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高3
あんず飴とジャガバター(3)
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「これ、一個だけ先に食べてもいい?」
亜姫はお預けを食らった犬みたいにウズウズしている。
和泉はそれに笑い、すぐそばの広場へ連れていった。
そこは程よく空いていて、亜姫の気持ちもいつになく落ち着いている。
ゴミ箱のすぐ横にちょうどいいスペースがあったので立ち止まると、亜姫は幸せそうにあんず飴を口にした。
美味しそうに頬張る亜姫が、ふと思いついたように言う。
「ねえ、和泉も食べてみる?」
「それ、甘いんだろ?」
「うん。でも、スモモが酸っぱくて美味しいの。和泉、意外と気に入るかも。いっぱいあるからちょっと試してみない?」
亜姫は持っていた最中を和泉に預け、食べかけのスモモを歯に引っかけて咥えた。
新しいあんず飴を出そうと、亜姫は手元を探る。
「おい、水飴垂れそう」
声と同時に視界が影り、亜姫は顔を上げる。
チュウ……カリッ。
そんな音が、やたら近くで聞こえた。
それは。
和泉が亜姫の口から垂れた水飴を自身の唇で掬い、そのまま咥えていたスモモを齧った音だった。
妙にゆっくりスモモを囓る和泉の口。その動きは亜姫の唇にも少し重なっていて、キスとは違う……でもそれより卑猥なことをされているようで。
亜姫の神経は口元に集中し、思考が停止した。
一連の動きをスローモーションで感じ……唇から熱が遠のいたことで、我に返る。
亜姫の目の前には、ほんのり色気を纏った和泉がいた。
咥えていたはずのスモモは、いつの間にか和泉の手にあって半分なくなっている。
和泉は口元をグイっと拭い、その親指で同じように亜姫の口も拭う。
指に付いた水飴を舌で舐めとりながら、和泉が言う。
「うん、やっぱり甘い」
「え……と、あの……何して……」
「お前が試してみろって言ったんじゃん」
「違……う、ここに入ってるのを、あげようと思っ……」
「意外と美味いな、これ」
和泉は、手に持つスモモを亜姫の口まで持ってきた。
その棒を軽く振り、口を開けろと言外に合図するが。
「あ、あげる。……それ、気に入ったなら……食べていーよ……」
亜姫はそう言って、自分の分を新しく出そうと手元を探った。
「ふーん? じゃあ遠慮なく」
和泉は手に持つスモモを口に入れた。
亜姫の肩越しに見えたゴミ箱。
和泉は亜姫の肩に手を添え、身を乗り出すようにしてゴミ箱へ棒を投げ入れる。そして体を戻しながら……亜姫に口づけた。
直後、亜姫の口に何かが押し込まれる。
どこかでドサッと音がした。
「な、に……?」
呆けた亜姫が呟くと、口の中でコリっという音と甘酸っぱい味。
「全部、自分で食べるって言っただろ。ちゃんと食えよ」
にやりと笑う和泉の表情に、何をされたかようやく理解した。
「あーあ、袋落としちゃったじゃん。まだ食えるかな」
亜姫が落とした、あんず飴の入った袋を和泉が拾う。
目の前に立っていた和泉がしゃがむと、亜姫の視界いっぱいに広場が広がった。
衝撃と興奮。羨望や嫉妬。そんな空気に包まれた広場と、こちらに向く多数の視線。
それで、一部始終を見られていたと気づく。
亜姫の全身が火を噴きそうなほどブワッと熱くなる。
そんな周りを気にすることなく、袋を拾った和泉はご機嫌だった。
「俺、あんず飴にハマりそう。亜姫と祭り行く時、毎回食べようかな」
瞬間、女の子達が高い声を上げる。それがトドメとなり、亜姫はこの場にいるのが耐えられなくなった。
「か、買わない……。もう、これ……二度と食べないぃぃ……」
下を向く。羞恥でホロっと涙が出て、最後の声が震えてしまった。
「……亜姫?」
焦った和泉が亜姫を抱き寄せる。
再び黄色い声が聞こえたが、亜姫は公衆の場で抱き寄せられた恥ずかしさより羞恥からの逃避が勝った。視界を遮る体を退かしたくなくて、そのまま和泉の胸に顔を埋める。
「ここから離れたい……。でも、もう恥ずかしくて歩けない。和泉のバカァァ…………」
「やり過ぎた? ごめんな?……戻ろっか」
和泉はかぶっていた帽子を亜姫の頭に乗せる。
