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文化祭(17)

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 帰り支度をしていた熊澤を見つけると、元気なく俯くマリナが横にいるのが見えた。
 和泉は少し躊躇して、それから控えめに声をかける。
 
 熊澤は和泉を見ると愉快そうに笑った。
「よぉ。少しは冷静になったか?」
 
 相変わらず、全てお見通しな様子。和泉は言葉もなく頷くしかない。
 情けねぇツラしてんなぁ? と茶化す熊澤を睨みつつ、和泉は先にマリナのもとへ立った。 
「マリナ」
 
 ビクッと肩を震わせ、マリナは深く俯く。和泉は片膝をつき、その顔をそっと覗き込んだ。 
「いずみ君、ごめんなさい……あきちゃんと約束……」
「マリナは悪くないよ」 
 和泉は小さな頭を優しく撫でる。 
「さっきはごめんな? お前のこと、途中で置いていった。俺……怖かっただろ?」 
 するとマリナはぶんぶんと首を振り、泣き出した。 
「わ、私が、邪魔しちゃったって……ごめんなさい。あ、あきちゃんと喧嘩しちゃった?」
「うん……しちゃった」
 和泉は苦笑しながら頭を再び撫でる。 
「でもそれが原因じゃない、俺のせいなんだ。だからマリナは気にしなくていい。また今度、一緒に遊ぼうな」
 
 けれど、マリナは謝罪を繰り返し泣きじゃくったまま。和泉はどうしたものかと熊澤を見やる。

 熊澤は笑いながらマリナを抱き上げた。 
「きちんとごめんなさい、できたな」
 褒めながら背中をポンポンと叩き、熊澤も謝罪を口にする。 
「邪魔しちゃって悪かったな」
「いや、マリナが悪いわけじゃねぇよ。……俺の方こそ……すいませんでした……」 
 殊勝な態度の和泉に、熊澤が声を上げて笑う。
「なんだ、その様子だと随分やらかしたみたいだな? 亜姫はどーした?」
「ありえねぇぐらい傷つけて……泣かせた……」
 
 熊澤がさも楽しそうに笑う。その態度に苛つく。
 けれど、叶わないとか悔しいとか思いながら本音を漏らして頼りにしてしまうのも熊澤なのだ。 
「笑い事じゃねぇんだよ。マジで俺、やらかした」
 
 本気で凹む和泉を見て熊澤が呆れた顔をする。
 泣き疲れてうとうとするマリナを抱いたまま、熊澤はひと気のない場所へ和泉を伴った。
 
 そこで事情を聞いた熊澤は、開いた口が塞がらなかった。
「お前……余裕ないにも程があるだろ………。
 あの時の亜姫に色気感じてた奴なんか、一人もいなかったぞ? むしろ、あまりの酷さに呆れ果ててたんだよ、俺も含めて皆」
 
 それを聞き、和泉の首はがくんと落ちた。熊澤はその肩をバシッと叩く。 
「和泉さぁ、もう少ししっかりしろよ。そんなんじゃ亜姫に愛想つかされるぞ?」
「言うな、わかってるから」 
 和泉は項垂れながら大きな溜息をつく。  
「俺も戸惑ってんだよ。亜姫が相手だと自分のすることが予測つかねぇし、知らない自分ばっか出てきて嫌んなる。
 ……あんたはいいよな、常に余裕があって。亜姫も先輩といる時はいつでも嬉しそうだし……」
 
 すると熊澤が意外そうに言う。
「何だ、お前……嫉妬してんの? バカだな。俺とお前じゃ根本的に違うんだから、比べること自体間違ってる」
「え?」
「あのなぁ、亜姫が俺に向ける好きって感情はライク。麗華達と同じで大好きな友達相手への感情。和泉に対してはラブだろ?」
「そんなのわかってる。でも、どうして好きな奴に苛ついたり嫌な態度取ったりすんだよ? 普通は好きな相手にこそ笑顔になるんじゃねーの?」 

 頭を抱える和泉に、熊澤は困った子を見るような目を向けた。 

「お前、本当に何もわかってねーな。亜姫が誰かと嬉しそうに話すのなんて当たり前のことだろ。お前が相手だから、亜姫は怒るし泣くんだよ。
 お前にだけは、それだけ沢山のことを願い求めてる証拠。お前のそれも同じ」
 
 和泉は驚いた様子で動きを止めた。その顔を見た熊澤が再び笑う。
 
「誰が見たって、亜姫がお前に惚れてるのは一目瞭然じゃねーか。あいつは他の男なんて全く見てねーよ。確かに隙だらけで危なっかしいけど、和泉を好きだってことはブレずに表に出してるだろ。よっぽどおかしな奴じゃない限り、亜姫は脈なしだって早々に気づくって。
 今日も、お前の為に色々頑張ったけど喜んでもらえるか不安だってずっと気にしてたぞ?
 恋愛なんて楽しい事ばっかじゃねーよ? いくら両想いでも、望むことが多ければ多いほど苦しいことだってあんだろ。
 お前らは二人とも恋愛初心者だから、余計に上手くいかねーこともあるだろうけど。その分、沢山話をしろ。お前はかっこつけたがりだけど、亜姫は我慢したがりだからな」
 
 お前らは本当に手がかかる、仕方ねぇなぁ。と熊澤はまた笑い、亜姫にも気にするなって言っといてと言い残して帰っていった。
 
 気持ちを楽にしてもらったことに感謝しつつ、また熊澤との差を見せつけられた和泉は複雑な気分だ。
「なんだよ、また負けた気分だな……」
 
 
 腐った気持ちを抱えて教室へ戻ると、ヒロと戸塚が楽しそうに待ち構えていた。 
「和泉なんか知らないし! って怒ってたお前の女、先輩とその妹と飯食いに行くってさ。さっき麗華と楽しそうに帰っていったぞー?」
 
 成り行きを知っているはずのヒロが、亜姫の真似をしながらからかってくる。ますます苛いた和泉は手元のカバンを投げつけた。 
 熊澤も、亜姫と会うと分かっていながらわざと黙っていたに違いない。またもや、してやられた……と肩を落とすと、
「まあまあ。話聞いてやるから、俺らもメシ食いに行こう」
 と戸塚が言うので大人しくついていった。
 
 が、その先でも話を聞くどころか二人に散々笑いものにされ、和泉はしでかした自分にどうしようもなく腹を立てながら帰宅した。 
 反対に、亜姫は熊澤達と楽しい時間を過ごして帰ったのだった。
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