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高2
彼女とやら(3)
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「……どういう、事?」
亜姫はつい口を挟んでしまった。
しかしそれに答えることなく、あさみは亜姫を睨みつける。
「カイを返しなさいよ」
「え?」
「あんたが割り込んできたのよ。
私達、十年以上ずっと一緒にいるのに。
あんたがそばに引っつくようになってから、行くって言いながら来ないことが増えた。カイは約束したことは絶対破らないのに。
……あんたが邪魔してるんでしょ? いい加減、カイを返して」
「……え?」
亜姫はなにを言われたのか、すぐには理解できなかった。
思わず和泉を見ると、彼は気まずそうな顔で俯いている。そこから、焦りを乗せた声を絞り出した。
「亜姫、違う……ちゃんと、話を……」
「今、聞いてる」
亜姫は途中で遮った。
この二人が長いこと付き合っていて、亜姫とは浮気だったと……和泉を見れば一目瞭然。話など、するまでもない。
自分だけが何も知らず、和泉の言葉を真に受けて二人の邪魔をし続けてきたのだ。
亜姫は和泉を無視してあさみに向き直る。
「あさみ、さん? あなたのことは、今、初めて知った。何も、知らなかった………だけど、ごめんなさい。
私は……帰るから。もう、邪魔なんてしないから。二人でゆっくり話、してください」
そしてバッグを持つと歩き始める。
「待てよ、どこに行くんだ」
和泉が焦った様子で声をかける。
「帰るの」
亜姫は顔も見ずに言い捨て、扉に向かう。
「って、お前、どうやって……バカ、一人で外に出るな!」
和泉が慌てて扉に手を伸ばし、亜姫の進路を遮る。
その顔を、亜姫は冷たい眼差しで見上げる。
「どいてよ。和泉こそ何してるの? 話をする相手が違うでしょう」
「違わない」
「違う。話するのはあさみさんとだよ、私じゃない」
「あいつと話す必要はない。無視していい。お前と話……」
「それ、本気で言ってるの?……だとしたら、和泉のこと、見損なった」
亜姫は軽蔑と怒りを和泉に向ける。
「自分が何をしてきたか、ちゃんと分かってる?
彼女にあんな態度取らせてるのも、あんなこと言わせてるのも和泉だよ? あさみさんは悪くない。
和泉が、ずっと一緒にいた人……なんでしょう?
一番大事にしたい人は誰なのか、間違えちゃ……だめだよ」
言い終えて、亜姫は和泉から視線を逸らした。
込み上げてくるものに飲み込まれそうになるのをグッと堪え、和泉の横から外へ出ようとする。
と、後ろから、先程と同じように嘲るような笑い声が降ってきた。
「ははっ! 随分簡単に終わりにするんだ、思ったより根性ないんだね。
まぁ……随分長い間、カイを独り占めしたみたいだし? もう充分自慢できたでしょ? そろそろ満足したんじゃない?
カイが欲しくて順番待ちしてる子も沢山いるんだしあんただけ……」
「どういう意味?」
亜姫があさみの話を止めた。
あさみはその様子を見て、ことさら意地悪そうに笑う。
「何? 手放すには惜しいとか思っちゃった?」
「どういう意味かって、聞いてるの。順番待ちって何?」
あさみの挑発を無視し、亜姫は語気を強めて再度問う。
そこには先程までの控えめさや謙虚さはなくなっていた。
「なによ、いきなり偉そうに。あんたとはもう終わったんでしょ。口出しする権利なんてな……」
「和泉のこと、好きなんじゃないの? 和泉は……あさみさんのそばに、ずっといたんでしょう?」
「だったら、なんだって言うの? あんたに関係な……」
「和泉はモノじゃないよ? 順番待ちしてる子がいるから、なんだっていうの? 相手してやれって? 和泉がそれを喜ぶとでも?」
「何が言いたいの?」
亜姫は激しい怒りを滲ませ、あさみが思わず怯むほど強く見据えた。
「和泉は、皆のオモチャや都合のいい道具じゃないよ。顔には出にくいけど、沢山の感情を持ち合わせてるし色んなことを感じ取ってる。でも、普段はそれを隠して人の気持ちばっかり受け止めちゃう優しい人だよ?
あなたはずっとそばにいるんだから、よくわかってるでしょう? あなたにそんなことを言われる和泉の気持ち、考えたことはある?
