんとか、とかいう。」
「インフルエンサー。影響力のある人、という意味で使われてるらしいわ。…私、これになりたいの。」
「インフルエンサーって、なろうと思ってなれるものなのかい?」
「このSNS、実は私のママ友の1人なんだけど、最初は旦那さんに勧められて、軽い気持ちで投稿してたそうよ。初めはそこまで注目されてなかったんだけど、この投稿から一気に注目されるようになったの。」
ひろみは、タイムラインを遡り、絵里が投稿したレジンの作品を見せた。
「これはすごいなぁ。こんなものまで手作りでできるんだね。」
「前に敏明さん、化粧品や美容液のことについて聞いてくれたでしょう?あれでピンときたの。私ももう30代折り返しだけど、この化粧品や美容液を使ってますとか、ちょっとしたコツなんかも動画で紹介すれば、注目してもらえるんじゃないかって。」
「なるほどね…。」
「もちろん、家事や弘明のことを疎かにしたりなんかしないわ。それに、もし私も注目されるようになっていったら、企業から『宣伝してほしい』っていうオファーがくるようになるの。それがちょっとした収入にもなるし、家計の足しにもできるわ。…敏明さん。」
「君の気持ちはわかったよ。さっき君が言ったように、家事や弘明のことを疎かにしない、って約束してくれるなら、君のやりたいようにやったらいいと思う。」
「本当!?ありがとう、あなた!」
敏明は、目の前で喜んでいる妻を見て、内心小さなため息をついた。
(僕にここまで熱弁するってことは、もうひろみの中で動き出してるってことだろうし…。まぁ、度が過ぎたことをしなければいいかな。)
「君の話を聞くに、美容系のことを投稿するってことだよね?」
「ええ、そうよ。私が毎日使ってるものから、年齢を重ねるごとに使ってみて良いと思ったものを紹介する動画や写真を投稿するの。」
「ってことは、弘明がSNSに出ることはないね?君自身の顔がSNS上に出てしまうことは、君自身覚悟しているところだろうけど、弘明を写して投稿する、ってことは辞めて欲しいんだ。」
「もちろん、そんなことはしないわ。約束する。」
息子の肖像権が守られることを確認できた敏明はほっと安堵し、じゃあ今日も遅いから休もう、とまだ興奮気味の妻に声をかけ、寝室に誘導していった。
「敏明さん、見てて。私、絶対誰からも注目されるインフルエンサーになってやるから。」
「うん、頑張って。…僕としては、僕と弘明さえ君を見てたら良いと思ってるんだけどなぁ。」
「それは嬉しいけど、ママ友の1人がああやって注目されてるのを見てたら、私だってって思ったのよ。」
「君の負けず嫌いで頑張り屋な性格が刺激されたんだね。あまり、無理し過ぎたらダメだよ。」
「大丈夫よ、ありがとう。…じゃあ、おやすみ。」
「おやすみ。」
ひろみは、SNSに写真や動画を投稿するために購入した機材が届くまでに、敏明を説得できたことに安堵し、敏明の言う通り、負けず嫌いな性格から生み出される対抗心がさらに強くなっていた。
(あと数日したら、機材が届く。届き次第、使い方を覚えて、できればその日のうちに一回くらいは投稿したいわね…。)
敏明と弘明がすっかり夢の中に入っていった傍で、ひろみは機材が届いてからの計画を頭の中で何通りも考え続け、いつの間にか睡魔に負けて眠っていた。
次の日、いつものように朝の家事を行い、夫を見送った後、弘明を幼稚園へ送りにいった。
「あら、おはよう、岡田さん。」
「おはよう、成川さん。…あら、清水さんと林さんは?」
「今日はまだ見てないのよ、もう少ししたら来るかと思ってたんだけど…、ああ、2人とも来た来た、おはよう!」
そこには、絵里と清水が子どもを連れて登園する姿があった。清水は少し、深刻そうな顔をしている。絵里と清水の子どもはそのまま職員に預けられ、お母さん4人だけとなった。
「どうしたの、清水さん。何かあったの?」
ひろみは清水に聞いてみると、絵里が口を開いた。
「それがね…、前に清水さんのお子さんに、レジンで作ったキーホルダーをあげたの。お子さんも気に入ってくれて、カバンに大事そうにつけてたんだけど、例のお子さんに取られて傷つけられたらしくって…。それを、朝に私の家に来て謝りに来てくれたの。」
「…本当に、ごめんなさい。林さん。せっかく作ってもらったのに…。」
「清水さんは何も悪くないじゃない!例のお子さんのせいでしょ。」
朝から興奮気味に、成川は清水の無罪を叫ぶ。ひろみもそれに呼応するように起こり始めた。例のお子さん、というのは、以前から4人の間で話題になっている、青山の子どものことだった。4人は外で雑談することが多く、名字で呼ぶのも憚られるため、「例のお子さん」と呼ぶようになった。
「そうよ、清水さんもお子さんも悪くないわ!…というか、最近の素行、ますます酷くなってるわね。やっぱり、職員の先生か、園長に言った方がいいわよ。」
「…最近は、私もそう考えてるのよね。初めは、子どもがやっちゃったことだし、喧嘩や諍いくらいあると思って言い聞かせてたんだけど…。林さんに作ってもらったキーホルダーが壊れちゃったって、泣きそうになってるうちの子見てたら…。」
「うちの弘明も、あれからぶつかられたりとかはないけど、例のお子さん見ると怖がるのよ。ねぇ、3人ともこの後、お時間あるかしら。ちょっと作戦会議しない?今はうちの子と、清水さんのお子さんが被害を受けてるけど、いずれ成川さんや林さんのお子さんにも被害が及ぶかもしれないわ。」
「…そうね。そう考えると怖くなってきたわ。」
「園長先生に言うのか、先生方に言うのかはともかく、何か対応策は用意しておいてもいいかもしれないわね。私も賛成、行きましょう。」
4人は、例のお子さんとその母親に対抗すべく、幼稚園近くにあるカフェに入り、文字通り作戦会議が始まった。青山親子から受けている被害状況、その被害に対する保護者の対応、そしてここでまとまった話を誰に陳情すべきか、というところまで、綿密に話を詰めていった。
4人で話をしてみると、青山の子どもは、ひろみや清水の子どもだけでなく、他の子どもにも加害しているという状況が見えてきた。清水はもちろんのこと、成川も段々と青山親子への怒りが増していき、会議はヒートアップしていった。
「もう、これは決まりね。先生から陳情して、とも考えてたけど、園長先生に直訴するしかないわ。」
ひろみの言葉に呼応するように、清水と成川は同調した。しかし、絵里だけはこの会議を冷静に見ていた。
「ちょっと待って。岡田さんのお子さんや、清水さんのお子さんが被害を受けたってところは事実だと思うからいいとしても、他の子どもが被害を受けたって話は、実際に見たわけではないのよね?」
「ええ…、でも、火のないところに煙は立たないでしょう。何かしでかしてることは明らかだと思う。」
「そうだとしても、お二人のお子さんが被害を受けたって話を、幼稚園側に真剣に聞いてもらうためにも、不確定な話まで織り込むべきじゃないわ。岡田さんだって、弘明くんの被害を軽く見られるような対応は取られたくないでしょう?」
ひろみは痛いところを突かれ、まぁ、確かに…、と返すしかなかった。
「だとしたら、まずは清水さんのお子さんと、岡田さんのお子さんが被害を受けたってことを、幼稚園側に知ってもらいましょう。まずはそこからよ。幼稚園の先生に現場を知ってもらった後は、岡田さんと清水さんのお子さんは、もう釘を刺されるまでもないかもしれないけど、念のため例のお子さんには近づかないように、って言い聞かせて様子を見ましょう。それが、一番だと思う。」
絵里の提案に、3人はヒートアップした頭に冷水を被ったように落ち着き、その提案にのっかることにした。
「じゃあ、そうと決まれば、今から幼稚園に電話をしてみるわ。善は急げ、よ。先生に話を今からでも聞いてもらえそうか、電話で聞いてみるわ。」
ひろみはその場で幼稚園に電話をかけ、幼稚園教諭を束ねている班長(上席の者ではないらしい)に取り次いでもらえることとなった。それを聞いた4人は、すぐに幼稚園に戻り、職員室へ足を運んだ。
「先ほどお電話いたしました、岡田ですけれども。」
「岡田様ですか、先ほどお電話で対応させていただきました者です。今、班長を呼んで参りますので、こちらでお待ちください。」
4人は、応接室のような部屋に通され、ソファに腰掛けてしばし待機していた。すると、女性のベテラン職員が失礼いたします、と丁寧な口調で部屋に入ってきた。
