334 / 364
高3
受験と自由登校(2)
しおりを挟む
二人は長く話し込むわけではない。だが、それは繰り返し見られた。そして、誰かが気づきそうになると自然と終わる。
一度気づくと気になって仕方なかったが、和泉は変わらず亜姫を優先する。そこに疑う余地はないし、同じ繰り返しはしたくない。今では二人を信じ、何かあれば和泉に聞くと決めていた。
けれど。
日が経つに連れ、和泉の様子が少しずつ変わってきた。
春菜と話す時、心配げに見つめる瞳は亜姫を気遣うそれと同じになった。
亜姫が話しかけても、何かを考え込んで聞いてないことが増えた。
そして、時折切なそうに春菜を見つめる和泉に……亜姫は気がついてしまった。
時を重ねるように、和泉が触れようとしなくなった事にも……気がついてしまった。
ある時、聞いてみた。
「ねぇヒロ? 春菜ちゃんは和泉に興味無いって、本当?」
「なんだよ、いきなり。また何か思い悩んでる?」
ヒロが心配そうな顔を向けると、亜姫は違うよと笑う。
「ならいいけど。嫉妬とか言いたいことは、ちゃんと和泉にぶつけろよ?」
「ぶつけてるよ、大丈夫」
「まぁ、いーや。で、春菜だけど。確かにそう言ってたぞ。俺が香田使って近づくつもりかって聞いたら、はっきり否定してた」
「そっか」
「……安心した?」
亜姫は返事をせず、誤魔化すようにふふっと笑う。
ヒロはその顔をしばし眺めていたが、結局何も言わず頭をグシャグシャとかき回す。
「あー! やめてよ、さっき梳かしたばっかりなのに!」
「お前の頭がどうなってようが、誰も気にしねぇよ」
「私が気にするの!」
「へぇ、身だしなみにも気を使うようになったわけ? そりゃ随分成長したもんだ。じゃあ、そろそろメイクも覚えなきゃな。少しは色気が出るように」
「もー、うるさい」
二人で言いあっていると「お前ら、またかよ」と笑いながら和泉が戻ってきた。その後ろから春菜達もついてくる。
当然のようについてくる春菜。そう見えてしまい、心臓が抗議の音を立てる。だがそんなことを知らない和泉はいつも通り隣に立ち、丁寧に亜姫の髪を梳いて元の状態へ戻していく。
優しい笑みを向けられ甘やかされているうちに亜姫の心臓は大人しくなっていった。
そのまま、いつものように皆で話をしていると。
「亜姫先輩が羨ましいです」
横から聞こえた声に振り向くと、春菜が切なそうな顔で笑いかけてきた。
「好きな人のそばにいて、大事にされる亜姫先輩が羨ましいです。……私にはそんな機会、来そうにないから」
春菜は哀しそうに微笑む。
突然、そして初めて聞かされた話。亜姫はどう返していいか分からない。
「……春菜ちゃん……好きな、人が……」
辛うじて聞き返すと春菜は小さく頷いたが、それが誰なのかは口にしなかった。
……春菜が切なそうに見つめる先には、ヒロと話す和泉がいた。
春菜の好きな人は他にいると聞いている。和泉には興味が無いと。だが、香田は「春菜は誰を好きなのか絶対に教えない」と言っていた。
誤魔化した可能性は……? いや、春菜は嘘をつくような子ではない。
それに、和泉も違うといった。有り得ないと。
信じて、と何度も言われた。
でも。
そう言っていた頃の和泉は、あんな瞳で春菜を見つめたりはしなかった。
和泉が二人きりになりたがらない事や、些細な触れ合いすら避けるのは……果たして偶然……?