あなたが和泉のことを好きで、大事にしてくれると思ったから。私が邪魔していたのなら手を引くべきだと思った。
でも、そんな考えをするなら渡せない。和泉の、心をちゃんと見てくれる人でなきゃ渡さない。そうでないなら、和泉の隣は譲らない」
強い意志を全面に押し出して、亜姫はハッキリと言い募った。そして、睨みつけるようにあさみを見続けた。
亜姫はつい口を挟んでしまった。
しかしそれに答えることなく、あさみは亜姫を睨みつける。
「カイを返しなさいよ」
「え?」
「あんたが割り込んできたのよ。
私達、十年以上ずっと一緒にいるのに。
あんたがそばに引っつくようになってから、行くって言いながら来ないことが増えた。カイは約束したことは絶対破らないのに。
……あんたが邪魔してるんでしょ? いい加減、カイを返して」
「……え?」
亜姫はなにを言われたのか、すぐには理解できなかった。
思わず和泉を見ると、彼は気まずそうな顔で俯いている。そこから、焦りを乗せた声を絞り出した。
「亜姫、違う……ちゃんと、話を……」
「今、聞いてる」
亜姫は途中で遮った。
この二人が長いこと付き合っていて、亜姫とは浮気だったと……和泉を見れば一目瞭然。話など、するまでもない。
自分だけが何も知らず、和泉の言葉を真に受けて二人の邪魔をし続けてきたのだ。
亜姫は和泉を無視してあさみに向き直る。
「あさみ、さん? あなたのことは、今、初めて知った。何も、知らなかった………だけど、ごめんなさい。
私は……帰るから。もう、邪魔なんてしないから。二人でゆっくり話、してください」
そしてバッグを持つと歩き始める。
「待てよ、どこに行くんだ」
和泉が焦った様子で声をかける。
「帰るの」
亜姫は顔も見ずに言い捨て、扉に向かう。
「って、お前、どうやって……バカ、一人で外に出るな!」
和泉が慌てて扉に手を伸ばし、亜姫の進路を遮る。
その顔を、亜姫は冷たい眼差しで見上げる。
「どいてよ。和泉こそ何してるの? 話をする相手が違うでしょう」
「違わない」
「違う。話するのはあさみさんとだよ、私じゃない」
「あいつと話す必要はない。無視していい。お前と話……」
「それ、本気で言ってるの?……だとしたら、和泉のこと、見損なった」
亜姫は軽蔑と怒りを和泉に向ける。
「自分が何をしてきたか、ちゃんと分かってる?
彼女にあんな態度取らせてるのも、あんなこと言わせてるのも和泉だよ? あさみさんは悪くない。
和泉が、ずっと一緒にいた人……なんでしょう?
一番大事にしたい人は誰なのか、間違えちゃ……だめだよ」
言い終えて、亜姫は和泉から視線を逸らした。
込み上げてくるものに飲み込まれそうになるのをグッと堪え、和泉の横から外へ出ようとする。
と、後ろから、先程と同じように嘲るような笑い声が降ってきた。
「ははっ! 随分簡単に終わりにするんだ、思ったより根性ないんだね。
まぁ……随分長い間、カイを独り占めしたみたいだし? もう充分自慢できたでしょ? そろそろ満足したんじゃない?
カイが欲しくて順番待ちしてる子も沢山いるんだしあんただけ……」
「どういう意味?」
亜姫があさみの話を止めた。
あさみはその様子を見て、ことさら意地悪そうに笑う。
「何? 手放すには惜しいとか思っちゃった?」
「どういう意味かって、聞いてるの。順番待ちって何?」
あさみの挑発を無視し、亜姫は語気を強めて再度問う。
そこには先程までの控えめさや謙虚さはなくなっていた。
「なによ、いきなり偉そうに。あんたとはもう終わったんでしょ。口出しする権利なんてな……」
「和泉のこと、好きなんじゃないの? 和泉は……あさみさんのそばに、ずっといたんでしょう?」
「だったら、なんだって言うの? あんたに関係な……」
「和泉はモノじゃないよ? 順番待ちしてる子がいるから、なんだっていうの? 相手してやれって? 和泉がそれを喜ぶとでも?」
「何が言いたいの?」
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「和泉は、皆のオモチャや都合のいい道具じゃないよ。顔には出にくいけど、沢山の感情を持ち合わせてるし色んなことを感じ取ってる。でも、普段はそれを隠して人の気持ちばっかり受け止めちゃう優しい人だよ?
あなたはずっとそばにいるんだから、よくわかってるでしょう? あなたにそんなことを言われる和泉の気持ち、考えたことはある?
あなたが和泉のことを好きで、大事にしてくれると思ったから。私が邪魔していたのなら手を引くべきだと思った。
でも、そんな考えをするなら渡せない。和泉の、心をちゃんと見てくれる人でなきゃ渡さない。そうでないなら、和泉の隣は譲らない」
強い意志を全面に押し出して、亜姫はハッキリと言い募った。そして、睨みつけるようにあさみを見続けた。
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