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高3
旅行と誕生日(3)
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外がすっかり暗くなった頃、亜姫が料理を始めた。いつ何をしていても亜姫は楽しそうだが、中でも料理は好きらしい。
「誰かの為に一生懸命作ることも、喜んでくれる顔を見ることも好き」
いつだったか、そう聞いたことがある。なんとも亜姫らしい理由だなと思う。
それにしても、今日はいつもに増して嬉しそうだ。自前のエプロンまで持参して、鼻歌交じりに忙しなく動き続けている。
ハンバーグとポテトサラダだけじゃないのか? 何品作るつもりだ?
流石に和泉も心配してしまう量だが、それが全部自分の為だと思うとついニヤけてしまう。
しばらくその姿を眺めていた和泉だったが、あまりにも集中している亜姫へ悪戯心が湧いてきた。
静かに近寄り背後から腕を回して頬に口づけ、「何を作ってるの?」と囁くと。
「ひゃあぁっ!!」
と、亜姫はおかしな声をあげた。
「ななななな、なにっ!?」
真っ赤な顔で、頬を抑えて振り向く亜姫。
想像通りの反応に和泉は笑う。
「なに、その反応。驚きすぎだろ」
「さっ、先に声かけてよっ、び、びび、びっくりするでしょうっ! 包丁もあるんだから、驚かせないでっ!」
「ふうん?……びっくりしちゃったんだ?」
目を細めて和泉が聞くと、亜姫はビクリと肩を震わせた。何故かふいっと視線を逸らす。
「そ、そりゃ……そう、だよ……」
今度は体ごと逸らして背を向ける。
和泉は体を密着させたまま、再び囁いた。
「なんで?」
「えっ?」
「なんで? 今更じゃない……? こうやって近づくのも……」
言いながらゆっくり腰に手を回し、耳元でまた囁く。
「こうやって、キスされるのも……」
「いっ、今! 今はっ! そう、そういうこっ、する時間、じゃ、ないぃぃ…………」
亜姫は首まで赤く染めて俯いた。
もう、何度も体を重ねているのに。
目の前に見る姿は、付き合いだした時と何も変わらない初な亜姫だ。
本当にこの子は汚れない。
なにがあっても、亜姫はずっと変わらぬまま。
事ある毎にそう感じているけれど、どれだけ時間が経ってもやはりそう思ってしまう。
そうすると、この反応を見たくてますます悪戯したくなる。
和泉がわざとらしく手を進めていくと。
「だ、めっ! ハ、ハンバーグ……食べられなくなっちゃ、うから……」
亜姫が必死に静止を促してきた。
和泉は緩慢な仕草で動きを止める。二人の口が今にも重なりそうな距離で、和泉は甘く囁いた。
「今、これを続けたら……ハンバーグは食べられないの……?」
コクコク。
亜姫が小さく頷き、それに合わせて唇が微かに二度触れる。それに亜姫が動揺して、また赤く染まっていく。
そんな亜姫を捕食するように見据えながら、和泉はゆっくりと唇を重ねた。
そして、
「ハンバーグ……食べる」
そう囁いて耳に唇を寄せ。
「後で……美味しいデザートも、食べようかな」
言外に、デザートはお前だと含ませるよう囁いてみる。
ふるりと震えた赤い顔に再度キスを落とすと、和泉はくすくす笑いながら近くの椅子に腰掛けた。
亜姫は妙に意識してしまったようで、俯きがちに黙々と食事の用意をしていく。
和泉はその周りで何かと手伝い、その合間に亜姫が反応しにくい程度にさらりと触れた。
その度、亜姫が真っ赤な顔で口をパクパクしていたり何か言いたげに睨みつけてくる。その全てを「ん? どうした?」と躱しながら、和泉は浮かれた時間を過ごしていた。
「誰かの為に一生懸命作ることも、喜んでくれる顔を見ることも好き」
いつだったか、そう聞いたことがある。なんとも亜姫らしい理由だなと思う。
それにしても、今日はいつもに増して嬉しそうだ。自前のエプロンまで持参して、鼻歌交じりに忙しなく動き続けている。
ハンバーグとポテトサラダだけじゃないのか? 何品作るつもりだ?
流石に和泉も心配してしまう量だが、それが全部自分の為だと思うとついニヤけてしまう。
しばらくその姿を眺めていた和泉だったが、あまりにも集中している亜姫へ悪戯心が湧いてきた。
静かに近寄り背後から腕を回して頬に口づけ、「何を作ってるの?」と囁くと。
「ひゃあぁっ!!」
と、亜姫はおかしな声をあげた。
「ななななな、なにっ!?」
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想像通りの反応に和泉は笑う。
「なに、その反応。驚きすぎだろ」
「さっ、先に声かけてよっ、び、びび、びっくりするでしょうっ! 包丁もあるんだから、驚かせないでっ!」
「ふうん?……びっくりしちゃったんだ?」
目を細めて和泉が聞くと、亜姫はビクリと肩を震わせた。何故かふいっと視線を逸らす。
「そ、そりゃ……そう、だよ……」
今度は体ごと逸らして背を向ける。
和泉は体を密着させたまま、再び囁いた。
「なんで?」
「えっ?」
「なんで? 今更じゃない……? こうやって近づくのも……」
言いながらゆっくり腰に手を回し、耳元でまた囁く。
「こうやって、キスされるのも……」
「いっ、今! 今はっ! そう、そういうこっ、する時間、じゃ、ないぃぃ…………」
亜姫は首まで赤く染めて俯いた。
もう、何度も体を重ねているのに。
目の前に見る姿は、付き合いだした時と何も変わらない初な亜姫だ。
本当にこの子は汚れない。
なにがあっても、亜姫はずっと変わらぬまま。
事ある毎にそう感じているけれど、どれだけ時間が経ってもやはりそう思ってしまう。
そうすると、この反応を見たくてますます悪戯したくなる。
和泉がわざとらしく手を進めていくと。
「だ、めっ! ハ、ハンバーグ……食べられなくなっちゃ、うから……」
亜姫が必死に静止を促してきた。
和泉は緩慢な仕草で動きを止める。二人の口が今にも重なりそうな距離で、和泉は甘く囁いた。
「今、これを続けたら……ハンバーグは食べられないの……?」
コクコク。
亜姫が小さく頷き、それに合わせて唇が微かに二度触れる。それに亜姫が動揺して、また赤く染まっていく。
そんな亜姫を捕食するように見据えながら、和泉はゆっくりと唇を重ねた。
そして、
「ハンバーグ……食べる」
そう囁いて耳に唇を寄せ。
「後で……美味しいデザートも、食べようかな」
言外に、デザートはお前だと含ませるよう囁いてみる。
ふるりと震えた赤い顔に再度キスを落とすと、和泉はくすくす笑いながら近くの椅子に腰掛けた。
亜姫は妙に意識してしまったようで、俯きがちに黙々と食事の用意をしていく。
和泉はその周りで何かと手伝い、その合間に亜姫が反応しにくい程度にさらりと触れた。
その度、亜姫が真っ赤な顔で口をパクパクしていたり何か言いたげに睨みつけてくる。その全てを「ん? どうした?」と躱しながら、和泉は浮かれた時間を過ごしていた。
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