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高3
手伝いの受難と幸福(7)
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離陸前に携帯を壊してから、様子がおかしかったカイ。
感情を見せたり表情を変えない、それどころか、生きてるか心配になるぐらい黙って佇んでる子なのに。明らかに落ち着きを失っていた。
そして現地に到着するなり「帰る」と一言呟き、本当にそのまま帰ろうとした。
冬夜と二人でどうにか引き止めたものの、理由は頑なに言わない。
そこからは今まで以上にダンマリを貫き、携帯を握りしめたまま動かなくなった。
反応は薄くとも身勝手な行動はしない子だったので、突然の変化に衝撃を受けた。
だがカイがうんともすんとも言わないので、冬夜が仕方なく言った。
「頑張っていい働きをすれば、終わり次第先に帰してやる」
すると、今度はこちらが止めに入る程がむしゃらに働き出した。
そんな中、タイトなスケジュールで撮影を進めていたのだが、事情によりカイで代役を立てる必要が出てしまう。
しかし、今回と同じように男女の愛を模した内容だったので、カイは頑なに「やらない」と言い張り動こうとしない。それどころか部屋の片隅で完全に殻に閉じこもってしまい、もちろん撮影も進まなかった。
そこで冬夜が言った。
「お前、好きな子がいるだろ?……会いたくないのか?」
その言葉に反応して、カイが顔を上げる。
「この撮影が終わり次第、帰らせてやる」
冬夜の言葉を聞いた途端、カイは「やる」と即座に動いた。
しかし女嫌いなカイは相手役の女性と絡めず、やはり撮影が滞る。
そこで再び冬夜が言った。
「早く帰りたいんだろ? 今だけ、相手を好きな子だと思え。同じ状況でその子の相手をするならどうするか、それだけを考えろ」
すると、少し考え込んだカイが「わかった」と一言。
その直後、あっさり撮影は終了した。
そして「撮影終了」の声を聞いた瞬間。
カイは「帰る」と告げ、文字通り部屋を飛び出して、その足で本当に帰国してしまった。
「あからさまな反発をしたこともそうだけど、あんな風に自発的に動くのを見たのは初めてでね、私は唖然としちゃったわ。
ようやく帰国して見てみれば、今度はなんだかやたら嬉しそうでね。と言っても、ほんのり笑ってるかしら? と感じる程度のささやかな変化なんだけど。
あの子が笑うなんて……って、それも衝撃的だった」
里佳子が当時を思い出して、懐かしそうに笑う。
「冬夜はね。随分前から、カイに好きな子がいるって気付いてた。……あなたがカイを変えてくれたのね」
温かい声と優しい瞳を向けられて、亜姫は胸がいっぱいになる。
あの時、そんなに急いで帰ろうとしてくれてたなんて。ならば、彼女に触れるなんて有り得ない。
亜姫は、和泉を信じようと決めた。
「あの……さっきあの人から、その時に和泉とずっと一緒だったって聞いて……」
「え!? 亜姫ちゃん、何か言われたの?」
里佳子が驚きと焦りを見せている。
亜姫が困ったように笑い、事情を説明すると、里佳子は眉間にシワを寄せて溜息をついた。
「一軒家を借りて、全員そこで寝泊まりしてたのよ。そういう意味ではずっと一緒だったわね。
勿論、部屋は別々よ。カイは冬夜と同じ部屋だったし、彼女と二人きりになることなんて無かったわ。
あの時から彼女はカイを気に入っていたけれど、カイは見向きもしなかった。冬夜も、流石に目に余るって……実は彼女に怒ってたの。
今回も、まさか彼女が来ることになるとは思ってなくて。冬夜はね、あれでも相当怒っているのよ?
彼は、カイを何よりも大事にしてるから」
そう言うと、里佳子はひとつの映像を亜姫に見せた。
それはメンズのアクセサリーに焦点を当てたものだった。
男性が愛おしそうに女性を抱き寄せ、これから優しく抱かれるのだろうと想像させる場面から始まり、一夜を共にしたとわかる寝起きの映像でそれは終わりを迎えていた。
そこに個人が特定される顔などは一切出てこない。
しかし部分的にクローズアップされる体のパーツや動きから、その男性が和泉なのは明らかだった。
そして、そこに映っていたのは。
亜姫に触れる時や甘さたっぷりに抱く時に見られる、和泉の姿だった。
映像を見ていたら自分が抱かれたような気になってしまい、亜姫は顔を赤らめてしまう。
「やっぱりね」
「……え?」
「これね、一発でオッケーが出たの。それまで、カイはあんなに嫌がってたのに。撮り直しは無し」
「それは、どういうことですか……?」
亜姫は不思議そうな顔をする。里佳子はそんな亜姫を優しく見つめた。
「好きな子をどうやって抱くか考えながらやれ、って冬夜は言ったの。この意味、わかる?
