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高2
事件(2)
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教室で待っていた和泉に「亜姫が別の子と先に降りたらしいけれど、戻っているか」と麗華から連絡が来た。
ヒロと戸塚は、石橋を警戒して昇降口の外で見張っている。
和泉はすぐ階段下まで行ってみるが姿はない。
降りてくる気配もなく、足音すら聞こえない。
明るい階段なのに、なぜか薄暗く見える。
なんだか嫌な予感がした。
じっとしていられず階段に足をかけたところで、血相を変えたヒロが外から飛び込んできた。
「亜姫が捕まった! プール脇の倉庫! 戸塚が追ってる! 早く!」
最後まで聞かず、和泉は校舎を飛び出した。
「山センを呼んでくる!」
後ろからヒロの叫ぶ声が聞こえたが、返事をする余裕などない。
校庭を突っ切り倉庫に飛び込むと、戸塚が加藤と揉み合いながら必死の形相でドアを押さえていた。
倉庫の奥では亜姫が仰向けに押し倒されている。
そして、藻掻きながら泣きじゃくる亜姫の上に石橋が覆いかぶさっていた。
その、目に映った光景に。
和泉の頭は真っ白になった。
だが、衝撃的な光景に動けなかったのはほんの一瞬。目を見開く安達と目が合って我に返り、迷わず石橋へと突っ込んだ。
突き飛ばしたのか蹴飛ばしたのか……亜姫の上から石橋が消えたことだけは確認し、そのままの勢いで安達も引き剥がす。
守らないと。
誰にも触らせない。
こんな姿、晒せない。
和泉の頭にはそれしかなかった。
すぐ亜姫の上に覆い被さり、体の下にその体を隠しつつ乱れた服を直していく。だが背中を触った瞬間ヌルっとした感触がして、思わず自分の手の平を見た。
そこにあったのは、床の汚れとそこに点在する赤い液体。
怪我を、してる……。
見えない傷への不安にパニックを起こしそうになるが、どうにか理性を繋ぎ止めた。
亜姫は和泉のことを認識できない様子で、ひたすら逃げようと泣いて暴れる。
「俺だよ。わかるか? 亜姫」
必死で声をかけ、体の下から出さないよう抑える。
だが亜姫を守る為に触れた手は、錯乱状態の亜姫には襲われ続けていると感じられるようだ。ひたすら抵抗を続け、逃げようと足掻く。
亜姫は、大泣きしながら悲痛な声で拒否や救いを求める。手足にはもう力が入っておらず、動きは弱々しかった。
いったい、どれほどの恐怖を感じているのか。
唇が触れそうな距離で声をかけているのに。目の前にいるのが誰なのか、全く認識出来ないようだ。
どうにか安心させてやりたかったが、今は彼らから守るだけで精一杯で。とにかく今は耐えろ、と焦る自分を叱咤して声をかけ続けた。
ふと、名前を呼ばれた気がして顔を上げる。
しんとした空気の中、和泉を見るヒロの姿があった。
いつの間にか石橋がいなくなっていて、代わりに山本達がいる。
和泉は現状を把握すると、即座に亜姫を抱き上げた。
「亜姫! しっかりしろ!」
未だ錯乱状態の亜姫は、力の入らない手足を必死で動かし逃げようとし続ける。
「嫌だ、触らないで、お願い、もうやめて」
消えそうな声で同じ言葉を繰り返す亜姫。
「助けて……ぃずみ……」
泣きながら自分の名を出した亜姫を見ていられず、和泉は怒鳴りつけるように呼んだ。
「亜姫!!!」
ビクッと体を震わせた亜姫と、ようやく視線が絡まった。だが「……ぃず……?」と小さく呟いた瞬間、その体から力が抜けた。
意識を失った亜姫の姿に、和泉は今度こそパニックを起こした。そこへ「保健室!」と山本から指示がとび、保健医の綾子を捕まえにヒロと麗華が走り出した。
それを見て少しだけ冷静になり、和泉は亜姫をそっと抱きあげた。
先ほど目にした光景。腕の中でグッタリする姿。
混乱して何も考えられない。
和泉は、ただひたすら保健室へ向かった。
ヒロと戸塚は、石橋を警戒して昇降口の外で見張っている。
和泉はすぐ階段下まで行ってみるが姿はない。
降りてくる気配もなく、足音すら聞こえない。
明るい階段なのに、なぜか薄暗く見える。
なんだか嫌な予感がした。
じっとしていられず階段に足をかけたところで、血相を変えたヒロが外から飛び込んできた。
「亜姫が捕まった! プール脇の倉庫! 戸塚が追ってる! 早く!」
最後まで聞かず、和泉は校舎を飛び出した。
「山センを呼んでくる!」
後ろからヒロの叫ぶ声が聞こえたが、返事をする余裕などない。
校庭を突っ切り倉庫に飛び込むと、戸塚が加藤と揉み合いながら必死の形相でドアを押さえていた。
倉庫の奥では亜姫が仰向けに押し倒されている。
そして、藻掻きながら泣きじゃくる亜姫の上に石橋が覆いかぶさっていた。
その、目に映った光景に。
和泉の頭は真っ白になった。
だが、衝撃的な光景に動けなかったのはほんの一瞬。目を見開く安達と目が合って我に返り、迷わず石橋へと突っ込んだ。
突き飛ばしたのか蹴飛ばしたのか……亜姫の上から石橋が消えたことだけは確認し、そのままの勢いで安達も引き剥がす。
守らないと。
誰にも触らせない。
こんな姿、晒せない。
和泉の頭にはそれしかなかった。
すぐ亜姫の上に覆い被さり、体の下にその体を隠しつつ乱れた服を直していく。だが背中を触った瞬間ヌルっとした感触がして、思わず自分の手の平を見た。
そこにあったのは、床の汚れとそこに点在する赤い液体。
怪我を、してる……。
見えない傷への不安にパニックを起こしそうになるが、どうにか理性を繋ぎ止めた。
亜姫は和泉のことを認識できない様子で、ひたすら逃げようと泣いて暴れる。
「俺だよ。わかるか? 亜姫」
必死で声をかけ、体の下から出さないよう抑える。
だが亜姫を守る為に触れた手は、錯乱状態の亜姫には襲われ続けていると感じられるようだ。ひたすら抵抗を続け、逃げようと足掻く。
亜姫は、大泣きしながら悲痛な声で拒否や救いを求める。手足にはもう力が入っておらず、動きは弱々しかった。
いったい、どれほどの恐怖を感じているのか。
唇が触れそうな距離で声をかけているのに。目の前にいるのが誰なのか、全く認識出来ないようだ。
どうにか安心させてやりたかったが、今は彼らから守るだけで精一杯で。とにかく今は耐えろ、と焦る自分を叱咤して声をかけ続けた。
ふと、名前を呼ばれた気がして顔を上げる。
しんとした空気の中、和泉を見るヒロの姿があった。
いつの間にか石橋がいなくなっていて、代わりに山本達がいる。
和泉は現状を把握すると、即座に亜姫を抱き上げた。
「亜姫! しっかりしろ!」
未だ錯乱状態の亜姫は、力の入らない手足を必死で動かし逃げようとし続ける。
「嫌だ、触らないで、お願い、もうやめて」
消えそうな声で同じ言葉を繰り返す亜姫。
「助けて……ぃずみ……」
泣きながら自分の名を出した亜姫を見ていられず、和泉は怒鳴りつけるように呼んだ。
「亜姫!!!」
ビクッと体を震わせた亜姫と、ようやく視線が絡まった。だが「……ぃず……?」と小さく呟いた瞬間、その体から力が抜けた。
意識を失った亜姫の姿に、和泉は今度こそパニックを起こした。そこへ「保健室!」と山本から指示がとび、保健医の綾子を捕まえにヒロと麗華が走り出した。
それを見て少しだけ冷静になり、和泉は亜姫をそっと抱きあげた。
先ほど目にした光景。腕の中でグッタリする姿。
混乱して何も考えられない。
和泉は、ただひたすら保健室へ向かった。
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