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高3
受験と自由登校(3)
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そんなある日。
飲み物を買いに行くと出ていった和泉を、自分も買いに行こうと後から追いかけた。自販機まで辿り着くと、和泉がその先にある中庭に向かって建物を曲がって行く。
…………? 何故、あんなところに?
一体、何をしてるんだろう……?
不思議に思った亜姫が声をかけようとした時、寄り添うように隣を歩く春菜が見えた。
亜姫の喉がヒュッと鳴り、一瞬呼吸が止まる。だがその間も遠ざかる背中に耐えられず、すぐさま後を追った。
和泉は春菜の背中に手を添え、気遣う素振りを見せながら中庭の奥へと連れて行く。
その後ろ姿はまるで自分と和泉が歩いているようで、亜姫の胸はざわついた。
春菜は泣いているようだった。和泉が懸命に宥めているように見える。
いけないことだとわかっていたが、どうしても気になって仕方がない。
以前健吾たちに聞いた、大木裏の小さなスペース。亜姫はそれを思い出し、その身を潜める。うまい具合に少しだけ隙間があり、二人の様子もそこから見えた。
思ったより近くに立つ二人に自身の心臓の音が聞こえるのではと心配になったが、どうやら気付かれてはいないようだ。
春菜はやはり泣いていた。
そして、ところどころ聞き取れないこともあったが、会話の大半ははっきり聞こえた。
「………本当に、好きなんです。………好きで、会うたびもっと好きになって……でも誤解されたままじゃ、今更違うって言っても…………だ……し……」
「…………お前みたいな子、好きだよ。もう………ここまで来たら………に黙ってるのは無理じゃない?
今から言いに行けば? 正直に言えば、あいつなら話は聞いてくれるから」
優しく言い聞かせる和泉の声に、春菜は首を振る。
「………は、見られたくありません。もし、話を聞いてもらえなかったら……これで関係が崩れちゃうなら、今のまま黙って誤魔化してるほうがいい。
どんな形でもいい、繋がっていられるなら。………先輩と、終わるのだけは嫌なんです」
「こんなに好きなのに? この先も誤魔化し続けるなんて出来んの? 出来ないから泣いてんだろ? なら、こうやって隠して続ける関係なんてなんの意味も成さないよ。
あいつと直接話して、好きだってちゃんと主張してこい。もう、これ以上隠しきれないだろ? 卒業まで時間ねーぞ。思い出作りとか、何も出来ないままでいーのか?」
「でも、もし嫌がられたら………?」
「あいつならちゃんとわかってくれる。絶対、悪いようにはならないよ。少なくとも、ここで終わりにはならない。もし駄目だったら、俺からもちゃんと話してやるから。な?」
と、入口の方で誰かの声が聞こえた。和泉が咄嗟に春菜を庇う。それは泣く姿を隠すような仕草だった。
そのまま誰も来ないのを確認すると、和泉は少し慌てた様子で振り向いた。
「とにかく、好きだって事を一番に考えて行動しろ。絶対に諦めんなよ、いいな?」
和泉は強く言い聞かせ、春菜が頷くのを確認すると足早に出ていった。
それから少しして春菜も泣き止み、中庭を後にした。
亜姫一人だけが…………そこから、動けなかった。
飲み物を買いに行くと出ていった和泉を、自分も買いに行こうと後から追いかけた。自販機まで辿り着くと、和泉がその先にある中庭に向かって建物を曲がって行く。
…………? 何故、あんなところに?
一体、何をしてるんだろう……?
不思議に思った亜姫が声をかけようとした時、寄り添うように隣を歩く春菜が見えた。
亜姫の喉がヒュッと鳴り、一瞬呼吸が止まる。だがその間も遠ざかる背中に耐えられず、すぐさま後を追った。
和泉は春菜の背中に手を添え、気遣う素振りを見せながら中庭の奥へと連れて行く。
その後ろ姿はまるで自分と和泉が歩いているようで、亜姫の胸はざわついた。
春菜は泣いているようだった。和泉が懸命に宥めているように見える。
いけないことだとわかっていたが、どうしても気になって仕方がない。
以前健吾たちに聞いた、大木裏の小さなスペース。亜姫はそれを思い出し、その身を潜める。うまい具合に少しだけ隙間があり、二人の様子もそこから見えた。
思ったより近くに立つ二人に自身の心臓の音が聞こえるのではと心配になったが、どうやら気付かれてはいないようだ。
春菜はやはり泣いていた。
そして、ところどころ聞き取れないこともあったが、会話の大半ははっきり聞こえた。
「………本当に、好きなんです。………好きで、会うたびもっと好きになって……でも誤解されたままじゃ、今更違うって言っても…………だ……し……」
「…………お前みたいな子、好きだよ。もう………ここまで来たら………に黙ってるのは無理じゃない?
今から言いに行けば? 正直に言えば、あいつなら話は聞いてくれるから」
優しく言い聞かせる和泉の声に、春菜は首を振る。
「………は、見られたくありません。もし、話を聞いてもらえなかったら……これで関係が崩れちゃうなら、今のまま黙って誤魔化してるほうがいい。
どんな形でもいい、繋がっていられるなら。………先輩と、終わるのだけは嫌なんです」
「こんなに好きなのに? この先も誤魔化し続けるなんて出来んの? 出来ないから泣いてんだろ? なら、こうやって隠して続ける関係なんてなんの意味も成さないよ。
あいつと直接話して、好きだってちゃんと主張してこい。もう、これ以上隠しきれないだろ? 卒業まで時間ねーぞ。思い出作りとか、何も出来ないままでいーのか?」
「でも、もし嫌がられたら………?」
「あいつならちゃんとわかってくれる。絶対、悪いようにはならないよ。少なくとも、ここで終わりにはならない。もし駄目だったら、俺からもちゃんと話してやるから。な?」
と、入口の方で誰かの声が聞こえた。和泉が咄嗟に春菜を庇う。それは泣く姿を隠すような仕草だった。
そのまま誰も来ないのを確認すると、和泉は少し慌てた様子で振り向いた。
「とにかく、好きだって事を一番に考えて行動しろ。絶対に諦めんなよ、いいな?」
和泉は強く言い聞かせ、春菜が頷くのを確認すると足早に出ていった。
それから少しして春菜も泣き止み、中庭を後にした。
亜姫一人だけが…………そこから、動けなかった。
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