276 / 364
高3
手伝いの受難と幸福(12)
しおりを挟む
彼女がここまで和泉に執着するのは、前回の撮影時に見せた『愛してると全身で伝えてくるカイ』の姿だ。
しかし今、抱き込む子へ溢れる愛しさを撒き散らす姿はその比ではない。
あの時のアレは……もしかして、この子を想っていた……?
そこに思い至り、二の句が告げなくなった彼女へ和泉は追い打ちをかけた。
「俺は手伝いに来ただけだし、撮影もさっき終わった。もうこれ以上あんたの相手はしない」
「な、ん、ですって? 私はまだ自分の仕事をしてないわ! 代役とはいえ、私は指名されてここに来てるのよ?」
「納得できないっつーなら冬夜達に言えよ。俺は関係ねーから。まぁ、もう撮ることは無いと思うけど」
「なによ、その言い方……私は仕事しに来てんのよ! 何もしないで帰るなんて有り得ない!」
ワナワナと手を震わせながら怒鳴る彼女に、和泉は呆れた顔を向ける。
「相手役が到着するのを待って撮影するって決まってたのに、あんたがそんなに待てないって怒鳴り散らしたからこうなったんだ。
望み通り待たずに帰れるだろ。なのに、まだ勝手な事を言う気かよ」
「なっ……っ!!」
怒りで真っ赤になった彼女。それでも引く気はない様子で、今度はその怒りを亜姫に向けた。
「このクソガキッ……」
彼女が悪態をつきながら亜姫に掴みかかろうとした時。
「カイ、オッケーが出たぞ」
冬夜が機械を片手に入ってきた。
「もっと作り込むけど、今は時間無いからイメージだけな」
冬夜はそう言うと機械を操作して、真っ白な壁に映像を映し出した。
柔らかな音楽と真っ白な背景から始まるそれは、リングやリップ、唇などのパーツをゆっくり映し出していく。次にベッドで向かい合う男女を遠目に映しだし、少しずつ近づいていった。
アップになっても顔全体は映らず、男女が誰かはわからない。
二人の動きやパーツが音楽に合わせてゆっくり映されては消えていく。その全ては愛しさと甘さで埋め尽くされていた。
ほんのり色づいた桃色にシャボン玉を飛ばしたような背景。それが画面いっぱいに広がる。
その中央にいる二人を包みこむように、会話らしき文言が浮かび上がっては消えていった。
リングをつけた男性の指が、柔らかそうな頬を優しくなぞる。
それを追うように桜色の口元がゆっくりとズームアップされ、そこへ男性の唇がゆっくり重なっていった。
何度も重なる唇と、愛おしそうに顔をなぞる骨ばった手。
鮮やかに発色した艷やかな唇は何度食べられてもその色を落とすことはない。
半開きの唇は、重なるにつれ幸せそうな笑みを深くする。
全員がその映像に魅入る中、彼女は完全に言葉を失い呆然と立ち尽くしていた。
一方、亜姫はというと。
一連の出来事を隠し撮りされていたと知り、真っ赤な顔で固まっていた。
衝撃を受けている亜姫を見て、和泉が申し訳無さそうに謝罪する。
「騙し討ちみたいになってごめんな? でも、身バレはしないから大丈夫。これだけじゃ、お前だなんて絶対わかんないから」
そう言うと、今度は声を上げて笑い出した。
「冬夜。これ、俺の携帯に送って。キスしてるとこなんて最高」
「なっ、だっ、駄目! ああああんなの、使っちゃ駄目! やめてっ、ぜぜぜぜ絶対駄目ぇぇっ……!」
亜姫は真っ赤な顔でくい止めようと必死だ。
和泉はそれをからかいながら、ますます楽しそうに笑う。
その光景を信じられない様子で見つめていた彼女。
その元へ、冬夜がゆっくり近づいた。
「報酬は、予定通りお支払いします」
そう言った冬夜を一瞥し、彼女は悔しそうに亜姫達を見る。
「無理ですよ」
「え?」
冬夜は、和泉を見つめながら彼女に言った。
「カイは無理です。あの子にしか触れられませんから」
それから彼女の方を振り向くと、優しく微笑んだ。
「……色々ありましてね。カイは女嫌いなんです。
あれを見たら、分かるでしょう? あの子だけなんです。
カイは、あの子でなきゃ駄目なんです」
彼女は返事をせず、黙って二人を見つめ続けていた。里佳子が「行きましょう」と、背中をそっと押すまで。
そんな里佳子を見て、彼女は冬夜を振り返る。
「冬夜さんにとっての『あの子』は、この人なのかしら?」
無言で笑い返した冬夜に彼女は苦笑し、無言でこの場をあとにした。
しかし今、抱き込む子へ溢れる愛しさを撒き散らす姿はその比ではない。
あの時のアレは……もしかして、この子を想っていた……?