今まで、そんなことはなかった。
最後に触れ合ったのは、いつだっただろう。
亜姫は抱かれる事で「自分だけ」と安心出来た事が忘れられず、感情が暴走すると触れられたいと望むようになった。
だが、暗にそう示唆すると和泉がそこから気を逸らすようにする。
「抱かれて不安を取り除いた気になるのは駄目」
何度もそう言われている。和泉からはずっとそう教わってきたし、言われる意味も理解している。
けれど、最近の不安は他の女性に比べて「触れ合う技術も魅力も経験値も足りてない」と言うことにある。他の子ではなく「自分が選ばれた明確な理由」が欲しいのに、それが見当たらないから不安が募るのだ。
なのにそれを言えば、和泉は困ったように笑って宥めるだけだった。
今の不安は、抱かれることで解消できる。
それは、和泉がよく言う「幸せを感じる」ことにはならないのだろうか。
他の誰でもなく「自分だけ。自分が一番和泉に近しく、愛されている」と実感するには、他にどんな方法があるというのか。
些細な事で暴走を繰り返す自身の感情。それにひたすら振り回されている亜姫に、その答えは見つけられなかった。
最後に抱かれた日から、いったい何が変わってしまったのだろう。
自身に何度も問いかけて出てきた答えは、「事ある毎に泣き喚き、欲をぶつけまくる自分」だった。
もしかして、呆れられたのだろうか。
自分でも制御出来ないこの感情を、日々ぶつけまくってきた。いくら優しい和泉でも、流石にうんざりしたのだろうか。
そう考え、聞いてみた。
「全然いいよ。いくら言っても大丈夫だって言っただろ? 好きなだけ言えばいい、ちゃんと全部聞いてやるから」
そう言って笑う和泉は、どう見ても楽しそうだった。
ついでに春菜のことも聞いてみたが、やはり「嫉妬は大歓迎」と、楽しそうに笑われるだけだった。
しかし、日を追う毎に和泉が春菜を見つめる頻度は増えていく。その瞳はいつしか愛おしそうな眼差しになり、春菜の動きを追っている時は亜姫の話に気づかないことが増えていった。
一度気づくと気になって仕方なかったが、和泉は変わらず亜姫を優先する。そこに疑う余地はないし、同じ繰り返しはしたくない。今では二人を信じ、何かあれば和泉に聞くと決めていた。
けれど。
日が経つに連れ、和泉の様子が少しずつ変わってきた。
春菜と話す時、心配げに見つめる瞳は亜姫を気遣うそれと同じになった。
亜姫が話しかけても、何かを考え込んで聞いてないことが増えた。
そして、時折切なそうに春菜を見つめる和泉に……亜姫は気がついてしまった。
時を重ねるように、和泉が触れようとしなくなった事にも……気がついてしまった。
ある時、聞いてみた。
「ねぇヒロ? 春菜ちゃんは和泉に興味無いって、本当?」
「なんだよ、いきなり。また何か思い悩んでる?」
ヒロが心配そうな顔を向けると、亜姫は違うよと笑う。
「ならいいけど。嫉妬とか言いたいことは、ちゃんと和泉にぶつけろよ?」
「ぶつけてるよ、大丈夫」
「まぁ、いーや。で、春菜だけど。確かにそう言ってたぞ。俺が香田使って近づくつもりかって聞いたら、はっきり否定してた」
「そっか」
「……安心した?」
亜姫は返事をせず、誤魔化すようにふふっと笑う。
ヒロはその顔をしばし眺めていたが、結局何も言わず頭をグシャグシャとかき回す。
「あー! やめてよ、さっき梳かしたばっかりなのに!」
「お前の頭がどうなってようが、誰も気にしねぇよ」
「私が気にするの!」
「へぇ、身だしなみにも気を使うようになったわけ? そりゃ随分成長したもんだ。じゃあ、そろそろメイクも覚えなきゃな。少しは色気が出るように」
「もー、うるさい」
二人で言いあっていると「お前ら、またかよ」と笑いながら和泉が戻ってきた。その後ろから春菜達もついてくる。
当然のようについてくる春菜。そう見えてしまい、心臓が抗議の音を立てる。だがそんなことを知らない和泉はいつも通り隣に立ち、丁寧に亜姫の髪を梳いて元の状態へ戻していく。
優しい笑みを向けられ甘やかされているうちに亜姫の心臓は大人しくなっていった。
そのまま、いつものように皆で話をしていると。
「亜姫先輩が羨ましいです」
横から聞こえた声に振り向くと、春菜が切なそうな顔で笑いかけてきた。
「好きな人のそばにいて、大事にされる亜姫先輩が羨ましいです。……私にはそんな機会、来そうにないから」
春菜は哀しそうに微笑む。
突然、そして初めて聞かされた話。亜姫はどう返していいか分からない。
「……春菜ちゃん……好きな、人が……」
辛うじて聞き返すと春菜は小さく頷いたが、それが誰なのかは口にしなかった。
……春菜が切なそうに見つめる先には、ヒロと話す和泉がいた。
春菜の好きな人は他にいると聞いている。和泉には興味が無いと。だが、香田は「春菜は誰を好きなのか絶対に教えない」と言っていた。
誤魔化した可能性は……? いや、春菜は嘘をつくような子ではない。
それに、和泉も違うといった。有り得ないと。
信じて、と何度も言われた。
でも。
そう言っていた頃の和泉は、あんな瞳で春菜を見つめたりはしなかった。
和泉が二人きりになりたがらない事や、些細な触れ合いすら避けるのは……果たして偶然……?
