上 下
330 / 364
高3

受験勉強とモヤモヤ(1)

しおりを挟む
 冬休みが終わり、亜姫達は受験一色になった。
 
 直前だけ通塾すべきか再考したが、亜姫の状況を鑑みて避けるべきだと諦めた。受験当日はどうしたって人混みにまみれてしまうので、亜姫の負担が大きいだろう。それまでは出来るだけ慣れた場所で静かに日々を過ごした方がいいと判断した。
 有り難いことに、学校から手厚いフォローがあった。塾の代わりにと、冬夜も知り合いを紹介してくれた。その人は和泉の家で教えてくれたので、その環境下で安心して学ぶことができた。
 
 
 その最中さなかにあったスポーツ大会。
 そこで香田と再会し、久々にゆっくり話が出来て亜姫は安堵する。
 香田から謝罪のメッセージを受け取ったまま出会う機会も話す時間もなく、ずっと気になっていたのだ。
 
 香田は号泣しながら謝罪を繰り返したが、彼女は相変わらずだった。
 けれど今までは亜姫に余裕がなかっただけで、香田のそういう部分を嫌っていたわけではない。気持ちの整理がついてきた今、亜姫も楽しく過ごすことが出来た。
 
 しかし、やはり嫉妬心は渦巻いてしまう。それはどうにもできなかった。
 
 少し先で春菜と話す和泉の姿が見えていて、亜姫はそれが気になって仕方がない。香田が試合に行くと離れた後も、競技待ちの春菜は和泉と話し続けている。
 何気ないフリをしながら、モヤモヤした気分でそれを見ていると、
「おい、またやらかすなよ?」
 ヒロがいきなり諭してきた。
 
 亜姫は不満げな目を向ける。すると、更に追い打ちをかけられた。
「やらかす前に、ちゃんと和泉に話をしろよ? 面倒臭いから、もうフォローしねえぞ?」 
「わかってますぅ……」
 亜姫が不貞腐れたような返事をするとヒロは愉しげに笑い、面白そうに亜姫の顔を覗き込む。

「……何?」
「いや、別に? 亜姫も、ようやく人並みに嫉妬を覚えたんだなと思ってさ。お父さん、感激しちゃうよお前の成長に」
「ヒロみたいなお父さん、絶対いや!」
 亜姫が不満の声を上げると、ヒロがまた声を上げて笑う。

「お前のおっぱいは、いつまで経っても成長しないのになぁ」
「したもん。この間、ちょっと大きくなったって言われたし」
「ははっ、誰に言われたんだよ。そんなの誤差だろ、誤差。見た目は全然変わんねぇじゃん。
 もっとマッサージしろよ。あ、違うか。素材に限界があんのか。悪い悪い。お前にプルプルおっぱいなんて永遠に無理だと思うけどさ、まぁ頑張れ」
「もうっ、うるさいな!」
 亜姫はヒロの腕にゴスッと拳を入れた。

「痛って! うわっ、暴力反対! 和泉ー! 早くこいつを引き取ってくれよ」
 ヒロはそう言いながら、さり気なく春菜と和泉を引き離した。
 
 和泉が苦笑しながら戻って来たが、隣に立っても亜姫は渦巻く嫉妬心を制御しきれない。そのまま和泉にぴたっと張り付き、俯いて下唇を少し突き出した。
 
 和泉がそれを覗き込み、嬉しそうに顔を緩める。
「亜姫、また下唇出てるよ? 吸い付きたくなるから、その顔やめて」
「やだ」
 
 亜姫の即答が可愛いと、和泉は密かに身悶える。

 最近の亜姫は嫉妬や独占欲を隠さなくなった。あからさまに表現するわけではないので、他者からはそう変わらないように見える。だが、顔を隠すように俯いて少し下唇を突き出し、不満げな顔でむぅ……と不貞腐れるのだ。
 最近は、この顔を見るのが楽しくてたまらない和泉だった。
 
「今日は疲れただろ? 終わったらお前んちに直行しような」
「やだ。和泉んちに行く」
 これまた即答する亜姫の顔を、和泉は笑いながらしばらく眺めていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

学校に行きたくない私達の物語

能登原あめ
青春
※ 甘酸っぱい青春を目指しました。ピュアです。 「学校に行きたくない」  大きな理由じゃないけれど、休みたい日もある。  休みがちな女子高生達が悩んで、恋して、探りながら一歩前に進むお話です。  (それぞれ独立した話になります) 1 雨とピアノ 全6話(同級生) 2 日曜の駆ける約束 全4話(後輩) 3 それが儚いものだと知ったら 全6話(先輩) * コメント欄はネタバレ配慮していないため、お気をつけください。 * 表紙はCanvaさまで作成した画像を使用しております。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

気まぐれの遼 二年A組

hakusuya
青春
他人とかかわることに煩わしさを感じる遼は、ボッチの学園生活を選んだ。趣味は読書と人間観察。しかし学園屈指の美貌をもつ遼を周囲は放っておかない。中には双子の妹に取り入るきっかけにしようとする輩もいて、遼はシスコンムーブを発動させる。これは気まぐれを起こしたときだけ他人とかかわるボッチ美少年の日常を描いた物語。完結するかは未定。

Bグループの少年

櫻井春輝
青春
 クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリー分けをした少年はAグループの悪友たちにふりまわされた穏やかとは言いにくい中学校生活と違い、高校生活は穏やかに過ごしたいと考え、高校ではB(普通)グループに入り、その中でも特に目立たないよう存在感を薄く生活し、平穏な一年を過ごす。この平穏を逃すものかと誓う少年だが、ある日、特A(特に目立つ)の美少女を助けたことから変化を始める。少年は地味で平穏な生活を守っていけるのか……?

処理中です...