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高3

手伝いの受難と幸福(6)

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 亜姫が例のごとくおっぱいを妄想して、手をワキワキ動かしながら戻ると。

 なんだか現場がざわついている。

「亜姫、どこにいた? また気分が悪くなった?」
「あ、和泉。ううん大丈夫。それより、何かあったの?」
 和泉に尋ねる横で、ザワザワと言葉が飛び交っている。
 
 ……事故渋滞、遅れるらしい、間に合うか……
 またか、この仕事はいつも……なんでだ………
 
 また?
 聞こえた言葉に亜姫は首を傾げる。と、
「冬夜さん。もう、カイでいいじゃない」
 楽しげな彼女の声が聞こえた。
 
 亜姫の隣に立つ和泉の肩が小さく揺れる。
 
「私とカイなら、すごくいいが撮れるでしょ。あの時だって──濃厚……みんな知って……評判……」
 冬夜と話しながら離れていったので、何を言っていたのか詳しくはわからない。だが、彼女と和泉に何かがあった事だけは理解した。
 
 亜姫はまた、胸元をギュッと掴む。
 すると、和泉が亜姫の空いてる手を強く握りしめてきた。
 
 その行動は、不安な気持ちを和泉が掴み取ってくれたように感じられた。
 
 ──まずは、ちゃんと話を聞いてから。
 
 そう思い直し、亜姫は前を向いた。
 今は私的な話をする時ではない。きっと、和泉もそう思っている。
 亜姫は言葉の代わりに繋いだ手を強く握り返した。
 
 
 
 ◇
 男性モデルの到着が大規模な事故渋滞によりかなり遅れるらしい。時間に限りはあるがギリギリまでその到着を待つと決まり、撮影は一時的に中断された。
 
 あれからすぐ、和泉は冬夜に呼ばれた。
 スタジオの片隅で、二人は深刻そうに話を続けている。
 
 亜姫の不安はますます渦巻く。
 それを消すように「大丈夫、大丈夫……」と自分へ言い聞かせていると、甘い香りを漂わせたカップが差し出された。

 見上げれば、そこには優しく微笑む里佳子。
 彼女は同じ飲み物を持って亜姫の隣に座る。 

「前の仕事の話。カイから聞いたことはある?」
「え……? いいえ」

 亜姫の返事に、里佳子がフフッと笑った。
「あの時もね、似たようなコンセプトで撮影をしてたのよ。で、ちょっとした事情から男性モデルが不在になってしまって、しょうがなくカイを使ったの」 
「え……えっ、和泉が? えっ、でもそんなこと、何も言っては……」
 
 戸惑う亜姫を見て、里佳子はくすくす笑う。

「でしょうね。だって、カイはやりたくないの一点張りで大変だったんだもの」
 
 笑い続ける里佳子は、亜姫を見て嬉しそうに微笑んだ。
「あの時あんなに帰りたがっていたのは、あなたに会いたかったからなのね」
 
 帰りたがっていた……?
 
 亜姫が首を傾げると、里佳子は「カイには内緒にしてね」と次の話を教えてくれた。
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