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高3

内緒でお勉強(1)

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 春休みも今までと同じように過ごし、亜姫達は進級して三年になった。
 熊澤が卒業してあまり会えないのは寂しいが、特に目新しいこともなく日々穏やかに過ぎていく。 
 そんな中、亜姫は屋上の片隅で麗華・沙世莉・琴音とお昼を食べていた。
 
 たまには女同士の時間を寄越せと沙世莉が主張すると、強固に反対された。
 それに腹を立てた麗華が強引に亜姫を連れ出し、和泉は屋上の反対側へと追いやった。ヒロと戸塚を監視につけて。
 
「あいつってなんだかんだ理由つけてるけど、ようは亜姫を独占したいだけだよね。放っといたら隙見て取り返しに来るよ、きっと。
 撃退用に催涙スプレーでも常備しとく? 猛獣用の麻酔銃とか使えないかね?」
「そんなもん効かないわよ。動きを止めようが亜姫を隠そうが、あのバカ絶対に諦めないもの。
 まったく、どこまでも鬱陶しいったらないわね。ただでさえ図体でかくて邪魔なのに」 
 麗華と沙世莉は、例のごとく和泉をこき下ろしている。
 
「独占欲丸出しな和泉もだけど、ボロクソにやられる和泉もなかなかレアだよ。私は間近で見られるなら、どんな姿でも嬉しいけど!」
「琴音、それヨシの前でも言える?」
「大丈夫、ヨシ君の愛はそんなもので壊れたりしないから」
「そんなものって……。和泉、散々な言われようだなぁ」
 亜姫は困ったように笑いながら、嬉しそうに言った。
「琴音ちゃん、ヨシ君とうまくいってるんだ。よかったね」
 
 ヨシとは、琴音が片思いしていた野口の友人だ。
 あのプールをきっかけに少しずつ進展して、年末頃から付き合っている。
 
「で、琴音の相談って何? ヨシに関係することでしょ?」
 沙世莉がずいっと乗り出してきた。
 
 バレー部のヨシとバスケ部の沙世莉は体育館で一緒になることが多く、学年は違えど知り合いだったそうだ。どうやら、琴音達が付き合うのに一役かっていたらしい。
 
 琴音は珍しく神妙な面持ちで周りを見渡し、小声で囁いた。
「内緒でヨシ君を喜ばせたいんだけど、何かいい方法ない?」
 
 三人は顔を見合わせた。 
 亜姫は言わずとしれた事だが、麗華も社会人の彼氏がいる。
 そして、沙世莉はなんと熊澤と付き合い始めていた。ここ数ヶ月の間に色々あったが、卒業間近の熊澤が亜姫達の教室までやってきて「沙世莉を他の男に獲られたくない」と連れ去ったのは記憶に新しい。

 内緒で喜んでもらえること……? 亜姫は嬉しそうな和泉を想像しながら考えてみる。
 彼はなにをしても喜んでくれそうだ。だが内緒でしたこと……と思い返しても、文化祭の失敗ぐらいしか出てこない。

 亜姫がぼんやり考えている横で、三人は話を進めていた。ふと聞こえたその話題に亜姫は食いつく。
 だが、予想外に三人から止められた。「亜姫にはまだ早い」「これは大人の話だから」と。
 そして話題を変えられたが、亜姫は和泉が喜ぶならぜひやりたい! とやる気をみなぎらせ、根負けした彼女達からとんでもない話を聞かされた。

 真っ赤な顔で固まった亜姫だったが、頭の中は和泉の喜ぶ顔でいっぱい。またもやおかしな方向にぶっ飛んだ亜姫を止められるはずもなく、麗華達は渋々教えるハメになった。「知識として教えるだけだからね」と何度も念押しして。
 
 そして、とある動画の存在を知る。 
 それは綺麗なお姉さんが彼氏との親密な触れ合い方を紹介しているモノで、実演しながら詳しい解説をしてくれるので非常にわかりやすいとのこと。
 女子目線で爽やかに助言するせいか、卑猥さも少なくちまたで評判の動画なのだとか。
 
 ねだって見せてもらうと、色気あるプルプルおっぱいのお姉さんが出てきて亜姫は一瞬でオチた。その上やる気が例のごとく暴走。「色気と和泉の喜び、両方手に入れられる!」と周りが止めるのも聞かず、動画を入手(ちなみに、レベルがいくつかあったが初級編で断念。さすがの亜姫もそれ以上は無理だった)。 
 プルプルおっぱい(胸に釘付け)が「彼に喜んでもらえるよう、一緒に頑張りましょうね」と声をかけながら教えてくれるそれは非常にわかりやすく、亜姫は夢中になった。

「最近、妙にソワソワしてない?」 
 和泉の言葉にドキッとする。だが亜姫は来たる日まで内緒にしたかったので、そんなことないよと誤魔化した。 
「お前、なんか隠してない……?」
「隠してない」
「最近、麗華達とやたらコソコソしてるだろ。何を企んでんの?」
「企んでないから!」
 
 ふーん? と、まだなにか言いたげな和泉から視線を逸らし、亜姫は繰り返し観続けた(亜姫が観ていたのはその中の超初級編。本来、何度も観るものではない)。
   
 そして数日後、場所は和泉の家。ようやく成果を見せられると亜姫は意気込む。 
 隣に座るといつものように抱き寄せられたが、亜姫はそれを遮った。 
「今日は私にやらせて」
「はい?」 
 聞き慣れない上に意味のわからない言葉。和泉の動きが止まる。
 
 上手く出来るだろうか、と亜姫は一瞬躊躇した。
 だがこの日の為に頑張ってきたのだと自分を叱咤して、練習の成果を発揮するべく動き出す。
 
 と言っても、自分から抱きついてみたり(亜姫的にいやらしさを出したつもり)、上目遣いをしてみたり、囁くようにキスをおねだりしてみたり(と思っているのは亜姫だけで、羞恥心が勝ったのでいつもと同じ姿)と初級も初級な仕上がりだったのだが。

 そんなレベルだったにもかかわらず、やる気に押されたのか
「え、亜姫、ちょっと……」
 と、和泉は終始困惑していた。
  
 練習したように上手くはいかなかったが、それなりの成果が出たと思えて嬉しさで胸がいっぱいになる。なかなか見ることができない和泉の様子は、亜姫にこれ以上ない喜びをもたらした。 

 今までは自分の努力が足りなかったのだ。練習を重ねていけばもっと喜ばせてあげられるだろうと、亜姫は達成感に包まれながら和泉を見上げた。
 
 だがその顔を見た瞬間、亜姫の顔は強張る。 
 予想に反して、そこにいたのは険しい顔の和泉だった。
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