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高2
事件後(1)
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薄暗く静かな廊下は先ほどの恐怖をこれでもかと思い出させたが、みんなに守られながら亜姫は応接室へと向かった。
部屋には山本と校長、そして知らせを受けて飛んできた亜姫の母がいた。
母は大まかな話を聞いていたらしい。包帯だらけの亜姫を見て顔を歪め……涙を堪えながら、娘を抱きしめた。
皆に助けてもらったことを亜姫が伝えると、母はお礼と共に深々と頭を下げる。それからそれぞれの顔を見て、最後に亜姫の隣で寄り添うように立つ和泉を見上げた。
「お付き合い、してる人なの。……今日も、助けてもらった……」
亜姫が恥ずかしそうに口ごもりながら紹介する。
和泉は固い表情で、けれどしっかりと目を見て「和泉です」と頭を下げた。
母は驚きに目を瞬かせて固まっていた。だが和泉には隣にいてもらいたいと亜姫が請うと、無言で頷いた。
今日、亜姫がされたこと。これに対し学校は然るべき対応をとるつもりである。警察に被害届を出すこともできる。
ただ、性犯罪の場合。被害状況を話す必要があり、警察に言うならば詳細を聞かれたり話したりしなければならないだろう。それを他人に話さなければならないこと、その中で思いだしたりしてしまうこと等……亜姫にかかる負担や苦痛が少なからず、ある。
学校としては、亜姫の様子に合わせて可能な限り最大限の配慮をすると約束する。その上で、どうしたいか。
山本は、亜姫に問う。
話したくない、忘れたいから何もしない。
学校の中だけで処理をする。
警察に被害届を出し、事件として扱う。
……どれを選んでも、亜姫には苦痛が伴ってしまうんだけどな、と言い置いて。
亜姫は少し考え、母を見た。そして今日までの出来事をかいつまんで話した、どれだけ不安な毎日を過ごしていたのかを。
それを聞き、衝撃を受けた母は言葉を失う。
「……皆がね、ずっと守ってくれてたの。今日もそう。でも、私の考えが甘くて……。麗華が何度も止めてくれてたのに……。それでもね。皆が助けてくれたから、今、私、ここにいる」
警察に、言いたい。
そう伝えると、反対して母が泣いた。
初めて見る姿に、どれだけの心配をかけてるのかと亜姫の胸が痛む。
「先輩が言ってた。ずっと狙ってた、やっと捕まえた、絶対逃がさないって。一生俺のもんだって。
このまま何もしなかったら、次がありそうで……怖いの」
それに学校の中で起きたことだ。いつかどこからか、今日のことはバレる。恐らく、隠し通すのは無理だ。
皆の時間を私に沢山使わせた。怪我までさせた。
この先、皆も何らかの被害を受けるかもしれない。
今までしてもらったことを無駄にしたくない。
無かったことにはしたくない。
ただ守られるだけで何もできないのは嫌だ。
彼らにも、ちゃんと罪を認めて欲しい。
そう言うと、しばらく亜姫を見つめていた母は静かに頷いた。
それを確認して、亜姫は山本達へ向き直る。
「先生。警察へ通報してください」
警察と話をする際、個別にしようと提案されたが亜姫は断った。和泉達は既に事情を知っているし、学校と母にもどうせ同じ説明をしなければならないのだから。
亜姫は、詳しいことをあまり覚えていない。ただ、今までのことも含めて覚えている全てを伝えた。
戸塚は、昇降口前で亜姫達が来るのを待っていた。そこにいたのは、石橋に対処出来るよう見張る為。しかし放課後で扉が殆ど閉まっていたせいもあり、亜姫が拉致されたことには気づけなかった。
けれど、校庭の隅……影となって見えづらい場所を通った彼らが倉庫へ消えたところを偶然見つけ、直ぐさま追った。閉じかけている扉の奥に、押し倒されて石橋達に抑え込まれる亜姫が一瞬見えた。
あと数センチで締まりそうな扉に無理矢理足を捻じ込み、こじ開ける。更に閉めようとする加藤に掴みかかり、とにかく閉じないよう尽力した。
気がついた時には加藤達が取り押さえられていて、錯乱状態の亜姫を抱きかかえ必死に声をかける和泉の姿があった。
ヒロは和泉へ伝えた後、すぐさま職員室へ駆け込んだ。山本ら数人が一斉に飛び出し、倉庫へと向かう。
麗華もその途中で会い、共に走った。
倉庫に入ると、倒れた安達が立ち上がろうとしてるのが見えた。
床に蹲る和泉の姿とその下から見える亜姫の足、そして和泉の背中や脇腹を狂ったように殴る蹴るして怒鳴る石橋が見えた。
和泉が死んじまう! と頭に血が上り、ヒロは走り込んだ勢いのまま石橋にタックル。一緒に倒れ込んだ石橋は明らかに正気を失っていて、起き上がりざまに顔を殴られたが負けじと掴みかかった。
気がついた時には先生方に引き剥がされ、彼らは外へと出されていた。
そして和泉は。
隣に座る亜姫を気遣うように見てから、静かに話し出す。
自分では冷静だと思ってたが、倉庫に入ってからの話になるとあの時の光景が脳裏をよぎり……ヒロの「和泉。落ち着け」という声で我に返る。
「……わかってる」
深呼吸して、落ち着けと自分に言い聞かせる。
唇を噛みしめ、右手を強く握り……下を向いて数秒考え込んだが。
少しだけ待ってほしいと伝えると、亜姫を見た。
「亜姫。今から、少しだけ……外に出ない?」
部屋には山本と校長、そして知らせを受けて飛んできた亜姫の母がいた。
母は大まかな話を聞いていたらしい。包帯だらけの亜姫を見て顔を歪め……涙を堪えながら、娘を抱きしめた。
皆に助けてもらったことを亜姫が伝えると、母はお礼と共に深々と頭を下げる。それからそれぞれの顔を見て、最後に亜姫の隣で寄り添うように立つ和泉を見上げた。
「お付き合い、してる人なの。……今日も、助けてもらった……」
亜姫が恥ずかしそうに口ごもりながら紹介する。
和泉は固い表情で、けれどしっかりと目を見て「和泉です」と頭を下げた。
母は驚きに目を瞬かせて固まっていた。だが和泉には隣にいてもらいたいと亜姫が請うと、無言で頷いた。
今日、亜姫がされたこと。これに対し学校は然るべき対応をとるつもりである。警察に被害届を出すこともできる。
ただ、性犯罪の場合。被害状況を話す必要があり、警察に言うならば詳細を聞かれたり話したりしなければならないだろう。それを他人に話さなければならないこと、その中で思いだしたりしてしまうこと等……亜姫にかかる負担や苦痛が少なからず、ある。
学校としては、亜姫の様子に合わせて可能な限り最大限の配慮をすると約束する。その上で、どうしたいか。
山本は、亜姫に問う。
話したくない、忘れたいから何もしない。
学校の中だけで処理をする。
警察に被害届を出し、事件として扱う。
……どれを選んでも、亜姫には苦痛が伴ってしまうんだけどな、と言い置いて。
亜姫は少し考え、母を見た。そして今日までの出来事をかいつまんで話した、どれだけ不安な毎日を過ごしていたのかを。
それを聞き、衝撃を受けた母は言葉を失う。
「……皆がね、ずっと守ってくれてたの。今日もそう。でも、私の考えが甘くて……。麗華が何度も止めてくれてたのに……。それでもね。皆が助けてくれたから、今、私、ここにいる」
警察に、言いたい。
そう伝えると、反対して母が泣いた。
初めて見る姿に、どれだけの心配をかけてるのかと亜姫の胸が痛む。
「先輩が言ってた。ずっと狙ってた、やっと捕まえた、絶対逃がさないって。一生俺のもんだって。
このまま何もしなかったら、次がありそうで……怖いの」
それに学校の中で起きたことだ。いつかどこからか、今日のことはバレる。恐らく、隠し通すのは無理だ。
皆の時間を私に沢山使わせた。怪我までさせた。
この先、皆も何らかの被害を受けるかもしれない。
今までしてもらったことを無駄にしたくない。
無かったことにはしたくない。
ただ守られるだけで何もできないのは嫌だ。
彼らにも、ちゃんと罪を認めて欲しい。
そう言うと、しばらく亜姫を見つめていた母は静かに頷いた。
それを確認して、亜姫は山本達へ向き直る。
「先生。警察へ通報してください」
警察と話をする際、個別にしようと提案されたが亜姫は断った。和泉達は既に事情を知っているし、学校と母にもどうせ同じ説明をしなければならないのだから。
亜姫は、詳しいことをあまり覚えていない。ただ、今までのことも含めて覚えている全てを伝えた。
戸塚は、昇降口前で亜姫達が来るのを待っていた。そこにいたのは、石橋に対処出来るよう見張る為。しかし放課後で扉が殆ど閉まっていたせいもあり、亜姫が拉致されたことには気づけなかった。
けれど、校庭の隅……影となって見えづらい場所を通った彼らが倉庫へ消えたところを偶然見つけ、直ぐさま追った。閉じかけている扉の奥に、押し倒されて石橋達に抑え込まれる亜姫が一瞬見えた。
あと数センチで締まりそうな扉に無理矢理足を捻じ込み、こじ開ける。更に閉めようとする加藤に掴みかかり、とにかく閉じないよう尽力した。
気がついた時には加藤達が取り押さえられていて、錯乱状態の亜姫を抱きかかえ必死に声をかける和泉の姿があった。
ヒロは和泉へ伝えた後、すぐさま職員室へ駆け込んだ。山本ら数人が一斉に飛び出し、倉庫へと向かう。
麗華もその途中で会い、共に走った。
倉庫に入ると、倒れた安達が立ち上がろうとしてるのが見えた。
床に蹲る和泉の姿とその下から見える亜姫の足、そして和泉の背中や脇腹を狂ったように殴る蹴るして怒鳴る石橋が見えた。
和泉が死んじまう! と頭に血が上り、ヒロは走り込んだ勢いのまま石橋にタックル。一緒に倒れ込んだ石橋は明らかに正気を失っていて、起き上がりざまに顔を殴られたが負けじと掴みかかった。
気がついた時には先生方に引き剥がされ、彼らは外へと出されていた。
そして和泉は。
隣に座る亜姫を気遣うように見てから、静かに話し出す。
自分では冷静だと思ってたが、倉庫に入ってからの話になるとあの時の光景が脳裏をよぎり……ヒロの「和泉。落ち着け」という声で我に返る。
「……わかってる」
深呼吸して、落ち着けと自分に言い聞かせる。
唇を噛みしめ、右手を強く握り……下を向いて数秒考え込んだが。
少しだけ待ってほしいと伝えると、亜姫を見た。
「亜姫。今から、少しだけ……外に出ない?」
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