上 下
252 / 364
高3

八木橋くんとカナデさん(19)

しおりを挟む
 すると、黙って亜姫の後ろに立っていた八木橋が盛大に噴き出した。

「橘さん、面白すぎ……! ちょ、っと……これは、予想外……はははははっ!!
 ごめんごめん、橘さんが出て来るのが見えたからわざと迫ったフリをしたの。
 手を出そうとしたのは僕の方で、和泉君は阻止しようとしてただけだよ」
 お腹を抱えて八木橋は笑い続ける。
 
 亜姫はぽかんと口を開け、二人の顔を交互に眺める。
 
「和泉君、これでわかった? 橘さんは、僕を男じゃなくて女友達のくくりに入れてるんだ」
 そう言った八木橋は、どうにか笑いをおさめると改めて和泉を見た。

「君の予想は半分当たってる。……でも大丈夫。橘さんは信頼できる大事な友達だと思ってる。
 初めて出来た、本音で話せる友達。……失いたくないんだ。だから、心配しないで」
 
 真正面から和泉を見て、八木橋は信じてほしいと告げた。
 和泉は何も言わなかったが、代わりに鋭かった視線を少しだけ緩める。
 
 八木橋もそれを見て口元を緩めた。
 
「和泉君て、橘さんの前だと全然イメージが違うんだね。僕、見た目は君が理想なんだけど、中身はもっと大人びた人が好みなんだよね」
「……え? カナちゃん……」
 亜姫が驚きを見せると、八木橋は優しい笑みを向けた。
「さっき、僕は男が好きなんだって伝えた。
 橘さん、約束を守ってくれてたんだね。ありがとう。そのせいで喧嘩させちゃったんだ? ごめんね」
 
 そして何かを吐き出すように大きく息を吐き、楽しそうに和泉を見る。
 
「性的嗜好なんてどうでもいい、好きな性別や好みは感情一つでどーにでも変わる時がある……か。確かに。
 そうだよね、この先僕が誰を好きになるかなんてわからないって、まさに今、そう思うもの。
 ……僕、やっぱり橘さんが好きだなぁ」
「おい」
 
 やっぱり一発殴ろうと和泉が手を挙げかけた時、亜姫の嬉しそうな顔が見えた。
 和泉はますます苛ついて、その手を亜姫に伸ばす。
 
「お前もそこで喜ぶんじゃねぇよ」

 八木橋にその顔を見せないように、亜姫を引き寄せ顔を隠す。
 
「好き、にも色々あるよね。うん、本当に。
 いま色々悩んだってしょうがないな。普通に女の子を好きになる日が来るかもしれないもんね」
「カナちゃんが幸せなら、どっちでもいいと思うよ」
 
 和泉の腕から抜け出そうと藻掻きながら、亜姫は嬉しそうにしている。
 
 亜姫はあいつの楽しそうな声を聞き、喜んでいるに違いない。
 あの嬉しそうな顔を八木橋なんかに見せてたまるか。
 小さな反発だとわかっていたが、和泉は亜姫を更に抱き込んだ。
 
「今までどおり男に目を向けとけよ、今更よそ見すんなって」
 和泉は苦し紛れにそう言ってみたが、亜姫達は楽しそうに会話し続けている。
 
「あー、失敗したな……無視しときゃよかった。
 もう亜姫に手ぇ出さなきゃなんでもいーや……」
 和泉は溜息と共に大きく項垂れた。
 
「ふふっ、君達って二人とも面白いよね。なんだか、悩んでたことがバカバカしくなってきちゃった」
 八木橋は楽しそうに笑う。
 
「橘さん。和泉君と一緒に来れば?」

 そう言うと、八木橋は和泉に向き直る。

「和泉君。確かに僕は橘さんを家に招待してる。
 ……そこは、僕の心の拠り所なんだ。逃げ場でもある。信頼できる友達ができたら、いつか自分のしてることを理解してもらいたいと思ってた。
 まだ君には言ってない話もある。でも、和泉君には全部知られてもいい。
 君は信用できると思う。だから……僕のことも、信用してほしい」

「……いいのかよ、俺が行っても」

 静かに問う和泉に、八木橋は優しく微笑んだ。

「喜んで。橘さんと友好関係を続ける為にも、ぜひ来て。来てもらえば、わかると思うし……君なら、僕のことも理解してくれる気がするな。
 してもらえなくても構わない。……でも、僕は伝えたいと思った。だから、一緒に来て」
 そう言うと、八木橋は外履きに替えるべく動き出した。
 
「あれ? 私……勘違い、してた?」
「お前な……ひとつもあってない。それに、少しは俺の心配もしろよ。
 麻美の時は泣いたくせに。なんなんだよ、この違い」

 和泉が脱力して嘆くと、亜姫はヘヘッと笑った。

「守ってあげなきゃ、って思っちゃった……。
 だって、カナちゃんって可愛いんだもん」
「お前の中では、あいつは女なんだな」
 
 頷く亜姫を見て、和泉はようやく安心した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

約束へと続くストローク

葛城騰成
青春
 競泳のオリンピック選手を目指している双子の幼馴染に誘われてスイミングスクールに通うようになった少女、金井紗希(かないさき)は、小学五年生になったある日、二人が転校してしまうことを知る。紗希は転校当日に双子の兄である橘柊一(たちばなしゅういち)に告白して両想いになった。  凄い選手になって紗希を迎えに来ることを誓った柊一と、柊一より先に凄い選手になって柊一を迎えに行くことを誓った紗希。その約束を胸に、二人は文通をして励まし合いながら、日々を過ごしていく。  時が経ち、水泳の名門校である立清学園(りっせいがくえん)に入学して高校生になった紗希は、女子100m自由形でインターハイで優勝することを決意する。  長年勝つことができないライバル、湾内璃子(わんないりこ)や、平泳ぎを得意とする中條彩乃(なかじょうあやの)、柊一と同じ学校に通う兄を持つ三島夕(みしまゆう)など、多くの仲間たちと関わる中で、紗希は選手としても人間としても成長していく。  絶好調かに思えたある日、紗希の下に「紗希と話がしたい」と書かれた柊一からの手紙が届く。柊一はかつて交わした約束を忘れてしまったのか? 数年ぶりの再会を果たした時、運命の歯車が大きく動き出す。 ※表示画像は、SKIMAを通じて知様に描いていただきました。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

風景屋~最期に貴方は心に何を思い浮かべますか?~

土偶の友
青春
 誰とも関わろうとしないし、何にも執着しようとしない女子高生の日下部 悠里(くさかべ ゆうり)。彼女はある時母に呼び出されて家に帰ると病院に行くという。詳しく聞くと昔よく遊んでもらった祖父が倒れたらしい。して病院へ行き、その祖父が寝言で呟いた言葉。悠里はそれを叶えてあげたいと思い行動する。それ行動が自身の価値観を揺るがし始め奇怪な運命を紡ぎ出す。  エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

学校に行きたくない私達の物語

能登原あめ
青春
※ 甘酸っぱい青春を目指しました。ピュアです。 「学校に行きたくない」  大きな理由じゃないけれど、休みたい日もある。  休みがちな女子高生達が悩んで、恋して、探りながら一歩前に進むお話です。  (それぞれ独立した話になります) 1 雨とピアノ 全6話(同級生) 2 日曜の駆ける約束 全4話(後輩) 3 それが儚いものだと知ったら 全6話(先輩) * コメント欄はネタバレ配慮していないため、お気をつけください。 * 表紙はCanvaさまで作成した画像を使用しております。

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

処理中です...