ここに映るカイはね、彼女を相手にしてたんじゃない。
ここには居なかった、あなたを見ていたってことよ」
感情を見せたり表情を変えない、それどころか、生きてるか心配になるぐらい黙って佇んでる子なのに。明らかに落ち着きを失っていた。
そして現地に到着するなり「帰る」と一言呟き、本当にそのまま帰ろうとした。
冬夜と二人でどうにか引き止めたものの、理由は頑なに言わない。
そこからは今まで以上にダンマリを貫き、携帯を握りしめたまま動かなくなった。
反応は薄くとも身勝手な行動はしない子だったので、突然の変化に衝撃を受けた。
だがカイがうんともすんとも言わないので、冬夜が仕方なく言った。
「頑張っていい働きをすれば、終わり次第先に帰してやる」
すると、今度はこちらが止めに入る程がむしゃらに働き出した。
そんな中、タイトなスケジュールで撮影を進めていたのだが、事情によりカイで代役を立てる必要が出てしまう。
しかし、今回と同じように男女の愛を模した内容だったので、カイは頑なに「やらない」と言い張り動こうとしない。それどころか部屋の片隅で完全に殻に閉じこもってしまい、もちろん撮影も進まなかった。
そこで冬夜が言った。
「お前、好きな子がいるだろ?……会いたくないのか?」
その言葉に反応して、カイが顔を上げる。
「この撮影が終わり次第、帰らせてやる」
冬夜の言葉を聞いた途端、カイは「やる」と即座に動いた。
しかし女嫌いなカイは相手役の女性と絡めず、やはり撮影が滞る。
そこで再び冬夜が言った。
「早く帰りたいんだろ? 今だけ、相手を好きな子だと思え。同じ状況でその子の相手をするならどうするか、それだけを考えろ」
すると、少し考え込んだカイが「わかった」と一言。
その直後、あっさり撮影は終了した。
そして「撮影終了」の声を聞いた瞬間。
カイは「帰る」と告げ、文字通り部屋を飛び出して、その足で本当に帰国してしまった。
「あからさまな反発をしたこともそうだけど、あんな風に自発的に動くのを見たのは初めてでね、私は唖然としちゃったわ。
ようやく帰国して見てみれば、今度はなんだかやたら嬉しそうでね。と言っても、ほんのり笑ってるかしら? と感じる程度のささやかな変化なんだけど。
あの子が笑うなんて……って、それも衝撃的だった」
里佳子が当時を思い出して、懐かしそうに笑う。
「冬夜はね。随分前から、カイに好きな子がいるって気付いてた。……あなたがカイを変えてくれたのね」
温かい声と優しい瞳を向けられて、亜姫は胸がいっぱいになる。
あの時、そんなに急いで帰ろうとしてくれてたなんて。ならば、彼女に触れるなんて有り得ない。
亜姫は、和泉を信じようと決めた。
「あの……さっきあの人から、その時に和泉とずっと一緒だったって聞いて……」
「え!? 亜姫ちゃん、何か言われたの?」
里佳子が驚きと焦りを見せている。
亜姫が困ったように笑い、事情を説明すると、里佳子は眉間にシワを寄せて溜息をついた。
「一軒家を借りて、全員そこで寝泊まりしてたのよ。そういう意味ではずっと一緒だったわね。
勿論、部屋は別々よ。カイは冬夜と同じ部屋だったし、彼女と二人きりになることなんて無かったわ。
あの時から彼女はカイを気に入っていたけれど、カイは見向きもしなかった。冬夜も、流石に目に余るって……実は彼女に怒ってたの。
今回も、まさか彼女が来ることになるとは思ってなくて。冬夜はね、あれでも相当怒っているのよ?
彼は、カイを何よりも大事にしてるから」
そう言うと、里佳子はひとつの映像を亜姫に見せた。
それはメンズのアクセサリーに焦点を当てたものだった。
男性が愛おしそうに女性を抱き寄せ、これから優しく抱かれるのだろうと想像させる場面から始まり、一夜を共にしたとわかる寝起きの映像でそれは終わりを迎えていた。
そこに個人が特定される顔などは一切出てこない。
しかし部分的にクローズアップされる体のパーツや動きから、その男性が和泉なのは明らかだった。
そして、そこに映っていたのは。
亜姫に触れる時や甘さたっぷりに抱く時に見られる、和泉の姿だった。
映像を見ていたら自分が抱かれたような気になってしまい、亜姫は顔を赤らめてしまう。
「やっぱりね」
「……え?」
「これね、一発でオッケーが出たの。それまで、カイはあんなに嫌がってたのに。撮り直しは無し」
「それは、どういうことですか……?」
亜姫は不思議そうな顔をする。里佳子はそんな亜姫を優しく見つめた。
「好きな子をどうやって抱くか考えながらやれ、って冬夜は言ったの。この意味、わかる?
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ここには居なかった、あなたを見ていたってことよ」
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