今まで、そんなことはなかった。
最後に触れ合ったのは、いつだっただろう。
亜姫は抱かれる事で「自分だけ」と安心出来た事が忘れられず、感情が暴走すると触れられたいと望むようになった。
だが、暗にそう示唆すると和泉がそこから気を逸らすようにする。
「抱かれて不安を取り除いた気になるのは駄目」
何度もそう言われている。和泉からはずっとそう教わってきたし、言われる意味も理解している。
けれど、最近の不安は他の女性に比べて「触れ合う技術も魅力も経験値も足りてない」と言うことにある。他の子ではなく「自分が選ばれた明確な理由」が欲しいのに、それが見当たらないから不安が募るのだ。
なのにそれを言えば、和泉は困ったように笑って宥めるだけだった。
今の不安は、抱かれることで解消できる。
それは、和泉がよく言う「幸せを感じる」ことにはならないのだろうか。
他の誰でもなく「自分だけ。自分が一番和泉に近しく、愛されている」と実感するには、他にどんな方法があるというのか。
些細な事で暴走を繰り返す自身の感情。それにひたすら振り回されている亜姫に、その答えは見つけられなかった。
最後に抱かれた日から、いったい何が変わってしまったのだろう。
自身に何度も問いかけて出てきた答えは、「事ある毎に泣き喚き、欲をぶつけまくる自分」だった。
もしかして、呆れられたのだろうか。
自分でも制御出来ないこの感情を、日々ぶつけまくってきた。いくら優しい和泉でも、流石にうんざりしたのだろうか。
そう考え、聞いてみた。
「全然いいよ。いくら言っても大丈夫だって言っただろ? 好きなだけ言えばいい、ちゃんと全部聞いてやるから」
そう言って笑う和泉は、どう見ても楽しそうだった。
ついでに春菜のことも聞いてみたが、やはり「嫉妬は大歓迎」と、楽しそうに笑われるだけだった。
しかし、日を追う毎に和泉が春菜を見つめる頻度は増えていく。その瞳はいつしか愛おしそうな眼差しになり、春菜の動きを追っている時は亜姫の話に気づかないことが増えていった。
10
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた
久野真一
青春
最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、
幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。
堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。
猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。
百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。
そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。
男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。
とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。
そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から
「修二は私と恋人になりたい?」
なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。
百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。
「なれたらいいと思ってる」
少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。
食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。
恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。
そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。
夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと
新婚生活も満喫中。
これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、
新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
学校に行きたくない私達の物語
能登原あめ
青春
※ 甘酸っぱい青春を目指しました。ピュアです。
「学校に行きたくない」
大きな理由じゃないけれど、休みたい日もある。
休みがちな女子高生達が悩んで、恋して、探りながら一歩前に進むお話です。
(それぞれ独立した話になります)
1 雨とピアノ 全6話(同級生)
2 日曜の駆ける約束 全4話(後輩)
3 それが儚いものだと知ったら 全6話(先輩)
* コメント欄はネタバレ配慮していないため、お気をつけください。
* 表紙はCanvaさまで作成した画像を使用しております。
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
光のもとで2
葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、
新たな気持ちで新学期を迎える。
好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。
少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。
それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。
この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。
何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい――
(10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)
Bグループの少年
櫻井春輝
青春
クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリー分けをした少年はAグループの悪友たちにふりまわされた穏やかとは言いにくい中学校生活と違い、高校生活は穏やかに過ごしたいと考え、高校ではB(普通)グループに入り、その中でも特に目立たないよう存在感を薄く生活し、平穏な一年を過ごす。この平穏を逃すものかと誓う少年だが、ある日、特A(特に目立つ)の美少女を助けたことから変化を始める。少年は地味で平穏な生活を守っていけるのか……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる