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高3

八木橋くんとカナデさん(21)

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 八木橋に厳しい目を向け続けていた麗華。
 だが、その視線に気づいた八木橋が亜姫を介して胸の内を晒したことで、見る目を変えた。
 逆に、彼の高い女子力に麗華の方が興味を示し、沙世莉も交えたいわゆる女子会を開催。
 
 その時、ひょんなことから亜姫が大事にしていたミニチュアバッグを見てしまった。それで彼女らも「カナデさん」の正体を知った。
 
 八木橋は何かから開放されたのか開き直ったのか……亜姫の周りの人になら、と自分の話をすることを厭わなかった。 
 
 そして、文化祭も大盛況で終わった直後の放課後。
 亜姫達は、揃って八木橋のアトリエにいた。
 
 麗華と沙世莉はもちろん、ヒロと戸塚も感心しきりであちこち眺めている。
 
 中でも、戸塚のミニチュアへの食いつきがすごかった。
 もともと細かいものを作り上げる作業が好きなようだ。普段から精巧なプラモデルを作ったり、自分の好きなように色を塗ったりするのを楽しんでいたらしく、八木橋に食い込んだ質問をしまくっていた。
 
「本当にすごい。売り物にしないなんて、勿体ねーよ」
 ヒロがコーヒーを飲みながらしみじみ言うと、皆も頷く。
 
「誰かの為に作ってみようかなって……最近、少し考えてる」
 八木橋はそう呟くと、亜姫達三人を見た。

「君達に作らせてもらえないかな? 三人とも印象が違うし、それぞれに持ってもらいたいイメージがあるんだ。好みを聞いた上で、お試し制作……させてもらいたいと思ってるんだけど、どうかな?」
 
 亜姫達はもちろん二つ返事で了承。
 浮かれて「ありがとう!」と言う亜姫達に、八木橋はお礼を言うのは自分の方だと笑った。
 
「カナは、なんで言う気になったの? 亜姫に伝えるのは必要だったんだろうけど、私達にはわざわざ言わなくても隠せたじゃない?」
 沙世莉がふと疑問を口にする。
 
「キッカケは橘さんのあれだよ、おっぱい談議。あれが衝撃的すぎた」
「私?」
 亜姫が首を傾げると、八木橋はそうだと頷く。
「所構わず、誰彼構わず。好きなものを好きって夢中で話す君の姿が、あまりに衝撃的だった」

 八木橋はクスクスと笑う。

「自分の気持ちに揺らぎがなくて、そういう自分を当たり前のように受け入れてる。
 その姿を見てたら、人の目を気にして鬱々としてるのがバカバカしくなっちゃったんだ」
 
「あー、亜姫のおっぱい好きは筋金入りだからねぇ……」
「確かに、亜姫のあれを見たらそう思いたくなるかもしれないわね。真似したくはないし、迷惑極まりないけど」
「カナデ、あんまり褒めないほうがいいよ。実際は色んな所でやらかしてるから。亜姫の好奇心は、マジで災害レベル」
「お前は逆にカナデを見習って、少しは人の目を気にしろ」
「あれ? どうして私が怒られてるんだろう?」
 ポンポン飛び交う会話に、八木橋はまた楽しそうに笑う。
 
 そこへ、ヒロが不思議そうに問いかけた。
「なぁ。俺、よくわかんないから聞いちゃってもいい? お前、体と中身は別ってことなんだろ? そしたら、普段生活してて無理なことってなに?
 学校でお前が肌見せようとしないのも、関係あったりするの?」
「ヒロ、デリカシーが無いよ」
「なんでだよ、別にふざけてるわけじゃねーし。体弱いのかってずっと気になってたし、むしろ知っといた方がフォロー出来るかもしれないだろ? 亜姫みたいに、怖いこととかあるかもしれねーじゃん」
 
 ヒロのストレートな言葉に、八木橋は柔らかく微笑んだ。
「君達はイイね。和泉君が変わった理由がよくわかる」
 そう言うと、自分の事を話し始めた。
 
 体を見られることに強い抵抗があること。
 男女別で男子のくくりに入れられるのは苦痛があること。
 今の所、好きな対象は男であること等。
 
「好きな奴が出来た時はどーすんの?」

「何もしない。向こうから見たら僕は男なわけだし。そんなの……バレたら気持ち悪いって言われて終わりかな、って考えちゃうよね。
 その前に、僕自身が自分をまだ受け入れられてないから……人から受け入れられるなんて思えない。
 流石にまだ、そこまで楽観的に考えられない……かな」
 哀しそうに笑う八木橋に亜姫がそっと寄り添う。
 
 と。
 
「俺、カナデなら大丈夫かも」

 戸塚の言葉に、皆の動きが止まった。
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