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高3
祭り(5)
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和泉達がそこに辿り着いた時、亜姫は男二人に挟み込まれていた。それは、同級生だった千葉と鈴木。
千葉に後ろから抱き込まれるように抑え込まれ、鈴木が亜姫の体へ手を伸ばしているところだった。
「亜姫!!」
和泉は亜姫を引き剥がすように奪い取り、胸に抱き止めた。亜姫は何の反応もせず、腕の中にすんなり収まる。
和泉は亜姫を抱く手に力を込めながら、目の前に立つ祥子を睨みつけた。
「何をした?」
「よくここが分かったね」
祥子は機嫌の良さそうな顔で、感心したように笑う。
「質問に答えろ」
「話をしてただけだけど?」
「……そんなわけねーだろ」
「和泉? そんなに必死になるなんて、らしくない。どうしちゃったの?」
「亜姫に、何をした?」
「だから、話してただけだってば。何よ、一体どうしちゃったわけ?………ずいぶん大事にしてるんだね」
「何をしたのか、って聞いてんだよ」
空気が震えるほどの殺気を放ち、和泉は再度問う。
健吾達も亜姫を庇うように前に立った。彼らも同じように殺気立っていた。
そこへ、亜姫の明るい声が割り込む。
「本当に話をしてただけだよ。さっき偶然会って、昔のお話聞いてたらこんなとこまで来ちゃった」
皆が疑問を顔に貼り付けたが、亜姫はヘヘッと困ったように笑う。
「亜姫……」
和泉の声に、亜姫はにこりと笑顔を返す。
「ごめんね、心配かけちゃって。今、ちょうど電話しようとしてたところだったの」
健吾達が何か言おうとしたが、亜姫はそれを察して殊更明るく言った。
「早く戻ろう? 焼きそばが冷めちゃうよ。……祥子さん、それじゃ」
和泉達を急かすようにして、亜姫はその場を後にした。
席に戻ったあとも亜姫が何も言わず明るく話を続けたので、皆も祥子達の話には触れられず。一見、和やかな雰囲気が戻る。
シートの端にはもともと設置されている石造りのベンチがあり、亜姫と和泉はそこに座っていた。
買った焼きそばを二人でつつきながら、皆で楽しく過ごす。その間も亜姫はずっと笑っていた。
そんな空気がしばらく続いたあと、和泉が不意に立ち上がった。
先程までの和やかさを消すように、難しい顔で亜姫の前に膝立ちして向き合う。
皆が話を止めて和泉を見た。
「和泉? どうしたの?」
笑顔で聞く亜姫に、和泉は真顔で言った。
「あいつらに、何された?」
健吾達が息を呑み、しん……とした空気が周りを包んだ。
「な……に、いきなり。……何もなかったってば」
亜姫は笑いながら答える。
しかし和泉は真顔のまま、再度言う。
「何をされたか言え」
亜姫は麻美達を一瞬見た。皆がこっちに注目してるのを確認してから、また笑う。
「だから、何もないってば! もう、和泉のせいで変な空気になっちゃったよ?」
ねぇ? と同意を求めて皆を見るが、誰も笑っていなかった。
その様子に亜姫はビクリと肩を揺らす。
そこへ、再び和泉の声がかぶさった。
「ごまかすな」
亜姫は変わらずまだ笑っていた。だが、和泉はその腰に両腕を絡める。
「じゃあ。……なんで、こんなに震えてるんだよ」
それを聞いた瞬間、亜姫の笑顔が張り付いて固まった。否、上手く笑えなくなっていた顔、が。
「さっき、千葉達を引き剥がした時から。お前……ずっと震えてる」
イヤイヤと小さく首を振る亜姫は「ち、違……違う……」と呟く。
そんな亜姫の頬を両手で挟み、自分に顔を向けさせて。和泉は深刻な声色で聞いた。
「亜姫。今、何を見てる?」
「違う……何で、も……ないから」
まだ否定する亜姫の目に、涙が溜まり始める。
それを必死で堪え、まだ何でも無いフリをしようとした亜姫に、和泉は眉間に皺を寄せた厳しい顔で言った。
「亜姫……発作、起こしてるだろ」
和泉と目を合わせたまま、違う……違う……と譫言のように呟きながら否定する亜姫。
突然の事に動揺する健吾達へ、和泉は「黙ってて」と手の動きだけで伝える。そして、亜姫にゆっくりと告げた。
「石橋は、いない。ここは、学校じゃないよ」
瞬間、ヒュッと息を呑む音。
亜姫が和泉の顔を見たまま目を見開いて「あ……あ……」と声にならない声を出す。
宙をさまよいだしたその手を優しく取り、和泉は亜姫の体を自分の膝に乗せて包み込むように抱きしめた。
「大丈夫、大丈夫だよ、もう大丈夫だから。俺のこと、分かる?」
亜姫は小さく頷く。
朦朧とし始めた彼女の背中をさすりながら、和泉は何があったか問う。
何とか理性を保とうとしているのか……話すのを拒否する亜姫を宥めて聞きだしたのは、連れ出された後の事。
和泉と祥子がかなり親しいと信じてしまったこと。
和泉と一緒にいることはもう出来ないと言われたこと。
そして。
突然後ろから左手を掴まれた、抱え込まれて「捕まえた」と言われた。
先輩が、来た。
最後にそう言って。
亜姫は、大きな発作を起こした。
千葉に後ろから抱き込まれるように抑え込まれ、鈴木が亜姫の体へ手を伸ばしているところだった。
「亜姫!!」
和泉は亜姫を引き剥がすように奪い取り、胸に抱き止めた。亜姫は何の反応もせず、腕の中にすんなり収まる。
和泉は亜姫を抱く手に力を込めながら、目の前に立つ祥子を睨みつけた。
「何をした?」
「よくここが分かったね」
祥子は機嫌の良さそうな顔で、感心したように笑う。
「質問に答えろ」
「話をしてただけだけど?」
「……そんなわけねーだろ」
「和泉? そんなに必死になるなんて、らしくない。どうしちゃったの?」
「亜姫に、何をした?」
「だから、話してただけだってば。何よ、一体どうしちゃったわけ?………ずいぶん大事にしてるんだね」
「何をしたのか、って聞いてんだよ」
空気が震えるほどの殺気を放ち、和泉は再度問う。
健吾達も亜姫を庇うように前に立った。彼らも同じように殺気立っていた。
そこへ、亜姫の明るい声が割り込む。
「本当に話をしてただけだよ。さっき偶然会って、昔のお話聞いてたらこんなとこまで来ちゃった」
皆が疑問を顔に貼り付けたが、亜姫はヘヘッと困ったように笑う。
「亜姫……」
和泉の声に、亜姫はにこりと笑顔を返す。
「ごめんね、心配かけちゃって。今、ちょうど電話しようとしてたところだったの」
健吾達が何か言おうとしたが、亜姫はそれを察して殊更明るく言った。
「早く戻ろう? 焼きそばが冷めちゃうよ。……祥子さん、それじゃ」
和泉達を急かすようにして、亜姫はその場を後にした。
席に戻ったあとも亜姫が何も言わず明るく話を続けたので、皆も祥子達の話には触れられず。一見、和やかな雰囲気が戻る。
シートの端にはもともと設置されている石造りのベンチがあり、亜姫と和泉はそこに座っていた。
買った焼きそばを二人でつつきながら、皆で楽しく過ごす。その間も亜姫はずっと笑っていた。
そんな空気がしばらく続いたあと、和泉が不意に立ち上がった。
先程までの和やかさを消すように、難しい顔で亜姫の前に膝立ちして向き合う。
皆が話を止めて和泉を見た。
「和泉? どうしたの?」
笑顔で聞く亜姫に、和泉は真顔で言った。
「あいつらに、何された?」
健吾達が息を呑み、しん……とした空気が周りを包んだ。
「な……に、いきなり。……何もなかったってば」
亜姫は笑いながら答える。
しかし和泉は真顔のまま、再度言う。
「何をされたか言え」
亜姫は麻美達を一瞬見た。皆がこっちに注目してるのを確認してから、また笑う。
「だから、何もないってば! もう、和泉のせいで変な空気になっちゃったよ?」
ねぇ? と同意を求めて皆を見るが、誰も笑っていなかった。
その様子に亜姫はビクリと肩を揺らす。
そこへ、再び和泉の声がかぶさった。
「ごまかすな」
亜姫は変わらずまだ笑っていた。だが、和泉はその腰に両腕を絡める。
「じゃあ。……なんで、こんなに震えてるんだよ」
それを聞いた瞬間、亜姫の笑顔が張り付いて固まった。否、上手く笑えなくなっていた顔、が。
「さっき、千葉達を引き剥がした時から。お前……ずっと震えてる」
イヤイヤと小さく首を振る亜姫は「ち、違……違う……」と呟く。
そんな亜姫の頬を両手で挟み、自分に顔を向けさせて。和泉は深刻な声色で聞いた。
「亜姫。今、何を見てる?」
「違う……何で、も……ないから」
まだ否定する亜姫の目に、涙が溜まり始める。
それを必死で堪え、まだ何でも無いフリをしようとした亜姫に、和泉は眉間に皺を寄せた厳しい顔で言った。
「亜姫……発作、起こしてるだろ」
和泉と目を合わせたまま、違う……違う……と譫言のように呟きながら否定する亜姫。
突然の事に動揺する健吾達へ、和泉は「黙ってて」と手の動きだけで伝える。そして、亜姫にゆっくりと告げた。
「石橋は、いない。ここは、学校じゃないよ」
瞬間、ヒュッと息を呑む音。
亜姫が和泉の顔を見たまま目を見開いて「あ……あ……」と声にならない声を出す。
宙をさまよいだしたその手を優しく取り、和泉は亜姫の体を自分の膝に乗せて包み込むように抱きしめた。
「大丈夫、大丈夫だよ、もう大丈夫だから。俺のこと、分かる?」
亜姫は小さく頷く。
朦朧とし始めた彼女の背中をさすりながら、和泉は何があったか問う。
何とか理性を保とうとしているのか……話すのを拒否する亜姫を宥めて聞きだしたのは、連れ出された後の事。
和泉と祥子がかなり親しいと信じてしまったこと。
和泉と一緒にいることはもう出来ないと言われたこと。
そして。
突然後ろから左手を掴まれた、抱え込まれて「捕まえた」と言われた。
先輩が、来た。
最後にそう言って。
亜姫は、大きな発作を起こした。
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