「これで顔を隠せよ」
小さく頷いた亜姫の肩を抱き、人が少ない裏道を使おうと宥めながら、和泉は広場の外へと向かった。
亜姫はお預けを食らった犬みたいにウズウズしている。
和泉はそれに笑い、すぐそばの広場へ連れていった。
そこは程よく空いていて、亜姫の気持ちもいつになく落ち着いている。
ゴミ箱のすぐ横にちょうどいいスペースがあったので立ち止まると、亜姫は幸せそうにあんず飴を口にした。
美味しそうに頬張る亜姫が、ふと思いついたように言う。
「ねえ、和泉も食べてみる?」
「それ、甘いんだろ?」
「うん。でも、スモモが酸っぱくて美味しいの。和泉、意外と気に入るかも。いっぱいあるからちょっと試してみない?」
亜姫は持っていた最中を和泉に預け、食べかけのスモモを歯に引っかけて咥えた。
新しいあんず飴を出そうと、亜姫は手元を探る。
「おい、水飴垂れそう」
声と同時に視界が影り、亜姫は顔を上げる。
チュウ……カリッ。
そんな音が、やたら近くで聞こえた。
それは。
和泉が亜姫の口から垂れた水飴を自身の唇で掬い、そのまま咥えていたスモモを齧った音だった。
妙にゆっくりスモモを囓る和泉の口。その動きは亜姫の唇にも少し重なっていて、キスとは違う……でもそれより卑猥なことをされているようで。
亜姫の神経は口元に集中し、思考が停止した。
一連の動きをスローモーションで感じ……唇から熱が遠のいたことで、我に返る。
亜姫の目の前には、ほんのり色気を纏った和泉がいた。
咥えていたはずのスモモは、いつの間にか和泉の手にあって半分なくなっている。
和泉は口元をグイっと拭い、その親指で同じように亜姫の口も拭う。
指に付いた水飴を舌で舐めとりながら、和泉が言う。
「うん、やっぱり甘い」
「え……と、あの……何して……」
「お前が試してみろって言ったんじゃん」
「違……う、ここに入ってるのを、あげようと思っ……」
「意外と美味いな、これ」
和泉は、手に持つスモモを亜姫の口まで持ってきた。
その棒を軽く振り、口を開けろと言外に合図するが。
「あ、あげる。……それ、気に入ったなら……食べていーよ……」
亜姫はそう言って、自分の分を新しく出そうと手元を探った。
「ふーん? じゃあ遠慮なく」
和泉は手に持つスモモを口に入れた。
亜姫の肩越しに見えたゴミ箱。
和泉は亜姫の肩に手を添え、身を乗り出すようにしてゴミ箱へ棒を投げ入れる。そして体を戻しながら……亜姫に口づけた。
直後、亜姫の口に何かが押し込まれる。
どこかでドサッと音がした。
「な、に……?」
呆けた亜姫が呟くと、口の中でコリっという音と甘酸っぱい味。
「全部、自分で食べるって言っただろ。ちゃんと食えよ」
にやりと笑う和泉の表情に、何をされたかようやく理解した。
「あーあ、袋落としちゃったじゃん。まだ食えるかな」
亜姫が落とした、あんず飴の入った袋を和泉が拾う。
目の前に立っていた和泉がしゃがむと、亜姫の視界いっぱいに広場が広がった。
衝撃と興奮。羨望や嫉妬。そんな空気に包まれた広場と、こちらに向く多数の視線。
それで、一部始終を見られていたと気づく。
亜姫の全身が火を噴きそうなほどブワッと熱くなる。
そんな周りを気にすることなく、袋を拾った和泉はご機嫌だった。
「俺、あんず飴にハマりそう。亜姫と祭り行く時、毎回食べようかな」
瞬間、女の子達が高い声を上げる。それがトドメとなり、亜姫はこの場にいるのが耐えられなくなった。
「か、買わない……。もう、これ……二度と食べないぃぃ……」
下を向く。羞恥でホロっと涙が出て、最後の声が震えてしまった。
「……亜姫?」
焦った和泉が亜姫を抱き寄せる。
再び黄色い声が聞こえたが、亜姫は公衆の場で抱き寄せられた恥ずかしさより羞恥からの逃避が勝った。視界を遮る体を退かしたくなくて、そのまま和泉の胸に顔を埋める。
「ここから離れたい……。でも、もう恥ずかしくて歩けない。和泉のバカァァ…………」
「やり過ぎた? ごめんな?……戻ろっか」
和泉はかぶっていた帽子を亜姫の頭に乗せる。
「これで顔を隠せよ」
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