そこに思い至り、二の句が告げなくなった彼女へ和泉は追い打ちをかけた。
「俺は手伝いに来ただけだし、撮影もさっき終わった。もうこれ以上あんたの相手はしない」
「な、ん、ですって? 私はまだ自分の仕事をしてないわ! 代役とはいえ、私は指名されてここに来てるのよ?」
「納得できないっつーなら冬夜達に言えよ。俺は関係ねーから。まぁ、もう撮ることは無いと思うけど」
「なによ、その言い方……私は仕事しに来てんのよ! 何もしないで帰るなんて有り得ない!」
ワナワナと手を震わせながら怒鳴る彼女に、和泉は呆れた顔を向ける。
「相手役が到着するのを待って撮影するって決まってたのに、あんたがそんなに待てないって怒鳴り散らしたからこうなったんだ。
望み通り待たずに帰れるだろ。なのに、まだ勝手な事を言う気かよ」
「なっ……っ!!」
怒りで真っ赤になった彼女。それでも引く気はない様子で、今度はその怒りを亜姫に向けた。
「このクソガキッ……」
彼女が悪態をつきながら亜姫に掴みかかろうとした時。
「カイ、オッケーが出たぞ」
冬夜が機械を片手に入ってきた。
「もっと作り込むけど、今は時間無いからイメージだけな」
冬夜はそう言うと機械を操作して、真っ白な壁に映像を映し出した。
柔らかな音楽と真っ白な背景から始まるそれは、リングやリップ、唇などのパーツをゆっくり映し出していく。次にベッドで向かい合う男女を遠目に映しだし、少しずつ近づいていった。
アップになっても顔全体は映らず、男女が誰かはわからない。
二人の動きやパーツが音楽に合わせてゆっくり映されては消えていく。その全ては愛しさと甘さで埋め尽くされていた。
ほんのり色づいた桃色にシャボン玉を飛ばしたような背景。それが画面いっぱいに広がる。
その中央にいる二人を包みこむように、会話らしき文言が浮かび上がっては消えていった。
リングをつけた男性の指が、柔らかそうな頬を優しくなぞる。
それを追うように桜色の口元がゆっくりとズームアップされ、そこへ男性の唇がゆっくり重なっていった。
何度も重なる唇と、愛おしそうに顔をなぞる骨ばった手。
鮮やかに発色した艷やかな唇は何度食べられてもその色を落とすことはない。
半開きの唇は、重なるにつれ幸せそうな笑みを深くする。
全員がその映像に魅入る中、彼女は完全に言葉を失い呆然と立ち尽くしていた。
一方、亜姫はというと。
一連の出来事を隠し撮りされていたと知り、真っ赤な顔で固まっていた。
衝撃を受けている亜姫を見て、和泉が申し訳無さそうに謝罪する。
「騙し討ちみたいになってごめんな? でも、身バレはしないから大丈夫。これだけじゃ、お前だなんて絶対わかんないから」
そう言うと、今度は声を上げて笑い出した。
「冬夜。これ、俺の携帯に送って。キスしてるとこなんて最高」
「なっ、だっ、駄目! ああああんなの、使っちゃ駄目! やめてっ、ぜぜぜぜ絶対駄目ぇぇっ……!」
亜姫は真っ赤な顔でくい止めようと必死だ。
和泉はそれをからかいながら、ますます楽しそうに笑う。
その光景を信じられない様子で見つめていた彼女。
その元へ、冬夜がゆっくり近づいた。
「報酬は、予定通りお支払いします」
そう言った冬夜を一瞥し、彼女は悔しそうに亜姫達を見る。
「無理ですよ」
「え?」
冬夜は、和泉を見つめながら彼女に言った。
「カイは無理です。あの子にしか触れられませんから」
それから彼女の方を振り向くと、優しく微笑んだ。
「……色々ありましてね。カイは女嫌いなんです。
あれを見たら、分かるでしょう? あの子だけなんです。
カイは、あの子でなきゃ駄目なんです」
彼女は返事をせず、黙って二人を見つめ続けていた。里佳子が「行きましょう」と、背中をそっと押すまで。
そんな里佳子を見て、彼女は冬夜を振り返る。
「冬夜さんにとっての『あの子』は、この人なのかしら?」
無言で笑い返した冬夜に彼女は苦笑し、無言でこの場をあとにした。
10
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
家政婦さんは同級生のメイド女子高生
coche
青春
祖母から習った家事で主婦力抜群の女子高生、彩香(さいか)。高校入学と同時に小説家の家で家政婦のアルバイトを始めた。実はその家は・・・彩香たちの成長を描く青春ラブコメです。
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る
マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。
思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。
だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。
「ああ、抱きたい・・・」
アンタッチャブル・ツインズ ~転生したら双子の妹に魔力もってかれた~
歩楽 (ホラ)
青春
とってもギャグな、お笑いな、青春学園物語、
料理があって、ちょびっとの恋愛と、ちょびっとのバトルで、ちょびっとのユリで、
エロ?もあったりで・・・とりあえず、合宿編23話まで読め!
そして【お気に入り】登録を、【感想】をお願いします!
してくれたら、作者のモチベーションがあがります
おねがいします~~~~~~~~~
___
科学魔法と呼ばれる魔法が存在する【現代世界】
異世界から転生してきた【双子の兄】と、
兄の魔力を奪い取って生まれた【双子の妹】が、
国立関東天童魔法学園の中等部に通う、
ほのぼの青春学園物語です。
___
【時系列】__
覚醒編(10才誕生日)→入学編(12歳中学入学)→合宿編(中等部2年、5月)→異世界編→きぐるい幼女編
___
タイトル正式名・
【アンタッチャブル・ツインズ(その双子、危険につき、触れるな関わるな!)】
元名(なろう投稿時)・
【転生したら双子の妹に魔力もってかれた】
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる