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高3

手伝いの受難と幸福(8)

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 亜姫の全身は真っ赤に染まった。どんな愛の言葉よりも衝撃的だった。
 
 里佳子の言葉は事実だと映像が裏付けてくる。
 紛れもなく、そこに映っていたのは亜姫がよく知る大好きな和泉だった。
 
 和泉の顔が映っていないことに亜姫は感謝した。
 彼のあの顔を、あの瞳を……他の人には知られたくなかったから。
  
「あの場にいた全員が、カイに目を奪われて動きを止めてた。『愛』を形にしたらこうなるのかって思ったわ。
 この映像が今回の仕事に繋がったの。
 冬夜は表に大々的に出るようなやり方は好まない。だから、この映像も限られた一部の場所でしか見られなかった。なのに、先方からこの映像のイメージで是非にと話を頂いたの。
 冬夜はカイを使うつもりはなかったから、別の子で作り直す事になっていたのだけど」
 
 里佳子はふぅ……と悩ましげに息を吐く。
「どうしてだか、この撮影はいつもトラブルに見舞われるのよねぇ……。おまけに、彼女まで来ちゃうなんて」
 
 里佳子は亜姫を気遣わしげに見た。
 
「ただでさえカイを気に入ってたところにあの撮影があって、自分に愛が向いてると勘違いしちゃったのかも。
 まぁ……あのカイを見たら、そう思いたくなる気持ちはわからなくもないんだけどね。私達も、仕事だってことを忘れて魅入っちゃってたぐらいだから」
 そう言って、里佳子は苦笑する。
 
「……もしかしたら、今回も何か聞きつけて代わりを引き受けたのかもしれない。あれでも仕事は出来る人だから、業界に知り合いやコネが多いのよ。
 ごめんね、今回もカイを借りるかもしれない。
 でも、カイは間違いなく亜姫ちゃんだけを大事にしてるから。何があっても信じてあげて。
 冬夜もすごく怒っているから、彼女の好きにさせることは絶対にしないわ」
 
 里佳子の言葉に、亜姫は力強く頷いた。
 

 しばらくして和泉に手招きされ、冬夜から「前回同様、和泉が代役を務めることになった」と説明を受ける。
 そして、諸々の調整をするから待機してろと二人は別室へ追い払われた。
 
 そこにはスタジオとはまた違った雰囲気の、寝室のようなセットがあった。こちらの部屋も、撮影に使われることがあるらしい。
 それらを亜姫が物珍しそうに見ていると、困ったような和泉の声がした。
「亜姫。ちょっと手伝ってくれない?」
 
 手を引かれるまま、亜姫は和泉とベッドの上に座る。
「……ごめんな、こんなことになっちゃって」
「前にも、やったことがあるって……。里佳子さんから聞いた」
「あー、……うん。お前には言ってなかったな。
 すごく、苦痛だったから。………やりたくない」
 俯いて呟く和泉は、心底嫌そうだ。
 
 それはそうだろう。和泉は自分に欲を向ける女性に強い拒否感があり、目立つことや注目されることも嫌う。
 冬夜の為に渋々引き受けたということが亜姫にはよくわかった。
 
 目の前で胡座をかいて座り、沈み込む和泉。
 亜姫はその手をそっと握った。反対側の手で柔らかな髪を優しく撫でてみる。
 すると、和泉の頭がゆっくりと持ち上がった。そこに見えたのは、亜姫を真っ直ぐに見つめる強い瞳だった。
 
「亜姫にしか、触れたくない」
 
 静かな一言だった。なのに、これ以上ないほど力強かった。
 
「お前に、あの女と何かあるなんて誤解をされたくない。けど、冬夜の仕事に支障が出るから……あいつの行動を我慢して受け入れてる。
 お前への被害も最小限にしたい。だから……表立ってお前を守ることも出来てない。
 今日は、俺が辛抱してあいつのそばにいるのが最善だと思ってる。
 でも。俺が全てに不本意だって……ちゃんと、信じてくれてる……?」
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