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高2

勘違い(5)

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 和泉は焦っていた。
 つい先ほど、日本に帰国したばかりだ。
 
 海外に発つ日の早朝、出発直前に不注意から携帯を壊してしまった。
 画面も割れ、何も見えない。修理に出す時間など勿論なく、そのまま旅立つハメになった。
 
 これでは亜姫と連絡が取れない。
 
 疲れた姿を最後に見たきり、連絡が取れてない。
 本当は、ちゃんと説明してから行くつもりだった。まさかあんな一日になるとは思わず、ようやくその話を思い出したのは別れ際だ。
 だが亜姫の様子から、翌日に電話で話をすればいいと思っていた。
 結果、亜姫には詳細を何も伝えてられてない。体調も心配だ。
 
 よりによって、会えない時に携帯を壊すとは……。
 
 初めて行く場所、短期滞在。修理に出す気も時間もなく、連絡を取りたくても画面が見られないので誰の連絡先も分からない。 
 亜姫の番号ぐらい覚えておけよと浮かれて過ごしていた自分に呆れる。だが、後悔したところで何が出来るわけでもなく。
 
 現地に着くなり「今すぐ帰る」と初めてのダダをこねてみたが、勿論そんなの通用しなかった。 
 冬夜からは「ふざけんな、遊びに来たんじゃねぇんだよ」と手痛い説教をくらった。
 しかし、初めてのワガママが冬夜には感慨深かったのか──頑なに理由を言わなかったにも関わらず──頑張って働けば終わり次第先に帰してやる、と言われガムシャラに手伝った。
 
 そして今日、予定より早く帰国の途についた。 
 帰国した足で店に飛び込み、携帯を買い替える。幸いデータは引き継げたので、その場で亜姫に電話したが繋がらない。電源を落としているようだった。
 メッセージも数件入っていたが、数日前を最後に一切の連絡が途絶えている。 
 音信不通な状態が、これでもかと不安をかき立てた。
 
 亜姫の家へ向かってみたが、いつもなら家にいるはずの時間なのに留守だった。しばらく待ってみたけれど、誰も帰ってこない。
 ならば麗華にと思ったが、そちらも繋がらなかった。家は分からないから尋ねようがない。
 
 万策尽きて途方に暮れていると、戸塚から連絡が来た。
『夕方、野口と亜姫が仲良さそうに歩いてるのを見た。和泉はそれを知ってるのか? 一体、何がどうなってるんだ』
 
 衝撃で、和泉の頭は真っ白になった。
   
『どう見ても遊びに行った帰りだった。用事の途中に見かけただけで詳しくは分からない。とにかく二人で楽しそうに店へ入っていった』
 
 想像もしなかった事態に和泉は冷静さを失った。 
 荷物を駅のロッカーに放り投げ、急いでその店まで行ってみたが既に閉店。じっとしていられず周辺も探してみたが、やはり会うことは出来なかった。
 
 野口と? そんな話、亜姫からは何も聞いてない。 
 今も野口と一緒なのか?
 俺がいない間に何が起きてる?
 どこにいる?
 
 不可抗力とは言え、音信不通な状態を作り出した自分にひどく後悔する。やはり海外など行かず、亜姫のそばにいれば良かった。 
 しかし、今更そう思っても後の祭りだ。
 
『連絡して。会いたい』 
 そう書いたメッセージを送ったまま、いつまでも返ってこない返事をこれでもかと待ち続けた。
 
 
 
 ◇
 亜姫と麗華は翌日の昼頃に目覚めた。昨日は遊びすぎて疲れてしまい、倒れ込むように寝てしまったのだ。 
 二人共、いつの間にか携帯の電源が落ちていたらしい。充電を済ませてようやく電源を入れると、亜姫の携帯にメッセージが届いていた。
 
『連絡して。会いたい』 
 久々の連絡にも関わらず、要件だけを伝える簡素な文字。雑誌の内容を思い出して、亜姫の胸がすくむ。
 
 見なかったことにしたい。会うのが怖い。
 そう思ったが、野口と同様に麗華もちゃんと話をしろと言う。
 
 家で待ってるから、話し終えたらすぐに帰っておいで。
 その言葉に背中を押されてメッセージを送ると、即座に着信。亜姫は恐る恐る出てみる。
 
「今、どこにいる?」
 
 前置きもない和泉の低い声。聞き慣れた声のはすわなのに、知らない人みたいだ。
 
 麗華の家だと言うと、電話の向こうで大きな溜息が聞こえた。なぜだか、責められているような気持ちになった。
 
「今から、会える?」
 
 いつもこれでもかと呼ばれていた自分の名を、一度も呼ばれない。
 それだけで亜姫の心は挫けそうになった。
 
 再び雑誌の内容が浮かぶ。つい、試すような言葉が口をついた。
「家に、行ってもいい………?」 
「え……? いや、そっちまで俺が出て行く」
 和泉は焦った様子で、自宅に行くのを拒否する。
 それで亜姫の心は完全に挫けた。
 
 そんな亜姫を余所に、和泉は勝手に場所と時間を指定しようとする。 
「和泉の家で話したい。今から……行くから」
 一方的に告げて、亜姫は通話を切った。
 
 麗華が心配そうに亜姫を見る。それに無理やり笑顔を返し、亜姫は和泉の元へ向かった。
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