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高3
八木橋くんとカナデさん(19)
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すると、黙って亜姫の後ろに立っていた八木橋が盛大に噴き出した。
「橘さん、面白すぎ……! ちょ、っと……これは、予想外……はははははっ!!
ごめんごめん、橘さんが出て来るのが見えたからわざと迫ったフリをしたの。
手を出そうとしたのは僕の方で、和泉君は阻止しようとしてただけだよ」
お腹を抱えて八木橋は笑い続ける。
亜姫はぽかんと口を開け、二人の顔を交互に眺める。
「和泉君、これでわかった? 橘さんは、僕を男じゃなくて女友達のくくりに入れてるんだ」
そう言った八木橋は、どうにか笑いをおさめると改めて和泉を見た。
「君の予想は半分当たってる。……でも大丈夫。橘さんは信頼できる大事な友達だと思ってる。
初めて出来た、本音で話せる友達。……失いたくないんだ。だから、心配しないで」
真正面から和泉を見て、八木橋は信じてほしいと告げた。
和泉は何も言わなかったが、代わりに鋭かった視線を少しだけ緩める。
八木橋もそれを見て口元を緩めた。
「和泉君て、橘さんの前だと全然イメージが違うんだね。僕、見た目は君が理想なんだけど、中身はもっと大人びた人が好みなんだよね」
「……え? カナちゃん……」
亜姫が驚きを見せると、八木橋は優しい笑みを向けた。
「さっき、僕は男が好きなんだって伝えた。
橘さん、約束を守ってくれてたんだね。ありがとう。そのせいで喧嘩させちゃったんだ? ごめんね」
そして何かを吐き出すように大きく息を吐き、楽しそうに和泉を見る。
「性的嗜好なんてどうでもいい、好きな性別や好みは感情一つでどーにでも変わる時がある……か。確かに。
そうだよね、この先僕が誰を好きになるかなんてわからないって、まさに今、そう思うもの。
……僕、やっぱり橘さんが好きだなぁ」
「おい」
やっぱり一発殴ろうと和泉が手を挙げかけた時、亜姫の嬉しそうな顔が見えた。
和泉はますます苛ついて、その手を亜姫に伸ばす。
「お前もそこで喜ぶんじゃねぇよ」
八木橋にその顔を見せないように、亜姫を引き寄せ顔を隠す。
「好き、にも色々あるよね。うん、本当に。
いま色々悩んだってしょうがないな。普通に女の子を好きになる日が来るかもしれないもんね」
「カナちゃんが幸せなら、どっちでもいいと思うよ」
和泉の腕から抜け出そうと藻掻きながら、亜姫は嬉しそうにしている。
亜姫はあいつの楽しそうな声を聞き、喜んでいるに違いない。
あの嬉しそうな顔を八木橋なんかに見せてたまるか。
小さな反発だとわかっていたが、和泉は亜姫を更に抱き込んだ。
「今までどおり男に目を向けとけよ、今更よそ見すんなって」
和泉は苦し紛れにそう言ってみたが、亜姫達は楽しそうに会話し続けている。
「あー、失敗したな……無視しときゃよかった。
もう亜姫に手ぇ出さなきゃなんでもいーや……」
和泉は溜息と共に大きく項垂れた。
「ふふっ、君達って二人とも面白いよね。なんだか、悩んでたことがバカバカしくなってきちゃった」
八木橋は楽しそうに笑う。
「橘さん。和泉君と一緒に来れば?」
そう言うと、八木橋は和泉に向き直る。
「和泉君。確かに僕は橘さんを家に招待してる。
……そこは、僕の心の拠り所なんだ。逃げ場でもある。信頼できる友達ができたら、いつか自分のしてることを理解してもらいたいと思ってた。
まだ君には言ってない話もある。でも、和泉君には全部知られてもいい。
君は信用できると思う。だから……僕のことも、信用してほしい」
「……いいのかよ、俺が行っても」
静かに問う和泉に、八木橋は優しく微笑んだ。
「喜んで。橘さんと友好関係を続ける為にも、ぜひ来て。来てもらえば、わかると思うし……君なら、僕のことも理解してくれる気がするな。
してもらえなくても構わない。……でも、僕は伝えたいと思った。だから、一緒に来て」
そう言うと、八木橋は外履きに替えるべく動き出した。
「あれ? 私……勘違い、してた?」
「お前な……ひとつもあってない。それに、少しは俺の心配もしろよ。
麻美の時は泣いたくせに。なんなんだよ、この違い」
和泉が脱力して嘆くと、亜姫はヘヘッと笑った。
「守ってあげなきゃ、って思っちゃった……。
だって、カナちゃんって可愛いんだもん」
「お前の中では、あいつは女なんだな」
頷く亜姫を見て、和泉はようやく安心した。
「橘さん、面白すぎ……! ちょ、っと……これは、予想外……はははははっ!!
ごめんごめん、橘さんが出て来るのが見えたからわざと迫ったフリをしたの。
手を出そうとしたのは僕の方で、和泉君は阻止しようとしてただけだよ」
お腹を抱えて八木橋は笑い続ける。
亜姫はぽかんと口を開け、二人の顔を交互に眺める。
「和泉君、これでわかった? 橘さんは、僕を男じゃなくて女友達のくくりに入れてるんだ」
そう言った八木橋は、どうにか笑いをおさめると改めて和泉を見た。
「君の予想は半分当たってる。……でも大丈夫。橘さんは信頼できる大事な友達だと思ってる。
初めて出来た、本音で話せる友達。……失いたくないんだ。だから、心配しないで」
真正面から和泉を見て、八木橋は信じてほしいと告げた。
和泉は何も言わなかったが、代わりに鋭かった視線を少しだけ緩める。
八木橋もそれを見て口元を緩めた。
「和泉君て、橘さんの前だと全然イメージが違うんだね。僕、見た目は君が理想なんだけど、中身はもっと大人びた人が好みなんだよね」
「……え? カナちゃん……」
亜姫が驚きを見せると、八木橋は優しい笑みを向けた。
「さっき、僕は男が好きなんだって伝えた。
橘さん、約束を守ってくれてたんだね。ありがとう。そのせいで喧嘩させちゃったんだ? ごめんね」
そして何かを吐き出すように大きく息を吐き、楽しそうに和泉を見る。
「性的嗜好なんてどうでもいい、好きな性別や好みは感情一つでどーにでも変わる時がある……か。確かに。
そうだよね、この先僕が誰を好きになるかなんてわからないって、まさに今、そう思うもの。
……僕、やっぱり橘さんが好きだなぁ」
「おい」
やっぱり一発殴ろうと和泉が手を挙げかけた時、亜姫の嬉しそうな顔が見えた。
和泉はますます苛ついて、その手を亜姫に伸ばす。
「お前もそこで喜ぶんじゃねぇよ」
八木橋にその顔を見せないように、亜姫を引き寄せ顔を隠す。
「好き、にも色々あるよね。うん、本当に。
いま色々悩んだってしょうがないな。普通に女の子を好きになる日が来るかもしれないもんね」
「カナちゃんが幸せなら、どっちでもいいと思うよ」
和泉の腕から抜け出そうと藻掻きながら、亜姫は嬉しそうにしている。
亜姫はあいつの楽しそうな声を聞き、喜んでいるに違いない。
あの嬉しそうな顔を八木橋なんかに見せてたまるか。
小さな反発だとわかっていたが、和泉は亜姫を更に抱き込んだ。
「今までどおり男に目を向けとけよ、今更よそ見すんなって」
和泉は苦し紛れにそう言ってみたが、亜姫達は楽しそうに会話し続けている。
「あー、失敗したな……無視しときゃよかった。
もう亜姫に手ぇ出さなきゃなんでもいーや……」
和泉は溜息と共に大きく項垂れた。
「ふふっ、君達って二人とも面白いよね。なんだか、悩んでたことがバカバカしくなってきちゃった」
八木橋は楽しそうに笑う。
「橘さん。和泉君と一緒に来れば?」
そう言うと、八木橋は和泉に向き直る。
「和泉君。確かに僕は橘さんを家に招待してる。
……そこは、僕の心の拠り所なんだ。逃げ場でもある。信頼できる友達ができたら、いつか自分のしてることを理解してもらいたいと思ってた。
まだ君には言ってない話もある。でも、和泉君には全部知られてもいい。
君は信用できると思う。だから……僕のことも、信用してほしい」
「……いいのかよ、俺が行っても」
静かに問う和泉に、八木橋は優しく微笑んだ。
「喜んで。橘さんと友好関係を続ける為にも、ぜひ来て。来てもらえば、わかると思うし……君なら、僕のことも理解してくれる気がするな。
してもらえなくても構わない。……でも、僕は伝えたいと思った。だから、一緒に来て」
そう言うと、八木橋は外履きに替えるべく動き出した。
「あれ? 私……勘違い、してた?」
「お前な……ひとつもあってない。それに、少しは俺の心配もしろよ。
麻美の時は泣いたくせに。なんなんだよ、この違い」
和泉が脱力して嘆くと、亜姫はヘヘッと笑った。
「守ってあげなきゃ、って思っちゃった……。
だって、カナちゃんって可愛いんだもん」
「お前の中では、あいつは女なんだな」
頷く亜姫を見て、和泉はようやく安心した。
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