上 下
158 / 364
高2

彼女とやら(4)

しおりを挟む
 すると突然腕が伸びてきて、亜姫は大きな体に包まれた。 
「亜姫、もういい」
 和泉が諭すように言うが、亜姫はその体を突き飛ばそうとする。
 しかし体は離れず、それどころか更に深く抱き込まれ「もういいよ、ありがと」と、宥めるように背中と頭を撫でられた。
 
 亜姫は、そこから抜け出そうと強く抵抗する。 
「間違えるなって、言った!」
「間違えてない、あってる」
「バカなの!? 誰が大事かなんて考えなくたってわかるでしょう! さっきだってキス」
「じゃねーよ、ただの接触事故」 
 話の途中で強い否定をかぶせられ、亜姫は絶句した。
 
 大事な人の目の前でそんなことを言い浮気相手を抱きしめるなど、正気の沙汰とは思えない。
 この後に及んで、まだ二股を続ける気なのか。
 
「何言って……キスでしょう……、わざわざ自分から抱き寄せ……」
「ねーよ。あさみとキスとかマジで気持ち悪い」
「それはこっちのセリフなんだけど」
 
 和泉の言葉と、突如割り込んだあさみの声。
 それらにより、亜姫の思考は完全に混乱した。
 
「え、え………?」
 耳に入った言葉を全く理解できない。
「く、口と口でするのは……キス、って言うんじゃ……ないっけ……?」
 あまりの衝撃に、怒気の抜けた間抜け声で亜姫は呟く。
 
「キスってのは」
 言うと同時に優しい口づけが落ちてきた。
「これがキスだよ。あんなのと一緒にすんな、どんな悪夢だよ俺が抱き寄せるとか死んでもねーよ」
「私もゴメンなんだけど。つーか、カイがまず私に謝れ」
「なんでだよ、こっちが言いてぇわ」
 
 どう見ても親密さしかない会話の応酬。亜姫の混乱はひどくなるばかり。
 
「え、どーゆーこと……? だってあさみさん、カイ返してって……名前呼んで、キス……ずっと付き合ってて、和泉は嘘ついて……私とは、浮気で…………?
 わかんない、もぉ、どーいうことか……わかんないぃ……」 
 ふぇ、と溜息と泣き声が一緒になったような声が出て、亜姫の目が潤む。同時に顔がクシャッと歪み、それを見た和泉が亜姫の顔を自分の胸に埋めた。 
「泣くなよ? お前にそういう泣かれ方されると本当にこたえるから。
 ……ゴメン、黙ってた俺が悪かった。ちゃんと説明するから」
 和泉はギュッと亜姫を抱えこむと、あさみを睨みつけた。
「亜姫に謝れ。大体、なんでいきなり来たんだよ」
 怒りを纏った和泉に怯えることもなく、あさみは飄々と言い返す。
「カイが、私達のことを教えてないのが悪い。だからさっきも言ったでしょ、我慢の限界が来たからだって」
 
 それを聞き、亜姫は慌てて離れようとする。
「ごめんなさ……私が邪魔して」  
 言葉を遮るように、和泉が亜姫を抱く腕に力を込めた。
「幼馴染」
「えっ?」
 勢いよく顔を上げた亜姫を見て、和泉は気まずげに口を開く。
「あれ、麻美って言うんだけど。俺の、幼馴染。昔からずっと同じ学校。 
 ……ついでに言うと、颯太そうたも。……実は、幼馴染」
「颯太って、同じクラスの……早川颯太?」
 和泉は無言で頷く。
「あと、別の高校にもいて。……全員、一歳の頃から一緒」 

 初めて聞く話に亜姫は呆然として……和泉を見て、次いで麻美に顔を向けた。 
 麻美はフフン、と言いたげな顔で「そーゆーこと」と同意する。
 
「じゃあ、ずっと麻美さんが彼女」
「違うって。麻美が彼女とか有り得ねぇ」
「え、でも……和泉の好きなプルプルおっぱい……」
「だから巨乳好きじゃねぇって。
 何があっても麻美だけはねぇよ。こいつの相手するぐらいなら死んだほうがマシ」
「ちょっと、カイごときに言われると腹が立つんだけど。まぁ、でも私も同感。カイとは有り得ない」
 
 亜姫が再び麻美を見ると、先程までの意地悪そうな顔はどこにも見当たらず。一転して、人懐っこそうな笑顔を向けてきた。 

「ごめんね、意地悪ばっかり言って。カイがずっと隠してるし、黒い噂ばっかやたら聞いてたからさ。
 なら、噂が本当か実際に確認しようと思って。こうすれば本性出すかなって……ワザと嫌な態度をとったの。噂通りの嫌な奴だったらもっと言ってやろうかと思ってたんだけど、違ったみたいだね。
 そんな訳で、私とカイはただの幼馴染。だから安心して?」
 
 亜姫はポカンとしたまま、二人を交互に見る。そして麻美に恐る恐る尋ねた。 
「……付き合って、ない?」
「うん」
「和泉のこと、ホントは好きとか」
「ないないっ、有り得ないから!」
「ホントに……?」
「ほんとにホント。死んでも絶対有り得ない」
「私……和泉と付き合ったままで、いい? 別れなくて……いいの?」
「いいに決まってるだろ」
 麻美が答える前に和泉が言い、亜姫をギュッと抱きしめた。
 
 それを聞き、亜姫はホウッと大きな息を吐く。
「よ、良かった……麻美さんの話が嘘で、良かった。
 私、本当に麻美さんのこと、傷つけてない?」
 
 まだ心配そうな亜姫は、笑いながら頷く彼女にホッとした笑顔を向ける。そしてその顔を徐々に歪ませ……とうとう泣き出した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

学校に行きたくない私達の物語

能登原あめ
青春
※ 甘酸っぱい青春を目指しました。ピュアです。 「学校に行きたくない」  大きな理由じゃないけれど、休みたい日もある。  休みがちな女子高生達が悩んで、恋して、探りながら一歩前に進むお話です。  (それぞれ独立した話になります) 1 雨とピアノ 全6話(同級生) 2 日曜の駆ける約束 全4話(後輩) 3 それが儚いものだと知ったら 全6話(先輩) * コメント欄はネタバレ配慮していないため、お気をつけください。 * 表紙はCanvaさまで作成した画像を使用しております。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

Bグループの少年

櫻井春輝
青春
 クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリー分けをした少年はAグループの悪友たちにふりまわされた穏やかとは言いにくい中学校生活と違い、高校生活は穏やかに過ごしたいと考え、高校ではB(普通)グループに入り、その中でも特に目立たないよう存在感を薄く生活し、平穏な一年を過ごす。この平穏を逃すものかと誓う少年だが、ある日、特A(特に目立つ)の美少女を助けたことから変化を始める。少年は地味で平穏な生活を守っていけるのか……?

榛名の園

ひかり企画
青春
荒れた14歳から17歳位までの、女子少年院経験記など、あたしの自伝小説を書いて見ました。

処理中です...