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高3

冬夜と亜姫(1)

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 亜姫が和泉と共にリビングへ入ると、そこには冬夜がいた。 
 無防備に眠る姿やパニックを起こして取り乱すところを見られたことを思い出し、亜姫は恥ずかしさで赤くなった。辛うじて挨拶を交わしたが、逃げ出したい気分だ。 
 だが飲み物を用意すると言われ、羞恥に耐えて席に着いた。
 隣に座る和泉がひとりご機嫌なのが、なんとも憎たらしい。亜姫は八つ当たりするようにその顔を睨みつけた。
 
 その直後、玄関の扉が開いて買い物袋を抱えた里佳子が入ってきた。冬夜の様子を見るに、最初から来る予定だったのだろう。
 
 話を受け止めたと言っても、気持ちがきれいに切り替わるわけではない。予期せぬ里佳子の登場に亜姫は狼狽えた。
 何も知らない里佳子は相変わらずの調子で、それがまた気になるやらモヤモヤするやら。
 話を聞いたばかりだからか、どうしても和泉との触れ合いを想像してしまう。
 
 一人で葛藤する亜姫の様子を、和泉が心配そうに見つめていた。
 
 それを遠目に眺めていた冬夜。
 そっと里佳子を呼び寄せると何事かを囁き、二人でしばらく話をしていた。
 


 ◇ 
 飲み物を持った冬夜がコップを差し出す。
「この後の用事って変えられる? 夕飯、うちで食えよ。俺達も今日は用事が無いし……亜姫とはゆっくり話をしてみたかった」
 
 冬夜の声は柔らかかったけれど拒否を言わせぬ雰囲気があった。亜姫の親にも冬夜が連絡すると言い、夕食を共にすると決まってしまった。
 
 里佳子が夕飯を作るというので、亜姫は手伝いを申し出る。和泉が共に立ち上がると、冬夜から声がかかった。
「カイ、買い出し行って来て」
「はあ? なんで俺が? 今、里佳子が大量に買ってきただろ? これ以上、何がいるんだよ?」
「人数が増えたんだから足りねぇだろ。
 それに、亜姫の好物はお前にしかわからないだろうが。喜びそうなもん、沢山買ってこい」
「じゃあ、亜姫も連れてく」
「駄目。亜姫には料理を手伝ってもらうから、お前一人で行ってこい」
 
 亜姫が心配な和泉は難癖をつけて動きたがらなかったが、当の亜姫が「大丈夫だから行って来て」と言うと、ぶつぶつ言いながら出かけていった。
 
「カイは亜姫がいると別人だな」
「あんなに喋るなんてビックリよねぇ。いまだに信じられない」
 冬夜と里佳子が笑いながら感心している。
「カイさ、家でも随分変わったんだよ。亜姫といるようになって、本当によく話すようになった」
「そうなんですか?」
「あいつ、全然話さなかっただろ? 家でもそう。
 小さい頃から何も言わない、反応が薄い子だった」
「そ、う……ですね。時々見かけていたのは、確かにそういう和泉でしたけど……。
 でも、私はよく喋る楽しい人って印象の方が強くて……」
 亜姫が意外そうに言うと、二人は驚きを見せた。
「そうか……カイ、亜姫には最初から違ってたんだな」
 冬夜と里佳子は、顔を見合わせて嬉しそうに笑った。
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