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高3
八木橋くんとカナデさん(1)
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夏休みも終わり、いつもの昼休み。
屋上で皆揃ってお昼を食べたあと、亜姫は携帯の画面に見入っていた。
「──き、亜姫」
「えっ?」
肩を叩かれて顔を上げると、皆の呆れた顔があった。
「また聞いてなかったのかよ。何を見てんの?」
「亜姫、これ好きだよな。カナデだっけ?」
和泉が画面を覗き込むと、亜姫は嬉しそうに顔を綻ばせる。
「うん、カナデさん。新作のバッグとミニチュア作品が出てた。いつかカナデさんのバッグを買いたいんだけど無理だもんなぁ……。本当にどれも可愛い。全部欲しい」
「ミニチュア作品がまた可愛いのよね、私もカナデさんの作品、好きよ。でも販売してないもんね」
そう言う麗華の隣から沙世莉も携帯を覗き込み、やだ可愛い! と声を上げている。
「そんなことより、このあと決める文化祭の係! どーすんだよ。やっぱ亜姫と和泉はまた道具係?」
「今回は劇だろ。劇の大道具だけは、倉庫の再利用じゃなくて全部作るらしいよ。だから男はできるだけ大道具に欲しいって」
「和泉は大道具に欲しいって言われてたわよ」
すると沙世莉が、いいことを思いついたと声を上げる。
「じゃあ、亜姫は裁縫係に回ったら?」
「裁縫?」
「そう。服と小物の二手に分かれるの。小物の方なら、カナデさんが作るようなものが自分で作れるし。
裁縫得意な子が一緒にやるから、未経験でも教えてもらえるよ?」
「それはやりたいかも……! あ、でも……」
亜姫は不安そうに和泉を見た。
慣れないことをする時に和泉がいないのは不安がある。そんな亜姫を安心させるように麗華が言った。
「裁縫係は例年、女子ばっかりよ。作業も教室内だから知らない奴に会うこともないし、私達も同じ係にすれば大丈夫じゃない? 大道具も大抵は教室か廊下にいるんでしょ?」
「やりたいことが出来るようになるのは良いことじゃん。それなら和泉も反対しないよね?」
独占欲を牽制するような戸塚の後押し。和泉は渋々ながら頷いた。
そして、ウキウキと午後の授業に臨んだ亜姫だったが。
現在、放課後のファミレス。
皆で揃って頭を抱えていた。
「いや、本当に……ごめんというか」
沙世莉が机に肘を付き、頭を下げてその上に拝んだ手を掲げている。
その横では、麗華があからさまに不機嫌な顔で座っていた。
「麗華、もう機嫌直せよ。和泉を出したら亜姫も出さなきゃいけないし、今の亜姫じゃ流石に無理だってわかるだろ?」
「それはわかってるわよ。でも、別に私じゃなくてもよかったじゃない」
「沙世莉は部活の方でも出し物があるから、物理的に無理だったろ。仮に亜姫が出来たとしても、色気ねーから役不足。
候補の中じゃお前が一番適役。その証拠に、満場一致で決まったじゃねーか。お前、見た目がいいんだから出し惜しみすんなって」
「ヒロ、言い方! もう! ……麗華? 私、麗華のお姫様は楽しみだよ? だって、絶対似合うもの」
亜姫が嬉しさを滲ませるのを見て、麗華は溜息を吐き出した。
「決まったものはしょうがないから、もういいわ。相手は戸塚だし、変な奴と組むよりマシよね。
……それより、問題は亜姫の方でしょ」
その言葉に、全員が一斉に溜息をついた。
屋上で皆揃ってお昼を食べたあと、亜姫は携帯の画面に見入っていた。
「──き、亜姫」
「えっ?」
肩を叩かれて顔を上げると、皆の呆れた顔があった。
「また聞いてなかったのかよ。何を見てんの?」
「亜姫、これ好きだよな。カナデだっけ?」
和泉が画面を覗き込むと、亜姫は嬉しそうに顔を綻ばせる。
「うん、カナデさん。新作のバッグとミニチュア作品が出てた。いつかカナデさんのバッグを買いたいんだけど無理だもんなぁ……。本当にどれも可愛い。全部欲しい」
「ミニチュア作品がまた可愛いのよね、私もカナデさんの作品、好きよ。でも販売してないもんね」
そう言う麗華の隣から沙世莉も携帯を覗き込み、やだ可愛い! と声を上げている。
「そんなことより、このあと決める文化祭の係! どーすんだよ。やっぱ亜姫と和泉はまた道具係?」
「今回は劇だろ。劇の大道具だけは、倉庫の再利用じゃなくて全部作るらしいよ。だから男はできるだけ大道具に欲しいって」
「和泉は大道具に欲しいって言われてたわよ」
すると沙世莉が、いいことを思いついたと声を上げる。
「じゃあ、亜姫は裁縫係に回ったら?」
「裁縫?」
「そう。服と小物の二手に分かれるの。小物の方なら、カナデさんが作るようなものが自分で作れるし。
裁縫得意な子が一緒にやるから、未経験でも教えてもらえるよ?」
「それはやりたいかも……! あ、でも……」
亜姫は不安そうに和泉を見た。
慣れないことをする時に和泉がいないのは不安がある。そんな亜姫を安心させるように麗華が言った。
「裁縫係は例年、女子ばっかりよ。作業も教室内だから知らない奴に会うこともないし、私達も同じ係にすれば大丈夫じゃない? 大道具も大抵は教室か廊下にいるんでしょ?」
「やりたいことが出来るようになるのは良いことじゃん。それなら和泉も反対しないよね?」
独占欲を牽制するような戸塚の後押し。和泉は渋々ながら頷いた。
そして、ウキウキと午後の授業に臨んだ亜姫だったが。
現在、放課後のファミレス。
皆で揃って頭を抱えていた。
「いや、本当に……ごめんというか」
沙世莉が机に肘を付き、頭を下げてその上に拝んだ手を掲げている。
その横では、麗華があからさまに不機嫌な顔で座っていた。
「麗華、もう機嫌直せよ。和泉を出したら亜姫も出さなきゃいけないし、今の亜姫じゃ流石に無理だってわかるだろ?」
「それはわかってるわよ。でも、別に私じゃなくてもよかったじゃない」
「沙世莉は部活の方でも出し物があるから、物理的に無理だったろ。仮に亜姫が出来たとしても、色気ねーから役不足。
候補の中じゃお前が一番適役。その証拠に、満場一致で決まったじゃねーか。お前、見た目がいいんだから出し惜しみすんなって」
「ヒロ、言い方! もう! ……麗華? 私、麗華のお姫様は楽しみだよ? だって、絶対似合うもの」
亜姫が嬉しさを滲ませるのを見て、麗華は溜息を吐き出した。
「決まったものはしょうがないから、もういいわ。相手は戸塚だし、変な奴と組むよりマシよね。
……それより、問題は亜姫の方でしょ」
その言葉に、全員が一斉に溜息をついた。
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