「お待たせいたしまして、申し訳ございません。私、あお組、みどり組、むらさき組の教員の監督をしております、佐伯と申します。」
「岡田と申します。いつも、息子がお世話になっております。」
ひろみを皮切りに、他の3人も簡単な挨拶を済ませ、早速本題に入った。
「佐伯先生は、あお組の監督もされていると仰っておられましたが、あお組にいる青山さんのことはご存知でいらっしゃいます?」
「青山様ですか…。」
佐伯は、少し顔を暗くし、口どりが重たくなった。
「そのご様子ですと、色々と話をお聞きになられてるということですか?」
「うちの弘明も、青山さんのお子さんにぶつかられて、子どももそのまま去っていったと思ったら、お母様まで何も言わずに知らんふりされていったんです。」
「う、うちの子どもも…、青山さんとこのお子さんに、キーホルダーを取られて、昨日泣いて帰ってきたんです。」
ひろみと清水の訴えに、佐伯も腹を括った様子で、重い口を開いた。
「…個人の情報に関わることですので、詳細はお話しできませんが、今岡田様や、清水様が仰ったようなお話は、実は何件か耳にしております。あお組の教員も2人体制で、特に目を光らせてはおりますが…」
「幼稚園としての対応としては、今後どうされるおつもりですの?」
「職員も青山様と話をしようと試みておりますが、お子さんを迎え入れると、こちらの呼びかけにもお答えしてもらえずにそのままお帰りになってしまいます。園長もこの件については存じ上げておりますので、これ以上お話ができないようでしたら、残念ですが、退園も視野に入れて対応させていただこうと考えております。」
「清水さんのお子さんは、もう被害を受けているんですよ?それでも退園させられないのですか!?」
「岡田さん、落ち着いて。」
絵里は、話し合いの中で再びヒートアップしていくひろみを宥めた。
「青山さんのことは、園長先生をはじめ、佐伯先生もその他の先生も、状況はご存知でいらっしゃると言うことですよね。そして、青山さんとお話をしようとしてもできない状況から、退園も視野に入れて対応を検討してくださっているんですよね。」
「はい、林様の仰る通りでございます。
佐伯は、保護者側に理解者がいると感じたのか、少しホッとした様子を見せた。絵里は、今度は3人に向かって話しかける。
「…ねぇ、カフェで話してたこと忘れた?幼稚園の先生たちは、青山さんとお子さんのことを知らないかもしれない、だから陳情しに行こうって話だったでしょう。それが、幼稚園の園長先生まで状況をご存知で、事態が好転しないなら、退園も視野に入れて対応するとまで仰ってくれてる。それなら後私たちにできることは、私たちの子どもに、青山さんとこのお子さんに気をつけるように、言い聞かせて、被害が出ないように対策しましょう。」
「もちろん、これから青山様のお子様から被害を受けたということがあれば、園に報告をいただいても差し支えありません。こちらでも、幼稚園に安心して通っていただけるよう、尽力いたしますので、どうかご理解ください。」
ひろみはすっかり立つ瀬がなくなり、不満ながらも、わかったわよ、と呟くように言った。
4人と佐伯の話は今後の対応策について、進展があった場合は報告をすること、また、4人それぞれの子どもに何かあった際には幼稚園に報告してもらいたい、という佐伯の提案を飲むことになり、その日はお開きとなった。
ひろみは、3人が幼稚園が内情を把握していて、対応を検討してくれているなら、ひとまず安心だ、と胸を撫で下ろしている様子に内心苛立っていた。
(またこの女がいい子ぶって、この話を丸めてしまったわ…。こんな日和見主義で、弘明に次何かあったら、絶対許さないんだから…)
「岡田さん!また、お迎えの時間に会いましょう!」
絵里のその一言をきっかけに、4人は解散した。
ひろみの中で絵里の存在は、ライバルを通り越して憎しみの対象となっていた。
(…今は、私よりも目立ってても許してあげる。けど、私がインフルエンサーとして有名になった日には…。)
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