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高3

和泉の初体験(8)

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 亜姫は自分がしてもらったように優しく優しく和泉に触れ、自分にできる精一杯を捧げた。
 
 和泉の全てを愛おしく感じ、亜姫は小さく囁く。
「カイ……愛してる………」
 
 和泉が目を見開いた。
 
 すると、目を合わせた亜姫がボフンと赤く染まる。そして急にあたふたと慌て出した。 
「だ、だって、だって……呼びたくなったんだもの」
 
 顔を両手で覆いながら動揺する亜姫を、和泉はしばらく呆けて見ていた。
 
 だが我に返ると、目を細めてくすくすと笑い出す。 
「もう一度、聞かせて……?」
 甘い声で囁くと、亜姫はすっかりいつもの調子に戻ってしまい、
「えっ、もっ……無、無理ぃ……ま、また今度、ね!
 わ、わた、私の気が向いたら……言って、あげる、かもぉぉ……」
 と、しどろもどろ。その間も、亜姫は真っ赤な顔のまま。
 
 無意識であっても、無理して発してくれたのであっても。それが亜姫の本音であったことは痛いほど伝わってきた。
 その事実に、言葉では言い表せない幸福感が湧き上がる。和泉は冬夜に改めて感謝した。
 
 ──冬夜。お前が教えたかったこと、今ならわかるよ。
 
 こうしてこの日、和泉は初めて亜姫に抱かれた。
 
 
 

 慣れないことをしたせいか、亜姫はぐっすり眠っている。その体を腕の中に抱えこみ、和泉はかつてないほど幸福の絶頂にいた。
 
 また、淀んだ過去が塗り替えられている。
 
 自分が大事に抱かれる。そんなこと、想像すらしなかった。
 全てがつたなく、手慣れない不器用な動き。けれど、一生懸命伝えようとする亜姫の愛がこれでもかと伝わってきた。
 余すこと無くその愛で埋めつくされ、あまりの幸せに体が溶け出していると錯覚してしまったほどだ。
 
 亜姫に捧げたいと思い続けてきた「幸せと心地良さ」。それがどういうことなのか、改めて今日、亜姫から教えてもらった気がする。
 
 この先ずっと、亜姫にこの幸せを与え続ける。
 和泉はそう心に刻みつけた。
 
 起きたら、まずは美味しい飲み物を。
 そう思った和泉はいそいそと部屋を出ていった。
 


 ◇ 
 少し後、部屋に入る静かな足音。
 その人は、入ってすぐに驚いた様子で立ち止まる。
 少し躊躇して、その足はベッドに向かった。
 
 その人は眠る亜姫をじっと眺め、顔にかかった髪をそっとよけてやる。
 
 すると、それに反応した亜姫が目を開けた。
 亜姫は寝ぼけた様子で目の前の顔を見つめていたが、やがて幸せそうに微笑み首元へ手を伸ばす。
 
 その人は、戸惑いを見せて固まった。
 
 だが首に手が届く直前、不意に亜姫は動きを止めた。未だ寝ぼけた様子でしばし目の前の人を見上げる。
「……だれ………?」
 そして、目の前の人物が和泉ではないことに気づくと恐怖に顔を染めた。
 
「やっ、や………いずみっ!」
 亜姫が力の入らない体で必死に後ずさると、下から駆け上がってきた和泉が部屋に飛び込んでくる。
 
 震える手で布団を握りしめる亜姫。その前に居るはずの無い人物が立っていて、和泉は驚きに目を見開いた。
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