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高2
文化祭(3)
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予想外の状況に亜姫は呆然とする。
そもそも、なぜ和泉が不機嫌なのかがわからない。
来たくなかった? どうして……?
あんなに約束して、笑っていたのに……?
「亜姫、悪い。和泉と待ち合わせしてたんだろ? ごめんな、すぐ連れ戻すから」
申し訳無さそうな声で我に返り、亜姫は後を追うように動き出した。
熊澤が歩きながら携帯を操作する。と、その手元から着信音。
「そうだ……マリナのバッグ、さっき預かったんだった……」
頭を抱えながら和泉に電話をかける。すると、
「もしも……え?……あぁ、わかった、いや、いい。じゃあな」
通話を切りながら熊澤が溜息をつく。
「和泉、教室に携帯忘れてるって。ヒロが出た」
亜姫は、頭が真っ白になった。
何をどうすればいいのか、わからない。
熊澤は申し訳なさそうにしているが、これは不可抗力だ。
それともこれは、試すまでもなく「叶わない」ということなんだろうか……。
先程の和泉の姿も相まって、亜姫の頭の中はグルグルと掻き回されたようになっていた。
すぐに見つけられるかと進んでみるものの、大混雑でどこにいるのかもわからない。焦る気持ちもあったがショックの方が大きく、次第に足が進まなくなった。
その顔は、今にも泣き出しそうだ。
すると、熊澤が亜姫の背中を抱えるようにして無理やり向きを変えた。周りから顔を隠すように道の端へ寄せながら、止まりがちな亜姫の背を押して来た道を戻り出す。
「亜姫、戻ろう。マリナには、俺とはぐれたらあの場所に戻るように教えてあるんだ。
ああ見えて、慣れない場所では俺がいないとダメだから。いないことに気づけば不安がってすぐ戻ってくるはず」
「うん。……本当に元気いっぱいなんだね、マリナちゃん。あの勢いで道に飛び出すの? だとしたら先輩の対応が素早いの、納得する」
亜姫は気持ちを切り替えるように明るく振る舞った。
「いや、あれより酷い。今日はまだ大人しい方。俺が気が気じゃねぇの、わかるだろ?
でも……いくら落ち着きがないっつっても、普段はあんなに身勝手じゃないんだ。空気も読むし、人には気を使える子なんだけど。
文化祭に来させたのは初めてだから、テンション上がっちゃったのかもしれない。けど……ごめんな、あとでがっつり叱るから。
和泉にも悪いことしちまった。まったく、甘やかしすぎたかな。もっと厳しくするか……」
ブツブツ言いながら保護者の顔をのぞかせる熊澤に、亜姫から笑いが溢れる。
「ううん、マリナちゃんのせいじゃないよ。すごく人懐っこくて可愛いよね。私もお話できて楽しかったから、そんなに気にしないで。
……和泉ね、朝から機嫌悪いみたいなの。今も来たくなかったみたいだから……逆に、今頃マリナちゃんに癒やされてるかもしれない」
困ったように笑う亜姫の顔を、同じように困った顔で熊澤が覗き込んだ。
「何だ、珍しいな。喧嘩でもしてんの?」
「ううん、してない。でも、なんで機嫌悪いのか無視されてるのかわからない。こんなことも初めてで。
髪とメイクが気に入らなかったのかなぁ、それとも服……」
「それはねーだろ。今日のお前を和泉が気にいらないはずがない。言ったろ、似合っててすごく可愛いって。
それ、和泉の為に頑張ったんだろ? 何があったかしらねーけど、ちゃんと話をしろ。そんな顔してたらせっかくの姿が台無し」
「うん……ありがとう。先輩こそごめんね。マリナちゃんとの時間、楽しみにしてたんじゃないの?」
「大丈夫だよ、今日はもともと昼から俺が預かることになってたんだ。休憩が終わっても教室に置いておけるし、時間はたっぷりあるから」
昇降口の端にある柱のそばへ二人で腰をおろす。すると、柱の奥に熊澤の友人達が座っているのが見えた。
いつもと同じ顔ぶれに、亜姫の気持ちが少し和らいだ。
そもそも、なぜ和泉が不機嫌なのかがわからない。
来たくなかった? どうして……?
