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高2
兄との記憶(1)
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今日は午前中で学校が終わり、二人は和泉の家にいた。
最近は、早い時間ならば和泉の家に立ち寄ることもある。今日は、受けられなかった授業の補修プリントを少しずつ進める予定でいた。
「あ、これウマい」
和泉がものすごい勢いで丼を口に運ぶ。
作った亜姫はそれに笑い、自らも箸をすすめていった。
「だいぶ食欲が戻ってきたよな」
亜姫が食べる姿を見て、和泉が嬉しそうに顔を綻ばせる。
一時期食べられなかった時は心配したが、今では普通に食せるようになってきた。
「俺、亜姫が食べてる姿を見るのが好き」
「えっ? や、やだ見ないでよ……」
「なんでだよ、お前いつも美味そうに食うんだもん。苦手なものも四苦八苦しながら最後まで食べきろうとしてんの、見てると楽しい」
「……すみませんね、食い意地張ってて」
亜姫の捻くれた言い方に和泉は笑う。
「そんな事言ってないだろ。亜姫とメシ食うのが好きだって話だよ」
「和泉は、人が気づかないような細かいところまで見てるから嫌なの! 人に興味なかったとか、絶対うそだよね!」
亜姫は拗ねた様子で和泉をひと睨みして、逃げるように丼ごと横を向いた。
向かい合って座り、気軽な会話をしながらリラックスしてご飯を食べる。ごく当たり前の日常。
些細なことなのに、お互いの家の中でしか出来ない。
今の二人にとって、この時間はとても貴重で幸せを感じられるものだった。
「亜姫、行儀悪い」
「わかってる!」
まだ少し不貞腐れながら、亜姫は渋々といった風に元の位置へ戻る。そして和泉をチラっと見て呟いた。
「こっち、見ないでってば。どうして和泉って、いつも人のことがわかっちゃうの……?」
「だって亜姫のことはいつも見てるもん」
「私だけじゃないよ、和泉は誰のことでもよく見てる」
その言葉に驚いて和泉は目を瞠った。
亜姫が、またよく分からないことを言い出したと思ったのだ。
よく見ているのは亜姫のことだけだ。
しかし、亜姫はそう思ってはいないようだ。
「ヒロや戸塚のこともだけど、麗華達だってどんな子かってすぐわかってたし、黒田の時だって……」
「黒田?」
「うん。ほら、私が泣いちゃった時。あのあと黒田に話してくれてたでしょう?……偶然通りがかって、聞いちゃったの。今更だけど勝手に聞いちゃってごめんね。
あの時も、黒田のことよくわかってるんだなって思ってた」
「いや、知らねーよ? 名前しか知らなかったし、あのとき初めて話したし、あれ以来話した記憶もないけど?」
「ほら、やっぱり」
なにが「ほら」なのか? 和泉にはさっぱりわからない。
「黒田と話したことがないのに、彼がどういう人かわかってた。私が泣いてた時も、慰めてくれながら黒田の事をフォローしてたよ。
和泉は自分で自覚してないだけだよ。無意識なんだね、きっと。和泉は人を見る目があるもの。
それに、いつも人を安心させる。和泉の周りに人が集まるの、わかるよ」
「それはお前だろ?」
和泉がそう言うと、亜姫は可笑しそうに笑った。
「ちがう、和泉の話だよ。私は和泉のそこが好き」
「そこ」がどこなのか、和泉にはやっぱりわからなかった。
改めて思い返してみる。
……確かにあの時、黒田の行動を「彼らしくない」と思った。そして何故あの時、わざわざ話に行ったのか……?
いや、特別深い意味はない。あれは亜姫の気持ちを軽くしてやりたいと思ってただけで……
「あの時、一番救われたのは黒田だったと思う」
耳に流れ込んできた、思いもよらない言葉。
一瞬なんのことかわからず、ぽかんとしてしまう。
「私も和泉に救ってもらったけど。
……あの次の日ね、黒田は謝りに来てくれたんだよ。あんな事、するつもりじゃなかったって。すぐに後悔してたんだって。でも、どうしたらいいかわからなくて……和泉に言われなかったら謝りにも来られなかった、って。
私が謝りに来てくれたお礼を伝えたら、それは和泉に言ってくれって言ってた。和泉が沢山喋るから驚いたとも言ってた。
私も最初は同じことを思ったから、思わず二人で笑っちゃったんだけど。でも、そうやって笑えたのは和泉のおかげ」
亜姫は嬉しそうに笑う。
「和泉は、誰にでも優しいもんね」
最近は、早い時間ならば和泉の家に立ち寄ることもある。今日は、受けられなかった授業の補修プリントを少しずつ進める予定でいた。
「あ、これウマい」
和泉がものすごい勢いで丼を口に運ぶ。
作った亜姫はそれに笑い、自らも箸をすすめていった。
「だいぶ食欲が戻ってきたよな」
亜姫が食べる姿を見て、和泉が嬉しそうに顔を綻ばせる。
一時期食べられなかった時は心配したが、今では普通に食せるようになってきた。
「俺、亜姫が食べてる姿を見るのが好き」
「えっ? や、やだ見ないでよ……」
「なんでだよ、お前いつも美味そうに食うんだもん。苦手なものも四苦八苦しながら最後まで食べきろうとしてんの、見てると楽しい」
「……すみませんね、食い意地張ってて」
亜姫の捻くれた言い方に和泉は笑う。
「そんな事言ってないだろ。亜姫とメシ食うのが好きだって話だよ」
「和泉は、人が気づかないような細かいところまで見てるから嫌なの! 人に興味なかったとか、絶対うそだよね!」
亜姫は拗ねた様子で和泉をひと睨みして、逃げるように丼ごと横を向いた。
向かい合って座り、気軽な会話をしながらリラックスしてご飯を食べる。ごく当たり前の日常。
些細なことなのに、お互いの家の中でしか出来ない。
今の二人にとって、この時間はとても貴重で幸せを感じられるものだった。
「亜姫、行儀悪い」
「わかってる!」
まだ少し不貞腐れながら、亜姫は渋々といった風に元の位置へ戻る。そして和泉をチラっと見て呟いた。
「こっち、見ないでってば。どうして和泉って、いつも人のことがわかっちゃうの……?」
「だって亜姫のことはいつも見てるもん」
「私だけじゃないよ、和泉は誰のことでもよく見てる」
その言葉に驚いて和泉は目を瞠った。
亜姫が、またよく分からないことを言い出したと思ったのだ。
よく見ているのは亜姫のことだけだ。
しかし、亜姫はそう思ってはいないようだ。
「ヒロや戸塚のこともだけど、麗華達だってどんな子かってすぐわかってたし、黒田の時だって……」
「黒田?」
「うん。ほら、私が泣いちゃった時。あのあと黒田に話してくれてたでしょう?……偶然通りがかって、聞いちゃったの。今更だけど勝手に聞いちゃってごめんね。
あの時も、黒田のことよくわかってるんだなって思ってた」
「いや、知らねーよ? 名前しか知らなかったし、あのとき初めて話したし、あれ以来話した記憶もないけど?」
「ほら、やっぱり」
なにが「ほら」なのか? 和泉にはさっぱりわからない。
「黒田と話したことがないのに、彼がどういう人かわかってた。私が泣いてた時も、慰めてくれながら黒田の事をフォローしてたよ。
和泉は自分で自覚してないだけだよ。無意識なんだね、きっと。和泉は人を見る目があるもの。
それに、いつも人を安心させる。和泉の周りに人が集まるの、わかるよ」
「それはお前だろ?」
和泉がそう言うと、亜姫は可笑しそうに笑った。
「ちがう、和泉の話だよ。私は和泉のそこが好き」
「そこ」がどこなのか、和泉にはやっぱりわからなかった。
改めて思い返してみる。
……確かにあの時、黒田の行動を「彼らしくない」と思った。そして何故あの時、わざわざ話に行ったのか……?
いや、特別深い意味はない。あれは亜姫の気持ちを軽くしてやりたいと思ってただけで……
「あの時、一番救われたのは黒田だったと思う」
耳に流れ込んできた、思いもよらない言葉。
一瞬なんのことかわからず、ぽかんとしてしまう。
「私も和泉に救ってもらったけど。
……あの次の日ね、黒田は謝りに来てくれたんだよ。あんな事、するつもりじゃなかったって。すぐに後悔してたんだって。でも、どうしたらいいかわからなくて……和泉に言われなかったら謝りにも来られなかった、って。
私が謝りに来てくれたお礼を伝えたら、それは和泉に言ってくれって言ってた。和泉が沢山喋るから驚いたとも言ってた。
私も最初は同じことを思ったから、思わず二人で笑っちゃったんだけど。でも、そうやって笑えたのは和泉のおかげ」
亜姫は嬉しそうに笑う。
「和泉は、誰にでも優しいもんね」
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