あんなに約束して、笑っていたのに……?
「亜姫、悪い。和泉と待ち合わせしてたんだろ? ごめんな、すぐ連れ戻すから」
申し訳無さそうな声で我に返り、亜姫は後を追うように動き出した。
熊澤が歩きながら携帯を操作する。と、その手元から着信音。
「そうだ……マリナのバッグ、さっき預かったんだった……」
頭を抱えながら和泉に電話をかける。すると、
「もしも……え?……あぁ、わかった、いや、いい。じゃあな」
通話を切りながら熊澤が溜息をつく。
「和泉、教室に携帯忘れてるって。ヒロが出た」
亜姫は、頭が真っ白になった。
何をどうすればいいのか、わからない。
熊澤は申し訳なさそうにしているが、これは不可抗力だ。
それともこれは、試すまでもなく「叶わない」ということなんだろうか……。
先程の和泉の姿も相まって、亜姫の頭の中はグルグルと掻き回されたようになっていた。
すぐに見つけられるかと進んでみるものの、大混雑でどこにいるのかもわからない。焦る気持ちもあったがショックの方が大きく、次第に足が進まなくなった。
その顔は、今にも泣き出しそうだ。
すると、熊澤が亜姫の背中を抱えるようにして無理やり向きを変えた。周りから顔を隠すように道の端へ寄せながら、止まりがちな亜姫の背を押して来た道を戻り出す。
「亜姫、戻ろう。マリナには、俺とはぐれたらあの場所に戻るように教えてあるんだ。
ああ見えて、慣れない場所では俺がいないとダメだから。いないことに気づけば不安がってすぐ戻ってくるはず」
「うん。……本当に元気いっぱいなんだね、マリナちゃん。あの勢いで道に飛び出すの? だとしたら先輩の対応が素早いの、納得する」
亜姫は気持ちを切り替えるように明るく振る舞った。
「いや、あれより酷い。今日はまだ大人しい方。俺が気が気じゃねぇの、わかるだろ?
でも……いくら落ち着きがないっつっても、普段はあんなに身勝手じゃないんだ。空気も読むし、人には気を使える子なんだけど。
文化祭に来させたのは初めてだから、テンション上がっちゃったのかもしれない。けど……ごめんな、あとでがっつり叱るから。
和泉にも悪いことしちまった。まったく、甘やかしすぎたかな。もっと厳しくするか……」
ブツブツ言いながら保護者の顔をのぞかせる熊澤に、亜姫から笑いが溢れる。
「ううん、マリナちゃんのせいじゃないよ。すごく人懐っこくて可愛いよね。私もお話できて楽しかったから、そんなに気にしないで。
……和泉ね、朝から機嫌悪いみたいなの。今も来たくなかったみたいだから……逆に、今頃マリナちゃんに癒やされてるかもしれない」
困ったように笑う亜姫の顔を、同じように困った顔で熊澤が覗き込んだ。
「何だ、珍しいな。喧嘩でもしてんの?」
「ううん、してない。でも、なんで機嫌悪いのか無視されてるのかわからない。こんなことも初めてで。
髪とメイクが気に入らなかったのかなぁ、それとも服……」
「それはねーだろ。今日のお前を和泉が気にいらないはずがない。言ったろ、似合っててすごく可愛いって。
それ、和泉の為に頑張ったんだろ? 何があったかしらねーけど、ちゃんと話をしろ。そんな顔してたらせっかくの姿が台無し」
「うん……ありがとう。先輩こそごめんね。マリナちゃんとの時間、楽しみにしてたんじゃないの?」
「大丈夫だよ、今日はもともと昼から俺が預かることになってたんだ。休憩が終わっても教室に置いておけるし、時間はたっぷりあるから」
昇降口の端にある柱のそばへ二人で腰をおろす。すると、柱の奥に熊澤の友人達が座っているのが見えた。
いつもと同じ顔ぶれに、亜姫の気持ちが少し和らいだ。
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